それもこれも偏に読者の皆さんのおかげです。本当にありがとうございます。
今後も頑張っていきたいと思います。
※一部修正
内容:フランクリン製モンスターのドロップアイテムについて修正・加筆
最後の展開を一部変更。主人公も道連れに
理由:前者は作者の読み込み不足・見落としのため
後者はテスカトリポカが主人公を置いていくはずがないと思い直したため
急な修正、深くお詫び申し上げます。
□【獣神】マグロ
「ところでカトリ様、フランクリンはこの程度で事を収めるような人物だと思いますか?」
『十中八九、更なる策を用意しておろうな。ああいう手合は概して事を起こす時点で既に詰みへ持っていく運びが多い』
受付ロビー前、出口の喧騒から遠ざかってカトリ様に問う。
レイさんたちを見送ったあと気になったのは、他ならぬフランクリンのことだった。
私が感じた第一印象と、巷で噂される彼の人物像。両者を照らし合わせてみればこの騒動は――実に手緩い。
『あの美童の賢者も指摘していた通り、この騒動は本来彼奴にとって不要であるべき手段。単にこの都市を落すだけならば、それこそ闇夜に紛れてモンスターを放つだけで十分に過ぎよう』
「つまり目的は単なるギデオン陥落にはないと……なら」
『左様。彼奴が摘まんとしておるのは都市ではなく人。即ち
なるほど、心か。
テロの宣言、長ったらしい説明の数々、敢えて脅威を見せつけるような演出。
その上で冷静になれば気づけるだけの穴をわざと残し、九死に一生を見出させる真似。
そこに彼のパーソナリティを加えて考えれば、導き出される答えは一つ。
「――上げて落とす、ですか」
『取り残された<マスター>共の目に不安が拭え切れぬのもそれが理由であろうよ。誰もが彼奴の一挙手一投足を見守り、
「率直に言って人格最低ですね……」
『そうかな? それは言い換えれば、それだけ彼奴にとって本気であるということ。手段の是非はどうあれ、あれはまさしく真剣そのものよ』
カトリ様の言葉には、彼を脅威と見る意思はあれど、決して侮蔑や嘲りの感情は含まれていなかった。
……そのカトリ様の心境は、実を言うと私にも理解はできる。彼の目はまったく笑っていなかったし、ふざけた言動とは裏腹に、必ずこの街を、人を――いや、
弱い私には、そういう誰かの強い意志というものが、なんとなく分かる。
普段はそれこそ漠然とした感覚でしかわからないけれど、今回の彼は万人に事態の深刻さを見せつけようと振る舞っていたので、私にもその思惑を窺い知れた。
『少なくとも余はあれが嫌いでないよ。一度語らってみたくもある。――無論、こうして敵対する立場にある以上、この場においては斟酌は有り得ぬがな』
クツクツと噛み殺すようにカトリ様が笑う。
決してPKの類を好む性質ではない彼女がこうも面白げなのは、それだけフランクリンのことを――その人格はともかく――買っているからなのだろう。
私達共通の認識として、PKは忌むべきものである。
それは私がデスペナルティを恐れるからであるし、単純に不愉快であるからでもある。
しかしそれにも例外があり、一つは<マスター>間でのPK。もう一つはそれが
フランクリンの場合、それが後者に該当したのだろう。
それだけ彼は、本気でこの街を落そうとしている。ひいては、その背後にある王国そのものすらも。
聞けば先の戦争においてもある意味最も活躍したのは、フランクリン率いるモンスター軍団であったという。
莫大的な資産を投じ造り上げた、王国側の戦力を絶対的に圧倒する悪辣かつ脅威のモンスター達によって、完膚なきまでに国王を屠ったことからもその本気の度合いが見て取れる。
空巣めいたカルディナの横槍が無ければ、今頃王国は皇国の領土となっていたはずだ。フランクリンという、恐怖の爪痕を深く人々の心に刻みつけて。
つくづく、力量と人格は必ずしも一致しないという典型例のような人物だ。まぁ<超級>なんて大なり小なりそんなものだけど。
私自身、彼のその力には大きく興味がある。まがりなりにもモンスターに精通する超級職を頂く以上、彼の造り上げるオリジナルモンスター達には興味が尽きない。
だけどそれが明確な悪意を以て私達に敵対するとなると、それがどんなに恐ろしいのか、今まさに痛感する限りだ。
だけど……
「私達で対処できるレベルだったのは幸いでしたね」
『彼奴にとっては片手間に過ぎぬ代物であろうがな。しかし見れば見るほど興味深い、よい
カトリ様の
かの【大教授】お手製のオリジナルモンスターだ、ラーニングできるスキルにも期待が持てるというもので、ちょっとしたボーナス気分だね。
いやはや、だけどラッキーだったなぁ。
