しかし、先ほどのお団子少女がゲーセンに来ていた理由がわかった。
なにやらあのスポットでないと限定アイテムとクエストが貰えないらしい。そっかぁ……そこまでしてゲームを買わせようとするのか会社側は!なんと姑息な!素晴らしい!
というか、今日は8月の24日だよな?最近、例年と比べて肌寒い日が続いたから分からなくなってたけど。
あの娘……部活とか入ってないのかな?まぁ、入ってないならこの時間に来ててもおかしくはないけど。
そう思いつつ俺はスーパーに入った。結局、やることはいつもと同じように夕食の食材を買うことか。皮肉なもんだよ、全く。
お、ナスが安い。ピーマンも。買っておこうかな。
「──だから!そんなものを普通の人は買わないの!」
なんだ?物凄い剣幕で怒鳴る少女の声が聞こえたので、そちらを見ると紺色のポニーテールの女の子の怒っている顔が見えた。
そしてその視線の先には金髪の少女がニコニコとしながら大量の黒毛和牛を……って、
「鞠莉ちゃん?何してんの」
「What?……ふ、フユ!?」
「──?って、冬夏さん?」
紛れもなくそこにいたのは松浦果南ちゃんと小原鞠莉ちゃんの2人だった。
ダイヤちゃん経由──っていうか、黒澤家に何度か来ているから面識があるだけなんだけど──で知り合いになっている2人に俺は声をかけた。もちろん呆れ半分、興味半分で。
ちなみにそこまで仲が良いわけではないのにも関わらず、鞠莉ちゃんはフユと愛称で呼んでくれる。なんだか恥ずかしいが、素直に嬉しい。
「で、何を?」
「聞いてくださいよ冬夏さん!鞠莉ったら黒毛和牛を買おうとするんですよ!?たかがスーパーで!」
「逆に他の安い外国産の肉を食べる気?果南。それは大きなMistakeデース!肉は国産の和牛に限りマース!」
「あぁ、鬱陶しいこの金持ち!ていうか、留学先で散々外国産の肉食べてたでしょうが!」
まぁ、果南ちゃんの気持ちも分からんでもない。
しかし、俺という人間はダメなヤツだ。こんな大金持ちの前でゴマをスっておきたいと思ってしまった。許せ、果南ちゃん。
「で、でも……その……ま、鞠莉ちゃんの言ってることも……わ、分からないでもない……かな……?」
「え!?」
「流石、フユ!やっぱり大学生は違いま……Oh,sorry」
イラッ。
「で、でも冬夏さん!私たちカレーを作るだけなんですよ!?」
「そ、そうだとしても……」
「二人で割り勘で予算5000円なのに!?」
「──よーし、鞠莉ちゃん。それを戻して来い」
「えぇ!?」
ゴメン、果南ちゃん。バカは俺と鞠莉ちゃんの方だったよ。反省します。
しかし。
「カレー?って、どういうこと?」
「あー……えっと……いつも皆にはお世話になってるし……その……」
「つまり!たまには私たちが差し入れをしようZE!ってことで、カレー作りが決まったの!」
「アンタが決めたんでしょ!?私はお菓子の方が良いって言ったのに!」
「いいえ!夏こそHotでSpicyなカレーよ!」
「最近肌寒いでしょうが!」
「えーと……」
「「何!?」」
「ひえっ……!?えと……仲良いんだよね?」
「もっちろんデース!」
「まぁ……ね」
「ということで黒毛和牛は決定!」
「何が『ということで』!?話が噛み合ってないでしょ!?」
喧嘩するほど仲が良いって言うけど……収拾がつかなくなってきたな。それにここスーパーだし。
仕方ない。
「鞠莉ちゃん、それ貸して?」
「え?はい」
「よしっ」
「へ?なんでレジに?」
ポカンとした顔をする果南ちゃん。なぜなら俺の手には黒毛和牛が握られており、体はレジへと向いているからだ。
「俺が買うから。そうすれば予算には問題ないだろ?」
「で、でもっ」
「年上の好意は素直に受け取って置くべきだって。ま、数ヶ月先に生まれた程度なんだけどさ」
「冬夏さん──」
「他のは普通に安い肉で誤魔化しときなよ。そこにこれを混ぜたらいい。もしくは、黒毛和牛だけのカレーを作って、差別化して、一番世話になったなって感じる人に渡せばいいさ」
こうすれば口喧嘩は治まるだろう。俺は黒毛和牛のパッケージに目を落とす。うん、5000円ピッタシ。フリーターの財布に深刻なダメージを与えてくれるこのお値段!
