ですので変わらず不定期投稿です。
□【獣神】マグロ
カイトさんに連れられた先は、表通りに立ち並ぶ宿場を更に奥へ進んだ先。
種々様々な高級店が軒を連ねる中央区の、一際目立つ最高級ホテルだった。
周囲には着飾った紳士淑女達が無数行き交い、物々しく武装した兵士が厳しい目つきで警戒を密にしている。
明らかに外縁のそれとは違う別世界の空気に萎縮しながら、場違いではないだろうかと周囲の視線を窺うようにして前を歩く二人の後を追った。
「お待ちしておりました。此度は当ホテルをご利用いただき、誠にありがとうございます」
ホテルに入るなり、品のいい老スタッフが恭しく頭を垂れた。
所作一つとっても洗練極まったそれは、おそらく専門のジョブに就いているのだろう。
昼間に立ち寄ったカフェの店員とは遥かに隔絶した空気に、紛れもなく此処が本物であることを悟る。
「予定より遅れて済まない。急ではあるが晩餐の用意を頼む。……それと悪いが、部屋を一つ見繕ってくれ、こいつの客人でな」
「畏まりました。皆様はどうぞリストランテへ、すぐにディナーをご用意致します」
ところが対するカイトさんの態度も堂々としたもので、自分の執事にそうするように指示を出すと、スタッフさんは私という場違いな来客への不審をおくびにも出さず、粛々と下がって動き出す。
……いやこれ、本当に私がいて大丈夫なのかな!? いくらなんでもここまで格式高いところだとは思ってなかったんだけど!?
「気にするな、……と言ったところで難しいだろうがな。連中とてプロフェッショナルだ、俺達の客と言っておけば無碍にされることはない」
「わ、私こんな格好で大丈夫なんでしょうか……!?」
隅から隅まで贅を凝らした豪華絢爛。
そんな極上空間に砂埃の舞う日除け姿は明らかに悪目立ちしていた。
表立って非難する声は無いけれど、この空間と比べればあまりにみすぼらしい私の姿にあちこちで眉を潜められているような気がしてならない。
こういう場所ではドレスコードが大事って、いくら無知な私でも知ってるんだよ!?
「そういえばわたしも汚れちゃってたわね。先にお着替えだけしちゃいましょうか」
「ま、こいつがこんな調子なもんでな。事前に言っているからスタッフも手慣れたもんだ。せっかくだしアンタも着飾っていきな」
「はやくもお礼の釣り合いが取れてない気がするんですけどぉ……!」
いくらなんでもお礼のスケールがデカすぎる!
私はもっと単純に、ふつーの宿を紹介してもらえるつもりでいたのに、このグレードは完全に予想外だ。
あまりにも場違いすぎて、居た堪れなさや心細さのあまりに泣きそうにすらなってくる。
「まぁまぁまぁ。それじゃあマグロちゃん、こっちで一緒にお着替えしましょ♪ いろんなドレスがあるから迷っちゃうわねぇ……あ、そこのメイドさん。悪いけれどお手伝いしてもらっていいかしら?」
「かしこまりました。お連れ様もどうぞこちらへ」
そんな私の心境を知ってか知らずか、相変わらずの様子でクジラさんが私の手を引き、手近なメイドさんも呼び止めて化粧室へ連行されていった。
◇
「あら可愛い♪ マグロちゃんはやっぱり暗色系が似合うわね、背丈があるからすっごく似合うわぁ」
「いっそころして……」
数十分後、そこにはあれよあれよとおめかしされた私の姿があった。
大きな姿見に映し出されたのは、首元から足元までを深い紺色のドレスで着飾ったデカ女が。
普段は実用一辺倒な旅装で隠されていたものが、分不相応に上等なドレスのせいで却って悪目立ちしているようにしか見えない。
普段はほとんど気にしていない体格も、とことんまで女性らしい装いにされては不格好さが目立ち、率直に言って恥ずかしさのあまり死んでしまいそうだった。
「ほらほら俯かないで、しゃんとしてみせてちょうだい。……うふふ、マグロちゃんったらすごくスタイルがいいんだから、普段からもっとお洒落しないと勿体無いわ? そうだ、せっかくだからそのドレスもあげちゃいましょ! またどこかで必要になったら着てちょうだいね?」
「その機会が無いことを祈ってます……割と本気で」
クジラさんが似合ってるだの可愛いだの言ってくれてるけど、こういうときの他者の評価ほど当てにならないと私の中では相場が決まっているのだ。
ていうか私、何気にスターリングさんより背が高いんだよ? リアルで一度彼と会ったことあるけれど、男性としてほぼ理想形の細マッチョなスターリングさんより身長あるんだよ!?
