我は彼の奴隷なり   作:ふーじん

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安西先生……特典SSが、ほしいです……


エルフの隠れ里withゴリラ&マグロ&ジャガー&■■■

 □【獣神】マグロ

 

 ある日森の中でゴリラと出会った。

 ……は冗談として、あわや飢え死にするところをファンタズマゴリラなるゴリラアバターの<マスター>に助けてもらった。

 さすがの私も空腹という根源的欲求の前には心折れざるを得なかったようだ。あのとき差し出されたバナナの味は生涯忘れることはないだろう。

 正体を失っていく意識と景色の中、一際目立つ黄色の湾曲はさながら夜闇に輝く三日月の如し。

 手の届かぬ天上の月を手中に収め、羽衣の如き皮を剥き頬張るあの甘味。さながら私はかぐや姫(?)。

 ……んっんー、思いがけず詩的な表現になってしまったな。極限に追い込まれることで眠れるセンスが開花してしまったかも!

 

『いつにも増して愚にもつかない戯言を口走っておるな、たわけめ』

「~~♪」

 

 そんな私は今、ファンタズマゴリラさんの案内で森の中を彷徨い歩いている途中である。

 彼からは他国とは一風変わったレジェンダリアの特徴を教えてもらい、単身道を外れて森を往くことの無謀さを滾々と諭されたところだ。

 彼曰くそうして自滅する輩は後を絶たないのだそうが、それでもログアウトもせず【飢餓】を抱えたまま四日間も懲りずに彷徨う<マスター>は私が初めてだという。

 ……そうだよね、一旦ログアウトしてセーブポイントに戻ればよかったんだよね。基本死ぬまでログアウトすることのない私にその発想は無かったわ。

 そう言ったらファンタズマゴリラさんには笑われたけど。

 

「しかし君は運が良いな。四日も外に居て一度も<アクシデントサークル>に巻き込まれなかったとは。対策装備が無ければ二日と経たず何かしら起き得るものなのだがね」

「あはは、悪運が強いのかもですね。ところでその<アクシデントサークル>って、どんなことが起こるんです?」

「空間を転移したり、自然発火したり、体内に発生した水流で溺れたり、妙なマーキングをされて四六時中モンスターに付け狙われたり……大抵のことはあり得るのではないかな?」

 

 なにそれこわい。

 完全に怪奇現象やんけ……いやまぁ物理を超越した魔法現象だから、何でもありっちゃありなのだろうけど。

 

「特に空間転移は厄介だな。距離が短い場合もあれば長い場合もある。転移先は場所を選ばないせいで遥か高空に投げ出されたり、見知らぬ海上に放り出されたり、<マスター>であっても死に至る例が特に多い。いわんやティアンにとっては死活問題だね」

「うひぃ……さすがに次からは気をつけます……」

「そうしたまえ。主要な都市に行けば魔力を散らすための携帯魔道具も置いてある。レジェンダリアで長旅をするなら必需品だね、あとで紹介しよう」

「ありがとうございます……本当に重ね重ねお世話になってしまった」

「なに、気にすることはない。行き交う先で困っている者がいれば助けるのは当然のことだ」

 

 そう事も無げに言い放つファンタズマゴリラさん。その様は紛うことなきイケメンであった。

 実際ゴリラアバターであることを抜きにしてもイケメンである。最初こそ瀕死から立ち直って一目見困惑したものの、話してみれば至極真っ当な紳士の中の紳士だ。

 たとえリアルゴリラ然としたナックルウォークが様になっていたとしても、最低限の局部を隠しただけのネイチャースタイルであったとしても、ていうか完全にゴリラであるとしても、彼は紳士なのだ。

 よしんば彼が世界二位だったとしても、心ある者は世界一位であると彼を指して言うだろう。

 つまるところゴリラis正義なのだ。

 

「ところでこんな広い森の中でよくも私を見つけられましたね? ファンタズマゴリラさんに会うまで他の誰とも遭遇しなかったんですが」

「ゴリラでいいとも、私の名前は長いからね。君を見つけられたのは簡単なことさ、森が私に教えてくれた」

 

 森がゴリラさんに……なんとパワー溢るるゴリラワードであることか。

 まさに"森の賢人"の異名を持つゴリラの通りに、彼の一言一句には有無を言わさぬ説得力があった。

 やっぱりゴリラってすごい()

 

『具体的にはどういうことだ?』

「【森王(キング・オブ・フォレスト)】としての特性でね、森の中にある限り大抵の事象は私の耳に入るのだよ」

『ほう、超級職か……道理で只ならぬ気配を発するものよ』

「そう血気に逸らないでくれたまえ。私はしがないただのゴリラだよ」

 