コストをかけるのを嫌ったのかは知らないけど、【即死】耐性が無効化ではなかったおかげで、ほとんど消耗無くお掃除できたのは本当に運が良かった。
これがもし【石化】や【即死】の無効化持ちだったら、幾つかのスキルで強化した上で《丸呑み》からの《消化》なんていう手間をかけないといけなかったところだしね。
それでも闘技場は広いから、隅々まで回ってお片付けするのに時間が掛かってしまった。
一通り掃除してから、なんとなく舞台の結界内に取り残された二人が気になって一般観客席に戻ってみたけれど、やっぱりこっちは手出ししようがないよねぇ。
なんとも手持ち無沙汰な感覚のまま、手近な席に座って天を仰ぐ。なんというかなぁ、振り返ってみるとここ一年の王国は呪われてるんじゃないかってくらい不憫だよね。
【グローリア】しかり、戦争しかり、漸く戦禍の傷跡も少しは癒えてきたと思った矢先にフランクリンのテロだ。
こりゃ彼の買った恨みも相当だよねぇ。恨むだけで人が殺せるなら、今頃彼は百万回は軽く死んでそうだ。
と思っていたら、またも騒然としだす闘技場。
何事かと周囲を見渡してみれば、闘技場のあちこちに――のみならず、ギデオンの各所から、どこにいても
『成程。これが彼奴の手か』
面白そうにカトリ様が笑う。
視線の先には、ギデオン西部の<ジャンド草原>でフランクリンと対峙する近衛騎士団と――他でもないレイさんの姿が映し出されていた。
◇
案の定、フランクリンの目的はギデオンという都市そのものではなく、それが属す王国、そしてそこに住まう人々の心を折ることにあった。
フランクリン作の【ブロードキャストアイ】なる中継用モンスターによって、今まさにフランクリンと対峙するレイさんと近衛騎士団とのやりとりがリアルタイムで放送されている。
それらの生中継は中央闘技場を始めとしたギデオンの各所――のみならず王国にまでも届き、およそ主要人物のほぼ全てに事態の推移が知れ渡っていると言ってもいい。
これほどの大規模な計画、相当前から綿密に企図されていたに違いない。それも彼個人の思惑ではなく、おそらく背後には間違いなく皇国の関与もあるだろう。
表向きには無関係を装うだろうけど、間違いなく関与はあるはずだ。私にすらそう思えるのだ、きっと誰もがそう考えているに違いない。
そして今まさに決着をつけようとフランクリンと直接対峙する彼らを敢えて中継する意図。
それも彼が中継の最初に宣言した通り、彼らの敗北する様を衆目に晒すことで完膚無きまでの敗北を王国に突きつけることにある。
王国に住まう多くの<マスター>、そして<超級>までもが身動きを許されないまま、力量に乏しい一握りの<
そしてその計画はフランクリンの圧倒的優勢によって成されようとしており、見守るしかない人々が希望を託さざるを得ない相手は、彼と比べてあまりに無力。
『悪辣だな。そして容赦がない。……いや、そうだな。これでもあれにとってはまだ
「どういうことでしょうか?」
『あれが映し出す彼奴と王国戦力の決着、それだけで事が終わろうはずもないということだ。王国側がこのまま敗れれば即ち敗国、万が一勝利したとてあれの次なる策の前に立ち向かえるかと言えば――危ういな』
「ではこの状況、どう推移したとて詰みと?」
『さて、どうかな。彼奴との勝敗のみを決着と見るならば、そうなるだろう。だが、もしその裏で動く影があらば……はてさて』
見守る中継の先では、レイさんと近衛騎士団が一つの巨大な肉塊――フランクリン曰く【RSK】なるモンスターと戦いを繰り広げている。
怪物の巨体から生えた触腕、それが縦横無尽に叩き付けられ騎士団の連携を見出し、ばら撒かれる光弾を銀色をした人工馬に騎乗したレイさんが凌ぎながら少しずつ攻撃を加えていく。
しかしそれらは決して有効打になりえず、レイさんと騎士団はどうにも攻めあぐねているようだった。
その様子を見てフランクリンは愉快そうに、彼らの奮闘を外部から嘲笑っていた。
『どう見るかね?』
「そうだな……」
カトリ様が誰へともなく問いかけると、いつの間にかスターリングさんがすぐ傍にいた。
いや、それがスターリングさんだとはすぐに結び付けられなかった。
なぜなら彼はいつものファンシーなクマの着ぐるみ姿ではなく、野性味極まる熊の毛皮を上半身に纏っただけの、筋骨隆々とした中身を晒していたから。
「スターリングさん? その格好は……」
「この姿を見せるのは初めてだったな。取り敢えず場内の掃除に感謝しとくぜ」
「いえ、それはいいんですけど……ひょっとしてそれが、例の?」
「ああ、所謂
成程、スターリングさんも本気ってわけだ。