そんななのにドレスが似合うわけないじゃん! こんなの公開処刑だよ!!
「ふむ、馬子にも衣装といったところかな?」
「カトリ様までお世辞はやめてください……着替えが無いから我慢しますけど、ほんとに恥ずかしいんですから……!」
正直デンドロライフ始まって最大の羞恥かもしれない。
これがメイデンモードのカトリ様なら、本人の堂々とした雰囲気も相俟って本当に似合うんだろうけど。
生憎今回は普通のガードナーとしての相席なので今も白蛇モードのままだ。
一応店側にはクジラさんから説明がされていて、彼女の紹介を受けた<マスター>だからということで特別に許可を貰っているのだ。
「クジラさんは堂々としてますよね……慣れてるんですか? そういう格好」
「わたし? そうねぇ、お仕事のときはいつもこういう格好だから、もう慣れちゃったわねぇ」
一方でクジラさんの方はといえば、私と違って服に着られるということもなく、堂の入った着こなしだった。
所謂マーメイドラインというやつだろうか。惜しげもなく晒された肩から流れるようなカーブで艷やかな生地が輝き、身体のラインを品良く彩った上で裾のフリルがヒレのように波打っていた。
まさに社交界の貴婦人というべき出で立ちで、周囲を圧倒する華やかさと存在感を演出している。
私の付け焼き刃とはまったく違う、着飾ることへの歴戦を思わせる、プロのような佇まいだった。
しかしこんな格好が仕事着だという彼女は、一体何者なのだろうか?
周囲の視線からも彼女が只者でないことは既に察してはいるのだけど、彼女の口からそれが明らかにされる様子はない。
これがティアンならば上流階級の人間か、あるいは王族関係者かとも考えられるのだけど、彼女が<マスター>であることは昼間に確認できている。
正直なところ、根無し草がほとんどな<マスター>にあってこうした状況が似合うということに、まったく正体を掴めないでいた。
「さ、いきましょ。これ以上待たせちゃったらまた怒られちゃうわ。カイトくんったら短気なんだから」
「……むしろものすご~~~~く、気が長い方だと思うんですが」
「?」
クジラさんへの付き合いが良いという一点で。
その一言は、胸に秘めておく。
「ともあれ楽しみだな。如何なる馳走が饗されるのか楽しみでならん」
「…………」
黒いドレスに巻き付いた白蛇って、まるで悪役令嬢みたいだなと思ったのは内緒だ。
◇
リストランテで饗されたディナーは、これまた贅を凝らした極め付きのものだった。
素材からして最上級のものばかりであることは間違いなく、それが一流の料理人の手によって吟味され、味を変え、姿を変え、見目も鮮やかに皿へ添えられテーブルに並べられる。
拙いテーブルマナーをクジラさんの手助けも得ながら、切り取った料理を舌に乗せればたちまち至福が溢れ出る。
どれ一つとっても極上の美味世界。およそこれ程の味は、かつてスターリングさんに連れられていった王都の<天上三ツ星亭>くらいのものだ。
あの店が【天上料理人】たるダルシャンさんの腕前に反して大衆料理屋的な気風であるのを踏まえれば、わかりやすい高級ディナーとしてはこちらが勝るかもしれない。
どちらも素晴らしい味覚を誇る以上、区別を付けるのは場の雰囲気以外になく、今この時に限っては此処こそが王者だ。
「お、おいひい……はぐ。こんなにご馳走してもらっちゃっていいんでしょうか……むぐ」
「そう喜んでもらえるとお招きした甲斐があるわぁ。まだまだあるからどんどん食べてね」
ただのちょっとした人助けのつもりが、こんな豪華なお礼をいただくまでになるだなんて。
これを所謂『海老で鯛を釣る』っていうのだろうか。昔の人はいいことを言ったもんだ。
とはいえがっつくのもみっともないので、テーブルマナーのレッスンにも注力する。
