駆け足ですがこれで「フランクリンのゲーム編」は終わりになります。
今後は一話完結式の幕間を挟みつつ、諸国漫遊編を投稿していきたいと思います。
これまで以上に不定期投稿が続くと思いますが、よければどうかお付き合いくださいませ。
□<ジャンド草原> 【獣神】マグロ
カトリ様が飛び立ったと同時、スターリングさんのバルドルさんが砲撃を開始してしばらく、ジャンド草原を埋め尽くしギデオンを呑み込まんとしていたモンスターの群れは、それがまるで幻であったかのように姿を消した。
とはいえ跡形もなく消えたのはモンスターだけで、めちゃくちゃに破壊された地形は最早草原ではなく荒野と呼ぶべき有様なのだけれど、つくづく【破壊王】の<エンブリオ>らしい大破壊っぷりだ。
その合間を潜り抜けてはしゃぎ回ったカトリ様も随分と目立っていた。倒したモンスターもバルドルさんと競い合いながらも数万を数え、そのドロップアイテムで懐も温まるというものだけど、それはそれとして。
「おげぇぇぇぇぇぇぇぇ……」
『!?』
私は絶賛副作用に苛まれていた。
というのもアレだ、派手に敵を食い散らかしたのはいいけど、バルドルさんとの共同作業だったおかげで敵がすぐ片付いて、だけど大本であるフランクリンの敵対意思はカトリ様に向けられたままだったから、《贄の血肉は罪の味》の効果が継続しっぱなしで、私のHPがゴリゴリ削れまくっているのだ。
場に残された唯一の敵対者であるフランクリンを殴ろうにも、向こうには人質がいるから現状手出しはできないわけで、バルドルさんの砲撃で彼の注意を引く間カトリ様は悠然と滞空するのみ。
そのせいで私の回復が追いつかず、やむを得ず【オーバードーズ】を使用したものの、その副作用である【風邪】だの【酩酊】だの【宿酔】だので体調が最悪に陥ってしまっていた。
こみ上げる胃の内容物をエチケット用【アイテムボックス】に吐き出す。
強敵相手にはよくあることなので対策は常備してある。間違ってもバルドルさんの艦体に撒き散らしてはいけない。
バルドルさんのセンサーがギョッとした様子でこちらを向くが、本当に申し訳ない。こればかりはどうにも堪え切れないんだ。
『ふぃーただいまクマー』
「お、おかえりなさい……」
淑女にあるまじき醜態を晒していると、カトリ様の背に乗ったスターリングさんが前方甲板へ帰ってきた。
戻ってきたスターリングさんは北欧蛮族風の装いではなく、見慣れた着ぐるみ姿に戻っていた。
ということはつまり、決着はついたということなのだろう。私の肉眼では現場までの遠距離は見通せないが、スターリングさんの表情はどこか誇らしげで、嬉しそうに笑っていた。
「余も戻った。……惜しくも余の負け、か」
「お疲れ様です、カトリ様。スターリングさんにバルドルさんも。やっぱり凄いですね、さすがに」
『照れるクマー』
『今日はスッキリしました。日頃溜まった鬱憤の七割を解消できました』
『え、そんな我慢してたクマ?』
三者三様の反応を見せる彼らに微笑ましく思い、私も【オーバードーズ】を外す。
残った状態異常はしばらくすれば消えるのだけど、いつまでも青い顔して水を差すのも申し訳ないので【劣化万能霊薬】でパパっと治す。
全身に纏わり付いていた倦怠感が消え去ったのを確認して、改めて私はスターリングさんに向き直った。
「改めてお疲れ様です、三人とも。これでフランクリンの脅威は過ぎ去った――と、考えていいのですよね?」
『今のところはな。だがアイツがこうして派手に動いた以上、背後に皇国の大きな動きがあると見るべきだろ。きっとそう遠くないうちにまた戦争が始まるだろうな』
「戦争、ですか……やはり」
フランクリンの騒動は、その戦争を経ずして王国を併呑するための謂わば前哨戦のようなもの、だったということか。
彼自身はレイさんへの個人的な因縁を強調した口振りだったけれど……こうして彼が敗北した以上、やはり戦争は避けられないのだろうか。
『とは言っても今回の騒動で俺が表舞台に立ったから、ひょっとすると講和を持ち出してくるかもしれないけどな』
「それって、今度はスターリングさんも参戦するということです?」
『まぁな。
