我は彼の奴隷なり   作:ふーじん

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メリークリスマス……?


失せ人探しの姫君

 □【獣神】マグロ

 

 

 その後も私達は幾つかの関所と街を経つつ東へと向かっていた。

 普通は竜車や馬車を利用する旅路を徒歩で行くものだから自然と日数は掛かり、中央の中立地帯に程近い距離まで来る頃にはこちらの時間で一週間が経過しようとしていた。

 ……徒歩とはいえ些か以上に時間が掛かりすぎた感は否めない。だけど合間合間の宿場町や城下町を観光しつつ進んでいれば、これでも割と先を急いだ方だ。

 

 別に時間に追われるような理由も無いのだけど、カルディナから始まった諸国漫遊の旅は力不足を克服するための武者修行の旅でもあるので、のんびり観光気分に浸っているわけにもいかない。

 私にとってのパワーアップとは、イコールカトリ様のパワーアップであり、カトリ様のパワーアップと言えばモンスターの乱獲とドロップ素材によるスキルラーニングだ。

 特にカトリ様は天地の固有種に興味津々であられるご様子で、暇さえあればモンスターを狩ろうとするのだから仕方がない。

 この数日で天地の風土にも慣れてきたのを見越して、ちょくちょく寄り道して適当な群れを殲滅したり、町では聞き込みして近い狩場へ赴いたりと、正直これさえ無ければ今頃とっくに中央に着いてたんじゃないかな。

 

「うむ……粗末な獲物とはいえ小腹を満たすには悪くない、悪くないぞ」

「以前と言ってることが違う……」

「余は切り替えが早いのだ」

 

 つい先日まで<UBM>に限るだとかなんとか、グルメ気取りなこと言ってたのに今ではこれだ。

 <UBM>討伐特典(高級料理)から一転して雑魚モンスターのドロップ(ジャンクフード)続きだけど、結局のところカトリ様は食えればなんでもよかったりする節があったりする。

 ……正直にそれを言うとお高いやつを献上するまでヘソを曲げるから口には出さないけど。

 

 今しがた狩り終えた獲物を頬張りながらカトリ様がしばし食事に励む。

 その間に私は散らかったドロップアイテムを回収しながらカトリ様が食事を終えるのを待ちながら、ウィンドウを開いてマップ画面を確認する。

 この調子だとそろそろ――

 

「それで、そろそろ西部の東端であったな」

「はい、次の町が最後の大規模拠点になるみたいです。そこから先は中立地帯のようですね」

 

 指先を舐め取りながらのカトリ様の言葉に頷いて答える。

 彼女の言う通り西端から東へ向けて十日程も歩いた今、私達は既に西部の東端まで辿り着いていた。

 そして中央への玄関口には一際大規模な――宿場や花街、各種ギルドに商店街を内包した一大拠点が構えてあり、日夜大勢の人々が往来しているらしい。

 

 ちなみにこうした拠点は中央の東西南北へ同じように設けられているらしく、様々な大名家の手の者が潜みながらも牽制しあい、絶妙な均衡を保つ半中立地帯として成り立っているようだ。

 なので他の領地と比べても格段に治安が良く、悪さをすれば忽ちお縄にかかることは間違いない。

 ……ってどこかの宿場町のおばちゃんが言ってた。

 

「ただ、出るときはともかく、入場には<マスター>でも手数料がかかるみたいですね」

「ふむ、だが問題無かろう? 金に困らぬ程度には素材は残しておったはずだしな」

「まぁそうなんですけどね」

 

 モンスターの素材はいろんな用途に使えるから常に一定の需要がある。ましてあちこちが激戦区の天地なら何をか言わんや。

 ある程度の規模がある集落ならどこででも買い取ってもらえるので、最初に漁村に滞在していた頃と比べれば今の懐は大分温かいのだった。

 

 そういうわけなので今後の路銀の心配も無く、カトリ様と雑談しながらゆるゆると街道を進む。

 ここまでくれば野営の必要も無く、日が暮れる前には辿り着けるだろう。そう考えながら進んでいくと、ややもして大きな門構えが聳えているのが見えた。

 