いつもの愛嬌を振り撒く子供山さんとは打って変わって、歴戦の戦士そのものな風格と迫力を放つ今のスターリングさんは、紛れもなく本気なのだろう。
彼のリアルでの姿を知ってはいても、こちらで着ぐるみを脱ぐ姿を見たことはなかったから戸惑った。何らかの思惑で普段ひた隠しにしている
「んでかとりんの質問だったな。まぁ単純に考えて、レイにメタ張ってるってことだろ」
『で、あろうな。そなたの弟は見たところ【聖騎士】、それに何らかの理由で対抗策を設けているのであれば、ジョブを同じとする騎士団もまた同様に思惑に嵌っているということか』
「わからないのが
『ふむ。どうやら解答の時間のようだぞ、シュウよ』
完全に二人だけの会話になってて蚊帳の外な私。まぁいいんですけどね。
それにしてもスターリングさん、
まぁそんなことは今はいいんだ、置いておこう。
カトリ様が示唆した通り、中継先では窮地に陥ったレイさんへフランクリンが意気揚々と種明かしをしているところだった。
【
私は知らなかったのだけど、どうやらレイさんは【猛毒】【酩酊】【衰弱】の三重状態異常と、火属性と聖属性の攻撃スキル、そして特定の対象から受けたダメージ量を参照するカウンタースキルを駆使して戦う
それを【
……まぁ、フランクリンの説明したことをそのまま言っただけで、具体的にどういうことなのかは明確に把握できてないんだけど。
カトリ様とスターリングさんはそれで得心がいったのか、苦々しくもそんなモンスターを用意してしまえるフランクリンの手腕に舌を巻いているようだった。
とりあえずはっきりと分かるのは、状況はレイさんにとって圧倒的不利ってこと。ただでさえ勝ちの目の少ない反撃ではあったけど、まさかピンポイントでレイさんを封殺するようなモンスターが用意されていたなんて、フランクリンはどれだけ執念深いのだと戦慄する思いだ。
『どうするかね。最早已む無しと見て出るかね、【破壊王】?』
「……舐めんなよ、なんてったって俺の弟だぜ? このままで終わるはずがないさ。それに見ろ――」
――あいつの目は、まだ死んじゃいねぇ。
そう全幅の信頼を寄せる兄の期待に応えるように、画面向こうのレイさんは尚も屈せず立ち上がっていた。
フランクリンにとってみれば、一連の説明はレイさんの心を圧し折るためのダメ押しだったのだろう。
説明中始終優位に立った笑みを浮かべながら、最早打つ手は無いのだとレイさんの心を摘むべく悪魔の囁きを奏でた。
しかしレイさんは、そんな彼の目論見に反して――むしろ不敵に笑い、「タネが分かって安心した」と安堵する余裕すら見せて、真っ向からフランクリンに歯向かった。
それがフランクリンにとっては不愉快だったのだろう、所詮負け惜しみと嘲りつつも苦虫を噛み潰したような表情を隠せていない。
そしてレイさんはそんなフランクリンに応えるように愛馬を嘶かせると――暫くして光も通さぬ漆黒の膜を展開した。
「あれは……」
『直前に周囲の風景が歪むのが見えた。あそこへ辿り着くまでに空を翔けていたのを踏まえるに、おそらくは風属性の魔法かスキルと見える。圧縮空気の類だろうが……相当強力だな。およそ生半な戦闘系超級職にも難しい、ましてや<下級>には到底不可能な現象だ。おそらくはレイの装備していた特典武具のいずれかによるものと見るべきだろう』
「さすがに目がいいな。大体合ってるだろうよ。俺も詳細は聞いてねぇからわからんが……見ろ、フランクリンのやつが慌ててデカブツを動かそうとしてるぜ」
『だが間に合わぬようだな。ククク……獲物を前に舌舐めずりをしているからだ、戯けめ』
カトリ様が、心底愉しげに哂った次の瞬間――漆黒の膜は爆ぜ、その効果範囲から逃げ切れなかった【RSK】の外殻を粉々に四散させていた。
しかしそれで尚も死にきらないあたり、【RSK】の耐久力も相当に桁外れと言えるだろう。更には少しずつ自己再生を始めながら、欠けた肉体を修復していくが……その前にレイさんが白馬を駆って肉薄し、その傷口の亀裂から左腕を突っ込んだ。
そして、暫しの間の後に――炎が噴き出す。
『成程、考えたな。あれの無効化能力はあくまで外皮に限ったものか。内部まで作用せぬのはコストの限界か、それ以外かはともかく……ククク、実に面白い。シュウよ、そなたの弟は実に良き戦士よな。好い、好いぞ』
「土壇場で恐ろしいほど機転が利くのは割りと昔からだったが……変わってねぇなぁ、まったく!」
おおう、二人ともこれ以上無くご機嫌だ。すげー楽しそう。
なんていうか完全に二人の世界どころか男の世界形成してるんですけど、カトリ様あなた女性ですよね?
