特典武具の名前を変更しました
・修正報告2
GA.LVERのHP・MP・SPを修正しました。
□GA.LVERという男
GA.LVER……本名ジョナサン・ミッチェルは、生来病弱な少年だった。
生まれつき免疫力が弱く、軽い病でも簡単に倒れ生死の境を彷徨ったことも何度もある。
そんな子だからこそ周囲も憐れみ、安全な場所へと匿うように保護し、およそ活発とは縁遠い環境で育ってきた。
学友達が励むスポーツの輪にも加われず、そもそも病弱が祟って付き合いを深められる相手もいない。
外を出歩く自由すら乏しい彼の関心は自然と内側へと向き、屋内でも楽しめるコミックやゲームといった娯楽を愛好するようになっていった。
彼が特に愛したのは、祖国アメリカが誇る最大文化の一つであるアメコミ。
そこに登場する数々の超パワーを誇る屈強な戦士達――ヒーローの物語だった。
最早伝統ですらある
彼らの活躍に夢中になり、憧れを深め、ひたすらそれに没頭していった。
自分には叶わない絶対無敵の正義と自由を謳歌する彼らの虜となったのだ。
そうしていつしか立派な
かねてより長生きはできないと宣告されてきた彼の成人を周囲は盛大に祝い、集まった親戚の一人があるゲームを彼にプレゼントした。
そのゲームの名は<Infinite Dendrogram>。同年の七月一五日に発売されていた、史上幾度目かのダイブ型VRMMOであった。
そのとき周囲は、それをプレゼントした親戚へ猛然と詰め寄った。
それもそのはず、史上初のダイブ型VRMMO<NEXT WORLD>を発端として世に出回ったダイブ型VRMMOの数々は、その画期的な内容とは裏腹に未だ成熟には程遠く、ともすればプレイヤーへの健康被害すら問題視された曰く付きのジャンルだったからだ。
世に蔓延るダイブ型VRMMOへの疑念とレッテルは根深く、そのようなもの病弱なジョナサンへ勧めるなど、当時の常識からすれば顰蹙を買って当然の暴挙であった。
だが、それを勧めた親戚の意見は違った。
発売直後から先んじてそのゲームをプレイし、その世界に触れていた彼は断固たる自信を以てこう言ったのだ。
「このゲームは
既にゲーム内で<マスター>としてプレイしていた親戚の強い勧めもあり、ジョナサンはそれに触れてみることを決意した。
周囲の反対は強かったが、絶対に大丈夫だという親戚の言葉と、万が一の場合は彼が責任を取るとの態度もあって、周囲は渋々押し黙った。
そして彼は恐る恐るゲームのスイッチを入れ――
彼を出迎えたのは、いたるところに異形をそなえた魔人だった。
管理AI四号のジャバウォックと名乗った彼は、懇切丁寧にチュートリアルの数々を説明してキャラメイクを促していたが、当の本人の関心はそこにはなかった。
――すごい! 本当に生きてるみたいだ!!
仮初のアバターで足を踏み入れ、五感の全てが余さず齎す情報の全てに彼は歓喜し、ひたすらハイテンションで動き回った。
キャラメイクもまだなリアルそのままの仮アバターだったが、生身の身体にあった倦怠感がまるで無い。
健康そのものの肉体を初めて味わい、その喜びのままに暫し彼ははしゃぎまわった。
ジャバウォックはそんな彼を微笑ましく見守り、彼が満足するまで待ってから再びチュートリアルを開始した。
ジョナサンは今度こそ彼の説明を聞くことができ、説明が進むほどに目を輝かせ、ただただ世界への興味を募らせていった。
そして着手したキャラメイク。
アバターの作成段階で彼は、ずっと昔から憧れていたヒーロー達への想いをそのままにした、線の細い生身とはまるで正反対の、見るからに逞しい戦士の姿を創造した。
彼が夢想した理想のヒーロー。その体現となる屈強な勇者を形作り、それを自らの身体として動かし歓喜する。
筋骨隆々とした体格で子供のようにはしゃぐ彼をジャバウォックは見守り、そしてまた彼が落ち着いた頃合いを見計らって、今度はこの世界における
ゲームとしてアバターを作成した以上、当然それを表すプレイヤーネームも必要となる。
問われたジョナサンはしばし考え込み、やがて呟くように己の名を告げた。
――GA.LVER……うん、GA.LVERっていう名前がいいな
――ふむ、表記はアルファベットで……ユニークな名前だ。理由を聞いてもいいかね?
