ルビィちゃんは喜んでくれるだろうか。黒澤家を後にした俺はそう考えながら、今度は沼津に足を運んでいた。
昼間の間に休息を取っておくべきなのだが、疲労が全くもって感じ取れないのだ。こればかりは仕方ない。
と、思いつつも矛盾しているように欠伸をして、俺は電化製品店に立ち寄った。
「バイト代が入ったらどうしようかな……やっぱり猛獣狩人3rdでも買うかな」
この年にもなってTVゲームコーナーでうろついている俺は何気にそう考えていた。すると、見覚えのある姿を発見。どうやらその娘はゲームソフトの欄を物色しているようだった。
「何見てるの?」
「うぇへぇっ!?」
半目になりながら尋ねると、予想以上に驚いた反応が帰ってきた。
「ってアンタは──変なコンビニの店員!」
間抜けなSEがかかったかのように幻聴しつつ、軽くズッコケそうになる。
「いや……昨日会ったでしょうが」
困った表情を浮かべた俺はお団子を乗せた女の子に対して言った。
「あれ?昨日、学校に来てた人も……アンタだったの?」
「そうだよ。で、どうでもいいんだけど……年上には敬語を使ったほうが──」
「う~ん。どれにしようかしら」
話聞けよ。
「猛狩買ったんでしょ?お財布大丈夫?」
「平気よ、ヘーキ!アンタには言われたくないわよバイト戦士」
「ぬぐっ……じ、女子高生に暴言吐かれた……」
分かってはいたけど──黒澤姉妹や千歌ちゃん、花丸ちゃんらとは違ったタイプの女の子なんだよなぁ……この娘。
「──アンタってさ」
「は、はい?」
「なんでそっちが敬語?まぁ、いいわ。アンタっていくつ?」
「え?18だけど」
「高3……じゃないわよね」
「あぁ。高校は卒業したよ」
「ってことは大学生?1年のときから不登校だと単位がヤバいことにならないの?」
──後に、俺はこの娘が不登校だったことを知ることになる。この時は深く掘り下げてくるんだな。と思った程度だったが、この娘の事情を知ったときに高らかに「特大ブーメラン乙」と叫ぶのはまた別のお話。
「そこら辺は大丈夫」
「なんでよ」
「退学したからだよ」
「……え?どうして?」
「一応料理専門のとこに入ってたんだけど……あ~……ま、まぁ。別にそんなことはいいじゃんか。と、ところでさっきから何探してんの?」
「いや……猛狩は結構進んだから、今度は趣向を変えて少し前の中古ゲームをと」
この短期間で制覇したのか……!?長時間やったか、もしくは類希なるゲームセンスの持ち主ってこと!?
「へ、へぇ~」
努めて冷静に徹した僕は彼女を通過して、奥の方へと向かう。
「ねぇ、君」
「君って……私のこと?」
「そうだけど……。君ってさ、どういう系統のゲームがしたいとかって──ある?」
「そうね……アクションゲームとRPGは最近までやってたから……それ以外のジャンルならなんでも」
「なるほど……それじゃあ、FPS系は?」
「う~ん……」
「じ、じゃあシミュレーション……とか?」
「うぅ~ん……」
「思い切って育成ゲーム!とかどう!?」
「うぅぅ~……」
「おいコラ」
なんでもいいんじゃなかったんかい。
「はぁ……じゃあ無難に格ゲーはどう?剛健とかストリート拳闘者とか有名なの色々あるから」
「格ゲー……ね。アンタはやったことあるの?」
「もちろん!驚かないで聞いてよ。俺さ、小学生くらいの時はクラスで1番上手くてさ?皆から格ゲーの王とか言われたりして──」
「1800円になります」
「あ、はい」
「聞けよ!」
◇
ゲームの裏のパッケージを覗き込みながら店外へと出る彼女の後をついて俺も出た。猛狩の値段を見たが、やはりまだ高い。
給料入るまで少し待つか、安くなるまで半年くらい待つか……究極の選択だな、これは。
「ちょっと。なんで後ついてきてんのよ」
「いや、やることないから。そのままの流れで」
「どういう流れよ」
呆れながら答える彼女。
夏の鋭い日差しが降り注ぎ、その眩しさに目を細める。
「これ本当に面白いの?」
「俺が保証するよ。格ゲーは俺の少年時代そのものだからね。昔はよく友達と放課後に集まってスーファミを囲んだものだよ」
「スーファミ……世代を感じるわね」
「それは言わないお約束」
楽しかったんだよ!いいだろうが!っていうか、流石に俺も古いと思ったよ!でも俺ん家小学校までアレしか無かったんだよ!
