我は彼の奴隷なり   作:ふーじん

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主人公以外のオリキャラの設定やエンブリオを考えるのは何気に初の試みですが。
思いの外アイデアが浮かんできて執筆が捗ります。

・修正
内容:テスカトリポカのコーヒー描写について
理由:メイデンとしての食癖(生しか食べない)を失念していたため。


不穏の訪れ

 □【獣神】マグロ

 

 鼻眼鏡のオークさんに招かれて踏み入った小屋は意外や意外、とても整理整頓の行き届いた綺麗清潔なお部屋だった。

 室内をほんのり漂うこの香りはなんだろう? なんだかとっても安心する匂いで、意識して嗅いでしまうのではなく、自然な呼吸と共に一息ついてしまうような、そんな香りだ。

 随所に飾られたインテリアも品があって素敵だし、総評してとってもおしゃれなお住まいだった。

 ただサイズだけが使用者に併せて大きめなのが、ちょっとだけ新鮮だけど。

 

「まぁ座りな。話は一息ついてからでもいいだろ。おうゴリ、アレはどこに仕舞ってたっけか」

「そこの戸棚じゃなかったか? せっかくだ、アレも空けてしまおう」

「んだな、プライベートの客なんていつ振りだかなぁ、ガハハ!」

「あの、お構いなく……」

 

 身長にして三メートル近いゴリラとオークがファンシーおしゃれなお部屋をあちこち動き回るのは、一周してコミカルというかユニークというか。

 厳ついアバターに反してとても心遣いの行き届いた彼らは、ひょっとしなくてもすごく良い人(?)なのかもしれない。

 

 あれよあれよと言う間にテーブルの上へ並べられていく焼き菓子たちに、早くも私のお腹は空腹を訴える。

 つい数時間前の【飢餓】を未だ忘れられていなかったのか、盛大に鳴き声を上げたお腹に顔を真っ赤にしてると、オークさんが振り向いてにやりと笑った。

 

「四日も森を迷ってたんだろ? 遠慮せず食っちまいな、腹が減ってちゃ話もできねぇだろ」

「ところで君は紅茶派かね? コーヒー派かね? どちらも良い茶葉と豆があるのだよ」

「余は遠慮しておこう。(レア)しか食さぬ性ゆえな」

「えと、それじゃあ私は紅茶で……」

「ああ、そう言えば人に近いガードナーはそういった傾向があるのだったね。ならコーヒーはカッツォの分だけでいいか、私はどちらかと言えば紅茶派なのだよ」

 

 そして淹れられたコーヒーに紅茶は、格段と香りの良い一杯だった。

 実のところ派閥を分けられるほどに両者を飲んだ経験のない私には、どちらがどう美味しいのかはまるでわからないのだけど、それでも匂いだけで間違いなく美味しいことを確信させる香り高さは、素材の良さ以上に淹れる者の腕が良いのだと有無を言わさず納得させた。

 

「……おいしい」

 

 一口飲んでその味わい深さに圧倒される。

 なんだろう、すごいとしか言いようがない。筆舌に尽くし難いとはまさにこのことだ。

 一口飲んだあとは自然と手が焼き菓子へと伸び、それを同じく一口齧った直後にまた紅茶を啜ると、焼き菓子の食感や甘さと相まってより一層の旨味が口中に広がった。

 この感動は過去に類を見ない衝撃だけど、果たして彼らは一体何者なのだろうか。ゴリラさんはともかく、オークさんは果てしなく謎である。

 

「よいしょっと……さぁてオレも小腹が空いたな、まずはこいつらを片付けちまおうぜ。話はそれからでも遅かねぇだろ」

「レディ二人を招いてのお茶会は心躍るね。男二人だとその辺りどうしてもなぁ」

「絵面もシュールだしな! ガハハハッ」

 

 同じテーブルを囲んでゴリラとオークと私とカトリ様、四人で素敵なティーパーティー。ちなみにカトリ様はちゃんとメイデンモードだ。

 なんだこの空間って傍目から見ればシュールだろうけど、実際にこの場にいればそんな疑念は跡形もなく吹き飛んでしまうことだろう。

 サクサクと焼き菓子を頬張る音だけが響き、しばしの物静かな平穏が訪れる。といってもレアを好む食癖のカトリ様は手を付けてなかったけど。

 見かねたゴリラさんが例のバナナを提供してくれたけど、バナナを頬張るカトリ様ってなんか妙にシュールに見える。

 それはそれとしてオークさんの鼻眼鏡だけが異様に目立っているのが気になった。そのせいでカトリ様は今も彼を直視できずにいたり。

 

