Fate/lewd dream [Midsummer night]   作:秋乃落葉

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 豪の教会に二人残された田所と、魔法陣から現れた女。状況が全く理解できず、困惑して女を観察してみる。身体の左側で金色長髪の髪をおさげにし、服装は白と黒が基調の三角帽にスカート。まさに魔女とといった装いであった。全く現代日本では目にしないような風貌をしているが、彼女の姿はどこか既視感を覚えるようで、もやもやとする。

「あれ?おーいマスター?おーい、あーあー大丈夫ですかー聞こえますかー」

 女の問いかけに反応もせず思案を巡らせ、頭から足の先までの容姿を必死に脳裏の記憶と照らし合わせていく。しばしの思考の後、一つの答えに至った時には、なぜそれがすぐに思い至らなかったのかという自分への呆れと共に、痛々しい記憶を呼び起こして寒気を感じた。

「なんだ、なんだよお前私に興味あんのかぁ?デュフフフフw」

「お前昨日の通り魔の女じゃないか!どういう状況なんだ、たまげたなぁ・・・」

 反射的に後ろに飛び退き、距離をとる。そしてすぐに邪剣『夜』を手に、戦闘態勢をとった。あの恐ろしいほどの力がフラッシュバックし、手にも汗が滲み出す。

「え、え?ちょっと待って、何どういうこと?」

「早速俺を殺しに来たってわけか?いいよ、来いよ!」

「ちょっと待って、あの、ついていけない!私が!」

 しかしこの意味を女は全く理解し得ないようで、何やらあたふたと動きながら喚き散らしていた。流石の田所もこれには疑問を覚え、もう一度よく彼女を観察してみる。はっきり言って見た目は酷似している。だがよくよく見ると、あの特徴的な細目が、彼女にはないことに気がつく。それにあの近づいただけで寒気を覚えるような、気味の悪い雰囲気は、彼女からは感じなかった。

「お前あの通り魔の女じゃないのか・・・?じゃあ一体何者なんですかねえ・・・?」

「だからいってんだろ!?私はお前のサーヴァントだよ!アーチャーのサーヴァントだ!」

「は?だからマスターとかサーヴァントとか意味がわからないんだよなあ・・・」

 女はまた喚きながら、おそらく説明をしているのであろうが、田所には彼女が何を言っているのかその一割も理解はできていなかったであろう。やがて女はまくし立てすぎて疲れたのか、肩で息をしているようだ。

「もうわけわかんねぇ!聖杯戦争のために呼び出したんじゃないのかよ?」

「言ってることは意味不明だけど・・・。とりあえず敵ではないってことでいいのか?」

 飲み込めない状況に困惑している田所であったが、ふと目を向けると、先ほどまで豪が立っていた場所に紙が落ちていたことに気づいた。拾い上げてみると、どうやらそれは豪の置手紙のようだ。といっても内容は非常に簡潔で、これだけ書かれているのみだ。博麗神社の巫女、博麗れうを訪ねろ。今すぐに。

「博麗神社・・・?ちょっとどこかわかんねえな・・・」

 ポケットからスマホを取り出し、地図を開く。検索してみると、ここから徒歩二十分強ほどの場所に同名の神社があることがわかった。しかし、時刻はすでに日付を変えている頃合である。

「マスター、どうしたんだ?」

「いや、今すぐ博麗神社ってところに行けって書いてあるんだが」

「おっし!じゃあ私に任せとけ!」

 女はのっしのっしと出口のほうへ歩いていく。田所もとりあえずそれに追従し、教会の外へ出た。教会の外は真っ暗で、遠くに見える街並みの光が煌々と輝いている。その光が空に写し取られたか、はたまたその逆であるか、盛夏、満天の星である。

「おい!任せとけってお前場所わかるのか?」

「知らん!だから案内してくれ!」

 そういうと彼女は何もない空間から箒を取り出し、それにまたがった。

「お前、あー、そうだな・・・。名前はなんていうんだ?」

「俺は田所だ。田所浩治」

「そうか。私のことはアーチャーと呼んでくれればいい。じゃあ田所!後ろに乗れ!」

 親指で箒の後ろを指し示し、早くしろといわんばかりに足をパタパタと鳴らしている。まさか本当に魔女のように箒で空を飛んでいこうとでも言うのだろうか。躊躇っていると更に急かされたので、しぶしぶ田所も彼女の後ろにまたがってみた。

