姫野四葉は勇者である 作:水甲
「仕方ないから情報交換と共有よ」
次の日、三好さんが勇者部にやってきた。何だかんだ言って来てくれるなんて……
「分かってる?あんたたちがあんまりにも暢気だから今日も来てあげたのよ」
「ニボシ?」
風さんは三好さんが持っているニボシの袋が気になっていた。普通女の子があんなふうに煮干しを食べたりするものだろうか?
「何よ。ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、EPA、DHA。ニボシは完全食よ!」
「……まぁいいけど」
「あげないわよ」
「いらないわよ」
「じゃあ私のぼた餅と交換しましょう?」
東郷ちゃんが重箱に入ったぼた餅を取り出した。前にもらったけど結構美味しかった。何というか神がかった出来栄えだった。
「……何それ」
「さっき家庭科の授業で」
「東郷さんはお菓子作りの天才なんだよ~」
「い、いらないわよ!とりあえず話を戻すわよ」
とりあえず三好さんはみんなに改めて話を切り出した。
「いい? バーテックスの出現は、周期的なものだと考えられていたけど、相当に乱れてる。これは異常事態よ」
「確かに一定期間おいてから出現するのにもかかわらず、今回は不規則すぎるよね」
二年前のことを思い出すと、一定の周期があったりしたけど、戦いが激化していったらその周期が乱れた。それってつまり敵が焦ってきているということなのかな?
「それに帳尻を合わせるため、今後は相当な混戦が予想されるわ」
「確かに、一か月前も複数体出現したりしましたしね」
「私ならどんな事態にも対処できるけど、あなたたちは気を付けなさい。命を落とすわよ! 他に戦闘経験値を溜めることで勇者はレベルが上がり、より強くなる。それを『満開』と呼んでいるわ」
「そうだったんだー」
「アプリの説明にも書いてあるよ」
「そうなんだ!」
「『満開』を繰り返すことでより強力になる。これが大赦の勇者システム」
「へー。すごーい」
感心する友奈ちゃん。でも満開は……
「三好さんは『満開』経験済み何ですか?」
「……私は、まだ」
「満開は………」
私は満開について言おうとした瞬間、何故か言うべきではないと思った。強力すぎる力にはそれなりの代償がある。だけど強力だからこそ使わないといけなくなることだってある。それだったら今止める必要はない。
「四葉ちゃん?」
友奈ちゃんが心配そうにしていた。私はすぐに笑顔で答えた。
「ううん、なんでもないよ」
「四葉ちゃん……『なせば大抵なんとかなる!』」
突然友奈ちゃんが大声で勇者部五箇条を述べた。
「大丈夫だよ。みんなで力を合わせて頑張れば、大抵何とかなるよ!」
みんなで力を合わせればか……確かにそのとおりかもしれない。いい言葉だね。
「『なるべく』とか『なんとか』とか、あんたたちらしい見通しの甘いふわっとしたスローガンね。全くもう、私の中で諦めがついたわ」
「私らは、その……あれだ。現場主義なのよ!」
日曜日、私達は密かに三好さんの誕生日を祝おうという話になり、幼稚園のボランティアを利用して誕生会を開く準備ができていたのだけど、何故か三好さんは来なかった。
「全く、あの子は何やってるのよ。準備万端だって言うのに……」
「何かあったのかな?」
「もしかしたら病気で倒れていたり……」
「そんな……」
「風さん、様子見にいきませんか?」
「そうね……帰りにでも寄ってみようかしら」
私達はボランティアの後、入部届に書いてあった住所を頼りに三好さんの家まで来ていた。
風さんは何度もチャイムを鳴らしていると木刀を持った三好さんが出てきた。
「誰よ!!…あれ?あんた達」
「あ、あんたね、何度も電話したのに、なんで電源オフにしてるのよ!」
「そ、そんなことより何」
「何じゃないわよ。心配になって見に来たの」
「心配?あ……」
「良かった~寝込んだりしたんじゃ無かったんだね。」
「え、ええ。」
「んじゃ、上がらせてもらうわよ~」
風さんは何も言わず部屋に上がり込んだ。流石に了承を得てからにしましょうよ。
「あ!ちょっと!何勝手に上がってるのよ!意味わかんない!!」
私達もつられて上がり込んだ。三好さんの部屋は何というかこうものがあんまりなかった。
「はあ…殺風景な部屋。」
「どうだっていいでしょ!」
「まあ、いいわ。ほら、座って座って。」
風さん、それ三好さんのセリフだからね
「これすごーい!プロのスポーツ選手みたい。」
「勝手に触んないでよ」
樹ちゃんはトレーニングマシーンを触る。
「うわー、水しかない。」
「勝手に開けないで!!」
友奈ちゃんは友奈ちゃんで冷蔵庫を勝手に開けてるし、東郷ちゃんはそれを見てニコニコしてるけど……止めたほうがいいんじゃないのかな?
