我は彼の奴隷なり   作:ふーじん

31 / 53
バカは死んでも治らない

 □芸術都市カルカラン

 

 【歌姫】が呼び寄せたモンスターの群れは、カルカランの全周から押し寄せていた。

 目視でも確認できるほどに巻き上がる砂煙。大砂漠の下から上から、数えきれないほどの大群が潰し合うのも厭わずに殺到する。

 そのほとんどはカルディナの大部分を占める砂漠に棲まう魔蟲種であり、行商の死神として恐れられるモンスターの多くが集結していた。

 

 異形の数多いモンスターの類でもこと異彩を放つ魔蟲種の群れ。

 常人の目には到底判別のつかない有象無象だが、心得のあるものならば彼らの思考に理性の色が無いことを察せただろう。

 より正確に言うならば、本能すらも上書きするほどの【魅了】。本来ならば僅かに注意を引き付けて招き寄せるだけの《魔物寄せ》の類が、【歌姫】と<超級エンブリオ>の手によって逃れ得ぬ神の手となって彼らを一直線にカルカランへと駆り立てていた。

 

 幸いにしていずれも音速域には程遠い種ばかり。

 カルカランへの到達には少しばかりの猶予があるが……その時間は、住民を避難させるにはあまりに短い。

 群れの存在が無くとも都市外への脱出は生存の保証は無い難事であるのに、より具体的な形で文字通り壁として立ち塞がる以上、最早住民の逃げ場など無いに等しい。

 万が一逃れようにも、それはモンスターの群れを突破し、その後の砂漠を単独で踏破できる極一部の強者に限られよう。

 

 その一握りの大半を占める<マスター>は、ほとんどが詰みを悟ってログアウトしている。

 彼らの多くはごく一般的な()()()()()――すなわち遊戯派であり、打開も望めぬ絶対的不利な状況に付き合う道理も義理も無いため、当然の選択だ。

 彼らにとってのティアンは所詮「よくできたNPC」でしかなく、その生死に一喜一憂などしていられない。

 その判断から早々に離脱を選んだ彼らを責められる者は、少なくとも<マスター>の中にはいないだろう。ひとつきりの命しかないティアンはともかく。

 

 しかしながら一方で――この逆境を見捨てずにいる<マスター>もまた存在する。

 彼らもまた様々な理由――個人的な友誼、集団としてのしがらみ――でこの場に残ることを選んだ者達であり、それ故に勇敢に、迫り来る脅威の波濤へ立ち向かおうとなけなしの勇気を振り絞っていた。

 

 群れの中でも比較的AGIの高い種が到達したのを片端から迎撃し、街への侵入を阻んでいく。

 当初こそ善戦していた彼らだが、次第に群れそのものが近づくにつれて到達するモンスターの数が増えてくると戦線の縮小を余儀なくされ、確保できた僅かな人々を可能な限り一箇所へ押し留め、ほぼ無人となった街並みを盾に全周囲からの襲撃を迎え撃っていく。

 戦線に身を投じる彼らは<マスター>のみならず戦闘職に就いたティアンも多く交え、決死の覚悟で襲い来る魔の手を振り払っていく。

 その中でも特に目覚ましい戦果を挙げているのが……戦場へ蜘蛛の巣と張った()を伝って駆ける、一つの小さな影だった。

 

「おほしさまキーック! ――な!!」

 

 文字通り綱渡りのようにして鎖の上を全速力で駆けるのはポッポ。

 その動きは一万を超えるAGIによって超音速に達し、その勢いのまま放たれた飛び蹴りで目につく敵を片端からぶち抜いていく。

 その多くが強固な外殻によって覆われている魔蟲。また生半可な部位欠損も各部に存在する神経節によってある程度補えもする異形の蟲達だが、ポッポの繰り出した一撃はその矮躯に反して魔蟲の五体を木っ端微塵に打ち砕き、問答無用に無力化していった。

 

「つぎからつぎにキリがないなー!?」

【ボヤくんじゃねーぞポッポ! 次は南だ、任せたぞ】

「ポッポにおまかせ…………なー!!」

 

 通信用マジックアイテムでアフロ松田と言葉を交わしつつ、仲間の飛ばすナビ用<エンブリオ>の案内に従って、最短効率で敵性脅威を沈黙させていくポッポ。

 戦域を駆け回る足場となっている鎖は彼女の<エンブリオ>、【封鎖猟犬 ライラプス】。

 拘束と捕縛に特化したポッポの<エンブリオ>は、延長限界まで射程を伸ばして彼女の足場を構成しながら、尚もありあまる射程で可能な限りのモンスターを【拘束】していく。

 第六形態に達したアームズの耐久力は精々が純竜級を上限とするモンスターなどに打ち破れるものではなく、捕縛された端からその場に縫い留められポッポの制裁を待つばかりとなる。

 生憎ながら群れの数が多すぎるために全てを制圧するには到底足りないが――それでも尚一〇〇〇を超えるモンスターを一挙に足止めしているのは、まさしくポッポの力量あってのことだった。

 