「よーし、いいか?私にしがみついて絶対に離すんじゃないぞ?急ぎみたいだから超特急で行くぜ!」

「は?・・・ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!待って!助けて!待って下さい!お願いします!ンアッーーーーーーー!!」

 

 

 

 博麗神社では、夜中であるというのに、巫女が軒先で茶を啜っていた。程なく、境内に二人の来客が降り立ち、一人はそのまま青い顔で地面へとへたり込んだ。今にも胃の内容物を撒き散らしそうだ。

「くぉら!人の神社で吐くんじゃないわよ!」

「うっぷ・・・まだ吐いてないっす・・・」

 田所はさかのぼってくる胃酸を押さえつけ、やっとの思いで息を整えると、ふらつく足でれうに向き直った。

「えっと、博麗れうさん?俺は・・・」

「事情はエセ神父から聞いてるからいいわ。田所浩治、詐欺紛いの方法で聖杯戦争に参加させられた被害者ね。ご愁傷様、じゃすまない話だけど」

 れうはあからさまに憐憫の色を含んだ目を田所に向けている。

「あの、本当に状況が理解できないんですけど、こいつは一体何なんですかね・・・?」

「だからアーチャーだ」

 田所の言葉にアーチャーが横槍を挟む。れうはどこから説明したものか悩み、やがて一から説明することに決めた。あの神父にはめられた人が聖杯戦争に対してまともな知識を持ち合わせていることは期待できないからだ。

「いい?あんたは聖杯戦争という儀式に参加させられたの。聖杯戦争とは、聖杯を巡って争われる戦いで、七人の魔術師であるマスターと、それぞれに召還された英霊のサーヴァントによって行われるわ。サーヴァントというのは強力な力を持った英雄が力を貸してくれるシステムだと思ってくれればいい。その証としてあんたの手の甲に令呪・・・刻印のようなものがあるはずよ」

 両の手に目を落とすと、確かに右の手の甲に見慣れない刺青のような刻印があるのに気づいた。これが令呪というものらしい。

「令呪は英霊を従えるための証であり、絶対の命令権でもある。令呪がある限りあんたはマスターであり、サーヴァントはあんたに従ってくれるわ。その力を使うことで、サーヴァントにどんな命令でも必ず実行させることだってできる。それこそ自害しろ、なんて無茶苦茶な命令ですら実行させられるわ。ただしそれは三回限りよ。三度、令呪を使えばその令呪は消失し、あんたはマスターじゃなくなる。使い時を間違えないことね」

「なんかよくわかんないっすけど、察するに俺を襲った通り魔の女はその聖杯戦争に関係があるってことなんすかね?」

「ああ、それは・・・」

「あれもまたサーヴァントね。間違いないわ」

 れうの説明を遮り、背後から声が聞こえる。この声の主もまた田所に気配を感づかせることなく近づいたことに驚いたが、それよりもまた彼女が金髪の女であることにうんざりとした。昨日から金髪の女に振り回されてばかりの田所は、最早その髪色を目に入れるだけで頭がくらくらとしてくる。しかし今度の女は通り魔やアーチャーとは異なり、ショートカットであった。

「あらアリス。貴女が説明してくれるの?」

「ん?アリスってどっかで聞いた気が・・・」

「ああ、あのサーヴァントが叫んでたからじゃないかしら。あの時に貴方の意識があれば、だけど」

 そうだ、アリスという名はあの通り魔の女が叫んでいたのだ。

「ということは、助けてくれたのは、ええっと・・・、アリスさん?だったんすか!?」

「まあ結果的にはそうなるけど。私の仕事はあのサーヴァントを抑えることだったから別に感謝してもらう義理はないわね。私が来たときにはもう貴方が刺された後だったし」

 自分を助けてくれたこのアリス、という女性に感謝を覚えたが、よくよく考えれば、サーヴァントだという通り魔を撃退しているということは自分よりもはるかに強いということだ。ほんの少し見直した金髪女への警戒が再び高まる。

「そのー、アリスさんもサーヴァントなんですか?」

 恐る恐る聞いてみた。アリスは凛とした表情と態度で、

「違うわ」

 とだけ言った。

「あのサーヴァントは多分バーサーカーか、じゃなければアサシンだと思うけど。ああ、サーヴァントは七つのクラスに分かれてるの。セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、キャスター、そしてバーサーカー。それぞれ名前通りの特徴を備えてるはず。そこのアーチャーさんも飛び道具を持ってるでしょ?」

