我は彼の奴隷なり   作:ふーじん

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デンドロっぽさが表現できてるといいな

・一部修正
固有スキルの効果を「戦闘中HPを消費し続け、攻撃命中時に一定の割合で回復する代わりに<エンブリオ>を強化する」というものに変更。
イメージとしてはディアブロ3バーバリアンのフューリーみたいな感じで。


第三話

 □マグロ

 

 

 メイデンwithガードナーのテスカトリポカと名乗った彼女を改めて見る。

 ついさっき感じたばかりだが、見れば見るほど美しい少女だ。

 身長は目算で150cm程だろうか、私と比べてすっぽり抱きかかえてしまえそうで、なんとも愛らしい。

 肌の色は黒……に程近い、濃い目の褐色。髪は長く腰まで伸びて、黒々と艶めくそれはまさしく鴉の濡れ羽めいて美しい。

 瞳は……宝石に例えるならそう、黒曜石が最も近いと思う。ガラスのように透き通った瞳は、漆黒の中に僅かな光を内包して妖しく揺らめいている。

 

 だが最も特徴的なのは、その装いだろう。

 肌を惜しげもなく露出し、僅かに局部を隠すのは黄金色をした装飾品に、薄い腰布。

 小柄にしては肉感的な起伏は紛れもなく"女"を香らせるもので、堂々とした佇まいや冷徹な表情と相俟って、さながら女王の如き威風を思わせる。

 

 総評して、エキゾチックな魅力に満ちた小さな女王、と言ったところか。

 フィクションで描かれる南米っぽい地域の住民のようにも見えるが、顔つきはしっかりと西洋のもの。

 ダークエルフっぽいとも言う。

 

「そなたの視線は甚だ不躾ではあるが、その賛辞は受け取ろう。余の美貌を余すことなくその目に焼き付け、余への忠誠を確固たるものとするがいい」

 

 ……見た目通り、気位も相当高そうだ。

 

「当然であろう? そなたは己の無力を嘆き、しかし尚も血肉を希求して代行者を願った。それに応えたのが余であるならば、余はそなたの庇護者であり、爪牙であり、女王である。即ちそなたは余への奉仕者に他ならず、助力を乞う代償として心から余に仕えるべきなのは自明の理よ」

 

 相当なんてものじゃなかった、これは暴君だ!!

 

「如何にも、この身は暴君である。――さて、いつまで余を見下ろしておる? 頭が高い、跪け」

 

 超展開に呆然としながら私の<エンブリオ>を見つめていると、そう不快げに吐いたテスカトリポカが私の足を払い、咄嗟に手をついて膝をつく私の背に腰掛けた。

 ちゃちな防具越しに感じる柔らかさにドキリとしたのは、秘密。ていうかこの子、ほとんど水着みたいな格好だから感触がダイレクトすぎる!

 ……正直、気持ちいいかも。こういうのを「柔らかい」って言うのかな、確かに実にナイスな……

 

「内心が漏れておるわ、愚物が。言っておくが余はそなたの心の裡より生まれしモノ、即ち一心同体であり一切の秘め事は通用せぬと心得よ」

 

 なん……だと……!?

 ついさっきまでのグヘヘな私の内心が筒抜けとな!?

 あっ、いたっ、いたい! 横腹をつねらないで! すみませんすみません、静粛にいたしますカトリ様!

 

「分かればよい。しかしなんだその呼び方は? ……まぁいい、それくらいの不遜は赦そう。他ならぬ余の半身であるからな、光栄に思うがいい。――さて、説明を始めるぞ?」

 

 あ、愛称は許してもらえるんだ。

 テスカトリポカって妙に長くて言いにくい名前だったから、つい咄嗟に呼んじゃったけど、よかった。

 確か南米の神様の名前だっけ? フィクションでは割と聞くけど、やっぱり南米っぽいのはそれがモチーフだからかな?

 

「余の根底となった印象については今はよい。それよりもこの世界における余の位置付けについてそなたに説明せねばならぬ。拝聴せよ」

「へ、へへぇっ!」

「あと、そなたは無理に喋らずともよい。耳障りだ」

 

 それって心のなかで話せってことです?