 《自動索敵》、《自動攻撃》、《自動捕縛》。

 三種の自律行動能力は事前にポッポが設定した通りに働き、最下級の雑魚は捕縛するまでもなく鉄の鞭となって倒し、次なる獲物を求めて鎌首をもたげては、討伐を満たせぬ強敵に巻き付いて【拘束】する。

 十重二十重にも連なる鎖の奔流こそは、【罪狩】ポッポが最も信頼する猟犬である。

 

「ジャマするんじゃないなー!!」

 

 そうして猟犬が捕らえた獲物を一撃で仕留めていく力こそ【罪狩】の正体。

 咎追系統に共通する『対象の賞金額に比例したステータス補正』の特性、それのEXに達したスキルレベルによる最大倍率――ではない。

 余程凶悪な生態を持つか<UBM>でもない限り、野生のモンスターが賞金首になることはないからだ。故にその効果は発揮されていない。

 

 ポッポの()()()()()()()()()()()()()()()()の理由はまた別。

 それこそが咎追系統超級職である【罪狩】の奥義、《トータルバウンティ》。

 『これまでに討伐した賞金首の報酬金額の総計に比例した()()()()()()()()()』によるもの。

 賞金稼ぎの頂点として数多の高額賞金首を討伐してきた、歴代でも最高報酬総額を記録するポッポにのみ許されたステータスの暴力。

 <UBM>でもない有象無象のモンスターなど、勢いをつけて殴るだけで仕留めるに容易。

 すなわち蜘蛛の巣と張った鎖はまさしく捕食者の罠であり、その上を縦横無尽に駆け回るポッポは絶対の処刑執行者であった。

 

「ショーキンがかかってたらちょーおいしーのにもったいないな! こんやはタダばたらきなー!?」

【そりゃお前、こんな状況で賞金出せるやつなんざいねぇだろうよ】

「せちがらいよのなかなー!! ――――キーック!!」

 

 故にポッポは賞金首を倒せば倒すほど上限知らずで強化されていく。

 とはいえ劇的にステータスを上昇できるほどの高額賞金首などそうはおらず、その成長は非常に微々たるものだが。

 そういう事情もあってポッポは金銭の契約にはシビアであった。少なくとも今タダ働きを嘆くくらいには。

 その鬱憤を晴らすように、哀れな獲物は形も残さず木っ端微塵である。いずれも二万に迫るAGIとENDとSTRが繰り出す超高速質量攻撃を受けて無事でいられるものなど、この群れには存在しない。

 ポッポの得意技たる飛び蹴りの前に呆気なく散っていくのみ。まさしく鎧袖一触であったが、そのポッポの奮闘をして劣勢を覆せないほどに敵の物量は圧倒的だった。

 

【――朗報だ、ヘルガがこっちに合流する。保護した住民をこっちで受け入れ次第、戦線に突入するとよ】

 

 そこへ三度アフロ松田からの連絡が届く。

 それは中央区の警護を任されていたヘルガが、追加戦力として戦線に参入するとの報せだった。

 己と並ぶ大戦力であるヘルガ参戦の報せに、ポッポの目が期待に色めく。

 共に部隊を率いる筆頭戦力である二人が戦場に揃うことの意味を、ポッポは誰よりもよく知っているがために。

 

「ならポッポのやることは……」

『久々の連携だ! いくぞポッポ!!』

「りょーかいな、ごくちょー!!」

 

 ポッポの独白に答えるように、瓦礫と化した街並みの向こうから巨人が現れる。

 五体の全てが牢獄の人形、【ウィッカーマン】。保護のため収監していた囚人をアフロ松田に預け、全室を空けた牢人形が、その獄の扉を開けてポッポの行動を待ち構えていた。

 心得たり、とポッポが頷く。

 

「おまえらまとめて――――ボッシュートなー!!」

 

 ポッポの宣言と同時に、足場を構成していた鎖が波打った。

 捕らえられ、ポッポの処刑を待つばかりだった大量のモンスターが引き摺られ――ウィッカーマンへと殺到する。

 それをウィッカーマンは門戸を開いて待ち構え、全身の牢獄に次々と収監すると、満杯になった端から閉じ込め、その全身をモンスターで満たしていく。

 自由になったライラプスは次なる獲物を求めて都市外へと矛先を向けると、群れから手当たり次第にモンスターを引っ張り出し、それも次々とウィッカーマンへ放り込んでいった。

 

『全敵収監! 往くぞ――』

 

 そうして全身ギュウギュウ詰めに魔蟲を収め、歩く蠱毒の壺と化したウィッカーマンが群れの前へと躍り出る。

 成程確かに、その巨体は迎え撃つに適した戦力を発揮できるだろう。しかし如何に巨大で強力とはいえ、その鈍重では群れの全てを阻むには到底足りない。

 あるいは自棄の蛮勇か――戦線で戦う誰かがそう邪推した瞬間、ウィッカーマンが様子を変えた。

 

『――《火葬戦鬼(ウィッカーマン)》!!』

 

 【獄長】ヘルガの宣言で、ウィッカーマンは全身を炎で覆った。

 瞬間、鈍重だった動きは嘘のように俊敏を発揮し、燃え盛る全身で拳を繰り出し群れを殴り抜き、触れる端から炎が燃え移って延焼していく。

 炎はモンスターの全身を火種として燃え盛り、暴れ、乱れて、群れへと炎を撒き散らし果てていく。

 そうして群れに混乱が奔る中を炎の戦鬼と化したウィッカーマンが駆け抜け、増大化したステータスの暴力をその巨体で繰り出して散々に掻き乱していく。

 

