我は彼の奴隷なり   作:ふーじん

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・2019/09/13 加筆修正
 主人公の<エンブリオ>によるステータスのマイナス補正の内容を変更。

 理由:基本仕様としてのマイナスステータス補正はTYPE:ボディの共通仕様だと判明したため。
 修正:固有スキル《人身御供》を習得。本来のステータス補正をゼロにした上で、このスキルの効果により全ステータス補正にマイナス修正を適用。
 結果:ステータスのマイナス補正の理由を変えただけで、修正の前後で主人公の戦力に変更はありません。


第四話

 □【高位従魔師】マグロ

 

 

 カトリ様は、私自身の不足を補うが如くなにかと器用な<エンブリオ>だった。

 まず初めて孵化した時と同様に、戦闘の全ては彼女が代行してくれている。

 野を駆け、敵を察知し、追い詰め、蹂躙する。さながら本物の野生動物のように鋭敏な感覚を以て、極めて効率的に討伐数を重ねていく彼女のおかげで、私は戦わずして多大な経験値を獲得できている。

 レベリングも他の<マスター>と比べて素早く、私は早くも【従魔師】をレベル五◯まで上げ(カンストし)、他にも幾つかの下級職を育て上げた後、直接の上級職である【高位従魔師】に就いてそのレベリングへ移っている段階だ。

 

 客観的に見て、私のカトリ様は他の<エンブリオ>と比べて妙に強い。

 同じガードナーでも頭一つ抜きん出たステータスは、彼女だけを見れば一種のチート(ズル)のようにも思えるだろう。

 

 だが当然のことだけど、何の代償も無しにそのような恩恵を受けられるはずもない。

 一番最初に覚えた固有スキルの影響もあるにはあるけど、あれだけで今ほどの強さを得られるわけがない。所詮はスキルだしね。

 カトリ様の()()の背景には、必ず私の()()があった。

 

 それは<マスター>へのステータス補正。

 通常、如何に適正が低くとも少なからずステータスを底上げする筈の補正が、私の場合は()()していた。

 元々ステータス補正がゼロだった私の<エンブリオ>だけど、カトリ様が第三形態に進化する際に覚えた固有スキル《人身御供》。全ステータス補正にマイナス修正を与える代わりにカトリ様へ特殊な成長補正を与えるスキルによって、私がジョブレベルの上昇によって得るステータスは本来よりも大きく減少している。

 そしてそのマイナス補正は進化を重ねるたびに一層深刻化し、<マスター(わたし)>はより弱く、一方で<エンブリオ(テスカトリポカ)>はより強くなり続けていた。

 

 おかげで私のステータスは上級職にありながら非戦闘系の下級職にすら劣る数値で、私自身の運動の才能の無さによって、このゲームを始めたてのルーキーにすら惨敗を喫する有様だ。

 およそ戦闘において無敵を誇るカトリ様が敗れる一番の理由は、<マスター>たる私が先に死ぬことによるものが殆どだった。

 

 つまるところ私達の戦闘力はあまりにアンバランスで、最強のテイムモンスター(ガードナーは分類的にはそうなる)と最弱のマスターという、相手によってはカモでしかない歪さに彩られていた。

 

 そんなスタイルだから、戦闘時の私の役割はひたすら《贄の血肉は罪の味》の痛みに堪え、気配を殺して隠れ潜むことになる。

 隠れるのに秀でたジョブにも就いていないから隠れるのはほとんど気休めで、大抵は見つかる前にカトリ様が戦闘を終わらせてくれるのだけど、たまに強敵相手にカトリ様の手が間に合わず見つかって殺されてしまうこともあった。

 そうして失意のうちにログアウトして、二十四時間を耐え抜きログインすると、カトリ様からはこっ酷く叱られ、だけど最後には心配してくれるのだった。

 

 とにもかくにも、私の<Infinite Dendrogram>における生活の全ては、カトリ様に依存していると言っても過言ではない。

 そのため私の生活の殆どはカトリ様への従事に費やされ、昼も夜も無く日頃私のために働いてくれるカトリ様に恩返しをすべく、あの手この手でご奉仕するのだった。

 