「三好さん、諦めて」
「あんたね……」
気がつくとテーブルの上にたくさんのお菓子とかが並べられていた。そういえば本来の目的忘れてたよ。
「ね、やっぱり買ってきて良かったでしょ。」
「なんなのよ。いきなり来て何なのよ!!」
「あのね、ハッピーバースデー、夏凜ちゃん。」
白い箱を取り出してその箱を開ける友奈ちゃん、箱の中にはバースデーケーキがあった。
「え?」
驚いたまま固まる三好さん、うん、やってよかったかもしれないな。
「夏凜ちゃん、お誕生日おめでとう」
「おめでとう」
「え?どうして?」
「あんた今日、誕生日でしょ。ちゃんとここに書いてあるじゃない。」
風さんは入部届を見せながらそういった。
「友奈ちゃんが見つけたんだよね」
「えへへ」
「あって思っちゃった。だったら誕生日会しないとって。」
「歓迎会も一緒に出来るね~て。」
「うん。」
「本当は、子供達と一緒に児童館でやろうと思ってたの。」
「当日に驚かせようと思って黙ってたんだけど…」
「でも、当のあんたが来ないんだもの。焦るじゃない。」
「家に向かえに行こうと思たんだけど子供達も激しく盛り上っちゃって。」
「結局この時間まで解放されなかったのよ。ごめんね。」
三好さんは何故か固まっていた。もしかしてこういうの嫌いだったりしたのかな
「夏凜ちゃん?」
「あれー?ひょっとして自分の誕生日も忘れてた?」
「アホ…馬鹿…ボケ…おたんこなす…」
「え?」
「何よそれ!」
「誕生会なんてやったこと無いから…なんて言ったらいいかわかんないのよ…」
「お誕生日おめでとう、夏凜ちゃん。」
それからみんなで誕生会を盛大に盛り上げるのであった。私はちょっと疲れ、外の空気を吸っていた。
「やっぱりこういうのいいな~あのときもやっておけばよかったかも……」
二年前のことを思い出しながらそう呟いた瞬間、何故か涙が溢れてきた。駄目だ。おめでたい時に泣いたりしたら……
「……四葉さん?どうかしたんですか?」
ふいに声をかけられ、振り向くと樹ちゃんが心配そうにしていた。見られたくなかったな……
「ううん、ちょっと思い出しちゃって」
「思い出してって、何か悲しいことをですか?」
「そんなところだよ。こんな風に誕生会とかやったことがないから……私も……だからかな?あの時もこんな風にやっておけばよかったって思ってね」
「四葉さん……あの、だったら、これからたくさんやっていきましょう」
「これから……?」
「はい、これから先みんなで……」
気弱そうに見えてすごいことを言うな……そうだね。これから先みんなでこんな風に楽しい事が出来るように……
「そうだね。楽しみにしてるからね」
「はい」