「……ほんとに仲が良いんですねぇ」
薄々感付いてはいたけれど、やっぱりスターリングさんってブラコンだ。
弟のレイさんも兄を信頼しているようだったし、その弟が絶望的な状況の矢面に立って一筋の希望を手にしたのだから、兄として鼻が高いのだろう。
戦場へ赴くときも心なしかウキウキしていたようだったし、兄弟姉妹のいない私からすればちょっと羨ましい。
「ところでそのレイさんはどうしたんです? てっきり連れてくるものと思ってたんですが」
『あいつの仲間がいるからそっちに任せてきたクマー。……いい仲間持ってやがるぜ』
「そっか……なら安心ですね」
仲間、というのは闘技場からの出陣前に見たあの美少年のことだろう。
彼もまたあの状況で真っ先に名乗り出たあたり、如何にもレイさんの友人らしい人だった。
あのレイさんが仲間ないし友達にする人物だ、きっと良い人なのだろう。
騒動が収まった今振り返ってみると、フランクリンの思惑は一転してギデオン、ひいては王国の人々を鼓舞するものに変わり果てたように思う。
人々の心を折るはずが僅かな勇士達の活躍で逆転劇を演出し、フランクリンというわかりやすい"悪"が打倒されたことによって、折れるはずの心に再び強い光が差した。
王国民の結束は、フランクリンの悪意によって却って固まったように思える。
その立役者となったレイさんの行動はまさに"英雄的"で、今や王国中から彼の名を称える声が聞こえてくるようだ。
かくいう私もそんな彼に魅せられた者の一人で、彼のみならず彼と共に戦場へ赴いた"初心者"達への敬意が溢れて留まるところを知らない。
……どうしよう、実力だけを見れば格下なのに、すっかりファンになってしまっている私がいる。
また今度、お話でもしてみようかな。
『それじゃあ俺達もお暇するクマー。このあと寄ってくところあるんだけど、マグロも一緒に来るクマ?』
「いいんですか? ならお言葉に甘えます」
騒動も終着し、特に予定もなくなった夜のお誘いだ。喜んで承諾する。
この後に続くであろう復興作業に後ろ髪を引かれる思いもあるが、生憎と私達にはそれで役立てそうな手段は持ち合わせていない。
とりあえず浮いたお金だけでも匿名で寄付する程度にして、今は彼のお誘いに乗るとしよう。一年振りの再会だから、積もる話はまだまだある。
懐かしの戦車形態に戻ったバルドルさんに同乗し、人目を避けるようにギデオンの街へと戻る。
道中でフランクリンの改造モンスター達から回収したアイテムを前にスターリングさんと一緒に一喜一憂しながら、数時間もすれば白み始める夜空をふと見上げた。
「カトリ様」
「うん? なんだ」
「やっぱり王国は楽しいですね。不謹慎だけど、やっぱり懐かしいです」
「……で、あるか」
◇◇◇
□決闘都市ギデオン十二番街 【獣神】マグロ
とまぁ、感慨に耽っていたのはいいのだけど。
「あの、スターリングさん? ここってかなりお高いところなのでは……?」
『まぁまぁ、気にするなクマー』
スターリングさんのエスコートで訪れたのは、十二番街にあるギデオンでもトップクラスの高級クラブ。
闘技観戦でたびたびギデオンを訪れていた私でも利用したことのない、一見さんお断りオーラばりばりの高級店を前に私のハートはすっかり萎縮してしまっている。
ここって確か、お偉いさんも御用達のブランド点だったと思うのだけど、スターリングさんは構わずクマの着ぐるみ姿で立ち入ろうとしていた。ドレスコード大丈夫かこれ。
対するカトリ様は堂々としたもので、クマと並んで踏み入る様は却っていっそかっこよかった。
『フィガロ名義で予約してたシュウ・スターリングクマー。連れは来てるクマ?』
「ふぃがっ――!?」
「ようこそお待ちしておりました。どうぞこちらへ」
見るからに洗練された立ち居振る舞いのスタッフに案内され、奥の最高級個室の前に立つ私。
着ぐるみの装いにも一切動じずにこやかにエスコートしてのけたスタッフも然ることながら、それ以上に思わぬビッグネームの登場に私の脳内はパンク寸前だ。
もう迂闊に歩くことすら憚られ、スターリングさんの背中にしがみついて恐る恐る周囲を見渡す。――あかん、これ高いやつや……!