「さぁてと片付いたな。とりあえずはよく来たな嬢ちゃんたち。ゴリが言うにはオレ達を手伝ってくれるんだって?」

「あ、はい。ゴリラさんには大変お世話になりましたから……彼の手助けになれれば、と」

「よくできた嬢ちゃんじゃねぇの、ありがたいねぇ。実んところ正面切って戦うにぁちょいと不得手なもんでね、単純に戦力が増えるのは助かるぜ」

「それについてなんですが、具体的には何をしてらっしゃるのでしょう……?」

 

 そう尋ねると彼はふむとしばし考え込み、懐から何かを取り出した。

 これは……小瓶? 中に少量の液体が入った、手のひらよりも随分と小さいサイズの小瓶だ。

 デザイン良くカットされたガラス製が、如何にも高級志向っぽく品良く目立つ。

 

「嬢ちゃんならこれ、ホワイトの三番だな。間違いなくこれが一番似合う」

「香水……ですか? あれ、これどこかで見たような……」

「ギデオンの高級街で見た覚えがあるな」

「…………あっ! これって超高級ブランドのアレだ! 前見たときすっごい人並んでたやつ!」

 

 以前ギデオンでショッピングをしていた際に、とある高級店で長蛇の列を築いていたのが確か<カッツォブランド>だ!

 レジェンダリアに本拠地を置く名ブランド中の名ブランドで、西方三国の紳士淑女に絶大な人気を誇るドン・カッツォの<カッツォ・ナンバーズ>!!

 ……あれ? 確かさっきゴリラさんが彼のことをカッツォって……まさか!

 

「もしかして、【調香王(キング・オブ・パフューム)】カッツォさんですか!?」

「ガッハッハ、驚いたか? そうさオレが"レジェンダリア一モテる豚"、"調香界の貴公子"ドン・カッツォ様だ!!」

 

 思わぬビッグネームの登場に思わず手が震えだす。

 【調香王】ドン・カッツォと言えば界隈で知らぬ者はいない、数年前から調香界で名を轟かせ右に出るものはいない絶対支配者!

 一嗅ぎすればたちまち万人を魅了するその香水は、かの【妖精女王】も殊更に愛用するというビッグブランドだ。

 それがまさか……まさか、まさかこの人だったなんて! おしゃれには無頓着な私でも名前だけは知っている、間違いなく<Infinite Dendrogram>でもトップクラスの有名人だ!

 

「うわぁ、うわぁ! お会い出来て光栄です! カッツォさんの香水は持ってなくて、知ってるのは名前だけですけど……ソンケーしてます!」

「おうおう、そう言ってもらえると嬉しいねぇ。それはお近づきの印に取っときな、気に入ったらまた注文してくれ。オーダーメイドも受け付けてるからよ」

「いいんですか!? やったー! ありがとうございます!」

 

 こんな超有名人から手渡しでオリジナルブランドの香水を貰えるなんて!

 森を四日も彷徨ったときは最悪だと思ってたけど、なぁんだレジェンダリアって最高じゃん!

 

「……自分で貴公子と名乗るのはどうなんだ?」

「いいんだよ、周りがそう言ってんだから。実際モテるのも貴公子も間違いじゃあねぇしな!」

「それはリアルでの話だろう、まったく……マグロくん、こうは言ってるがそう畏まるような相手でもない。気を楽にしてくれたまえ」

「えっ? ……あっ、はい……すみません」

 

 思わぬ有名人との直接交流に舞い上がっていたけど、ゴリラさんに諭されて急に冷静になる。

 いくら相手が相手とはいえ、これからお仕事の話をしようというときに浮かれきってはしゃいでしまったのは素直に恥ずかしい……自分のこういうミーハーなとこがたまにイヤになるなぁ。

 幸い二人とも気を悪くはされていないようだけど、カトリ様のジト目が全身を突き刺した……うぅ。

 

「とまぁ派手な自己紹介になっちまったがオレはこういうもんだ。仕事ってのもオレの本業に関わることでな」

「そういえば道すがらゴリラさんも仰ってましたね。この辺の植物が材料になるとか」

「実際に売り物になるかはその後の調整次第だがな。時折インスピレーションを求めて無作為に採取することがあるんだよ。つってもオレ一人じゃ碌に戦えねぇから、そんときはいつもゴリの野郎を頼ってんだけどな」

「毎度どこぞの奥深くまで走らされて扱き使われているよ」

「ガハハハハ! その分報酬は惜しまねぇから許せや!」

 