 これぞ【牢人形 ウィッカーマン】の必殺スキル、《火葬戦鬼》。

 囚人を薪として全身を燃え上がらせ、その炎尽きるまで暴れ回るガーディアンとしてのウィッカーマンの姿。

 

『ポッポ、薪を絶やすなよ。獲物は無数にいる、いくらでも持ってこい! 今宵のウィッカーマンはいくら喰っても喰い足りることはないぞ!!』

「いわれなくてもなー!! ……でもぶっちゃけちょーしんどいなー!?」

【がんばれよー。こっちも負傷者の治療してってっからなー】

 

 その性質上、その身に(囚人)がある限り効力が続くのがこのスキルの利点だ。

 そして捕縛に適したライラプスの能力は薪の追加投入にうってつけで、燃え盛り暴れ回るウィッカーマンへと隙間を縫って捕らえた獲物を放り込んでいく。

 極稀に存在する巨獣や大群の賞金首への連携戦術だったが、ポッポにとっては単なる重労働でしかないのが玉に瑕だった。

 

『とはいえ全ての敵を駆逐するには至らんな。精々が勢いを弱める程度でしかない、都市内への浸透は防ぎきれないだろう……()()()()もいるようだしな』

「メンバーがみんないればなんとかなるっぽいけどなー……」

 

 収監した敵を燃料に音速に迫る機動力で群れを駆逐していくウィッカーマンだが、善戦すれど群れの数は尽きるにまだまだ遠い。

 必殺スキル使用後は広域殲滅を得手とする炎のウィッカーマンでさえも、圧倒的物量の前では力不足。

 カルカラン周囲一帯の生態系を根こそぎ呑み込み迫る波濤だが……しかしそれすらも全てではない。

 大移動を開始して空隙を生んだ生態系を侵略せんと、更に外の生態系が押し寄せ……領域に達した端からクジラの歌に惹かれてカルカランを目指す。

 そうした負の連鎖が織りなすスタンピードは止まらず、それを招く災禍の歌もまた鳴り止まない。

 戦場を駆ける誰もが奮闘の無意味を悟りながら、()()()()()()と諦め切れず、その力尽きるまで奔走する生存競争。

 

『やはり大元を絶たねば埒が明かんな。アフロ、上空はどうなっている?』

【……膠着状態、だな。互いに攻めあぐねてるが……このままだと不利なのはこちら側だ。詳しい戦況は悪いがわからん。観測しようにも余波で吹き飛ぶ】

『……あれが敵を打破してくれることを期待するのは厳しいか?』

【わからん。正直な話、戦いの規模が違いすぎて把握しきれん。……職業柄<超級>連中の派手なやらかしは聞いてはいたが、実物を見ると大違いだな。成程、こりゃ手が届かん】

『せめてポッポの手が空けば……あるいはいけたかもしれんが』

 

 【封鎖猟犬 ライラプス】の必殺スキル。

 単体の対象を、距離や障害を無視して捕縛し引き寄せる《いぬのおまわりさん(ライラプス)》を即時使用していたならば、上空を舞うクジラの主を捕らえ、あるいは仕留めることができていたかもしれない。

 しかし初手で必殺スキルを切るという判断は、事変勃発当初の混乱の中で導き出すには酷と言うもので、押し寄せる魔物の群れに対応せざるを得ない今となっては最早後の祭りである。

 そも容疑的にはともかく戦力的にはまったくのノーマークであった【歌姫】が発端となってこの事態が引き起こされるなど、事前に察知するにはあまりにも無理があろう。

 後手に回った無念を噛み締めながら、ヘルガは通信を発した。

 

『アフロ。住民を可能な限り連れ出すとして……いくらいける?』

()()()。単純に人手が足りん。戦力もだ。上の決着がつくか、こっちが群れを殺し尽くすか……どんな結果になるにせよ、俺達にできるのはギリギリまで避難場所(ここ)を守り抜くことだけだ】

『……やれやれ。割に合わん仕事にも程があるな』

「おしゃべりしてるヒマないなー!? ポッポだってちょーがんばってるのにノンビリしてるんじゃないなー!!」

 

 絶望的な戦況に、努めて皮肉を返すヘルガへポッポの怒号が飛ぶ。

 さながら炭水車の火夫の如き重労働で、今もひっきりなしに()を投げ込むポッポの顔には、小難しい考えなど一つも浮かんでいない。

 良くも悪くも目先のことに真っ直ぐな戦闘隊長の姿に、ヘルガは答えの出ない思考を放棄した。

 

『……ポッポの言う通りだな。確かに、口論したところで意味は無いか。今は目の前の敵を屠ることだけに専念しよう』

「うりゃりゃりゃりゃりゃ!! なー!!」

 

 そしてより一層炎を燃え盛らせ、群れの只中へ殴り込まんとウィッカーマンを指揮するヘルガ。

 その号令を下そうとした間際へ、再びアフロ松田の通信が届いた。

 