「へぇ。オンライン対戦も出来るのね」
「らしいね」
「え、ちょっと待って。最近のゲームってしてる?」
「最近はしてないっていうかできてないね」
「じゃあ私……ゲームのブームを捉えれていない人に勧められたゲームを?……無念だわ」
「なんで!?素直に買ったそっちの責任だろ!?」
「うるさいわよ!実力も分からないような三下ゲーマーはさっさとコンビニとかマックで『らっしゃっせ~www』しときなさい!」
「おまっ……!ば、バイトリーダーを馬鹿にしやがって……」
なんだかこの娘とは絶対に馬が合わなさそうな予感がするし、それはもう現在進行形で的中してるし。
「っていうか、君だって格ゲーやったことあるの!?」
「んなっ!あ、あああるわよ!」
「ストⅡもやってないようなヤツは格ゲーをやったと豪語する権利は無いよ!」
「うるさいうるさいうるさい!なら、本当にアンタ強いの!?」
「つ、つつ強いよ!君なんかとは比べ物にならないくらいにね!」
午前中のせいもあり、好きなジャンルのゲームのこともあり、俺のテンションは久方ぶりに上がっていた。
「なら勝負よ!」
「臨むところだ!」
「「……」」
「え、どこでやるの?」
「た、確かに……」
「一応ソレ……ps3用ソフトだけど……」
「うぅ~!」
「な、ならばこの一件は俺の不戦勝ということで~──」
「そんなわけにはいかないわよ!私の方が強いんだから!」
「俺だ!」
「んぁぁ~!埒が明かない!ならば……付いてきなさい!」
「え、どこに?」
「ここから歩いてすぐよ!私の家!そこで決闘よ!」
「分かったよ。格ゲーの極意……見せてやる……!」
◇
とか、言いつつも。
俺は明らかに年下の女の子の……しかも、あまり親しくないというかほぼ初対面の内に入る程度の娘の家にお邪魔した。
その時俺とこの娘は興奮気味で血気盛んにこの娘の部屋にてコントローラーを手に取り、目線から火花を散らすかのようにテレビ画面を睨み、ボタンを連打しまくった。
そして、結果は惨敗。
「弱っ!」
「ち、ちがっ!これは!」
「屁でもないじゃない!」
「女の子がそんな言葉使うな!」
よくあることだ。格ゲー経験者は思考しながらコンボを考えるが、何も考えずに突っ込んでくる初心者の対応に慌てているうちにゲームオーバーのパターン。
「弱攻撃だけで勝ったわ!流石はヨハネ!」
「くっそぉ……」
しかも、俺は調子に乗ってトリッキーなキャラを選択してたのも災いしたか。彼女が選んだ初心者用のベーシックなキャラにボコられた。
画面上には2勝8敗の文字。意気消沈したよ、本当に。
「で、でも!オンラインじゃあ勝てないね!うん!絶対に!」
「上等よ!見てなさい!堕天使のゲームテクを!」
「お疲れ様」
「なんで!?どうして!?アンタには余裕で勝てたのに!」
「少し前のゲームにも関わらずオンラインに出没しているプレイヤーはコアな連中が多い。つまり……難易度は鬼級だ」
「うへぇ……」
「でも、挽回のチャンスはあるぞ」
「ほ、本当っ!?」
「あぁ。ほら、よく見てみ。オンラインモードはシングルマッチだけじゃなくタッグマッチもあるんだ。ここで俺と組んで汚名返上と洒落こもう──」
「圧倒的弱体化じゃない」
「初心者が吠えるな!」
「吠えてんのはアンタでしょ。年下に余裕ぶって負けちゃったバイト戦士」
「と、とりあえずやってみようぜ!」
「は~い」
「ね、ねぇ」
「な、なんだよ」
「いくらなんでも強すぎじゃない?」
「こんなの勝てる気がしないって──」
「「俺(私)たちに!」」
俺の彼女はコントローラを離し、ハイタッチする。
「8連勝!絶賛記録更新中だぜ!」
「なんかテンション上がったせいでキャラブレブレだけど、この際気にしないわ!やったわねバイト戦士!」
「ランクも飛び級のように上がっていくし!」
「この調子で続けるわよ!」
「コアな連中の目ん玉ひん剥かせてやる!」
プルルルル。
「あ、携帯鳴ってるわよ」
「ん?ちょっと待ってくれ──はい、もしもし」
『清田ぁ……メールと時間を見ろ』
バイトリーダーからであった。
「はい?今日は23時からですよ?」
『メールに書いてあんだろ。お前の前の時間の担当の子が今日、怪我して休むことになったからお前は6時からなって』
「えぇぇ!!?マジですか!?あ、あの!ちなみにこの失態で減給なんてことは……」
『本当に減給されて笑い話にもならないことになりたくなかったら今すぐ来い』
それだけ言い残され、通話は切られた。俺は泣きそうな表情で彼女を見る。
「な、何よバイト戦士」
「……今から戦士の務めを果たしてくるよ」
「あ、バイト?」
「うん」
「そう……。あ、あの……」
「ん?」
「今日は……アリガト。色々楽しかったわ」
「うん、俺も。誰かとゲームもいいもんだな」
「同感ね。私も普段は一人でゲームしてるから」
「そっか。それじゃあまた。えーと……」
「ヨハネよ」
「そうか。本名教えてくれる?」
「微笑みながらやんわりとされるツッコミは結構怖いものなのね。……津島善子よ」
「俺は清田冬夏。またね、善子ちゃん」
「ヨハネよ!──ふふっ、またね!バイト戦士!バイト頑張ってね!」
背中にゲームを介して出来た友達の声援を浴びつつ、俺は津島邸を後にした。
日はまだ沈んでおらず、俺の顔をイタズラに照らす。
──さて、今日もバイト頑張る……
「バイト戦士!」
「っ!?よ、善子ちゃん!?」
「ヨハネよ!それより見なさいこれ!」
「え?」
外に出てきた善子ちゃんが自分の携帯をスクロールし、画像を見せてくれた。そこには俺の顔写真が記載された記事があった。
「〇〇調理専門大学……本年度首席入学者……清田冬夏。『天才は堕ちた』……彼は歴代で最高の料理を作る腕を持ちながらわずか半年で退学。彼は何処に。……」
読み上げる善子ちゃんの声は次第に強ばっていった。
「アンタ……何してるの?こんな……とこで……」
なんでそんなこと調べたんだよ。けどなぁ……ネットの記事風に言うならば……そうだな……
「『堕ちた』んだよ。俺はね」
そう、言って俺は悲哀を滲ませながら微笑んだ。