クジラさんはこれまた意外にも……というと失礼かもだけど、テーブルマナーも素晴らしく洗練していて、覚えの悪い私でもなんとか不自由なく食事できるほどには教え方も上手だった。
ちなみにカトリ様は白蛇姿なのでそういう苦労は無い。今も各国の高級フルーツを丸呑みして悦に浸っているところである。
更に言うとカイトさんも子供の見た目らしからぬ堂々とした食事姿で、クジラさんと並べるといかにも上流階級の御婦人と御曹司といった感じだ。
素晴らしいのは何も料理だけではない。
このディナーを演出する環境すらも極上そのものと言っていいだろう。
部屋にはゆったりとした弦楽器の音色が響き、食事を厳かかつ上品に引き立てる。
学のない私には弦楽器なんてギターとヴァイオリンの区別くらいしかつかないけれど、そんな私でも間違いなく名器とわかる調べが、料理が舌を愉しませるのと同時に耳をも愉しませていた。
そんな何もかもが極上尽くしのこの空間だけど、一つだけ気になる点があった。
それは弦楽器を演奏する楽団の傍に置かれた、弾く者のいない手付かずのピアノ。
さらにその横には一段高い舞台が設けられてあって、その空白が奇妙な未完成を強調していてどうにも気になった。
「……あそこが気になる?」
「ふぇ!? あ、いや……その」
そんな私の視線に気付いたのか、ふいにクジラさんが話しかけてきた。
さすがに不躾だったかなと思い、取り繕うようにして答える。
「あそこで誰も歌わないのかなって……あ、もしかして特別なときにしか歌わないとか?」
今この状況以上に特別なときって、それこそどんなのだよとは思うけど。
所謂ディナーショーというものに使うのかもしれない。こう、大人な雰囲気の。
少なくとも私には縁遠い話だろう。そうでなくともこの食事と演奏だけで充分すぎる。
そう思って、愚にもつかないことを言ったと恥じたのだけど。
彼女は何故か笑みを深くして、徐に席を立つとその舞台へと向かい、次いでカイトさんもピアノの方へ移った。
「今日は本当にお世話になったから、特別ね? 貴女のためのディナーショー、ぜひ堪能していってくださいな」
「タダ働きなど本来なら御免なのだがな。ウチのが世話になった礼だ」
そうクジラさんが告げると同時、弦楽器の演奏の手は止まり。
ピアノの前で腕を広げたカイトさんの、高音の一打からその
「――――♪ ――――――――♪」
――まるでこの場が天国に一変したかのようだった。
クジラさんが唇から歌声を紡いだ瞬間から、この空間の全ては彼女の音色に支配される。
リアルでは聞き覚えのない、言語すらも定かではない歌声。
きっと<
ぽかんと口を開いていたことにすらにわかには気づけない。
きっと心底呆けた顔をしていたに違いない。思わず我を忘れるほどの名独唱。
ふと視線を動かせば、さっきまで調度品の一部のように演奏に徹していた楽団の人達すらも、蕩けたようにその歌声へ聞き入っていた。
『…………――――♪ ――――、――――♪』
擽るように高いクジラさんの歌声に、厳かな低音が重なる。
鍵盤を弾き鳴らすカイトさんが発した重低音。バスの声域が完全なハーモニーでクジラさんのソプラノと共演する。
歌声を彩るピアノの音色はそのままに、忙しなく盤面を踊る指とは正反対のゆったりとした重低音が、渾然一体となってこの世のものとは思えない空前絶後の合唱を奏でた。
「……………………」
「……………………」
私もカトリ様も、語る言葉が見つからない。
この感動を言葉にするのがあまりにも無粋で、ただただ聞き入ることがせめてもの敬意とその歌声に没入する。
どれだけの時間が流れただろう。
まるで時が止まってしまったかのような……あるいは止まってしまえと願わんばかりの時間に、やがて終わりが訪れる。
恐るべきは二人の以心伝心か。
楽譜も指揮も無いまったくのアドリブで、カイトさんの不意な変調にもまるで乱れることなく、彼の導きのままにクジラさんの歌は最後まで紡がれた。