――ええっと、実際口にすると少し気恥ずかしいのだけど……
彼はこの世界を
この世界で味わった喜びを
だからその想いを形にして……それぞれの頭文字を取ってGA.LVERと名付けた。
新世界への期待を込めた、彼の想いの全てだった。
ジャバウォックは彼の言葉を聞いて満足そうに微笑み、いよいよ彼を<Infinite Dendrogram>の世界へと送った。
深山幽谷が立ち並ぶ大自然の国、<黄河帝国>をリクエストした彼の意を受け、その地へと彼を送り出した。
突然空へ投げ出されたのには驚いたけれど、それすらも楽しんで彼は黄河の地へと降り立ったのだ。
◇
それからの彼は心底<Infinite Dendrogram>へと熱中した。
五感で感じる全てが目新しく、興味と好奇心は湧き上がる端から溢れて止まらず、ゲームならではの戦闘や、その世界に住まう人々――ティアンからのクエストを楽しみ、思う存分新世界を満喫していった。
既に内部時間では半年が経過し、当時の認識では後発組のニュービーに甘んじていたGA.LVERだったが、彼に芽生えた<エンブリオ>の力によってめきめきと頭角を現し、当時のトッププレイヤーの仲間入りを果たしながら遊び尽くした。
興味を示した端から様々なジョブを体験し……【料理人】に【園芸師】、【戦士】に【剣士】に【闘士】。果ては【軽業師】といった変わり種まで、戦闘・非戦闘の区別なくありとあらゆるジョブに触れて回った。
ゲームを楽しむにしても非効率極まりない節操なしなプレイスタイルだったが、彼の<エンブリオ>がその無茶を成立させた。
数々のジョブに就いてクエストをこなし、そうする内にティアン・<マスター>を問わず様々な人物と交流を重ね、彼はいろんな界隈を渡り歩く変わり者の<マスター>としてたちまち有名になった。
本人の人柄もあって周囲に好かれ、まさに順風満帆なデンドロ生活を過ごしていった。
そうして様々なジョブに就き、クエストや戦闘をこなしていったGA.LVERだったが、一つだけ変わらず就き続けたジョブがあった。
それは【
その練体士系統の頂点に位置する【
その彼がある式典で見せた演武に見惚れ、老師が見せる動きの数々にかつて創作のヒーロー達へ抱いた同種の憧憬を抱き、想い募るあまり彼への弟子入りを志願したのだ。
虎老師は既に多くの門弟を抱える大道場の師範だった。
<マスター>とはいえ志願者一人抱えられぬわけもなく、彼にとってはありふれた日常として生返事でGA.LVERの弟子入りを承諾した。
彼にとってみれば直弟子、孫弟子含め数多存在する門弟のたかが一人。さしたる興味も無く、面会は式典で最後にしたまま、末端に紛れての修行の日々が開始する。
GA.LVERはそこでもすぐに頭角を現した。
弟子入りして間もなく【練体士】を極め、その上位職である【高位練体士】を極め、合計レベルも五〇〇に達して、門弟たちの中でも筆頭格へと昇り詰めた。
ティアンと違って<マスター>は才能の限界を持たない。少なくない同僚が己の才能に限界を感じて脱落していく中、レベル五〇〇に達したGA.LVERの存在は、それまでティアンばかりだった門下にあって異色極まりなかっただろう。
しかし周囲の思惑はどうあれ、彼は門下屈指の実力者として良くも悪くも名を馳せ、遂には老師直々の指南を賜るまでに到った。
……しかし、虎老師の目は冷ややかだった。
――
ただ一言、そう突き放すように言い放った老師は、それきりGA.LVERへの興味を失い消えていった。
レベルも極め、ステータスも相応に高め、練体士系統で習得可能な《練技》のレベルも鍛え、それでも老師はただ一言
GA.LVERの、初めての挫折だった。