はぁ……また、もやし生活かぁ……
けれど、後ろで俺に必死で感謝の言葉を言っている女の子たちのためだと思えばもやしも不味くはない。そもそも嫌いじゃないんだけどね。
◇
2日後。
バイト戦士の今日の仕事は電気関係のことについて。黒澤家の使用人にコンビニ店員、マクドのクルー、そしてこれ。
過労で倒れると思われがちだが、しっかりと休みも入れてるので全然働ける。っていうか最近労働の楽しみを覚えてしまったから働くシフトを増やそうかと画策している。
ヤバイな、俺。色んな意味で。
急斜面を上がり、目的地に到着。俺が現在訪れていたのは浦の星女学院。果南ちゃんたちが通う私立高校だ。
ていうか、大型トラックって駐車するのめんどくさいんだよな。
けれど、慣れた手つきで駐車を済まし、俺はダンボールに包まれた用具を修繕依頼された体育館へと1つ1つ運んでいく。腰と腕が痛いよ。マジで。
しかし、弱音を吐くことなくそれらを終え、本職の人たちが修理作業に没頭しているのを見物していると、掛け声が聞こえた。
「何か聞こえますね」
「んー?そうか?お前どうせやることないんだから確かめて来いよ。あ、先にスパナよこせ」
「どうぞ。行ってきます!」
「ったく……って、オイ!誰がレンチよこせっつった!まぁ、勝手は一緒だからいいけどよ……」
◇
俺は階段を校舎内の階段を上がっていた。掛け声は空から聞こえたのだから高所を目指すのは仕方ないだろう?
そして、屋上に到着。確かに声はここから聞こえる。さて……開けるか?いやいや、迷惑だろ。やっぱり退散しようか?でも──
ガチャリ。
「あれ?冬夏さん?」
「──へ?アレ?千歌ちゃん?」
「ど、どうしたの?そんな格好で?」
「ば、バイト。ってか、千歌ちゃんこそ……って、もしかしてAqoursとしての練習だった?」
「うん、そうだよ?ところでどうして屋上に?」
「えと……か、掛け声がしたから。あはは」
「そうなんだ!良かったら見ていく?」
「いいよ!邪魔になるし!俺は仕事に戻るさ」
「えー……」
◇
荷物は全てトラックに乗せた。他の仕事仲間には先に帰ってもらった。俺はこのまま自宅へ直帰することを許されたので、バスで帰ろうと思ったのだ。
閑静な体育館にて欠伸をしてからいざ、出ようとしたとき丁度鞠莉ちゃんに遭遇。
「あっ、千歌の言ってた通り。来てたのね!」
「ま、まぁね」
「この前はアリガト!果南もそう言ってたよ!」
「別に俺は何もしてないさ」
「ふふ。あ、そうだ。はい、コレ」
「ん?」
俺はタッパーに入った茶色いものを見て……
「カレー?」
「もちろん!フユにも今回協力して貰ったから!」
「そう……か。へへ、ありがとう。今日の晩御飯決定だよ」
「絶対美味しいから!」
「分かったよ。じゃあ、俺はここで」
「OK!シーユー!」
本当……うるさくて
「可愛らしく笑うもんだ」
声に……出てた。
「あ……えーと……わ、私戻るから!」
「えぇっ!?」
今、顔赤かったぞ!?大丈夫なのか!?
ま、無事を祈るとするか。さて、早く帰ってカレー食べよっと。
◇
「鞠莉?そんなに汗かいてどうしたの?」
「なっ、なんでもないわ果南!」
「そう?」
「あれ?鞠莉ちゃん……」
「Oh、どうしたの?曜」
「すんごく幸せそうな顔してるよ?」
「へ?あ、あー……さ、最近良いことあったしねー!」
「?」
◇
「さてと」
夕日は沈み、『十千万』に入浴しに行った後の俺にやることといったらご飯を食べること。そして、目の前には温めたカレー。
「いただきます」
独り寂しくそれをスプーンですくう。しかし、なんだろう。
「めっちゃ美味しい。でも……なんでこんなに肉が美味いんだ?」
分厚い肉から溢れる肉汁。しかもゴロゴロとそんな肉が入っている。まるで値段お高めのカレーを食べてるみたいだ。
けれど、何か忘れてるような?ま、いいか。カレー美味しいし。
俺は黙々とカレーを食べた。
──さて、明日も頑張ろう。