最後に入りと同じ高音の一打で締め括ったあとに、しばしの沈黙が横たわる。
そして――――誰からともなく拍手が響き、それは一瞬にして万雷の喝采となった。
「ふわあぁぁぁ……!!」
「……至福よな」
間の抜けた声すら取り繕う余裕もない。
ただ両手を打ち鳴らすことだけを思い出したかのように、全身全霊の拍手を送った。
私以外に喝采しているのは、先に演奏をしていた楽団の人と。
給仕をしていた数名の男女に、たまたま歌声を聞き拾って顔を覗かせた見知らぬ客達。
その中の一人がクジラさんの姿を認め、全身で驚愕を露わに、興奮のままに叫んだ。
「まさかこんなところで【
感極まってクジラさんへ握手を求めようとした彼が他のスタッフに遮られるのをきっかけに、周囲では口々に【歌姫】の名を讃える声が溢れた。
そんな周囲の様子に若干困ったような表情を彼女は浮かべ、カイトさんはというとこれまた露骨に不機嫌そうにしながら、元の席へと戻ってくる。
「……騒がしい聴衆共だ。黙して聞き入っていればいいものを、無粋な口上を並べ立てるから気が滅入る」
「褒めてくれるのはありがたいのだけど、ね? でも今日は邪魔しないでねってお願いしてあるから、マグロちゃんは気にせず食べてね♪」
「いや、さすがに無理があります……」
「あの【歌姫】と席を共にしている彼女は誰だ!?」とか、そういう声があちこちから聞こえるし。
見ず知らずの彼らがそうも騒ぎ立てるほどの有名人だとは思わなかったけれど、先程の歌声を聴けばそれも当然と頷けるものだった。
「それにしても……あんなに素晴らしい歌を聴けるだなんて、思いもよらなかったです。やっぱりお二人とも、そういう界隈の有名人なんですか?」
何気なく聞いたことなのだけど、それを聞き拾った周囲の視線が「信じられない」とばかりに私へ向けられるのはどういうことだ。
ともあれ、そんなことを気にしていてはおちおちお喋りすらできないので、努めて意識から排除する。
「そういう反応は新鮮だな……てっきりそうと知って近づいてきたのかとも思っていたんだが」
「?」
「うふふ、こういう素直な反応のほうが嬉しいわぁ。普段はどうにも、長ったらしくって……ちょっとうんざりしちゃうのよね」
「察するに、そなたらも超越者と推察するが」
二人の言わんとするところが知れず、カトリ様だけが分かった風なのに疑問符を浮かべる。
やがてカイトさんが吹き出すように小さく笑みを浮かべ、微笑むままのクジラさんを投げやりに親指で示して。
「こんなでも【
「こんなって酷いわぁ、もう!」
まさかの超級職だった。
いくらなんでも予想外すぎるわ。
◇
「おおう、ベッドも超ふかふか……! 身体がしずむぅ……!」
まさかの超VIPとのディナーを終えてから、私は案内された部屋でベッドに倒れ込んだ。
クジラさん――デンドロ芸能界を股にかける美貌の【歌姫】その人が彼女だったとは露知らず、図らずも大変なイベントに遭遇してしまったことを今更ながら理解する。
私自身はそうした情報に通じているわけではないのだけど、あの周囲の反応から察するにとてつもない大物であるのは間違いないだろう。
同席する私に突き刺さる羨望や嫉妬の視線が半端なかったし、ディナーを終えた途端に彼女も無数のファンに囲まれていた。
あの様子ではプライベートもへったくれもないだろうが、これも有名税というものだろうか。
単なる武力で名を馳せる多くの有名<マスター>とは違う、業界きっての才媛としての人気ということだろう。
「ていうかこれで一人部屋かぁ……普通に四人くらい余裕で寛げるんだけど」
そんなセレブな彼女らだからだろうか、詫びにと用意してくれた部屋も当たり前のようにスイートルームだった。
これで一人用だというのなら普段借りている安宿はなんだというのか。