完全についていけない流れに疎外感を覚えつつも、今はレイさんが見事勝機を掴み取ったことを喜ぼう。
レイさんの突っ込んだ左腕からは、いかなるギミックによるものかは知れないけれど、とても<下級>が出していいものではない大熱量が放たれ、あの【RSK】を内側から全身の隅々までを焼き尽くしていた。
あれほどの巨体も、脅威の回復能力も、あの熱量を前には何の意味も為さない。【RSK】は耳障りな断末魔の悲鳴をあげながら、やがて黒い燃え滓と化して光の粒子と消えた。
途端、沸き上がる大歓声。
勝利を示すように振り上げられたレイさんの右腕を誰もが追って、その勝利が揺るぎないことを察して口々に歓声をあげる。
敗北への絶望と諦観から一転、ギデオンは逆転勝利の奇跡に沸く。それはきっと王国でも同様だろう。もし王国の大地に口があれば、大音声でその勝利を称えているに違いない。
だけど、フランクリンの脅威を良く知る歴戦の<マスター>たちは。
傍らに座るカトリ様とスターリングさんは。
そして他ならぬ私は。
それぞれの抱く感情と共に、その熱狂を外に置いていた。
そして見上げて思う――このままでは終わらない、と。
「野郎……やっぱり持ってやがったな」
『容易に察せたことだな。
「ほんっっっっっっっっとに性格最悪ですね、あの人!?」
びっくりするわ! まさかそこまですることはないだろうという一線を軽く乗り越えてくるその容赦の無さ!
お約束や暗黙の了解なんて知ったこっちゃねぇとばかりに、レイさんの勝利で破壊されたはずのモンスター解放装置の予備リモコンを、これ見よがしに取り出して。
彼の奮闘を嘲笑うように、時限装置のないそれをレイさんの目の前で連打する。
画面の向こうで、気絶したレイさんに代わってネメシスさんが激昂するのが見えた。
こうなってしまえばあとはなるようにしかならない。
モンスターの解放装置は、彼の切り札であると同時、私達を場内に縛り付ける人質でもあった。
それが意味をなさなくなったということは、最早この場の<マスター>たちが遠慮する必要も消えてなくなったということ。
そうなれば私だって――
『落ち着けマスター。焦らずよく見ろ』
「カトリ様!? 何を暢気な……」
「そうそう、どうやらあいつの他にも上手くやってくれたやつがいるみたいだぜ」
憤る私をなだめる二人の視線の先を追えば、画面向こうで余裕の表情から一転、不愉快げに訝しむフランクリンの姿がある。
そしていくら押しても反応の無いリモコンを投げ捨てると、長い溜息と共に吐き捨てるように言った。
「誰かが装置を回収して無力化してくれたようだな」
『これで彼奴の言うプランAとプランBが無為と化したわけだが』
「ああ、どうせあいつのことだ。
「えっ? …………えっ!?」
完全に私を置いてけぼりにして通じ合っている二人に戸惑う私。
フランクリンの目論見を二度も外してなお、スターリングさんは警戒を緩めず、カトリ様も映像から目を離していない。
そして私と同じように、多くの人々が固唾を呑んで中継を見守る中、フランクリンはいよいよ観念したように――しかし私達の希望を真っ向から打ち砕く
『プラン
――まるで時が凍ったかのようだった。
◇◇◇
「頃合だな、行くか」
『動くか、シュウよ』
「あの、えっと……?」
フランクリンの絶望宣言と同時、スターリングさんは席を立った。
向かう先は闘技場中央、時の止まった結界に囚われた<超級>二人のもと。
カトリ様も当然のようにそれへ付いていき、私は戸惑うままに二人のあとを追うしかない。
そして誰もが中継に視線を向けた中、スターリングさんが舞台の結界へ近寄ったかと思うと、そのまま無造作に拳で結界を打ち砕いた。
<超級激突>を演じていた二人を囚えていた結界が無力化され、フィガロさんと迅羽さんは試合開始前の姿のまま、万全の状態で解放される。