何が到らなかったのかすら皆目見当もつかず、彼を疎んでいた一部の門弟はこれ幸いとGA.LVERを嘲笑った。
彼は思わず道場を後にし、理由のわからない苦悩を抱えたまま街へと逃れ出した。
そして途方に暮れていた彼を、ふと案じる声がかけられた。
それはかつていろんなジョブを渡り歩いていたことに知り合ったティアンの市民だった。
彼女は虎老師に師事して以降めっきり姿を見せなくなったGA.LVERとの再会に驚き、ついで嬉しそうに笑顔を浮かべたあと、どうやら彼が落ち込んでいるらしいことを悟ると、元気づけるように自分が営む食堂へと招いた。
GA.LVERが【料理人】もしていた頃に幾度となくクエストに通った、街でも人気の大衆食堂だった。
そこの顔こそ強面だが人情深い店主の無言の差し入れをかっ喰らい満足したあと、その温かさに戸惑う彼へ静かに言った。
「久しぶりに顔出したんだ、しばらく寄っていけ」……店主なりの気遣いだった。
道場に居場所を見出だせなくなっていたGA.LVERは、店主のその申し出を受け入れ、かつて【料理人】だった頃のように店の制服に身を包み厨房に立った。
それからしばらくは、また以前のように様々なジョブを渡り歩く日々が続いた。
それを通じて再会した人々は揃ってGA.LVERの無事を喜び、変わらない温かな友好を向けてくれた。
そして彼もまた、そんな彼らの助けとなるべく様々な形でその手を取り合ったのだった。
◇
それから長い停滞の時が続いた。
第二陣以降の後発組も増え、かつての同期が続々と実力を伸ばしていく中、彼は無節操で非効率なプレイスタイルを続けていた。
彼を知らないプレイヤーの中には口さがなく「取り残されたロートル」や「エンジョイ地雷」などと宣う輩も少なくなかったが、彼は顧みなかった。
彼らが己のレベルや<エンブリオ>を高めるのに従事する間も、彼はクエストをこなしてティアンの助けになっていった。
それを自己満足と言われれば否定はできないだろう。
しかし最早彼にとってこの世界は――そこに住まうティアンは、
確かな命の重さを宿した一個の人。そう疑いなく思えるほどに、彼らの存在はGA.LVERの中で大きくなっていた。
そして自らもまた、出生こそ違えど同じ世界を生きる一人の人間として、彼らと歩みを同じくすることを望むようになったのだ。
一方で彼は【高位練体士】も続けていた。
一度は見限られたと思い、今も道場に戻れないでいるものの、それを捨てることはなく、日々を過ごす傍らで彼なりに【練体士】の道を歩み続けた。
レベル上昇に伴って習得できるスキルの習熟も終えて尚、独学で試行錯誤し修練を重ねていく。
同時に【練体士】の真価を発揮するため、数ある前衛職の中から《武術》に秀でたジョブも育てていった。
武術家としての道を歩み始め、されど終わりは無く、実りも少ない苦難の道が続く。
しかし彼は腐ってはいなかった。
ステータスとして。レベルとして。確固たる数値として成長が見られないながらも、腐らず研鑽を重ね続けた。
プレイ時間だけは相応にあったから後続の<マスター>へのチュートリアル指南なども買って出るなどして、そうした日々を過ごしていたある日、突如として喚び出しがかかった。
相手は虎老師だった。
老師がGA.LVERを名指しで呼び出し、道場の老師の私室へと招いたのだ。
「お前、儂の後を継げ」
GA.LVERが居住まいを正すや否や、彼は端的にそう言い放った。
青天の霹靂とも言うべき衝撃的な発言に、彼は思わず身を乗り出した。
なぜそのようなことを。見込みなしと見限ったのではなかったのか――そう問い質すGA.LVERに対し、老師は呆れたような表情を浮かべた。
「はぁ? 儂がいつお前を見限ったよ」