「あれですね。今は通行人も少ないようで、そう待たずに済みそうです」

「手間が少ないのであれば何よりだ。余は少し隠れておくぞ」

 

 そう言ってカトリ様は白蛇形態になって服の中へ潜り込んだ。

 <超級エンブリオ>になってからというもの、メイデン体や以前までのジャガー形態よりもこの姿で居ることがすっかり多くなってるなぁ。

 人目を避けやすく歩く手間が省け、なにより私の護衛に最適だから仕方がないのだけど、おかげで平時はすっかりカトリ様に乗ることも少なくなってしまった。

 

 ちょっぴり寂しい気持ちになりながら門へ近づいていくと、なにやら騒々しい様子が見えた。

 よく見渡してみると、どうやら門番さんと入場希望者が揉めているらしい。もう片方の門番さんが後続を捌く傍らで、長柄の槍を突き立て凄む男性の姿が窺えた。

 

「ティアン、<マスター>を問わず入場には金銭を頂戴する。例外は罷り成らぬと、何度言えばわかるのだ」

「で、ですが……」

「これ以上手を煩わせるならしょっ引くぞ! 女子(おなご)だからとて容赦はせぬ、素直にリルを用立ててから出直すのだな」

「…………申し訳、ございません」

 

 どうも入場料を支払えず門前払いを食らったらしい。

 しばらく問答を交わしていたようだけど、結局は入場叶わず追い返されるのが見えた。

 安くはないが法外では決してない入場料を用意しないままここまで来るとは、私が言うのもなんだが随分と間抜けな旅人さんだ。

 

 ちなみに余談だが、無理矢理押し通るのは絶対におすすめできない。指名手配されるのは勿論だけど、それ以前に門を預かる門番というのは正規兵の中でも特に腕利きのエリートで、ティアン同士ならほぼ確実に門番の方が戦力が上回るからだ。

 なにせ日夜どこの者とも知れぬ人間を見張り、いざというときにはそれを取り押さえられる腕っ節が要求されるのだ。治安上の観点から見ても、一番の腕利きを配属するのは当然と言える。

 まして天地ならカンストしててもおかしくはない。おそらくは詰所に控えた人員も含めてレベル五〇〇に達した猛者揃いだろう。間違っても逆らうなど出来やしなかった。

 

 名残惜しそうにしながらもすごすごと引き下がった旅人さんは、思いがけないことに華奢な女性だった。

 見目麗しく品の良い仕立物に身を包み、小さく眉尻を下げて悲しむ様は、旅人と言うよりもどこぞのお姫様のようにも見える。

 しかしそれにしては同行者がいる様子も無く、今しがた金銭で揉めていたこともあり、何やら訳ありであることが容易に察せた。

 

「……あの」

「へっ?」

「わたくしの顔に、なにか……?」

 

 どうにも目立っていたのでまじまじと眺めていると、彼女がこちらを見上げていることに気づいた。

 さすがに私の様子も不躾だったようで、不審げに窺う目と視線が合った。

 思わず自分を恥じ、慌てて頭を下げて謝罪する。

 

「す、すみません! さすがに失礼でしたよね、なにやら揉めているようだったので、つい野次馬してしまって……」

「はぅ、それは見苦しいものをお見せしてしまいました……、……?」

 

 彼女はそこでふと周囲を見回し、恐る恐るといった様子で小さく呟く。

 

「……ひょっとして、目立っておりましたか?」

「たぶん……かなり」

「はぅぅ……」

 

 そこでようやく彼女は自分が悪目立ちしていたことに気づき、小さく蹲って頭を抱えるのだった。

 

 

 ◇

 

 

「なるほど……まぐろさま、と申されるのですね。聞き慣れないお名前ですが、はて……?」

「まぁそこは<マスター>なので、天地の方からすれば変な名前かもしれませんね」

「<ますたぁ>……風の噂に聞く、旅の方……でしたか」

 