【――待て。状況が変わるぞ】

『どうした?』

()の動きに変化がある。これは……鳥の方だ! 消え――!?】

『なんだと!?』

 

 言うや否や、遥か上空から彗星のように赤き魔鳥が降下し――――

 

 

 ◇◇◇

 

 

(空戦である以上他形態への変化は悪手。切り札の()なら空中機動もある程度はできるけど回避に難あり、白兵距離になるまでは保留)

 

 カルカラン上空でバテン・カイトスと千日手を繰り広げるテスカトリポカの背で、マグロはウィンドウのみを注視して作業に没頭していた。

 時折身を掠める衝撃がマグロの聴覚から音を奪う。おそらくは鼓膜が破損したのだろう、しかしそれでもバテン・カイトスの掌握した世界は歌を伝え、逃れ得ぬ旋律を響かせる。

 

 ()()()()()()()()()()()()マグロはウィンドウと格闘する。

 そこには何の気負いも無ければ、恐れもない。

 課された役目を果たし終えるまでの時間をテスカトリポカが買うと言った以上、マグロにそれを疑うという発想は無いからだ。

 

(AGIを補正する全スキルを()に設定。攻撃スキルは射出系を排除、()()()()()()()()()()()()()()()()。代わりに展開型スキルを設定、各種サポートスキルを吟味……戦況を考慮して識別可能にしたいけれど、ぶっつけ本番でいけるかな? ……カトリ様なら大丈夫か、()()()()()()()()()()()()()()()。……威力はどうかな、第七形態での戦闘は初めてだから、ちょっと感覚が掴めないな。そこもカトリ様に任せちゃおう。発動スキルの選別を邪魔しないよう明らかに無駄なものは省かなきゃ。……この戦いが終わったら本格的に整理しないと)

 

 さながらプログラマーがコマンドを入力するように、画面上で指を踊らせ次々に設定を決めていく。

 かつて形態を一つしか持たなかった時分には大半が死蔵されていたラーニングスキル群。軽く一〇〇〇を超えるラインナップの全てに目を通し、即断即決を下していく。

 その作業の傍らで地上の戦況に視線を向ければ、一画に避難し寄り集まった住民を守るべく、全周から押し寄せる魔物の群れを迎撃する戦士達の姿が見えた。

 そこには当然、<ケルベロス>の姿もある。燃え盛る巨人が群れの只中に突っ込み、その豪腕を振り回していく。

 

(……速いな、必殺スキルかな? ()よりも速いね。それでも大局的には不利か、ならやっぱり青での蹂躙は却下。強化した《巨大化》を使うという手もあるけど、それだと人々の安全を保障できない。街や人を無視していいなら手っ取り早いんだけど、いいわけがないし。でも参考にはなりそうだね、ゴリラさんのと合わせて覚えておこう)

 

 縦横無尽に飛翔して姿なき爆撃音波を回避するテスカトリポカが生み出す慣性と空気抵抗は、本来であればマグロの虚弱な身体など容易に死へ追い込む。

 それを【神心騎英 ベレロープ】の装備スキルで無効化するも、降り注ぐ攻撃の余波がマグロを傷つける。

 それはある種の持続的なダメージとなって、《贄の血肉は罪の味》と併せてマグロのHPを急速に削るが、それを【延命投与 オーバードーズ】による【HP回復ポーション】の継続投与で補い、その均衡を瀕死の領域で危うく保つ。

 鬩ぎ合うHPの表示ゲージは筆舌に尽くし難い痛苦をマグロに与えるがそれをおくびにも出さず、常人ならば気が触れる程の痛みを呑み込んで、マグロはひたすら設定に集中する。

 

(鎖はポッポちゃんかな、きっと。あれも参考になるね、()の方向性を決めるのに役立ちそう。制圧に向いたスキルはこっちに設定することにしよう。滞在中にも思ってたけど、白は隠し武器的に用いるには便利だし。とりあえずポッポちゃんの鎖を参考に、物理的な射程延長スキルはこっち。リンクさせるのは《伸縮自在》でいいかな。今までは黒のしっぽを伸ばして武器にするのに使ってたけど、今となってはわざわざそっちで使う意味も無いし。……うん、決まり)

 

 その身を蝕むのはHP消費によるダメージだけではない。

 【オーバードーズ】の副作用に加え、精神系状態異常を無効化するための【高純度覚醒剤】が生来持つ副作用が【オーバードーズ】によってより深刻化し、まともな思考すらも脅かす。

 絶え間ない吐き気。内臓が液化しかき回されるような嫌悪感。

 直接的なダメージにつながらないだけでそれ以外の負荷を全て汚水で煮詰めたような不快感を、しかしマグロは耐えている。

 まともな<マスター>ならば戦闘行動など到底不可能なデメリットの嵐。

 しかし元より戦闘行動の全てをテスカトリポカに委ねたマグロにアジャストした特典武具は、彼女に限ってのみその不利益を利点に変える。

 

 どこまでも身を削り、己が<エンブリオ>に全てを捧げ尽くすというマグロのパーソナル。

 <エンブリオ>がそうであるように、特典武具もまたマグロにデメリットを強いる代わりに、いずれも強力なスキルを備えてアジャストすることが多い。

 【延命投与 オーバードーズ】はその中でも特にその傾向が顕著であり、余人には忌まわしき呪具でしかないそれも、マグロにとっては紛れもなく生命線であった。

 