「ほれ下僕、左右に蛇行しておるぞ。まっすぐに進まぬか、この戯けめ」

 

 だから、そう……

 

「レムの実だ、レムの実をはよう買って参れ!」

 

 この扱いは……

 

「好いぞ、好いぞ……少しは上達したではないか……。もそっと上を重点的にな……」

 

 恩、返し……

 

『うむうむ、やはりブラシは毛先が硬いものに限――』

「っしゃあオラァイ!!!」

『ぬわーっ!? な、なにをするかー!』

 

 いくらなんでも甲斐甲斐しすぎなんじゃい私ぃ! 奴隷か!!

 思わずブラシも投げ捨てるわ!

 

 ガードナー形態でブラッシングされるに任せていたカトリ様が、毛並みを逆撫でるブラシの勢いに驚いて飛び上がる。

 あれから更に一回り大きくなった黒いジャガーに取り押さえられじたばたともがく私。

 ステータスに差がありすぎるせいでビクリともしない、これだからガードナーは!

 

 戦闘力のほぼ全てをカトリ様に依存する私は、戦闘外でのほぼ全てを彼女への奉仕に当てている。

 だけどなぁ……そのためにジョブの習得枠を複数使って慰労するとか極端すぎる!

 なんだよ【整体師】に【動物美容師】って! マッサージとグルーミングのためにわざわざ取得して実践するってよっぽどだよ!

 

 ちなみに前者はメイデン形態に、後者はガードナー形態に奉仕するためのものだ。

 ステータスのマイナス補正があるとはいえ、それでもティアンの一般人程度の能力値はあるので習得自体は可能だった。

 私が戦えないのは、戦闘時の咄嗟の判断や運動が壊滅的だからで、日常面においては大丈夫なのだ。

 とはいえぶきっちょ寄りなのでレベル上げにはそこそこ苦労しているが。

 当然ながらこれらのジョブのステータス補正は低く、精々DEXがほんのり上がる程度だ。

 

 それにさぁ、だいたいさぁ……!

 

『な、なんだ……?』

 

 お金がもう、全ッ然無いんだよ! 生活苦だよ!

 素寒貧の貧乏生活待ったなしなんですぅー!!

 カトリ様が高級な果物やら手入れ用品やら化粧品やらをご所望されやがるせいで出費が嵩みまくってるんですぅー!!

 見ろよ、この無残な所持金をよぉ!

 

『な、なんだと!? そんなバカな、あれだけモンスターを狩っておきながら何故……ッッ』

 

 おわかりに、なられませんか?

 

『わからん……以前はこんなことはなかったはずだが……』

 

 はい、そこでメインメニューをご覧ください。

 ここ、スキル一覧あるでしょ? この項目、見てみ?

 このスキル、なんて言うんだっけ?

 

『ぷれでぇしょん・らーにんぐ……はっ!?』

 

 「はっ!?」じゃねーよまさしくそれが原因だよこんにゃろう!

 これを覚えたせいでバカスカバカスカドロップ品貪りやがって!

 

『し、しかしだな……余が力を得るためには仕方あるまい……?』

 

 カトリ様が<エンブリオ>として進化する際、三番目に覚えた固有スキルが()()だ。

 その名も《プレデーション・ラーニング》。倒した敵がドロップするモンスター素材を文字通り()()することで()()するというラーニングスキルだ。

 厄介なのは必ずしも習得できるとは限らない点で、むしろ確度としては極めて低確率だ。

 目算で一桁%、覚えようとすると大量にモンスター素材を消費しなくてはならない。

 

 その上で問題となるのが、この<Infinite Dendrogram>ではモンスターがお金(リル)を直接ドロップしないという点。

 すなわちお金を得るにはアルバイトをするか、クエスト報酬を受け取るか――或いはモンスター素材を売却するのが基本ということだ。

 