一つだけあるベッドがその証拠かもしれないが、これにしたって三人くらいが悠々と手足を伸ばせる超ビッグサイズである。
そういうわけなのでカトリ様もメイデン体で堂々と、同じベッドの上に腰を下ろして備え付けのフルーツを摘んでいた。
「本当に今日は激動の一日でしたね……まさかここまで大仰なことになるなんて、思いもよらなかったですよ」
「まさしく奇縁というやつだな。余としては充分な寝床を得られて満足だが」
「クジラさんたちが居る間ならいくらでも泊まってっていいとも言われましたもんね。……セレブの財力恐るべし」
「そなたの生家も大変な資産家だったと記憶を見ているが?」
あー……そういえば実家、というかお父さんがそうだったっけ。
デンドロを始めるまでは周囲のことなんかまるで興味を持ってなかったから、全然気にしたことないや。
今だから分かるけれど、私ってば体質を理由に世話されるばかりの箱入り生活だったから、とんだ親不孝娘だよなぁ……。
まがりなりにも<Infinite Dendrogram>という新世界で四年ほど生きてきた身だ。
お金を稼ぐことや人付き合いの難しさなどはある程度わかったつもりだし、<マスター>特権の無い現実で裕福な暮らしを維持するだけの収入を得ることの厳しさなんて、私如きには到底想像がつかない領域だろう。
そこまで考えて、本当に今更ながらお父さんやお手伝いさんへの申し訳無さがこみ上げてきた。
だからといって積極的にリアルへ戻ろうとも考えられないあたり、救いようがないと我が事ながら思ったりもするのだけど。
「……恩返し、かぁ」
「珍しく殊勝な言葉が出たな。旅に出て早くも思うところがあったか?」
「そこまで本気、というわけでもないんですけど。なんとなーく、お礼の一つでもするべきかなって……」
お世話になったり助けられたりしたのならお礼をする。人として当然のことだ。
こちらの世界に生きる『マグロ』としての私は、迷いなくそう言えるし、実際そうしてきたつもりだ。
だけどリアルの……『羽鳥霞』としては、どうだろうか。
そんなこと、一瞬足りとて考えたことはなかった……ように思う。
周囲で誰かが私のために動いていたところで、視界に入らなければただの雑音、聞こえなければただの映像でしかなかったから。
同じ世界を生きている感覚を共有できないから、同じ生き物に見えなかった――酷い解釈をすれば、そうなるように思う。
それをスターリングさんは――椋鳥さんは笑って「中二病だな」ってからかってくれたけども。
マグロとしての馬鹿な私をよく知るスターリングさんにリアルでそう言われたことは、何故だかとても嬉しく感じたのを覚えている。
つまり何が言いたいかというと…………何が言いたいんだろう?
ああもう、リアルとこっちを一緒に考えると頭がおかしくなりそうだ。
自分で言うのもなんだけど、向こうの私とこっちの私でギャップがありすぎて、自分のことのように思えないせいもある。
なんだっけ、あのとき椋鳥さんとは他に何をしたんだっけな……
「ふわぁ……、……眠気がぁ」
「馬鹿の考え休むに似たり、か。……クク、そなたらしい間抜け面よな」
「ひど――いと言えないあたり悔しい……!」
そうこう言っているうちにも睡魔は容赦なく思考を蝕んでいく。
寝巻きに着替えることすら億劫で、枕に頭を預ける余裕もないまま、倒れ込んだままの姿勢でゆっくりと目を閉じる。
「……………………そういえば」
意識を手放す前にもう一度、脳裏であの歌声が再生され。
「なんだかすごく……懐かしい気がする……。……なんで、だっけ……」
即座に記憶が見つからない、たとえようのなく強い懐かしさが胸を満たした。
眠気にまどろんだ頭ではその答えを見つけられないまま、私は完全に眠りに落ちた――
「――――奇縁だな、何もかも」
――間際に呟かれた、カトリ様の独白も理解できないまま。
To be continued