 成程、そういうことだったか。

 小屋の周囲にある独特な匂いの植物たちも、そうして採取してきたサンプルの一部なのだろう。

 聞き齧った知識では、香水の原料ってお世辞にも綺麗じゃないモノからも作り出されることがあるらしいし。

 原材料がいかにゲテモノじみていても、それを美しく整え香り高い一品に仕上げるのが、まさに【調香王】を頂点とする調香師系統の腕の見せどころというわけだ。

 

「そうなると私達の役目はお二人の護衛ということになるんでしょうか?」

「だな。採取つっても素人目にはどれがどれだかわかんねぇだろ? そこはオレの役目で、ゴリは経路の確保と周辺警戒、嬢ちゃんらはいざというときの実行班ってわけだ」

「そういうことなら任せておけ。単純に戦い合うなら余の右に出るものはいない。そなたらの命は保証しようとも」

「おう、助かるぜ。超級戦闘職の実力ってやつを見せてもらおうじゃねぇの。働きが良けりゃボーナスも付けるから精々張り切ってくれよ!」

「ボーナス……? えと、私達は恩返しでお手伝いさせてもらいたいだけで、報酬なんて……」

「馬鹿言ってんじゃねぇ! これはオレのビジネスに直結する話だ。ビジネスには報酬は付き物、タダ働きなんて犬も食わねぇようなこと言うんじゃねぇ!!」

 

 そう叱りつけるカッツォさんの表情は至極真剣なものだった。

 こちらとしてはそういうつもりはなかったものの、それが彼の主義に反してしまったことを察して平謝りする。

 

「……っと、怒鳴っちまって悪かったな。だがなぁ嬢ちゃん、そうほいほいと安請け合いするもんじゃねぇぜ? 世間様での立場は違えど、こいつぁ対等なビジネスの話だ。それに【獣神】なんて超級をタダで扱き使っちまえば、オレの名が廃るってもんよ。自分の価値ってやつをまずは自覚しな、でねぇと真っ当な付き合いはできねぇぜ?」

「はひ、気をつけます……」

「おうおう、分かりゃあいいさ。……ほらよう、そうしょげんなよ、オレも悪かったって。ほら食え食え」

 

 一転して優しげになったカッツォさんに勧められるままにお菓子を頬張る。

 目上の人に心から叱られた経験がほとんど無いせいでびっくりしたけど、彼の言うことは至極尤もだ。

 彼はまがりなりにも仕事の一環としてゴリラさんとの活動に臨んでいるのに、そこへタダ働きでいいですよなんて浮ついたことを言うものがいれば、そりゃあ勘気に障るというものだろう。

 ならばここは彼らの警護を任された者として、誠心誠意彼らの脅威を退けることに集中すべきだ。

 ……そう覚悟はするけれど、それはそれとしてお菓子とお茶が美味しい。

 

「……さて、そうと決まれば詳細を詰めていこうか。拘束期間に最低報酬、ボーナス基準にその他諸々、定めるべきところはまだあるからね」

「おう、んじゃあ【契約書】も用意すっか。ギルドを通してねぇからな、念のためだ」

「そういうものなんですか?」

「契約内容を形に残すってのは大事だぜ? 余計なトラブルを背負い込まずに済む。口約束したあとに言った言わないなんざ、オレぁ勘弁だからな」

「要は仕事に対する姿勢の話さ。君も覚えておくといい、【契約書】の取り決めがあれば物事はスムーズにいくからね」

「なるほど……覚えておきます!」

 

 そうして彼らとの仕事が始まった。

 

 ◇◇◇

 

 拘束期間は七日。寝起きは彼らとは別の小屋を借りて、日の昇る間は彼らの探索に付き合う形で依頼は開始された。

 ゴリラさんの先導で道なき道を往き、人跡未踏の<迷いの森>深部を潜行する恐怖が無かったと言えば嘘になる。

 が、しかし。その懸念を補ってなお余りある二人の能力が、実に環境に適応して凄まじい効力を発揮していた。

 

「お、こりゃいいな。おいゴリ、十分……いや五分隠蔽頼む」

「了解」

 

 鼻眼鏡をかけたカッツォさんが何事かを捉えると、ゴリラさんが消臭、消音、光学迷彩効果を併せ持つ結界を展開し、迸る魔力が周辺の木々に作用して潜伏する。

 これにより半径五〇〇メートル以内はたとえ小動物一匹たりとて捕捉から逃れられないゴリラさんの領域と化し、いざとなれば外敵を迎え撃つ食獣植物の縄張りともなった。

 一度探知に優れるイノシシ型モンスターが私達の存在を察して突撃してきたが、領域に一歩踏み入るなり四方八方から刃と化した木の葉、槍と化した根に切り裂かれ貫かれ、十秒経つ間もなく光の粒子と化して散った。