(……よし、粗方完了したかな。これ以上はこの場では考えつかないや。タイムリミットも近いし、あとはカトリ様次第だね。……ということはつまり、何も問題無いってわけだ)

 

 激動の空中戦を余所に作業へ没頭していたマグロが、ややもして区切りをつけた。

 気づけば全身には大小様々な傷が無数刻まれ、【オーバードーズ】によって歪に治療された傷跡が生々しく奔る。

 傍目には痛ましい限りの惨状。しかしそれを、やはりまったく気に留める様子も無く、己が役目を果たした安堵のみを浮かべて小さく笑顔を見せた。

 

『仕上がったか、マスター』

「はい、カトリ様。私に出来る限りのことは、全部」

 

 満身創痍とは裏腹に晴れやかな様子のマグロに、テスカトリポカは一言『大義であった』と労いを口にする。

 そして最後の手段を取るべき時が訪れたことのみを思考し、マグロはこれが互いに交わせる最期の言葉であることを悟り、敵対するクジラへ口を開いた。

 

「クジラさん」

『可哀想に、マグロちゃん。とっても痛々しくて、見てられないわ。……そしてあなたではわたしを、止められないのね』

 

 事ここに至り、彼女が命乞いをするはずもないと理解していたクジラは、別れのときが来たと覚悟して憐れみを述べた。

 結局、自分を止められるものが彼女ではなかったという無念を抱えながら、しかしここまで健闘してくれたマグロへの感謝を覚えて、せめて最高の葬送曲を歌おうと、クジラは努めて笑顔を浮かべる。

 細めて歪めた双眸に、やはり憤怒と憎悪を湛えながら。

 

『せめてわたしの歌でお別れを。わたしを止めてもらえなかったのは残念だけど、あなたは精一杯頑張ってくれたから――』

「いいえクジラさん。()()()()()()()

『――――――――え?』

 

 誰の目にも有利不利が明らかな戦況。

 マグロは満身創痍で、テスカトリポカの消耗は大きい。

 一方でクジラは無傷で、バテン・カイトスの消耗は微々たるものだ。

 なのに勝利が揺るぎないものであるように、断固とした確信を以て宣言するマグロに、クジラは思わず呆気に取られた。

 

「私は誰よりも弱いけれど、カトリ様は最強ですから。……もう準備は終わりました。あとは勝つだけです」

『……強がりかしら? そんな有様で、何が出来ると言うの。そんな、今にも死んでしまいそうな身体で――』

「そうですね。だから――――」

 

 全身に刻まれた傷。

 オーバードーズの副作用。

 かろうじて生きているだけの半死半生が勝利を宣言したところで、それは強がりですらない。

 敗北の事実を認められない滑稽さだけが虚しく響くだけだ。

 

 そんなクジラの思いを余所に、マグロは立ち上がり。

 そのまま歩いてテスカトリポカの頭上に立つと……そのまま空へ身を投げて。

 

「――――死ぬことなら、できるんですよ?」

『マグロちゃん……!?』

 

 狂ったか。

 そうとしか思えない突然の奇行に、クジラは戦いも忘れて悲鳴をあげる。

 暴力的な勢いで、暴風を纏いながら落下していくマグロ。

 切り裂く風がかき消す中で、しかし必ず届いているだろうとの確信を以て、マグロはクジラへ別れを告げる。

 

「さようなら、クジラさん。あなたの歌が、私は好きよ」

 

 この世界に生きるマグロとして。

 現実の地球に生きる羽鳥霞として。

 両方の想いを乗せて贈った最期の言葉は、ただただ純粋な歌への賛辞。

 その言葉の意味を図りかね、頭からただ墜ちていくマグロを視線で追って……

 

「《我は彼の奴隷なり(テスカトリポカ)》」

 

 必殺スキルの宣言と同時。

 その嘴でマグロの五体を噛み砕き、嚥下した。

 

 

我が奴隷(マスター)の死を餞として逝け、()()()()()()

 

 

 ――――テスカトリポカの鬼気が立ち昇った。

 

 

 ◇

 

 

『な、にを――――!?』

『……正気か、テスカトリポカ!?』

 

 目の前で突如繰り広げられた自死。

 <エンブリオ>が己が<マスター>を手に掛け死に追いやった常識外の行動に、クジラとバテン・カイトスの理解が遅れる。

 如何なる理由で己がマスターを手に掛けたかは知れないが、そんなことをしてしまえば遠からずテスカトリポカも消失することは想像に難くない。

 主のマスターが死んでしまえば、復活までの間<エンブリオ>もこの世界から消失し休眠に陥ることは、<Infinite Dendrogram>のプレイヤーならば誰もが当たり前に理解している事実だ。

 復活不可能となるまでに蘇生できれば死を免れるが、あの死に様では即死は不可避であろう。

 そうでなくとも<エンブリオ>が<マスター>を死に至らしめる理由を理解できずに、とりわけ主への絶対服従を前提とするアポストルであるバテン・カイトスは、誰よりもその凶行を呑み込めずにいた。