「し、しかしあのとき……中身が無いと僕、いえ私におっしゃったではありませんか!」
「そりゃオメェ、入門してからというもの馬鹿の一つ覚えみてぇに【練体士】だけ鍛えやがって、そんなクソつまらねェやつに他に何を言えってんだ? 若ぇんだからなんでもがむしゃらにやってみろよ。大体お前、ウチに入門するまではそうしてたじゃねェか」
それは、彼もまたGA.LVERをよく見ていたことの何よりの証左だった。
「つっても道場の隅でこそこそいじけてたなら、マジで見限るつもりだったけどな。お前が逃げと思ったかどうかまではしらんが、道場を飛び出たあとはまぁまぁイイ顔してたじゃねェか。腐って【練体士】を辞めても見捨てるつもりだったが、拙ェなりにそこそこ根性見せたろ。いい加減放っておくのも飽きてきたから、これからは儂が直々に稽古つけてやんよ。血反吐や血の小便出るくれェドギツいから覚悟しやがれ」
老師の言葉に、GA.LVERは堪らず男泣きした。
己を見限ったものと一方的に思い込んでいた彼が、その実誰よりもGA.LVERを案じていたという事実に、歓喜の涙が溢れて止まらなかった。
感極まるGA.LVERを鬱陶しそうにする老師にも構わず彼は男泣きに泣き、泣き腫らした目でその申し出を快諾し、老師の直弟子となった。
そうして始まった稽古の日々は彼の言った通り過酷なものだったが、それを過ごすうちにその他の条件も満たし――遂に継承の時が訪れた。
GA.LVERの目の前で老師が己のジョブをリセットし【超練体士】の座を手放した途端鳴り響く、【超練体士】への転職クエストの通知。
そのアナウンスは紛れもなくGA.LVERに向けられ……彼の前には【超練体士】への道が開かれていた。
――行って来い、しくじるんじゃねェぞ
そうぶっきらぼうに見送った師の応援を受け、GA.LVERは転職クエストに望み。
そして彼は新たな【超練体士】となった。
◇
当代の【超練体士】となったのと時を同じくして、GA.LVERの<エンブリオ>もまた<超級エンブリオ>へと進化していた。
長い眠りから目覚めるように、彼の才能が花開くのを待っていたかのように進化した<エンブリオ>は――何も変わっていなかった。
たった一つしか無いスキル。
ただの一つも無いステータス補正。
上級職止まりだった頃には何の意味も為さなかった彼の<エンブリオ>が、ようやく鼓動を取り戻す。
そしてその高鳴りは――まさしく英雄の誕生を寿ぐ凱歌に他ならなかった。
その力の意味は白昼に晒されたのは、それから更に一年が経とうとした頃。
星をも揺るがす震撃の佳人――【撃神】が飛来した。
遍く観客を魅了する芸達者――【雑技王】が幕を開けた。
そして他の追随を許さぬ世界最高の漢――【超練体士】が立ち向かった。
三名の超越者が力を合わせ、遥かな
その時、戦いを見守っていた誰もが思い知った。
新たに名乗りを上げた<超級>の力を。
彼が何故"世界最高"と呼ばれるのか、その
彼こそは<黄河三奇拳>が一人、"超拳"のGA.LVER。
自由と正義を愛し、遍く不条理を打ち砕く者。
彼が何故強いのか――
――それは
◇◆◇
□■【妖魔工房 イッポンダタラ】
それは、戦いと呼ぶにはあまりに一方的な
イッポンダタラへと単身乗り込んだGA.LVERが啖呵を切ると同時に躍りかかった"鬼"たちが、次の瞬間には身体を打ち砕かれ倒れ伏す。
対魔が従える"鬼"の中でも上澄みの精鋭――【業物】以上の
精錬に精錬を重ねた【魂鋼】を用いた【魄刀】によって、そのステータスは戦闘系超級職にも引けを取らないはずの集団が……まるで赤子のように一矢報いることすらできていない。
時折迎撃を掻い潜って剥き出しの生身に刃を届かせる者もいるものの――皮膚の防御力だけで受け止められる。