「やぁいらっしゃい、待ってたよ。……おや、彼女も一緒かい?」
『おーっす、一人……二人? 増えたけどいいよな』
「オ? なんダ、デカノッポも来たのカ。まぁ座れ座レ」
個室の扉を開けたその先にはフィガロさんと……あろうことか<超級激突>の片割れ、"応龍"の迅羽さんまでもがいた。
最高級クラブの、最高グレードの個室で、名にし負う三名の<超級>と同席する。私の限界はここで壊れた。
「ってお前鼻血出てんじゃねーかヨ、こえーヨ!?」
「ずみまぜん……興奮しすぎて……」
超々有名人の<超級>三人、しかもそのうち二人は決闘のビッグネーム。闘技ファンとしてこれ程の幸福が他にあるだろうか? いや無い。
他のファンに知られればリンチ必至なこの世の天国に、私の興奮が高まりすぎて鼻から流れ出てしまった。軽度の【出血】も負うほどに。慌てて薬を飲んで治す。
気を取り直して席につくも、まだ私の心臓は収まりを見せない。
なんだろうこの、私場違いすぎない? いくらスターリングさんの知人だからといって、ここに居て本当にいいのかな? ひょっとして夢だったりしない?
「…………サインいただけますかッ!?」
「唐突だなおイ。まぁいいけどヨ……」
思わず色紙を差し出した私に呆れた様子の迅羽さんだけど、鋭利な義手でサラサラと器用にサインを書いてくれた。達筆だ!
ついでとばかりにフィガロさんも書いてくれて、一つの色紙に二人もの<超級>のサインが書き込まれた。なんだこれ、家宝にしなきゃ……!
「賑やかな子だね、シュウ。見てて面白いな」
「挙動不審すぎてちょっとキモいけどナ。喜んでもらえるのは闘技者として悪い気はしねーけド」
『グラスは行き渡ったクマ? そろそろ乾杯するクマー』
思わぬサプライズに不安から一転幸福の絶頂にあった私。
スターリングさんの音頭で我に返りグラスを掲げれば、チンとグラスを突き合わせて駆けつけ一杯飲み干した。
おいおい、これじゃあまるで私、リア充みたいじゃあないか……!!
『――ぷはーっ!! この一杯のために生きてるクマ! 今夜の疲れはこれで吹き飛ばすクマー』
「お疲れさま。ここの払いは持つから好きに呑んでね。迅羽もマグロもね」
「すみません、おしかけちゃって……ほんと、迷惑でなければいいんですが……」
「図体デケェくせにちいせぇこと気にすんなヨ。中継、見てたゼ? 派手にやるじゃねーノ」
口当たりの良い果実酒を飲み干して、一息ついて改めて今の状況を顧みる。
なんというか、友達の友達の家にお招きしてもらったようななんとも言えない肩身の狭さを感じながらも、気の良い彼らに饗されて緩む表情を抑えきれそうにない。
一応私も<超級>の端くれとはいえ、大陸中に勇名を轟かす彼ら三名と比べれば無名に等しいフリーだから、気分はベテランを前にしたひな壇芸人である。
「あの鳥が君の<エンブリオ>なのかな? 闘技場で見たときとは姿は違っていたけど」
「白蛇から赤い鳥だロ? ガードナー系列っぽいよナ、レギオンカ?」
そして見知らぬ<超級>を前にして語らうことと言えば、まずはその戦力に関してだ。
私はあまり他の<超級>と遭遇することはないから実感は少ないのだけど、多くの<超級>にとって対抗馬となり得るのは古代伝説級以上の<UBM>か、あるいは同じ<超級>くらいしかいないため、自然とその戦力を探るようになるらしい。
その点で言えばつい先日王国に戻ってきて、これまで特に表沙汰になってない私のことは、彼らとしても気になるところなのだろう。
誰もが知る有名人が私に注目しているこそばゆさに何とも言えない気分になりながら、自己紹介としてカトリ様も紹介することにした。