 ナチュラルに自分を<マスター>ではなくゴリラと称する筋金っぷり。やゴす。

 曰く【森王】とは環境依存型の魔法職の一つで、【森祭司(ドルイド)】というジョブの系統の超級職なのだという。

 文字通り森林での魔法行使に特化し、活躍できる環境を限定される分、条件が合えば凄まじい性能を発揮するらしい。

 すごく興味がある。森でゴリラが荒ぶってる画像くださいpart2。

 

「だとしてもこの広い森の中をパトロールですか。すごいなぁ、一度遭難した身からすると想像も付かないです」

「ははは、大したことじゃないさ。パトロールとは言ったが、言葉の綾だったかな。実際は所用のついでに君を見つけたに過ぎないのさ、期待を裏切るようですまないね」

「いえそんな……実際助けてもらったのは事実ですから。それよりも所用の方が気になるんですが、お聞きしても?」

「ああ、構わないよ」

 

 そう朗らかに言うと彼は、腰ミノに吊り下げた革袋型の【アイテムボックス】から幾つかの野草を取り出す。

 あるいは色とりどりの花々だろうか。匂いの良いものから悪いものまで、雑多な植物が握られていた。

 

「友人の頼みでね、近場には生えていない香草を幾つか採取していたのだよ。見てみるかい?」

「……………………どくとくなにおいですね」

「ははは、臭いだろう? しかしこれが良い香料になるのかもしれないのだそうだ。門外漢だから詳しいことは知らないがね」

 

 ゴリラさんも同様に一嗅ぎして、堪らず鼻を摘んで【アイテムボックス】を仕舞う。

 その仕草はわざとなのだろうか、如何にも大袈裟でユーモラスだった。

 ていうかこの人(?)、ほんと見てて飽きない。

 

「実は今から行く場所に私達の仮拠点があってね。まずはそこへ案内するつもりだ。生憎だが私もクエストという形で活動している身でね、すぐさま君を送り届けられそうにない。すまないね」

「いえいえそんな! むしろ私にお手伝いできることはありませんか? 助けてもらってそれっきりじゃあ、さすがに悪いですし」

「そうかい? ふむ……」

 

 ゴリラさんは一転して、鋭い視線を瞬時向けると、次の瞬間には驚いたように目を見張った。

 

「なんと、君も超級職だったのか! 【獣神】……? 聞き覚えのないジョブだな、字面からして【神】の一種か……」

『盗み見して黙考するは褒められた真似ではないぞ、ファンタズマゴリラとやら。恩がある故これ以上咎めはせぬがな』

「あ、すまない……紳士として大変失礼な真似をしたね。申し訳ない」

 

 どうやら《看破》されていたようだ。

 レベルはともかく私のステータスは軒並み低いので、同じ超級職の《看破》なら主なステータスは全て見抜かれたと考えていいだろう。

 まぁ私の場合、別にどうってことないんだけどね。むしろ<マスター>としては基本だし、初見《看破》って。

 

「手伝ってくれるとの申し出はありがたいのだが、下手な者には任せられないのもあるのでね。失礼ながら勝手に《看破》させてもらった。……その上で言うが、君は実に面白いステータスをしているね?」

「あはは、やっぱりお邪魔でしょうか?」

「とんでもない、むしろ納得したよ。どうも君と君の<エンブリオ>の実力が不釣合いなようだから、気になっていたんだ。成程、君は所謂ガードナー特化型だね?」

「はい、仰る通りです。私はともかく、カトリ様は頼りになりますよ」

「カトリ様、か。今更だが君の名を教えていただいても?」

『テスカトリポカという。見知り置くがよい』

「ほう! 南米の荒ぶる神がモチーフかね、興味深いな……いやすまない、またも脱線してしまうところだったね」

「いえいえ」

 

 ゴリラさんの気持ちはわからないでもない。

 実際<エンブリオ>の名前って、地球の神話や寓話、伝説上の偉人に英雄、果ては自然現象まであらゆる概念から名付けられるから、それだけでちょっとした世界観だよね。

 私もカトリ様が孵化したあとにモチーフのことを調べて、こんな偶然があるのかと驚いたものだ。

 生贄を求める超強い神様って、まさしく私が望んだ守護者そのものだもんね。

 

「実際のところ、<マスター>と<エンブリオ>の間には不思議な結び付きがある。どんな<マスター>であっても、己が<エンブリオ>のことは表向きどうあれ、心の深いところでは受け入れる部分があるようだしね。そのことを研究している知り合いもいるが、果たして実態はどうなのだろうねぇ……」

「ほんとに不思議なゲームですよね、<Infinite Dendrogram>」

『…………』

 