 

『テメェのマスターを手に掛けるなぞ、どういうアタマしてやがる!?』

『ククク、初めて()を晒したな、バテン・カイトス。そんなにも理解が追いつかぬか?』

 

 激昂するバテン・カイトスに笑声をあげるテスカトリポカ。

 それがあまりにも腹立たしく、バテン・カイトスは滅私も忘れて怒りを露わにした。

 

『そなたはもう少し、周囲に無関心なのかとばかり思うておったが……』

『有象無象なら、そうだろう! だが俺達はアンタらを気に入っていた! ……いや、今もそうだ。俺は俺であるがためにアンタらと敵対しているが、それとは別に感謝もしている! せめて仕留めるにしても……だけどなんだ、それは!?』

『そなたらアポストルのように言えば……我が主の御意のままよ』

『なに……? ――――いや待て』

 

 まるで言葉遊びのような会話の応酬。

 挑発のようにすら見えるテスカトリポカの言にバテン・カイトスは再び激昂しかけて……ふと違和感に気づく。

 

『テメェ……()()()()()()()()()()()()!?』

 

 それは、間違いなくマスターがこの世界から消失したであろうにもかかわらず、平然と存在を保つテスカトリポカへの疑問だった。

 その言葉を待っていたと言わんばかりにテスカトリポカは怪鳥の貌を愉悦に歪め、嘴を舌で舐めて嘯く。

 

『無論――――今も生きておるからよ、我が腹の中でなァ』

『ば……馬鹿かテメェ――――!!?』

 

 バテン・カイトスの絶叫を受けて、テスカトリポカは飛翔を開始した。

 そしてその一連の挙動は……二人の目に映ることすらなく実行される。

 それは超音速すら置き去りにする超々音速の機動。AGIにして一〇万を超える超常の領域――を更に超える、認識外の加速だった。

 

『さて、問答を重ねている時間が惜しい。まずは邪魔者を片付けることにしよう』

 

 マスター不在のテスカトリポカが、自由速度の落下から一転して超々音速で翔けて向かったのは、カルカランの周囲から押し寄せるモンスターの群れ。

 今も地上の<マスター>達が奮闘を重ねる戦場を上空から睥睨し、彼女は殲滅の意思を言葉にした。

 

 そしてその言葉の通りに――――次の瞬間には包囲網の一角が()()した。

 

『何事だ! 何が起きた!?』

「ポッポの眼でもおえないな……」

 

 突然の大変化を目撃したヘルガとポッポが目を剥いて叫ぶ。

 その二人の目に止まるようにテスカトリポカが燃え盛るウィッカーマンを止まり木にして。

 

『よくぞ持ち堪えた。そなたらの健闘、大義である』

「えらそーなデケーとりな!!」

 

 傲岸そのものの振る舞いに思ったまま感想を零すポッポ。

 テスカトリポカはそんな彼女の様子に面白げに見やると、クツクツと笑って翼を広げる。

 

『有象無象は余が始末してくれる故、そなたらは生き残りを案じてやるがいい』

『……いろいろと言いたいことはあるが、一つだけ。……任せていいんだな?』

 

 訝しみながらも、確信を抱いて問うヘルガの言葉にテスカトリポカは鷹揚に頷き。

 そのまま跳躍して、去り際に言葉を残した。

 

『無論。勝利こそが我が贄(マスター)の願い故にな』

 

 そうして再開した超々音速飛行が魔物の群れを蹂躙し、モンスターの屍を轍に晒す。

 視認不可能な神速飛行物体が風の如く通り過ぎるたびに、その軌跡上にあった群れが切り刻まれ、押し潰され、凍て付き、燃え上がり、あるいは力尽きて斃れ、無数の死に様を曝け出す。

 それはテスカトリポカを中心として展開された無数の攻性スキル。テスカトリポカが培った戦術観と直感で無意識的に選出された最高効率の殺傷手段の数々。

 より短時間で、より多くを、より確実に屠るために、マグロが下準備を整え、テスカトリポカが揮う滅びの飛翔。

 当代【獣神】の最高傑作たる"神獣(テスカトリポカ)"が初めて衆目に晒した、必勝の舞であった。

 

『必殺スキル……そう言えばテメェはまだ使っていなかったな』

『些かクセが強くてな、今や軽々に使えぬ厄介者よ。なにせ使えば死は免れぬ故な』

 

 己のHP上限を犠牲にテスカトリポカを極限強化する必殺スキル、《我は彼の奴隷なり》。

 ひとたび発動すれば死ぬまでペナルティを解除できない諸刃の剣だが、【グローリア】との死闘を終えたある日、マグロはふと疑問を抱いた。

 捧げる上限を費やせば費やす程に効力を増す《我は彼の奴隷なり》だが……全て捧げきったならどれほどの効果があるのだろう、と。

 それは【グローリア】との戦いにおいて初めて実用可能限界で必殺スキルを発動し、尚も力及ばず敗れた無念から生じた疑問だった。

 