 そのモンスターはレベルにして五〇以上のボスモンスターらしいのだけど、これでゴリラさんにとっては本気の十分の一ですらないらしい。

 ゴリラさんは謙遜していたが、こと森の中において彼の戦闘力は準<超級>の中でもトップクラスなのは間違いなかった。

 

「私まだ仕事できてないんですけど大丈夫かな……」

「おっほ、こりゃ良質だ! 抽出すれば……ブラックか? レッドかな? いいねぇ、意欲が高まるぜ」

『【調香王】の、一歩下がれ』

「っとあぶねぇ、助かったぜ」

 

 あまりにもゴリラさんが凄まじすぎるせいで出番がなく、ほんのり不安になってたらカッツォさんの足元をうろつく魔蟲種がカトリ様に踏み潰された。

 これは王国でも見たことあるな、強力な毒を持つタイプだ。見た目数センチの小さなナリして実力は亜竜級上位の、地味に初見殺しなモンスターだね。

 素材の探索に夢中になってるカッツォさんだけど、確かにこれは護衛がいるわけだ。

 

「おし採れた。もういいぜゴリ、次行こう」

「このモンスターのドロップはどうします?」

「毒腺か……使えないこともねぇな、採っておこう。意外な原料と反応しておもしれぇ結果になることもあんだ、こういうのはな」

 

 そう言って【アイテムボックス】に放り込むカッツォさん。

 探索中に入手したアイテムは全て一度カッツォさんに見てもらい、彼の要求を最優先に回される。

 今のところ見るからに向いてそうな花々や、それとは逆にとてもではないが香水にならなさそうな鉱物なんかも、全てカッツォさんの懐に収まっている。

 下級のうちはある程度常識的な素材でしか《調香》できないらしいけど、その頂点でもある【調香王】のカッツォさんの手に掛かれば、極論モンスターの汚物からでも素晴らしい逸品が出来上がるのだとか。

 詳しい部分は企業秘密だとかで教えてもらえなかったが、世に出回って人気を博する香水の中には、とてもではないが人様に教えられない原材料のものも存在するという。

 ……裏方を探るのはよくないね、うん。まぁでも健康上の問題は無いのは確からしいから、いいのだけど。

 

「ん、モンスターの糞が落ちてやがるな。……この種には含まれない匂いだ、固有種か? 餌は何食ってやがる……」

 

 道端に落ちていた糞に注意を向けると、カッツォさんはそれに鼻を近づけてなにかを嗅ぎ分けているようだった。

 その光景に当初こそ面食らったものの、彼曰く生物の排泄物を始めとする残留物には、余人が思ってる以上の情報が残されており、そこから新たな発見やひらめきが多々得られるのだという。

 そう語る彼の根拠のほどは、私達には察知もできない痕跡からの追跡、その先に待ち受ける残留物の主が何よりも明白に証明している。

 それらはすべて、彼の<エンブリオ>に理由があった。

 

 名を【眈々嗅々 ミルメカグハナ】というそれは、TYPE:カリキュレーターなるアームズ系列カテゴリに属する<エンブリオ>で、初対面時に着けていた鼻眼鏡がそうだったらしい。

 固有能力としては「視覚・嗅覚の大幅な強化」で、彼にしか見えない視覚・嗅覚情報が彼の【調香王】としての活動に大きく役立っているのだとか。

 現に彼が反応を示した場所では、必ず何かしらの成果物を得られている。それは素人目には用途もわからないガラクタにしか映らないが、カッツォさんにとってはまさしくお宝なのだろう。

 手に入れるたび一喜一憂するその様は、とても世を席巻する【調香王】とは思えないほど、純粋でなんだか子供っぽい印象だった。

 

「悪口みたいに聞こえるかもですけど、トリュフを探す豚みたいですよね」

「言い得て妙だな。事実豚の嗅覚はある一面において犬を上回るという……特に好物を探し当てることに関しては他の追随を許さないと聞くが、あいつにとってみれば森はまさに宝の山だからな。あながち間違ってはいない」

「おうおう、豚を馬鹿にするんじゃねぇよ! 豚ってのはなぁ、人間が思ってる以上に綺麗好きで力強くて、繊細で可愛らしい生き物なんだよ。体脂肪率だって人間に比べりゃずっとスマートなんだぜ? 臭くてすっとろくて肥満体ってなぁ偏見さ」

「アバターがオークなのは?」

「単純な話さ、オレは豚が好きだからな。尊敬してると言ってもいい! だからこうして肖ってるのさ」

 