 そう、売却。モンスターのスキルを覚えるには素材を食べないといけないが、そうなると当然素材は失われて売却できなくなる。

 そして根っこは戦闘第一なカトリ様はより強くならんがため、ドロップする端から素材を捕食していってしまうため、これを覚えてからというもの売却による収入をアテにできなくなったのだ。

 覚えるべきスキルを持たないモンスターのドロップも、殊更(レア)を好む食癖を持つカトリ様によって大半が貪り食われてしまう始末。普段果物しか食えない分、血肉の味はより格別とは彼女の談である。

 

 そうなると収入は直接金銭を受け取れるアルバイトかクエスト報酬に頼らざるを得なくなるわけで、前者は少額に留まり、後者は野良狩りメインな私達では滅多に受けることがない。

 そんな状況下でカトリ様は以前と変わらず贅沢を申されるのだから……今まではなんとかやりくりしてきたが、それもついに限界を迎えてしまった。

 

『つ、つまり……?』

 

 はい、カトリ様。

 そういうわけなので今後しばらく、贅沢は一切禁止です。

 

「な、なんとぉーっ!?」

 

 宣告するとあまりにショックだったのか、メイデン形態に戻って頭を抱えるカトリ様。

 私? 私は普段から全然贅沢してなかったから平気。苦しむのは贅沢三昧だったカトリ様だけということだ、ケッケッケッ……!

 

 とはいえ、まぁ。

 カトリ様のせいで困窮しているとはいえ、そのおかげで戦力は十分備わりつつあるのだから、トントンと言うべきだろう。

 なにせ低確率とはいえ試行回数が膨大なため、自ずと覚えたスキルも膨大な数になり、様々な場面に対応できる万能性を発揮できるようになったからだ。

 

 第一の固有スキルによる強化、素のステータスによる戦闘力も相俟って、私達は王国における討伐ランキングでも上位に位置している。

 ……まぁトップ陣は頭おかしいポイントを稼いでてまさしく桁違いだったりするので、実際どんな狩り方をしているのか一度見てみたいものだけど。

 

 ともあれ、しばらく続いた休養期間もこれで終わり。

 これからはまた狩り暮らしが続くレベリングタイムだ。なぁに時間はたっぷりあるさ、食糧もコツコツ買い込んでいたしね。

 

「やむを得まい、な……余としたことが、些かばかり享楽に耽りすぎたようだ」

 

 そうやって切り替えや反省の早いところ大好きですよ、カトリ様。

 さ、また横になってくださいな。最後の香油ですけど、綺麗に毛繕いいたしましょうね。

 

『今度は逆撫でぬように気をつけろよ。ふぅ……』

 

 ああは言ったけど、こういう時間は嫌いじゃないんだよね。

 限度を覚えてほしいだけで。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 今日の狩場に向かう。

 王都内ではカトリ様を乗せた人力車を曳き、門前でそれを仕舞うと今度はガードナー形態になったカトリ様に乗ってフィールドを進む。

 この人力車は戦闘外での労力を厭ったカトリ様の発案により購入を強いられたもので、カトリ様曰く「王たる者が下々のように歩くなど言語道断」とのこと。

 カトリ様のファッション王様スタイルは進化を重ねるごとに酷くなり、それが普段の出費に繋がる一因でもあった。

 

 とはいえ、フィールドでえっちらおっちら人力車を――ましてや貧弱な私が――引いているとカモ以外の何者でもないので、外では渋々ながらもカトリ様の背に乗ることを許されている。

 一緒に走ればいいじゃないかって? 馬鹿を言ってはいけない。私とカトリ様のステータス差は桁違いすぎて、私に合わせる方が不利だし寧ろ疲れるとは彼女の言だ。

 

 そういう事情があって、私のサブジョブの一つには【騎兵】がある。

 理由は当然《騎乗》目当てだ。これが無いとカトリ様にしがみつくことすら儘ならない。一度それで落っこちて危うくデスペナルティになりかけたし。

 