 長年プレイしてきた者共通の「デンドロすげー」感を共有して笑う。

 カトリ様は何故か沈黙を保っていたけど、どうしてだろう? まぁいいか。

 

「っと、言った矢先にまたも脱線してしまった。話は戻るが、君の申し出はありがたく受けさせてもらおう。君のように強力な<マスター>と<エンブリオ>がいれば心強いからね。実を言うと、私はあまり戦うことは得意ではないのだよ」

「戦うことなら任せてください! 私のカトリ様は最強ですから!!」

『その言は当然だが、そのポーズはやめろ』

 

 グッと右手を握ってガッツポーズ。ここに込められた気合がカトリ様はお気に召さないらしい。解せぬ。

 ともあれ、単純に戦うことならうちのカトリ様の右に出るものはいない。なんせカトリ様だからね、当たり前だよね!

 

「ははは、頼もしいことだ。詳細は拠点で詰めることにしよう。もうすぐ日も暮れる、さすがに<迷いの森>での野宿は怖いからね。急ぐとしよう」

 

 そう言って行軍を再開する。

 その間にもゴリラさんからは、レジェンダリアの様々なことを教えてもらった。

 

 レジェンダリアの有名人だったり、危険人物だったり。

 役に立ったり立たなかったり、面白おかしいトークを小気味よく放つゴリラさんは、アバターに反して実に社交的な人柄のようだった。

 話の内容ひとつひとつがめちゃくちゃおもしろいのだけど、総じて思うのはレジェンダリアって変人の巣窟なのかなってこと。

 決闘トップの全裸レスラーさん。クラントップのロリショタ仮面さん。討伐トップの変身魔さん。いずれも王国にはいない変な逸話に塗れた<超級>たちだ。

 それ以外の面子には【妖精女王】のカップのフチを舐め回して監獄送りになった怪人さんや、道行く女性に便意を催させる<エンブリオ>で悪さしまくって監獄送りにされた変態さんとか、実にバラエティ豊かだ。

 ……ごめん、無理あった。やっぱり変態だ! 特に後者が意味不明すぎておぞましすぎる。一体何者なんだ№J-334氏……()

 さすがのゴリラさんもこれを話題にするのは失敗だったなってバツが悪そうだった。

 

 そんなこんなで森を歩くことしばらく。

 そろそろ日も没して暗くなるだろうという頃合で、景色の先に木々以外の光景が見えた。

 

「おお、見えてきたね。あそこが拠点だよ」

「あれは村……ですか?」

「うむ。数あるエルフの<隠れ里>の一つだ。その一角を間借りさせてもらっているんだ」

 

 ゴリラさんの指し示す先には、森を切り拓いて設けられた、極々小規模な集落があった。

 そこで暮らす人々は、王国でよく見る人間のそれとは違い、線が細く背が高く、耳の尖った見目麗しい亜人種――俗に言うエルフだ。

 魔法の森の中にひっそりと営まれるエルフの集落。如何にもファンタジックな光景に堪らず私のテンションも上がってくる。

 

「おおぉぉ……!!」

「お気に召したようだね。王国ではあまり亜人は見ないのかな? 他国から訪れる者は皆そうやって驚くよ」

「すごい……さすがレジェンダリア、メルヘンとファンタジーの魔法の国だぁ……!」

 

 思わず感嘆の念と共にそう呟くと、ゴリラさんは微笑ましげに目を細めた。

 魔法の国の迷いの森にあるエルフの集落とゴリラ。最早私のファンタジー感は森とエルフとゴリラに支配されたと言っても過言ではない。

 最早この一日で一生分のゴリラとファンタジーに触れたのではないかと思うほど、私の脳裏はゴリラとエルフに染められていた。縮めてゴリフ一色だ。

 

「っ! ゴリさまだー!」

「おお、ファンタズマゴリラ様! お戻りになられましたか!」

「これはこれは【森王】様、おかえりなさいませ」

「おかえりなさいゴリさま!」

「「「ゴリさま~~!!」」」

 

 ゴリラさんが彼らの目に留まるなり、あちこちから駆け寄るエルフ達の姿がある。

 小さな子供からお年寄りまで、誰もがゴリラさんの帰還を喜び満面の笑みで出迎えていた。

 特に子供たちは群がるなりゴリラさんの身体によじ登り、人間(?)遊具にしてじゃれついている。

 そんな彼らを拒みもせず片端から抱え上げるゴリラさんは、まさに森の賢王に相応しい貫禄と包容力である。

 ゴリラとエルフは相性がいい、これってトリビアになりませんか?