 ……あ、はい、そうなんですね、わかりました。だから蹴らないでください。

 その……変な気分になります……。

 

「我が<マスター>ながらまこと度し難い愚物よな。……ともあれ、まずは余の<エンブリオ>としての特性から語らねばなるまい。先に述べた通り、余のカテゴリーはTYPE:メイデンwithガードナー。このメイデンとは人間としての姿を基本形態とすることを表し、本質はそれに続く"ガードナー"の部分だ。このガードナーとは人ならざるモンスターとしての形態を持つことを表し、その性質は<マスター>を護衛することにある。……ここまでは理解できたな?」

 

 ま、まぁそれなりには。

 要は仲間モンスターみたいなものだよね。<マスター>は私だから、つまりカトリ様は私に従うポ◯モンみたいな……ごめんなさい、不遜を申しました!

 

「そなたの認識には異議あれど、概ねその通りだ。そなた自身痛感しておろうが、そなたは戦いにおいて無力でありながら尚も闘争を求め、その代行者として余を創造した。余の特性はその願いに応え、戦いに特化したステータスとなっている」

 

 私がお荷物な分、その不足を補う形で強いってことか。

 

「如何にも。とはいえ、言葉だけでは実感も湧くまい? メインメニューを見れば数値として表示されようが……ふむ、それも些か無粋、か」

 

 とりあえず、強いってことはわかった。

 メインメニューで確認できるってこともわかったけど、姿勢的に無理なので見れない。

 

 ……と思ってたら、カトリ様は私の背から降りた。

 これって、もう起き上がってもいいのかな? また跪けっつって足払い食らったりしない?

 

「何をうつつを抜かしておる、ついて参れ」

 

 あっはい、只今参ります。

 釈然としないけど、彼女だけが私の頼みの綱だ。甘んじて受け入れるしかあるまい。

 ……ドキドキしっぱなしなのは気のせいだっ!

 

 

 ◇

 

 

 カトリ様の三歩後ろ(横に並ぼうとしたら蹴られた)を維持しながらついていき、辿り着いた先は因縁深い【リトルゴブリン】との激闘の地だ。

 ……【リトルゴブリン】と激闘って。しかも負けてるって。改めて考えても雑魚すぎない私?

 

「都合良く一匹いたな。我が下僕、あそこに【リトルゴブリン】が見えるな?」

 

 ついに下僕認定までされてしまった。いやいいけどね。

 さておき彼女の声に従って見渡してみると、確かに【リトルゴブリン】が一匹、少し先にいるね。

 向こうはまだこちらに気づいておらず、粗末な木の棒を携えながら、うろちょろとしている。

 と思ったらカトリ様が小石を投げて挑発した。当然向こうも気づく。

 

 いきりたって猛然とこちらへ走ってくる【リトルゴブリン】。

 棍棒を振りかぶり、あわらカトリ様の頭が殴られようとしたところで――

 

「そなたなら、為す術もなく攻撃されていただろう。だが余は一味違うぞ?」

 

 棍棒を握る右腕を掴み上げ、余裕の表情で【リトルゴブリン】を捻じ伏せるカトリ様がいた。

 確かに、この時点で私よりも遥かに強いことは明確だ。私ならどうすることもできず殴られて昏倒していただろう。

 というか掴み取る動きがよく見えなかった。

 

「ステータスの差だな。ガードナーは個別にステータスを有し、<マスター>とは独立している。余のAGIと比べてそなたのAGIが下回るが故、捉えきれなかったのだろう。とはいえそこまで明確な差ではないはずだが……そなたの目が相当に節穴であるということだろうな」

 

 すみません、現実では映画とかしか娯楽がなかったんです。

 おかげで決して目がいいとは言えない。

 とはいえ向こうでの視力とかはこの世界では関係ないとは思うんだけど……。

 

「そして余の攻撃だが……この通り」

 

 カトリ様の返礼は拳。

 裏拳のように【リトルゴブリン】の顔面を打ち据えると、大きく陥没させて吹き飛ばした。

 ドチャッていうエグい音がして、思わず【リトルゴブリン】に撲殺されたことを思い出して、身震いする。

 

 あ、【戦士】がレベルアップしてる。

 今の一撃で【リトルゴブリン】を倒したのか。まぁ見るからに致命傷だったし、当然かな。

 

 だけど……成程、これがカトリ様の、私の<エンブリオ>の力か!

 正直言って、すごい。私なんかでは足元にも及ばない隔絶した強さ!

 敵が最下級のモンスターだったとはいえ、レベル0で事も無げにあっさり倒してしまえるのは、確かな成長性を思わせてならない。

 いける、カトリ様となら間違いなく私は強く――

 

「何を勘違いしておる? 今のはほんの戯れにすぎぬ。本番はここからよ」

 

 そんな私の甘い認識を打ち破って、カトリ様は駆け出した。

 ……あれ? 今なんかシルエットがおかしかったような?