とは言ってもここに来るときもメイデン体のまま入ってきたから、二人も彼女が私の<エンブリオ>であることは察していただろうけど。
《紋章偽造》とかも使ってないしね。左手の紋章が無い以上はティアンだけど、ただのティアンがスターリングさんに連れられてここに来る筈も無いし。
それまで物静かに果物を頬張っていたカトリ様も、彼女なりに最大限の敬意を込めた礼をしていた。。
と言っても軽く頭を下げる程度で、あとは遠慮を忘れたようにテーブルの果物を頬に詰めていたけれど。
これでもカトリ様的にはかなり丸い対応の方だ。興味もない相手には姿も見せず無視するだけだし。
「メイデンか……」
「割りと珍しいナ、メイデンの<超級エンブリオ>ってのハ」
『身近な例でいうとあの雌狐くらいだしな。いや、あいつのメイデン自体は大分マトモだけど』
カトリ様がメイデンであることを知ると、フィガロさんは考え込むような様子を見せた。
迅羽さんは単に珍しいものを見たって程度だ。その珍しいものってのは私とカトリ様の関係を見てのものでもあるだろうけど。
まぁ、私の姿勢が変だっていう自覚はあるよ、流石に。今更変えられないし変えるつもりもないけどさ。
だけど雌狐? って誰のことだろうか。スターリングさんらしくない口振りだ。
フィガロさんも心なしか楽しそうにない表情だし、この二人をして苦虫を噛み潰させる女狐さんとやらがすごく気になる。
聞けそうにないから、追求は避けておくけど。
それはそれとして、さっきからひじょーに気になってることがひとつ。
『さっきからチラチラ見える横顔とか声とかで思ってたけど、お前やっぱ子供なんだな』
「それ! 私もそれ思ってました! 迅羽さん実はかなり幼いですよね?」
「今年で十歳だゾ? もう十分にレディだろーガ」
スターリングさんが私の心の中を代弁してくれた。
そうなんだよ、観客席から眺めてるときは気づかなかったけど、こうして間近で話してると迅羽さんの素顔が思ってた以上に若いっていうか、幼いことに気付いてうずうずして仕方なかったんだ。
でもそれを率直に問い質すのも気が咎めるし、モヤモヤするなぁと思ってたんだけどさすがはスターリングさんだ。彼の底なしのコミュニケーション能力ならばやってくれると信じていた!
「幼いというと【抜刀神】もアバターと然程変わらないらしいね。意外といるよね、天才児」
『お前がそれを言うかフィガ公ー。てかそれを言うなら天才児ってより天災児だろ』
「幼いと言えばカルディナの【罪狩】ちゃんもそうでしたねー。すごくいい子でしたよ」
「【
『ひょっとして<ケルベロス>のオーナーか? また珍しい相手と知り合いなんだな』
カルディナの悪党連中が泣いて逃げ惑う賞金稼ぎクランのオーナーだから、あちこちに知り合いのいるスターリングさんや、国家の特使としてカルディナを横断してきた迅羽さんは聞いたことがあるんだろうね。
例のアフロ松田さんもそこの所属だし、一年前カルディナを旅したときには大変お世話になったものだ。
【罪狩】ちゃんは確か迅羽さんと同年代だったかな? 一年前の時点で「今年で九歳なー」って言ってたから……やっぱりそうだ。
「つかレディの年齢だけ聞いてるんじゃねーヨ。そういうお前は幾つなんだよクマ公」
『俺? 俺は今二七クマー』
「僕は二一だね」
「私は二二くらいだったかな?」
「うワ、おっさんじゃン。いい年してクマの着ぐるみってどーヨ?」
『冷静に言われると割りとガチで傷つくからやめろ』
「あはははは」
そう言うスターリングさんの声には隠し切れない哀愁が込められていた。
そっかー、スターリングさんもう三十路近かったのか。リアルで会ったときは若々しすぎる肉体のせいで気づかなかったけど、もう子供がいてもおかしくない年齢なのか。