 そのまま彼女を見捨てて入場するのも忍びなく、立ち話も何なので手近な茶店(こうした門前には入場待ちの行列客を狙った小店がしばしばある)にお邪魔してお茶とお団子を頼んだ。

 私だけ食べるのも嫌味っぽいので彼女の分も頼んで持ってきてもらったのだが、彼女は一言礼を言うと行儀良く口にしてほっと一息吐いていた。

 

 その様子から見るに明らかに上流の、人に奉仕されることに慣れている類の人間であることが見て取れたが、そんな人物が何故一人身でこのような場所にいるのか。

 それを聞き出すにもまず自己紹介をと思い、互いに一服しながら名乗りあったのだが……なんというか、すごくぽわぽわしてる。

 ていうか、すごくデジャブを覚える。カルディナでクジラさんを拾ったときもこんな感じだったなぁと思いながら、彼女が切り出すのを待った。

 

「わたくしは……()()、と申します」

「ニエさん、ですか?」

「はい。そのように呼ばれておりました」

 

 私に負けず劣らず(?)へんてこな名前だと思ったが、そうでもないのかな?

 大昔の女性の名前がそんな感じだったって、テレビか何かで見たような気がする。

 おタエさんとか、おキヌさんとか、そういうのだと思えば別段おかしくはない……のかなぁ。

 

 ともあれ、そのニエさんが何故このような場所にいるのか。

 それを尋ねると彼女はじっと考え事をしたあと、ぽつぽつと静かに語りだした。

 

「人を……探していました」

「人、ですか……」

「はい。……話せば長くなるのですが――」

 

 ゆっくりと思い出すように語った彼女の話を纏めると。

 

 彼女はやはりさる大名家の姫君であるらしく、ある日流れの武芸者に助けられたのだという。

 長年領地を脅かしていた<UBM>。定期的に見目麗しい少女を供物に求めるその<UBM>にある時ニエさんは選ばれ、領とお家の安泰のためやむなく嫁入りに向かった。

 嫁入り、というのは件の<UBM>が供物の少女を花嫁と呼んで求めるからで(思わず変態<UBM>(ユニケロス)を連想した。訴訟)、その実態が如何なるものであるのかは誰も知らない。しかし過去には逆らったことでとんでもない被害を受けた事例があり、その祟りを避けるための苦渋の決断であったという。

 ともあれニエさんはそうして<UBM>のもとへ向かい、あわや<UBM>の毒牙にかからんとしたところで……

 

「その武芸者に助けられた、と」

「はい。……おもえばあの方も<ますたぁ>だったのかもしれません……」

 

 その武芸者というのがとんでもなく強かったそうで。

 突如として天から飛来しては、拳の一撃で<UBM>を仕留め、そのまま天を翔けてニエさんを領地まで送ったのだという。

 目にも留まらぬ一瞬の出来事で、ニエさんが我に戻った頃にはとっくにどこぞへ消え失せていたのだとか。

 

 ……うーん、聞くからにトンデモな話。これは間違いなく<マスター>の仕業ですね。そうでなきゃ天狗かな?

 ていうか強さは知らないけれど<UBM>を一撃粉砕ってそれ、ひょっとしなくても<超級>の仕業では?

 スターリングさんならやれそうというか、そういうことをしそうな心当たりはスターリングさんしか無いんだけど、彼はそんなほいほい空飛べるような感じでもないし、そもそも天地にはいないはず……いないよね?

 ……スターリングさんのことだからひょっこり訪れててもおかしくはなさそうだけど、それはさておき。

 

「ということは、その武芸者のことはろくにわかってない……ということです?」

「いえ……しかとこの(まなこ)に焼き付けております」

 

 さいで。

 

「うーん、活躍はすごいけれどさっぱり人物像が見えないですねぇ……具体的にはどんな方だったんです?」

「……とても、逞しい殿方でございました」

 

 逞しい……?