 そう豪語するカッツォさんは、この上ない自信に満ち満ちていた。

 ……機会があれば豚についてもっと詳しく調べてみよう。これはちょっとした啓蒙だ。

 だからといってオークを豚の延長線上に置くのはどうかとも思うが。だけどそう指摘するのは野暮というものだろう。

 私は相槌を打ちながら、その後も彼の探索に付き従った。

 

 なるべく交戦を避けるように森を歩いているだけあって、モンスターとの遭遇は少ない。

 ゴリラさんの隠蔽魔法や退散魔法もあって、中型以上の通常モンスターは自らこちらを避けていくように散っていくが、それでも脅威はゼロにはならない。

 それはゴリラさんの結界を無理矢理突破できる大型モンスターや、あるいはカッツォさんが採取に踏み込んだその場所に根付く小さな有毒モンスターだったりして、回数こそ少ないものの決して気を抜けない時間が続いていた。

 

「マグロ君、一匹そちらへ抜けた。迎撃を頼む」

「わかりました。……カトリ様!」

 

 今もまた一匹、ゴリラさんを抜けて後衛へ迫らんとするモンスターが躍り出る。

 一頭の強力な魔物に統率された中規模程度の魔物の群れは、単純な物量によってゴリラさんの迎撃結界を突破しようとし、しかしその大多数を削られながらも頭目を送り出すことに成功する。

 だけど悲しいかな、単に強いだけのモンスターが一匹だけじゃあ、うちのカトリ様には敵いっこない。必要以上に森を荒らすことを望まないゴリラさんの意を汲んで最低限の強化スキルを行使するに留めたカトリ様だけど、それだけでボスを一蹴するには十分に過ぎる。

 カトリ様の一見して可愛らしい猫パンチによってボスは吹き飛び、そのまま敢え無く光の塵となった。

 

「凄まじいダメージだな……<上級エンブリオ>は数あれど、第六形態でここまでのパワーを持つガードナーは珍しい」

「あはは、カトリ様だけが私の取り柄ですから……こうでなくちゃ困るというものです」

 

 雑魚の殲滅を終えたゴリラさんの言葉にそう返す。

 私が弱い分カトリ様が強いのが私達だ。<エンブリオ>としての特性でそうである以上、私のカトリ様は同格以下の誰よりも強くてはならない。

 そうは言っても<超級>にはさすがに負けるんだけどね。スターリングさんのバルドルさんなんてあんなだし、昔はそうでもなかったけど第六形態になってからはより一層の格差を感じちゃうなぁ。

 

「オレからすりゃあどっちもどっちだがな。前線でガチンコかます連中はどいつもこいつも人間離れしすぎてわっかんねぇよ、こちとら知的なインテリだからな!」

「私からすればカッツォさんみたいな生産職には憧れありますけどね~」

「隣の芝生は青い、というやつだね。さてカッツォ、そろそろ日が暮れるがどうするかね?」

「今日のところはこれでいいだろ、まだ数日残ってるしな。今日はもう帰って休もうぜ」

「了解。ならば私のあとについてきてくれ。くれぐれもはぐれないようにな」

「あはは……もう遭難は懲り懲りですよ」

 

 一転して帰路につき、村を目指して道なき道を往く。

 ゴリラさんの先導は<迷いの森>にあって迷うことなく、果たしてどのように森が見えているのか、足取りは淀むことなく歩を進めていく。

 その上で後続の私達が通りやすいように魔法で道を整備してくれるのだから、森の中での彼の安心感に脱帽しきりだった。

 ちなみに通ったあとの道は元通りの地形に戻っている。これもまた【森王】ならではということなのだろう。

 そう思っている間にも件の村に到着していた。

 

「皆、今戻った」

「ただいま戻りましたー」

「あん? いやに辛気くせえじゃねぇの。どしたい、一体?」

「これは皆様……申し訳ありません、お出迎えもできず……」

 

 しかしいつもなら盛大に出迎えてくれる村人達はおらず、村中は奇妙な悲壮感に満ちていた。

 元気いっぱいの子供たちもどこか怯えた様子で、縋るようにゴリラさんやカトリ様にしがみついてくる。

 果たして何があったのか、訝しんだゴリラさんが村長さんに問うと、彼はしばし逡巡した後、意を決したように重く口を開いて言った。

 

 

「恥を忍んでお頼みします! どうか……【ユニケロス】を討伐していただけませんか!?」

 

 

 ――それはある意味で最も恐ろしい"強敵"との戦いの幕開けだった。




次回、<UBM>戦……かも?
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