……思いがけず生々しい話を連想してしまった。忘れよう。
「ところで迅羽はこれからどうするんだい? イベントも終わったし、すぐに国へ帰るのかな?」
「うんニャ、皇子の護衛の仕事が残ってるから暫く王国に滞在だナ」
『マグロはどうするクマ? また旅か?』
「いえ、私も暫くは王国に腰を落ち着けようかなと。ここ最近は物騒ですしね、戦争の件もありますし」
「あー、皇国とヤリ合ってるんだっけカ。お前らんとこも大変だナ、こっちも他人事じゃねーけド」
何にせよ国が抱える問題というのは大きすぎて、如何な<超級>と言えど手出しが難しいというわけだ。
むしろ今日のフランクリンのせいで<超級>の有する戦力というものが嫌でも見せつけられたわけで、今後はより一層の慎重を期さざるを得ないというものだろう。
それはそれとして、大事な皇子様の護衛を任ぜられるなんて、やっぱ迅羽さんの影響力って半端ないよね。中身が十歳だなんてとてもじゃないけど信じられないや。
……いや、私が物を知らなすぎるだけかな、これは。
「とりあえずは王国のダンジョンにでも潜ろうかナ。こっちでドロップするアイテムにも興味あるシ」
「あれ? でも<墓標迷宮>って王国所属じゃないと<マスター>は潜れないんじゃないでしたっけ?」
「マジデ? あーどうすっかナ……」
「迅羽は国賓だし、その辺は融通利くんじゃないかな?」
『つってもソロだと延々潜るのはいろいろキッツいからなー』
「ふーン、まぁあとで聞いてみるかネ。もし潜れるならどうよ一緒ニ?」
「僕はソロ専門だからね」
『俺もしばらくはギデオンから離れるつもりはないクマ。マグロはどうクマ?』
「はわっ、私ですか!?」
思わぬキラーパスにびっくりする私。
「そりゃいいナ、オレもこいつの戦力に興味あるシ。でも中継で見たサイズだと潜れねーよナ? 白蛇でも戦えるのカ?」
「中層までなら問題はない。だがそれ以前にだな……」
「スキルの都合で組めないんですよね、パーティー」
「なんだそりゃ。難儀なスキル持ってんだナ。ならしょうがねぇ、ソロで寄ってみるカ」
そこから話題は王国の実力者に移ったりして、フィガロさんがギデオンのトップランカーたちを紹介する約束を交わしたり、スターリングさんが目ぼしい討伐ランカーを紹介しようとして断念したり、<超級>ならではの話に華を咲かせた。
私から紹介できる相手は国内にはいないんだよね、そういう実力者と知り合ったのは旅を始めてからで国外の人達ばかりだし。
<超級>になる前からの知り合いといえばファンタズマゴリラさんだけど……彼もレジェンダリアだしなぁ。
見知らぬ誰かと野良PTを組むなんてことはしてこなかったから、その点私の世界は妙に狭くて広かったりする。
そしてスターリングさんとフィガロさんが口を揃えて「あいつはやめとけ」と言う王国のクラン一位。
名前だけなら私も知ってる。<月世の会>のオーナーさんだよね? リアルでも<月世の会>からは勧誘があったけど、断っていたから繋がりは無いんだよね。当時は理念というか他者への興味も全く無かったし。
スターリングさんの口振りからすると、例の雌狐ってのがそこのオーナーさんのことのようだけど……やっぱり黒い噂って本当なのかな? 関わるつもりもないからいいんだけど……。
『話は変わるけどよ……闘技場の方は誰が動いた?』
そんなことをつらつらと考えていたら、スターリングさんが真剣味を帯びてそんなことを問うた。
言葉の意味は分からなかってけれど私以外の二人にはそれで伝わったらしく、"物理最強"だの"魔法最強"だのといったビッグネームが話題に飛び交う。
……いたの?