 HP上限を捧げ尽くせば即死に至る以上検証のしようがない疑問だったが……ただ一つだけその疑問を解消する手段が存在した。

 死兵系統が覚える唯一の固有スキル、《ラスト・コマンド》。

 死して尚効果時間内において活動を可能とするそのスキルは、幸か不幸かテスカトリポカの必殺スキルとこれ以上無くシナジーした。

 そして一度検証してしまえばこれ以外の使い方は考えられぬほどに、そのシナジーはマグロのパーソナルと実用に合致し、マグロは己の構成(ビルド)を遂に定めた。

 

 設定可能な下級職枠の一つで【死兵】を極め――――残る上級職枠すらも【死騎】に設定し、戦法の主軸としたのだ。

 王国を発つまでの間にそれらニ職のレベルをカンストさせて、《ラスト・コマンド》のスキルレベルも一〇まで上げた。

 短期間に下級職と上級職と言えど極められたのは、偏にレベリングに長けたテスカトリポカの戦力あってのことだが。

 

 結論を言えばマグロの()と引き換えに得られる強化は――――、一〇倍。

 必殺スキルの発動後、《ラスト・コマンド》の効果時間中、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 MPとAGIに特化した第四相・"赤き魔鳥"のAGI基本値は、常時発動のステータス補正スキルを踏まえれば……五万。

 必殺スキル発動後は五〇万に及び、そこへ更に任意発動のバフスキルを重ねがけすれば、その総計は一〇〇万を超える。

 スキルレベル一〇に達した《ラスト・コマンド》が許す死後の数分間を、その暴力の極みに達したステータスで蹂躙できる。

 無数の手札を備えたテスカトリポカが、一時的にとはいえ"物理最強"を遥かに凌駕するステータスで。

 

 ごくありふれた強化型必殺スキルは、《ラスト・コマンド》とのシナジーによって真なる必殺と化した。

 無論、その性質上必殺スキルの発動はマグロの死を確定させるが、余程の絶対的相性差でもない限り……マグロとの戦いは相打ちを意味する。

 それはさながら死して尚致死毒を遺すある種の小動物にも似た報復機能であり、一見して最弱無害なマグロを劇薬に変える悪魔の手札。

 殊更に悪辣なのは、まるでこのシナジーを見越したかのように必殺スキルの発動には口頭での宣言を必要としない点であり、たとえ不意打ちでマグロを即死せしめたとしても、自動発動の《ラスト・コマンド》中にマグロが思考すれば……極限強化されたテスカトリポカが報復を果たすだろう。

 

 マグロの役目とは、死後に発動する《ラスト・コマンド》中にテスカトリポカがクジラとバテン・カイトスの両名を仕留めるための手札を用意することだった。

 そのための戦闘中のスキル設定。無防備を晒し、それをテスカトリポカに護らせてまで強行した理由である。

 故に手札を揃え、マグロが後事を託して自ら死を選んだ今――――テスカトリポカを止められるものは何も無い。

 サービス開始当初からオンにされたままの痛覚設定で、今も死に至るどころか死と等しい痛苦のもと、テスカトリポカの腹の中で消化・吸収される感覚をあますことなく感じながら、死後の数分間をマグロは生きたまま味わっている。

 マグロが痛覚設定をオンにしていることなどクジラとバテン・カイトスは知るはずもないが……もし知ったならば、そのあまりに想像を絶する狂気と性癖に、最大級の悍ましさと共にこう吐き捨てただろう。

 

 ()()と戦うのは()()()()()()――――と。

 

『どういう思考回路してやがる……好き好んで【死兵】なぞ! あまりにも……台無しじゃねぇか!?』

『まったくもって否定できぬな。我がマスターの大愚は一周回って大賢なのかもしれんが』

 

 一〇〇万を越えたAGIを以てすれば、包囲網を築く魔物の群れなど一歩で跨げる小さなもの。

 圧倒的な物量を誇った魔物の群れは瞬く間に駆逐され、カルカラン周囲の生態系を根絶やしにし、歌に惹き寄せられるモンスターの一匹すら残さず消した。

 絶望的な状況から一転してあまりに呆気ない、まるで冗談かなにかのような決着に、戦っていた全ての人間がしばし理解を手放した。

 

『さて……些か興を削ぐ顛末かも知れぬが……歌はどうした? よもや言葉を失ったとは言うまいな?』

 

 クジラもバテン・カイトスも歌すら忘れるほどに呆然とする急展開。

 ことの全てを理解しているのは、事を仕掛けたマグロとテスカトリポカのみ。

 彼女は皮肉るように声を投げかけ、遠目にも分かるほどに嘴を愉悦に鳴らしていた。

 

『……最後に一つ、余からも問おう』

『……なにかしら?』

 

 硬直した空気を打ち破るように、声色を変えたテスカトリポカの声が響く。

 通常ならば到底届かぬ遠距離からの独白を、クジラの耳は正確に拾い、言葉を返して次の言葉を待った。

 

()()()()()()?』

『え……?』

 

 なんでもないように投げ掛けられた、何気ない言葉。

 まるで癇癪に泣き疲れた子供をあやすような穏やかさで、テスカトリポカはクジラに問う。

 

『稚児の駄々は耳に障って好かん。余に歌を捧げるならば、もう少しマシな顔になって出直してこい』

『…………ふふ』

『まぁ、我がマスターに聴かせてやるならば、その程度で充分かもしれぬがな』

『……うふふ、あははは。アッハハハハハハ!!』

 