長らく保護空間に幽閉されていた反動か、しばし状況を飲み込めずにいたようだけど、それもフィガロさんがスターリングさんの姿を認めたことで得心が行ったようだ。
「シュウ、動くんだね?」
「ああ、ここは任せた。地下の奴や、観客席の二人が何かやりそうだったら止めてくれ」
「了解、任せて。……そちらの方は?」
「うオ、デケーなオマエ! 何食ったらそんななるんダ?」
自由を取り戻したフィガロさんは以心伝心で了解を得、そして傍らに立つ私を訝しむ。
迅羽さんも同様に……なんか見るとこが独特だけど、うん。
思いがけず<超級>の有名人二人に話し掛けられたせいで、緊張して言葉が紡げない。
ちなみに食べてるのは流動食と点滴ですが……デカさで言ったら迅羽さんの方がよっぽどですよね?
「こいつは何度か話したことあったろ、マグロだ」
「ああ、シュウのお友達の……フィガロです、よろしくね」
スターリングさんのお友達補正で握手してもらった! しかもめっちゃ自然に!
あの超有名人! ギデオンの一大スター! 決闘王者の生握手もらっちゃった!
なにこれすごい幸せ……!!
「お前、ちょっと顔がキモいゾ……」
迅羽さんにそんな風に言われてるけど、気にしない!
一闘技ファンとして王者に握手してもらえるなんて、一生モノの思い出だもん!
「それでシュウ、キミが連れているとうことは、もしかして?」
「ああ、<超級>だ。外でちょいと、手伝ってもらう」
「えっ、なにそれ初耳なんですが……!?」
『正確には余が、だがな』
「あン? ――――
寝耳に水な発言にテンパる私を他所に、カトリ様が当たり前のように了承する。
私からスターリングさんへと巻き付く相手を変え、二股に割れた舌先を大気に曝しながら、訝しむ迅羽さんに目を向ける。
『話はあとにさせてもらおう。"無限連鎖"フィガロ、"応龍"迅羽、先の戦い見事であった。事が済めば是非一度語らいたいものだ』
「成程……うん、いいね。
『願ってもない申し出だ、是非とも頼む』
「……なんダ、お前? 実はティアンの一般人とかじゃねーノ? マジで<マスター>なのカ?」
《看破》で私のステータスを見抜いた迅羽さんに心底憐れまれるような声音で言われた……さすがにつらい。
「お喋りはその辺にしといて、そろそろ行くぞ。かとりん、
『任せておけ。そなたが走るよりは余程速い』
「なら頼む。ていうわけでマグロ、行くぞ」
言うや否や、カトリ様が私の身体に巻き付き《透明化》。口でスターリングさんを咥えて吊り上げる。
そして《伸縮自在》で延長化した胴をバネのように撓めて力を溜めてから――跳躍。
純粋なSTRによる脚力で、そのまま西の彼方へ飛び去っていった。
「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――!!!?」
当然私もそれに巻き込まれる。
気分はさながら逆バンジー。ただし超音速で。
カトリ様のバリアが無ければ即ミンチと化していたのは想像に難くない。
そしてここまで全部、事後承諾の私蚊帳の外である。
……なにこれ悲しい。いくら私が役立たずだってさぁ、二人だけで通じ合ってんじゃないですよもう!
「……まぁ元気出せヨ、ナ?」
「お気遣いありがとうございますううううぅぅぅぅぅ――!!!!」
試合中はヒールプレイ全開だったけど、去り際の迅羽さんは思いの外優しかった。
あとでサインねだったら書いてもらえるかな、ちょっとお願いしてみよう。
でもまぁ、あれか。
五六〇〇〇……くらいだっけ? それなら、まぁ。
――
解放装置の懸念もなくなったし、あとは野となれ山となれだ。
……ところで下とか二人とか、何のことだろう?
四連休(金曜有休)による更新頑張るモード終了。
次はフランクリンのゲーム編のクライマックスですが、次回投稿しばしお待ちください。
月曜からは11月最終週ですので……どうかご了承ください。