「そなたに話したところで何の役にも立たぬからな」
「カトリ様は気付いていたんですか?」
「……普通は
呆れられてしまった……。
一応私も《看破》は取ってあるけど、あくまでモンスター用だし。
そもそも<マスター>を《看破》するという習慣が無いからそういうのに疎いんだよね。
カトリ様はその辺用心深いから把握してることが多いけど、私に累が及ばない限りは放置してるし。それこそ私に伝えるだけ無駄だからね。
外部の掲示板やサイトとかで情報収集することも、最低限にしかログアウトしない私にとっては縁の遠いものだ。
そんなだからこの手の話題になると置き去りになるのが私である。
「……なァ、こいつ大丈夫カ? まがりなりにも<超級>でこの無防備っぷりはねーだロ」
『競争相手がいないからなー。独自路線突っ走りすぎて逆に人畜無害ってタイプだし』
「その割には今回連れ出したのは何故かな?」
『かとりんが乗り気だったのと、実力が見たかったってところクマ。このタイミングで<超級>戦力が増えるって割と爆弾だし』
「ああ、僕と似たようなタイプか。なんだか親近感が湧くね」
『……確かにお前とは似通ってるかもな』
「お前大丈夫カー? さすがにダンジョンでのんびりしててヤラれるのだけはフォローできねーゾ?」
「す、すみません……」
「マスターはともかく、余の戦力はあてにして問題はない。そなたの手を煩わせるつもりはないよ」
わかってはいたけれど、やっぱり私、<超級>としてはおかしいよねぇ。
ほんとに今更だけど、こうも心配されるとやっぱり気になる。迅羽さんなんて若干ガチだし……。
『マグロの場合は下手に先入観与えるよりも、このまま自然体でいてもらったほうが多分都合がいいクマ。そういうわけだからこっちのことは気にすんなクマー』
「はぁ……そういうことでしたら、わかりました。あ、でも何か困ったことがあったら言ってくださいよ? 私だって恩返ししたいんですから!」
『気持ちはありがたく受け取るクマー。……ま、いざという時は頼むわ』
ぬう、スターリングさんはほんとに分かってくれているのだろうか。
ただでさえトラブル体質なんだから、何かあったとき心配するのは周囲なんだぞう。
……でもスターリングさんのことだから、逆に信頼されきって心配もされないかしら。
「あ、そうだ忘れてた。今度都合がついたら試合しようよ。マグロのテスカトリポカにも興味あるし、迅羽も他のランカーと戦ってみたくはない?」
「お、いいナ。ならついでにフレンド交換もしとこうゼ」
「マグロもいいかな? フレンド交換」
「あ、はい! 光栄です!」
「あはは、固くなることないよ。同じ<超級>だし、シュウの友達だしね。友達の友達は友達、だろ?」
『そうそう。マグロは緊張しすぎクマ、もっと自分に自信を持つクマー』
なんやここ天国か。
今日という日は私にとって幸運の連続すぎて興奮がヤバイ。ヤバすぎて鼻血どころから涙まで出そうになる。
……こうして誰かと仲良くするってめったに無いから、余計に刺激が強い。
「泣くなヨ……情緒不安定にも程があるだろお前……」
「愉快な子だね、シュウ」
『迅羽と足してニで割ったらちょうどいいんじゃね?』
「やだよそレ。……身長だけ寄越せヨ」
『身長いくつだったっけ?』
「一八九センチだったかな……? 大体リアルのままですけど」
「三十くらい寄越せヨ、そんないらねーだロ」
「だったらアバター作成のときに盛ればよかったのに」
「そんなみっともねーマネできるかヨ!」
『妙なところで律儀なやつクマー』
やっぱりこの人達、良い人だ。
王国に戻ってきて、本当によかった。
その後も打ち上げは日が昇るまで続いた。
<マスター>というよりはたまたま<UBM>を手懐けてしまったティアンみたいなポジション、それが主人公。
◇ちょっとした人物紹介
・ファンタズマゴリラ
レジェンダリア所属、王国との国境近くの<迷いの森>を拠点とする<マスター>。準<超級>。
ゴリラアバターの紳士。まだ<超級>でなかった頃のマグロと共闘してある<UBM>を打ち倒した。
過去回想のレジェンダリア編で登場予定。
原作者の海道左近氏が活動報告で言及したゴリラとは別人。お蔵入りしようと思ったがネタを思いついてしまったのでいつか書く。
・アフロ松田、【罪狩】ちゃん、???
カルディナ所属、賞金稼ぎクラン<ケルベロス>のオーナー。三人で共同運営している。アフロ松田以外は準<超級>。
<超級>到達後カルディナを横断していたときに知り合い、ある騒動に巻き込まれた。
【罪狩】ちゃんはカルディナの天災児枠。罪人に限り無類の強さを誇る。
諸国漫遊編のカルディナ編で登場予定。