 そのカトリ様の背から眺める景色は、正直に言って私では遠く理解が及ばないものだった。

 なにせ()()。私とカトリ様のAGIの差で両者の認識できる速さと時間には大きく開きがあり、カトリ様にとっては巡航速度でも、私の目にはリニアから眺める至近風景の如く超高速だ。

 時折全身に奔る痛みにすれ違いざま敵を屠ったことを把握はするけども、どんな敵をどうやって倒したのか、そうした具体的なことはその瞬間の私にはまるで分からなかったりする。

 

『そろそろ狩場につくぞ。そなたは適当なところに……うむ?』

 

 そうしてカトリ様に任せることしばらく、目的地に近づく最中にカトリ様が訝しげな声を上げた。

 すんすんと鼻を鳴らし、嗅ぎ取る匂いにいつもとは違う異変を察知したのか、私を木陰に寄せてそこへ隠れるように命じる。

 

『先客がいるようだな。随分と派手にやっておるらしい』

 

 成程、PKの可能性有りと。

 この一帯は高レベルモンスターが数多く生息するエリアだから、現在の環境だとわざわざここで<マスター>を狩るなんて真似普通はしないと思うけど、念には念を、だね。

 

 実際PKなんてものはその場の思いつきやなんとなくといった軽い気持ちで行われることが多い上に、<マスター>間での殺し合いは合法なので、他の<マスター>を見てもなかなか油断ならなかったりする。

 私も最初の頃は、狩場で遭遇した人の良さそうな<マスター>に挨拶しようとして、そのまま殺されたこともあった。

 あのときはショックだったなぁ……完全に不意打ちを食らって現実に引き戻されたものだから半狂乱になって、いつも以上に二十四時間が苦しく感じたっけ。

 その後はカトリ様と一緒に復讐に燃えて、デンドロ時間で四日くらい探し回って追い詰めたっけか。向こうはゲーム感覚だから最後までヘラヘラしてたけど、代わりにリルはしこたま分捕ってやったもんだ。

 

 あ、ちなみに私はPKしないよ。恨み買うのが怖いし、なにより旨味がそんなに無いからね。

 落とすリルもアイテムもランダムだし、アイテムに関しては消耗品以外の殆どが無用の長物になるので、報復以外では一度も自主的にPKしたことはない。

 

 そんな過去の出来事を回想しながら、去っていくカトリ様の背中を見送る。

 私は木陰に身を隠しながら気配を殺し、カトリ様が戻ってくるのをじっと待つ。

 

 これが私の戦闘スタイル。否、戦闘と称するのもおこがましい、みじめでひ弱な人任せだ。

 カトリ様の動向を察知する術は私には無く、身体に奔る痛みと増減するカトリ様のパラメータ、少しずつ増えていく経験値バーだけが彼女の行動の結果を示す。

 ……HPの増減と痛みが止まった。その後しばらく待つも、カトリ様が戦闘を再開する様子は見せない。

 

 どうやら無事に事が落ち着いたようで、私はほっと胸を撫で下ろす。

 とはいえ彼女が戻ってくるまで油断はできないので、心のなかで彼女のいち早い帰還を祈りながらじっと身を潜めて待った。

 

 そうして潜伏することしばらく、やがて足音が――これはカトリ様のものだ!――近づいてくるのを察知し、同時にキュラキュラという音も――

 ……キュラキュラ?

 

 

『見つけたクマー。あんたがコイツのご主人クマ?』

『違う、余がこやつの主なのだ』

『こんにちは』

 

 

 不審に思った私が顔を上げると。

 そこにはクマとジャガーと戦車がいた。

 

「……………………」

 

 ――殺られる……!

 命の危機を察した私は、その場で迷わず土下座した。

 

 




我らがクマニーサン登場
今後二次創作が流行ったなら、間違いなく引っ張りだこですね(

・現在の主人公のジョブ一覧(一部)
 メインジョブ:【高位従魔師】
 サブジョブ:【従魔師】【整体師】【動物美容師】【騎兵】
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