 

 そう訝しむ間もなく、ややもして新たな影が私の前に飛び出した。

 

 

『これが余のガードナーとしての姿よ。ククク、人ならざるとはいえ美しかろう?』

 

 

 それは大きなジャガーだった。

 暗い灰褐色の毛皮に、より濃い黒の斑点模様を散りばめた黒いジャガー。

 現実のジャガーよりも二回りほど大きな身体は、私が乗ってもびくともしなさそうなほど見るからに頑強で、全身を覆う筋肉の隆起はこの上なく頼もしい。

 

 口元には仕留めてきた【リトルゴブリン】の亡骸を咥え……まじまじと見てると、それを私の前に投げ落とした。

 ……ちょっと、猫っぽいと思ったり。いや、ネコ科だけど。

 

『またぞろ不遜なことを考えているな、戯けめ。……ともあれ、これが余のガードナーとしての姿である。……そなたの知識を見るには、これは余の名の元となった神の化身でもあるらしいな? ククク、なかなかによい趣向ではないか。余は気に入ったぞ』

 

 そう言って、獣の顔でニンマリと哂うカトリ様。

 仕留めたばかりの【リトルゴブリン】の血肉の香りが、吐息となって顔面を擽る。

 ……失われたばかりの"命"の香りが、私を撫でた。その感触は、これ以上無く生々しい。

 

『さて、余の力量は見ての通りだ。しかし、これではまだ本領を発揮したとは言えぬ』

「これ、以上……?」

 

 思わず驚きが口をついて出てしまった。

 しかしカトリ様は咎める素振りを見せず、そんな私の反応こそを待っていたように愉しげにまた笑んだ。

 

『そうだ。<エンブリオ>最大の特徴――固有スキルというやつだな』

 

 なる、ほど……?

 聞く限りでは、そのまま各<エンブリオ>ごとに固有の、オリジナルのスキル……ってことかな。

 

『如何にも。当然、余にも固有スキルが備わっておる。そなたの奥底の願望を叶えるべく、自ずと生じた"力"がなぁ……?』

 

 …………?

 妙におかしな言葉尻というか、嘲笑うようなニュアンスに聞こえたのだけど、気のせいかな?

 ……あ、気のせいじゃないですね。めっちゃ顔近づけてニマニマしてますもんね、それ絶対いじめっ子の顔ですよね。

 

 

『――喜べ、我が下僕。そなたは余の"贄"だ』

「…………はいぃ?」

 

 

 ◇

 

 

「ァァァァアアアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛――!!?!!?!?」

『クハハハハ……そうだ、喜べ! そなたの待ち望んだ"痛み"だ! ククク、よい囀りよなぁ……? そなたもさぞ甘美であろう?』

 

 こいつ暴君なんかじゃねぇ、ただのサディストだ!!

 こいつが私の"命"を吸い取る度、HPはガリゴリと減少していき、それに伴って激烈な痛みが全身に生じる。

 痛みはHPが底値に近づくほどに凄惨さを増していき、かと思えば俄にHPが回復したりして、それがまた無差別な緩急を生み出して慣れる暇すら与えない。

 

『好いぞ、好いぞ……余の牙、余の舌に広がる命の味わい、なんと甘美なることか! そなたが余に()()()()()程に我が五体は活力に満ち満ち、この上ない昂りに奮えるというものよ!!』

「ヒギィイイイイイイイイイイイイ――!!!?」

 

 テンションMAXなカトリ様が上機嫌に高笑いし、高速で狩場を駆け巡って手当たり次第に獲物を屠っていく。

 減って減って増えて増えて減って増えて増えて減って――忙しなく増減を繰り返すHPを尻目に、全身を駆け巡る痛みに絶叫しながら五体を投げ出し、喉が張り裂けんばかりに悲鳴を上げる。

 

 カトリ様――"狂獣姫"テスカトリポカ、第一形態の固有スキル。

 それは「<エンブリオ>を強化する代わりに戦闘中持続的にHPを消耗し続け、<エンブリオ>の攻撃命中時に一定の割合でHPを回復する」というパッシブスキルだった。

 

 ……そう、パッシブスキル。常時効果。

 それはつまり、カトリ様の戦闘中ずっと絶え間ない消耗と回復を繰り返し、無作為な痛みの波を味わうことに他ならない。

 その名もズバリ《贄の血肉は罪の味》。この場合の贄とは、前者の効果においては私、後者の効果においては敵、ということだろう。

 

 先程の説明時には効果を実感できなかったのは、消耗する間もなく【リトルゴブリン】を仕留め戦闘を終わらせていたからだった。

 今は【リトルゴブリン】の巣に突っ込んだせいで四方八方から攻め立てられ、結果として戦闘が途切れることなくHPが増減を繰り返しているというわけだ。

 

 トンデモねぇにも程がある!?