そして次の瞬間にはコマ落としのように掻き消えたGA.LVERの姿が下手人の傍にあって、握り拳の一撃で粉砕された。
「信じらんねェ……
対魔は当初の余裕はどこへやら絶叫していた。
元より勝算があってけしかけた戦いではない。敗北など最初から想定の内にあった。
この戦いは対魔にとっても生き試しに過ぎず、たとえ手勢を失うことになろうとも、機会に乏しい<超級>との戦闘経験こそが目的の計画だった。
己を高めるためには、より質の良い戦闘経験こそが必要不可欠と考える対魔と狂獄の企みによる、一世一代の大勝負――そのつもりで、この無謀な戦いに臨んだ。
だが、かすり傷一つすら負わせられないとはどういう了見だ。
たとえ相手が名にし負う<超級>であろうとも、ただの一つも通用しないなど彼女の想定を遥かに超えていた。
世界に覇を唱える三つの"最強"達でもあるまいに……徒手空拳の男一人に、数多の命を吸ってきた【妖刀】が刃筋一つすら立てられないとは。
「……この感触、ティアンを使ったな?」
配下を叩きのめしていたGA.LVERがふとそう呟いた。
ティアンと断定するにはあまりに異形へ歪みきった怪物達を、そう断定した。
その顔には抑えきれない怒りが満ち満ちていて、燃えるような眼光が対魔を正面から射抜いていた。
「一体どれだけの命を費やした……見るからに子供もいるだろう。女もいるだろう。老若男女も係わらず、一体どれだけの屍を積み上げればこんな真似が出来る、外道」
「ハッ、だからなんだってんだァ!? どいつもこいつも身寄りを無くした生きる術の無ェ木っ端共、この天地にどれだけいると思っていやがる。ああそうとも、可愛い可愛い吾の
義憤に燃えるGA.LVERの問いに、対魔は居直って啖呵を切った。
鬼畜外道の誹りなど、とうにこの身は聞き飽きている。
そのような感傷など、とっくの昔に切り捨てた。
確かにこの世界は本物だろう。そこに住まう命も重いだろう。
「せっかくだ、どうせだからアンタで何もかも試してやるよ! さァさ暴れなよ色男、外道対魔の
対魔は右手の【ジュエル】を振り翳すと、そこから五つの異形を喚び出した。
呪具の作成を生業とする【大鍛冶師】対魔。彼女だけが製造可能な【魂鋼】。
それは決して容易い道程で創り得たものではなく、その背景には対魔が収めたありとあらゆる
対魔は【大鍛冶師】にして【高位錬金術師】。
下級職にも【呪術師】と【死霊術師】を修め、《鍛冶》と《冶金》と《呪術》と《死霊術》、これら四法を独自に追求した末にこの神話級特殊合金を編み出したのだ。
そして喚び出した異形は、そうして修めた業の副産物。
モンスター製造も得意とする《錬金術》と、アンデッド作成に長けた《死霊術》で生み出したアンデッドキメラに、ありったけの呪いを込めた武具を植え付け誕生した冒涜極まりない【剣魔】。
対魔としてはあくまで刀剣を主体とするために、その趣旨から外れた【剣魔】は外道でしかなく、故に銘も与えられなかったが……その力量だけは古代伝説級に相当する。
それが五つ。
上級止まりでしかない対魔が、今の今まで生き延びられてきた理由だ。
たとえ<超級>であろうとも、これら大異形を五つを前にしては苦戦は免れまい。
敵わずとも手傷の一つや二つは当然見込めるものと、破れかぶれにも似た対魔の号令でそれが一斉に襲いかかり――
「――足りない」
――GA.LVERに傷一つ負わせられず、皮一枚で受け止められていた。
大の異形が寄ってたかって男一人に太刀打ちできず、攻めあぐねてたじろいでいる。
彼の姿は一変していた。
その顔は、狐を模したマスクで覆われていた。
全身は黄金の輝きを放つコスチュームに包まれ、背には九つの狐尾がマントのように翻る。