 クジラは腹を抱えて笑い、眦に涙すら浮かべて呵々大笑した。

 あまりに軽い、あっけない限りの短い言葉。

 しかしそこに込められた想いを察して、クジラは心の底から笑う。

 

『ま、マスター……?』

『あっはっははは……はぁー、おっかしい! ほんとうに、こんなときに、そんな言葉……』

 

 都市を壊滅に追いやる惨劇を齎したとは思えない童女のような声が、必殺スキルを通じて領域内に伝播する。

 地上の人々はクジラの声だけが届き、如何なる経緯で彼女が笑うに至ったのかを掴めず、ただ次なる脅威を警戒した。

 そんな地上の緊張を知らぬとばかりに、上空では一変して和やかな空気が満ちる。

 

 ――――両者共に、決着がついたことを察していた。

 

『まるでデウス・エクス・マキナね、あなた。なにもかもが台無しよ、歌いたい気分でもなくなっちゃった』

『そうか、ならば……』

 

 テスカトリポカがバテン・カイトスの目前に滞空し、その鉤爪を開く。

 

『ならば死ぬがよい、【歌姫】とその使徒よ。我らと汝らの友誼は変わらず、故に引導を渡してくれる』

『そうね。……こっちでもう会えそうにないのは、ちょっぴり寂しいけれど』

 

 一瞬にして数キロメテルの距離を取り、次の一瞬でその距離を詰める。

 弾丸と化した赤き魔鳥の全身は、同サイズの白鯨を過たず捉え、その鉤爪の鋭利と加速を以て引き裂かんとし。

 

 

 それを阻むように最大出力の破砕音波が二人の周囲に壁のように展開され――――

 

 ――――それを強引に突き破って、最期の抵抗を蹂躙した。

 

 

『ああ……』

 

 バテン・カイトス諸共に引き裂かれ、無惨を晒し死にゆく美貌に笑みを浮かべながら。

 地に墜ち逝くクジラは、手を伸ばして満天の夜空を仰いだ。

 

『そういえば()()のは初めてね。……まるで夢から醒めるよう』

 

 疲れ果てて耐え難い現実に戻るのではなく。

 やりきれぬ憎悪と共にこの世界へ踏み入るのではなく。

 そのどちらにも無い、久しく感じなかった晴れやかな心を自覚して、クジラはそっと目を閉じた。

 

『……そうね、次はあなたのための歌を唄いましょう――――マグロちゃん』

 

 自分を止めるためにこの世界での命すら擲ったマグロに敬愛を抱きながら。

 ふと込み上げた想いを歌にすることを決意して、別れの言葉を口にした。

 

 

『さようなら。――――またね』

 

 

 そうしてクジラがデスペナルティになるのと同時。

 《ラスト・コマンド》の効果時間限界を迎えてマグロもデスペナルティとなり、それに合わせてテスカトリポカも光の塵と消えた。

 

 

 To be continued

 




(・3・)<結論
(・3・)<<超級>は大体どいつもこいつもアタマおかしいし傍迷惑(例外アリ)

 ◆マグロの切り札について
大半の方がお察しだったように、《ラスト・コマンド》でした。
これとの組み合わせのせいでクッソ使いにくいことで定評のあるテスカトリポカの必殺スキルがトンデモ地雷と化します。
小分けに必殺スキルを使うのではなく、ドカンとリソース全ブッパすることによって、時間制限付きで頭おかしい性能になりました。
大体の戦いで最悪相打ちにまで持っていける、相手にとっては嫌がらせ以外の何者でもないビルドです。
勝てる勝てないの領域ではなく、戦っても得られるものがほとんどないという意味でマグロは有害です。
マグロにとっても退屈極まりないリアルへの強制退去を強いられるので、本当に奥の手です。
大体はこんなん使うハメになる前に逃げます。今回逃げなかったのは、それだけクジラのことを真剣に想っていたからだとご理解ください。

ちなみにマグロのジョブ構成は以下の通り。

 下級職:【従魔師】【死兵】【整体師】【動物美容師】【騎兵】【冒険家】
 上級職:【高位従魔師】【死騎】
 超級職:【獣神】

戦闘能力を完全にテスカトリポカに依存しています。
【整体師】と【動物美容師】は彼女のケアのためですね。
【冒険家】は少ない枠でいろいろと便利なスキルが習得可能だからですね。

賛否両論ありそうなあっけない幕切れでしたが、これでクライマックスバトル終了です。
次回かその次の回をエピローグにして、本エピソードを完結させたいと思います。
途中で全体からの書き直しを挟み、それでもなお不足はあろうかと思いますが、私なりに全力を尽くしたつもりです。
アポストルという扱いの難しい題材を持ち出してまで書き始めた本エピソードでしたが、それだけに書いててとても楽しかったです。
書き手として私が楽しめたように、読み手の皆様が本エピソードを楽しんでいただけたなら、それに勝る喜びはありません。
……ごめん嘘ついた。原作に触れてくれる人が増えるほうがもっと嬉しいや!

ともあれ、残り少なくなりましたが、もうしばらく拙作にお付き合いください。
それでは~
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。