 いや確かにカトリ様は第一形態、しかも超低レベルの私のガードナーにしては異様に強いけれども!

 その理由がこれってどういうことだ! なんでこんな効果になってんだ!! ほとんどデメリットスキルじゃねーか!?

 

『ククク、そうかぁ……? そなた、本当にそう思っておるのか……? 余は言ったな、余の全てはそなたの願いによって生まれたと……クハハハハ、目を背けるなよ、我が下僕……いやさますたぁ……? そもそも、そなた――』

 

 痛みに喘ぎ、蹲る私の前に降り立って、口付けを交わすような距離で妖しく囁いたのは。

 

『そんなに厭うなら、痛みを感じぬようにすればよいではないか……』

「…………そ、それは」

 

 言われて、呆然とし。

 当たり前のように、痛覚設定をOFFにするという発想に至らなかった事実に、愕然とする。

 いや、だって、それは――

 

 

『ククク、それが答えよ。なぁますたぁ……? そなたが真に望んでいた戦いとは、こういうものよ』

 

『殴れば痛いし、殴られても痛い。つまるところ闘争とは痛みの売買に他ならず、彼我の痛みの多寡によって勝敗を決する商いのようなもの……それを己が手を汚さずして味わいたいというそなたの望み……』

 

『それを過不足無く、余すこと無く味わい尽くせる()()()。至極真っ当で、妥当なものではないかぁ?』

 

『現にそなた……ククク、それが痛みに恐怖する者の表情(カオ)であるものかよ』

 

 

 ……………………改めて指摘されると恥ずかしいからやめろォ!!

 

 ああもうわかりましたよ! 認めますよ! これが私の望みだったって!

 ええそうですよどうせ私は変態ですよマゾヒストですよ! 現実があんなだからってこの世界でこんなスキルと<エンブリオ>を目覚めさせちゃうようなド変態ですよ!!

 だからなんだ! うっせーバーカ!! 私から生まれた<エンブリオ>のくせにわざわざ口に出して今更言うな!!

 

『ククク、なぁに……余は何も咎めはせぬさ。言ったであろう? 余はそなたより生まれたのだと、そなたの心底などとうに見透しておるとも。そんなそなただからこそ余は悦びに打ち震えるのだ……王たる余が矮小なそなたに伴侶のように寄り添い、奴隷のように奉仕し、兵の如く闘争を代行する……その理由の全てが、そなたにこそ在る』

 

 クッサ! はークッサ! なに言ってんのクッサイわぁほんと!

 私から生まれたエンブリオのくせにカッコつけすぎ! 気取りすぎ!

 ほんともう困るわー! カーッ、困っちゃうわー!! ……………………大好きっ!

 

『余も同感だ。そなたはまこと醜く、見ていると嫌悪に陥りそうになるが……それを補って余りあるほど、好ましいのも事実。余もそなたを愛しておるよ』

 

 

 ◇◇◇

 

 

 その後私達はカトリ様の気が済むまで戦闘を続け――

 最初のジョブに選んだ【戦士】のレベルが10に達したころ、このジョブが私のスタイルと全く噛み合わない死にジョブであることを思い出し、リセットした後王都へ戻って【従魔師】へ新たに就いた。

 

 当然その【従魔師】も、カトリ様の気が済むレベルまで上げた。

 すげー痛い(小並感)

 

 




【狂獣姫 テスカトリポカ】
<マスター>:マグロ
TYPE:メイデンwithガードナー 到達形態:Ⅰ
紋章:“血を流す乙女”
能力特性:生贄(サクリファイス)
スキル:《贄の血肉は罪の味》
モチーフ:アステカ神話における生贄を求める神"テスカトリポカ"
備考:褐色エキゾチック少女。ロリではない。露出過多。ドS。<マスター>が成人済みなのでエロい
食癖:(レア)しか食べない。専ら果物を常食

※枕詞を「狂神女王」から「狂獣姫」に変更(最初期としては大仰すぎたため)
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