その装いはさながら往年の覆面レスラーか――あるいはアメリカン・コミックのヒーローのようにも見えた。
一見してこの場にはそぐわない、ユーモラスですらある出で立ちだったが……その全身装備が放つ極大のプレッシャーが、その脅威を見紛わせるはずがない。
「【金猛覆面 ザカラ】――特典武具、だとォ!?」
咄嗟に《鑑定》した対魔が叫んだ。
それはかつて白鷺領に君臨した、生物のレベルを自在に与奪する
両手の武器とアクセサリーを除く全ての装備スロットを埋めるその全身装備の特徴は、実に単純明快。
それは、着用者の合計レベルの十倍のHP・MP・SPを加算する。
それは、着用者の合計レベルの二倍の攻撃力・防御力を有する。
それは、着用者の合計レベル分のダメージを軽減する。
元となった<UBM>の特徴を受けて、着用者の合計レベルで全ての性能が決まる。
それは偏に討伐者であるGA.LVERにアジャストした結果だ。
このような形に収まることが最も相応しいとシステムが判断した、GA.LVERの強み。
何故彼が"最高記録"の二つ名で知られ、
それは文字通り、彼が世界最高の
――合計レベル、五〇五〇の
故に、GA.LVERのHP・MP・SPは
故に、その攻撃力・防御力は共に一〇一〇〇の補正を受け。
故に、受けるダメージは五〇五〇軽減される。
そして今尚更新し続け、世界の最高峰に君臨する
誰よりも超越したレベルを持つために、"超拳"という身も蓋もない二つ名を与えられた者。
そのあまりに隔絶した暴挙を可能とした彼の<エンブリオ>の名は――
TYPE:ルール――――【無双玉体 ヘラクレス】。
一切のステータス補正を持たず、ただ一つのスキルしか持たない<エンブリオ>。
唯一許されたスキルもまた、単一の固有能力が進化を重ねた末の常時発動型必殺スキル――《
その効果は――獲得リソースの増幅。
――レベルアップに必要なリソース、その獲得量が桁違いに増幅される。
かつて上級職止まりだった頃、合計レベルが五〇〇の上限に達してからは、長らく無用の長物だった。
下級から上級まで、獲得リソースの増幅のみを固有能力としたヘラクレスは、限界の定められた器しか持たない間は全くの無意味だったのだ。
<Infinite Dendrogram>を開始して間もない当初こそスタートダッシュを決められたが、頭打ちになってからは、精々その特性を活かして多種多様なジョブを楽しむくらいしか使い道のなかった不遇の<エンブリオ>。
しかし、【超練体士】という無限の器を手に入れてからは違う。
ジョブレベルの上限を持たない超級職とヘラクレスのシナジーは言うまでもなく優れ、DEXとLUC以外が平均的に伸びる【超練体士】の特性も相俟って究極のオールマイティへと成長した。
一切のステータス補正も、他の特異なスキルも持たず、ただレベルという絶対の指標を極めることで、名立たる強豪の最上位に到達したのだ。
そのHP・MP・SPは軒並み数百万を数え、DEXとLUCを除く全ステータスが五万を超える。
そして練体士系統が得意とする自身を対象とした単体バフと、肉弾戦に長けた《武術》系戦闘職の存在もあれば……最早その存在そのものが生ける災害。
強敵との
「……僕は今、猛烈に怒っている! お前という悪を前に、最早躊躇いは何も無いッ!!」
「ッ――――!!」
彼の弱みであろう、ニエを咄嗟にけしかけて尚も足掻こうとしたのも束の間。
それよりも早く超音速でGA.LVERが踏み込み、対魔の五体を右の拳で粉砕し。
返す拳でニエを支配する【妖刀】を粉砕して自由を取り戻し。
「遅れてすまなかった。怖かっただろう、だけどもう安心していい」