「そうなのか?」

「おう、勿論だぜ!」

 アーチャーはポケットから八角形の小さな筒を取り出し、手の上で転がしている。

「このミニ八卦炉でドカンだ!」

「・・・あまり無防備にそういう情報をもらさないようにね。アサシンみたいな情報収集が得意なサーヴァントだっているんだから。貴女もサーヴァントならそれくらいはわかってると思うけど」

 その言葉を聞いたアーチャーは、アリスの方を向いて固まっている。アリスは頭上に疑問符を浮かべ、固まったアーチャーを見返していた。

「ああああああああ忘れてたあああああああああ!!!」

 どうやら天然で自らの手札をさらしていたようだ。両手を頭に当て、じたばたとしている。アリスはなにか可哀想なものを見たように目を背け、すぐに元の話題に戻った。

「相手のクラスを知ればある程度戦い方が予測できる。まあ言うまでもないわね」

「なるほど・・・。バーサーカーって言うのはなんなんすか?ほかのは大体分かるきがするんすけど」

「狂戦士。これもそのまんまよ。狂ってるから理性的な行動を取らない。その代わり能力は飛びぬけて高い。・・・仮に貴方達が倒そうとしてるのがバーサーカーなら、苦労するでしょうね」

 アリスが深刻な面持ちで言うので、とたんに心配になってくる。

「・・・撃退したんですよね?」

「正直遊ばれてただけだったわ。サーヴァントが本気になれば私なんて五分と持たずに殺せるはずだもの」

 改めて自分が倒そうと思っている相手の強大さを思い知らされるようだった。アリスの実力は雰囲気で推し量っただけだが、それでも自分より格が高いと感じることができる。そのアリスすら相手にならない、となると、自分では相手になるはずもないだろう。

「おいマスター、心配すんなって!私が力を貸してやるからな!」

 いつの間にか調子を取り戻したアーチャーが、なぜか誇らしげな態度で言ってのける。さらに不安感が増した。

「はぁ・・・。大体なんでこんな戦いしてるんですかね?やめたくなりますよ~」

「聖杯とはつまり、万能の願望器。それを手にしたものはどんな願いでも叶えることができるのよ」

 れうがぽつり、といった。

「・・・さあ、そろそろ店じまいよ。博麗神社の役割は聖杯戦争が滞りなく進むよう監視、サポートすること。また分からないことがあれば昼間に来なさい。あまり一人を贔屓するのはよくないけど、まああんたはエセ神父の被害者だからね・・・」

 

 

 

 

 町へと続く夜道をとぼとぼと歩く。当然ながらバスなんてものはすでにない。時刻はもうじき二時を回るのだ。

「なあ、やっぱり箒でいかないか?歩きだと遠いぜ?」

「あれはダメみたいですね・・・。乗り物酔いとか言うレベルじゃないんだよなぁ・・・」

 なぜこんな時間になってこの夜道を歩いているかといえば、そうせざるを得ないほど往きのフライトが辛いものであったからだ。あの強烈な吐き気は、田所に二度目を躊躇させるのに十分な要因だった。

「時間がかかっても歩いたほうがマシだってはっきり分かんだね」

「・・・待て、なんか近づいてくるぜ」

 アーチャーに制止され、思わず息を殺して身構えた。耳を澄ますと、確かに足音がゆっくりと、こちらに近づいてくるようだ。それは夜闇の中から、田所達の先に見える街灯の下にゆらりと現れた。

 それはまるで、幕末の侍のような出で立ちの女だった。腰には二振りの刀を差し、頭にはミスマッチな赤いリボンをつけている。

「貴殿ら、サーヴァントとそのマスターとお見受けする」

「ッ!サーヴァント!?」

 とっさに邪剣『夜』を作り出し、構える。それが、およそ意味のない行為であるとわかっていても構えなくてはならないのが自らに無力感を与えてくる。

「拙者、セイバーのサーヴァント。何の恨みもない貴殿らを切るのは心苦しいが――」

「田所、下がれッ!」

 田所を庇うようにアーチャーが前に立ち、セイバーのサーヴァントと名乗った女に向けて、先程のミニ八卦炉とか言うものからビームを撃ち放った。セイバーの言葉を遮る形で放ったその攻撃は、完全に機先を制したように見えたが。

 一閃。セイバーの居合斬りがビームを切り払ったか、打ち消したか。ともかく、その剣撃がセイバーを無傷足らしめたのだ。

「──お覚悟を」




ちょっと語録少なかったんとちゃう?まま、ええわ(妥協)

思いの外前回から時間を開けてしまったので初投稿です。

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