 

「出迎えありがとう、皆。カッツォは奥かい?」

「ええ、カッツォ様なら奥の小屋にいらっしゃいます。かれこれ半日はこもりきりなのですが……」

「あいつめ、また時間を忘れて没頭しているな。ありがとう、とにかくあいつのことなら心配はいらない。私が訪ねてみよう」

「お願い致します。せめてお食事だけでも召し上がっていただければ……おや、そちらの方は?」

「知らない人とネコ? ネコだー!」

 

 ゴリラさんを出迎えていた村人たちが、私に視線を移して訝しむ。

 そういえばここまでカトリ様に跨りっぱなしだったの己の失礼を悟り、降りて深々と頭を下げた。

 子供たちは物怖じする様子もなく、フリーになったカトリ様に纏わり付いていたが。割りと怖いもの知らずだねチミたち。

 

「ああ、彼女は森で出会った<マスター>だ。我々の手助けをしてくれるというのでね、勝手ながら連れて帰ってきた。すまないね、彼女の寝床を用意してもらっていいかな?」

「マグロと申します。こちらは私の<エンブリオ>のテスカトリポカです」

「おお、ファンタズマゴリラ様のお知り合いでしたか! であれば歓迎しましょう、しばしお時間をいただければ寝床もご用意させていただきます」

「ありがとう、助かるよ」

「ありがとうございます、お世話になります!」

「いえいえいえ、他ならぬファンタズマゴリラ様のお連れ様ですから!」

 

 ゴリラさんの名前は思った以上に大きいらしい。

 一般的に気難しく排他的なイメージが強いエルフにこうも受け入れられてるって、一体何をしたらこうなるんだ……。

 私の中でゴリラさんのイメージは膨れ上がって留まるところを知らない。

 

「それでは戻って早々で悪いが、カッツォの様子を見てくるとしよう。彼女との顔合わせもしなければいけないのでね」

「はっ、どうぞごゆるりと……もう半刻もすれば御夕食が出来上がりますので」

「ありがとう」

 

 そう世話役っぽいエルフに言って子供たちを降ろすと、彼は私を手招いて奥へ進んだ。

 

「すごい人気振りですね」

「ははは、どうもね……【森王】の称号は彼らにとって特別な意味を持つようだ。この肩書を継いでからというもの、良くしてくれるのはありがたいのだが、時折期待を重くも感じるよ」

 

 そう首を掻いて照れるゴリラさんは、言葉とは裏腹にとても嬉しげで誇らしいようだった。

 彼の様子を見て思うのは、彼ほどにこの世界に根付いて生きる<マスター>は、きっと幸福なのだろうという一方的な想いだ。

 森で助けられたときからそうだったが、ゴリラさんはこれまで出会った<マスター>の中で群を抜いて私の憧れになりつつある。

 つまるところゴリラさんはイケメンなのだ。姿形ではない、その魂がイケメンなのである。

 

「ここが我々がお借りしている小屋だ。少し待っていてくれたまえ」

「あ、はい」

 

 そして村の奥にある小屋の前に辿り着くと、彼は玄関の戸を潜って奥へと入った。

 周囲を様々な植物で取り囲まれた、一見してファンシーなお住いである。

 といってもガーデニング目的ではなく、薬効かなにかを求めてか奇抜な匂いを撒き散らす植物たちは、お世辞にも良い香りとは言えないものだったが。

 これをどうするんだろうと不思議に思って眺めながら待っていると、しばらくして扉が開き、のっそりと顔を覗かせる人影があった。

 

「おう、お嬢ちゃんがゴリの連れかい。せめぇとこだがまぁ上がんな、茶くらい淹れらぁ」

『ぱぶっふぉ!?』

 

 出てきた彼は、へんてこりんな鼻眼鏡を着けた豚人種(オーク)だった。

 カトリ様、今日は異様に笑いの沸点が低くないですかね?

 

 




今回だけで半年分くらいゴリラゴリラ言った気がします。

 ◇ちょっとした人物紹介
・№J-334
 ナンバージョークみみし、と読む。レジェンダリア変態勢の一人。
 【下劣視姦 カンバリニュウドウ】という名の<エンブリオ>を有し、対象に強烈な【便意】の状態異常を齎す固有能力を用いて、道行く女性の慌てふためく様を鑑賞することを何よりの愉しみとした漢。
 無駄に実力が高く長年に渡り生き延びていたが、「状態異常を反射する」固有能力を持つ<エンブリオ>の<マスター>に返り討ちに遭い、衆人環視のもと盛大に脱糞した挙句袋叩きに遭いあえなくお縄となった。
 数多の変態が集うレジェンダリアにおいても極めつけの変態として伝説となり、今なお最大級の嫌悪を以て語られる「世界の半分を敵に回した漢」。
 見た目はなんか野球してそうな亜人っぽいなにか。当然のことながら懲役は長く出所の見込みは無い。
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