「がるばぁ、さま……」
崩折れるニエを、その逞しい腕で抱きとめて笑顔を見せ。
涙に暮れるニエの雫をそっと指で払って。
「もう大丈夫だ――――僕がいる」
「がるばぁさま――!!」
絶対の自信を漲らせた、その威風堂々たる佇まい。
ニエはついに思いの丈を抑えきれず、ただ心が突き動かすままに、その胸へと顔を埋めた。
To be continued
【無双玉体 ヘラクレス】
TYPE:ルール 到達形態:Ⅶ
能力特性:獲得リソース増大
必殺スキル:《
モチーフ:ギリシャ神話における大英雄"ヘラクレス"
備考:
単一のスキルが進化を重ねることで必殺スキルに到ったタイプの<超級エンブリオ>。
常時発動型必殺スキル以外には一切のスキルを持たず、ステータス補正すらも全く無い。
そのため上級止まりだった頃はカンストした以外はティアンとほとんど変わらない有様だった。
反面超級職を獲得してからは、それまでの停滞が嘘のように爆発的に成長し、あっという間にレベルを上げて一気に最強格へ躍り出た極端すぎる<エンブリオ>。
かつて指導した後の【雑技王】曰く、「別物すぎてビビった」とのこと。
(・3・)<どれくらい獲得リソースが増幅されたのかと言えば
(・3・)<広域殲滅型でもなく、狩りばかりをするわけでもないのに
(・3・)<――並み居る最強を押しのけて合計レベルの単独首位を誇っていることからお察しください
(・3・)<流石に五〇〇〇台になってからは落ち着いてきた模様
(・3・)<それでもおかしいよコイツ
【奪畏天狐 ザカラ】
(・3・)<かませみたいな倒され方して実は神話級だった<UBM>
(・3・)<レベルの与奪能力が本当に極悪で、少なくともティアンやモンスター相手ではほぼ無敵を誇れる性能でした
(・3・)<少なくとも合計レベル一〇〇〇くらいの相手なら、速攻で短期決戦を決められなければ余裕で勝てる
(・3・)<仮に狂獄が挑んでたらふっつーに惨敗してた。レベルダウンのオマケつきで
(・3・)<だけど合計レベル五〇〇〇オーバーとかいう規格外中の規格外がたまたま偶然通りがかったせいで
(・3・)<数百程度レベルを奪ったところで焼け石に水で、あえなく討伐されましたとさ
(・3・)<……つまり対魔と戦ったときのGA.LVERはアレでも弱体化してます
(・3・)<スキル特化型だったせいで素のステータスが低めだったのもあるけど
(・3・)<それ以上に長年の自堕落な土地神暮らしで鈍りきっていたのが敗因でもある
(・3・)<かといって本気で強くなろうとしても、そもそも天地へ渡ってきた理由というのが
(・3・)<……当時ブイブイ言ってた"三強"どもにビビりまくったせいなので
(・3・)<根っこのところは人間怖いでチキってて、だから程々の生贄を飼育して食べる程度に留めてました
(・3・)<努力しきれなかったケーちゃんみたいな奴
・対魔
(・3・)<かませ
(・3・)<本作はあくまでマグロが主人公の物語である以上、GA.LVERの戦闘はあくまでオマケ
(・3・)<その対戦相手である彼女もまぁ、そんな長々と語るべきでもなかった
(・3・)<このガバガバな計画も、初めから勝算なんて無いのをわかった上で敢えて押し通しました
(・3・)<ていうかニエ関連が完全に偶然だったから、たまたま転がり込んだ絶好の機会に
(・3・)<「んじゃあ試しにやってみっか!」くらいのつもりで臨んだ程度の模様
(・3・)<まぁいくら<超級>でもちょっとは善戦できるだろう、みたいな思惑も無いでは無かったけど
(・3・)<……ここまでの化物だったとは思わなかった模様。そこだけは完全に誤算だった
(・3・)<結論:<悪鬼夜行>は行き当たりばったり悪党クラン