 

御髪(おぐし)は黄金に輝いて……手も足も太く、身の丈も高く筋骨隆々としておられて……眼も晴れた空のように青かったのを覚えております」

「い、意外とはっきり覚えてるんですね……」

「物覚えには、少々自信がございますので……」

 

 呆然としていた割にはすごい記憶力だ。

 とはいえそれだけ鮮烈な出来事、却って覚えやすいこともあるかもしれない。

 

「あと……」

「あと?」

「とても雄々しい高笑いがよく響いておりました……」

 

 ……なんだろう、今脳裏をとってもメリケンなアメフト体型のジョックが駆け抜けていった。

 高笑いて。『HAHAHAHA!!』とでも笑うのだろうか、白い歯を輝かせて。アメリカか。

 

「……ひょっとしたら」

「ひょっとしたら?」

「……あれが伝説の大天狗様なのかもしれません」

 

 …………それは違うんじゃないかなぁ?

 いや、デンドロのキャラメイクってめちゃくちゃ自由度高いから天狗っぽいアバターも不可能ではないだろうけど、話を聞く限りそれは間違いなくジョックだ。天狗ではない。

 欧米に天狗はいない。……たぶん。NINJAとサメはいるけど。

 

「大天狗様か、<ますたぁ>か……はたまた大天狗の<ますたぁ>様かは存じませんが……その件で一言物申したく、こうして野に出た次第です」

「それはそれは……」

 

 しかし話を聞くだけでも随分と濃い印象の人物だ。特徴的なのは探しやすくていいかもしれないけれど、だからってお姫様が単身追いかけるって……武家として大丈夫なのだろうか。

 そのことを尋ねてみると、彼女はそこで初めて言葉を濁し……そのまま口を閉ざしてしまった。

 さすがに深入りしすぎたかな。とはいえ、お家事情を詮索するのは天地の武家にはご法度だろう、一言詫びて素直に引き下がった。

 

「しかしなんでまたここまで? 聞く限りだと大分離れてますよね?」

「……この町には()()()()()()なるものがあり、そこへ依頼すれば失せ人を探してもらえる……と聞きました。ゆえに足を踏み入れたくおもったのですが……」

「ああ、成程。それなら確かに……って、依頼を出すならちゃんと報酬も用意しなきゃいけないんじゃあ?」

「……………………、!」

 

 いやそこでハッとされても。

 

「ちなみにですが、どうやって入場してギルドへ依頼するつもりだったんです?」

「物々交換で……よもやリルなるものが必要だったとは露知らず……」

「金銭がわからないって……今までどうやって暮らしてきたんですか……」

「身の回りは、すべて侍女が済ませておりましたので……」

 

 ああ、そういやこの人お姫様だった。

 生憎と知らない大名家だけど、ていうか天地の大名がどういうものかは全然知らないけれど、そこのお姫様ならリルを扱うなんてことがなくてもおかしくはない……のかな?

 

「だけど物々交換って……何を交換するつもりだったんです?」

「何分、物の価値はとんとわかりませぬゆえ、見せて選んでもらうつもりだったのですが……」

 

 といって彼女が巾着型のアイテムボックスが取り出したのは――種々様々なドロップアイテムの数々だった。

 てっきり私物のアクセサリーか何かと思いきやモンスター素材が大半のそれは、とてもではないが良家のお姫様が家から持ち出すようなものではない。

 中にはカトリ様すら関心を向けるような、明らかに強力なモンスターのレア素材なども混じっていて、彼女がこれを所有していることに困惑を抱いた。

 

「あの、これって……」

「道すがら、遭遇した()()()()()を仕留めた際の残り物です……どれほどの価値ともわからぬゆえ、とりあえず片端から拾ってまいりましたが」

「ほう、これはこれは……思いがけず、随分な芸達者のようだな」

 

 そう愉しげに笑って顔を覗かせたカトリ様が告げた言葉。

 それは私にとっても予想だにしなかった驚愕の内容。

 

 【剣豪】にえ――()()()()()()()()

 

「…………?」

 

 世間知らずそのものの表情でぼんやり俯く彼女自身が、恐るべき武芸者である証拠だった。

 

 

 To be continued

 

 

 

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