次の日の朝、私がハリー達と朝食を取っていると、スリザリンの席の方が騒がしく、それを見てハリーがとても不機嫌そうな表情をしている。
原因は、マルフォイが先日コンパートメントの中で気を失ったハリーのモノマネをしている事だろう。
現物を見ていないが、かなり誇張されている様だ。
ロンとその兄がハリーを慰めているが、私はハーマイオニーが持っている新しい時間割のほうが気になった。
ロンもそのことに気が付いたらしく、ハーマイオニーに指摘する。
「ハーマイオニー、その時間割、滅茶苦茶じゃないか。ほら、1日に10科目もあるんだぜ? そんなに時間があるわけないのに…どうするんだよ」
「何とかなるわ。マクゴナガル先生と一緒に決めたんだから」
ハーマイオニーはあまり触れて貰いたく無さそうに言い返した。何とかなるものなのだろうか…
「でもほら、この日の午前中、わかるか? 9時、占い学。そしてその下だ。9時、マグル学。それから…おいおいその下に数占い、これも9時ときたもんだ。そりゃ、君が優秀なのは知ってるよ、ハーマイオニー。だけど、そこまで優秀な人がいるわけないだろ。3つの授業にいっぺんにどうやって出席するんだ?」
「マクゴナガル先生と一緒に決めたから、大丈夫だって言っているじゃない」
まぁ、本人がそう言っているならそうなんだろう。
魔法を使って、分身なりなんなりを作り出すつもりだろうか?
恐らく、マクゴナガルが手を貸すのだろう。
そんなことを考えながら、私は、淹れたばかりの紅茶をゆっくりと飲んだ。
ホグワーツの3年生になって初めての授業は占い学だった。
占い学は北塔の一番上でやるようだ。
城の中を通って北塔へと向かう。
塔の中は螺旋階段になっており、最後まで登りきると小さな踊り場になっていた。
私はそこで上を見上げる。すると天井に丸い撥ね扉が見える。
そこには『シビル・トレローニー占い学教授』との文字があった。
どうやら占い学の教室はこの上らしい。
しばらく待っていると次第に生徒が集まってくる。
慌てるように息を切らしながらハリーたちも階段を上がってきた。
ハリーたちは周囲に扉がないことを不思議に思ったのか辺りを見回している。
しばらく見回しロンが気が付いたのかハリーを小突き天井を指さした。
「あんなところに…どうやって行くんだろう?」
ロンがそんな疑問を口遊むと、それにこたえる様に、撥ね扉が開き、中から銀色の梯子が下りてきた。
これで来いという事だろうか。
その場に居た生徒たちが、順番に梯子を上っていく。
総ての生徒が梯子を上り終わった後、私は、両足に力を籠め、一気に飛び上がり、空を蹴り、更に高さを上げ一気に教室へと入っていく。
占い学の教室は複数のテーブルと椅子が置かれており、バーの店内を思い出す作りになっている。
ただ、教室の中は頭が痛くなる様な香りで充満している。
一体何をやったのだろう…
壁には水晶や、ティーカップなどが乱雑に置かれている。
私が適当な場所に腰を掛けると、部屋の奥から胡散臭い見た目の痩せた女性が現れた。
「占い学へようこそ。あたくしがトレローニー教授です。たぶん、あたくしの姿を見たことがある生徒は少ないでしょうね。学校の俗世の騒がしさの中にしばしば降りて参りますと、あたくしの心眼が曇ってしまいますの」
そういうと、トレローニーが大きな眼鏡越しに、生徒たちを見回す。
このタイプのメガネはセンス悪いな。
「皆様がお選びになった教科は…占い学。そう、魔法の学問の中でも一番難しいものですわ…初めに、お断りしておきましょう…眼力の備わってない方には、あたくしがお教えできる事は殆どありませんのよ。この学問では書物はあるところまでしか教えてくれませんの…」
つまり、才能がない限り、占い学はどれだけ学んでも無意味だという事だ。
それを聞いたハーマイオニーは驚きを隠せないといった表情をしていた。
「いかに優れた魔法使いや魔女であっても、派手な音や匂いに優れ、雲隠れに長けていても、未来の神秘の帳を見透かすことはできません。限られた者だけに与えられる天分とも言えましょう。あなた、…そう、そこの男の子」
トレローニーは急にネビルを指名した。
急に話しかけられた為か、ネビルが驚き、椅子から落ちそうになっている。
「おばあ様元気?」
「え…えぇ、元気だと思います」
「そう…私が貴方の立場だったら、私はそんなに自信ありげに言えません事よ」
トレローニーは鼻で笑いながら、首を左右に振った。
その後トレローニーは何かを見つけては、生徒たちに近いうちに死ぬや、不幸になるといった、宣告をしていった。
ここまでくると胡散臭いものだ。選ぶ学科を間違えたかもしれない。
そんなことを思っていると、トレローニーが私の前に現れ、顔を覗き込んだ。
「お…おぉおお…」
人の顔を見た途端に、数歩後ずさった。
何と失礼な奴だろう。
「貴女を見るというのはとても恐ろしい!まるで底なしの闇を見ているかの様…」
「人の顔を見るなりそれとは、失礼じゃない」
その後、トレローニーは取り乱したように、騒ぎ立て、今回の授業は終了した。一体何だったのだろう…
午後になり、魔法生物飼育学の授業が始まった。
周囲を見回すと、マルフォイを始めとしたスリザリンの生徒も多く見える。
この授業はグリフィンドールとスリザリンの合同授業のようだ。
その為、先程から一触即発といった雰囲気だ。学校側は何も学ばないのだろうか…
「やぁ、君と同じ学科なようだ。それだけでも選んだ価値はありそうだ」
そんなことを思っていると、後ろからマルフォイが声をかけてきた。
毎回の事なので、私達が話をしている事に関しては、各寮から声すら上がらなくなっている様だ。
「お世辞が上手ね、褒めたってなにも出ないわよ」
「そんなつもりはないさ」
マルフォイは満面の笑みで言いながら、キメ顔でそう語った。
なんだか、いつもの様なオドオドとした感じが無くなった気がする。この前の休みで何かあったのだろうか。
私達が、ハグリッドの小屋へと近付くと、大声が響いた。
「皆、この柵の周りに集まれ!そーだ、ちゃんと見えるようにな。さーて、いっちゃん最初にやるこたぁ、教科書を開くこったな」
ポーチから質の悪い教科書を取り出す。久しぶりに外に出られたのが嬉しいのか、心なしか教科書の活きもいいように思える。
「どうやるんだ?」
「あ?」
マルフォイが冷ややかな声でハグリッドに問いかけた。
「どうやって開ければいいんですかと聞いている」
紐でグルグルに縛られた教科書を取り出し、杖で数回叩いている。
他の生徒も同じ様で、紐や縄、ベルトなどで雁字搦めにしている生徒までいる。
「なんだ?誰も教科書を開いてないのか?」
ハグリッドは落胆したように肩を落とした。
その場に居た殆どの生徒が、同じ様に肩を落としている。
私は手元にある教科書を軽く睨み付けると、いつもの様にぶるっと震え大人しくなった。
「聞き分けの良い子は好きよ」
軽く背表紙を爪先で、触れるか触れないかのフェザータッチで撫でてやると、嬉しそうに悶え、ページを開いた。
そんな様子を、マルフォイは食い入るように見ていたが、私と目が合うと、何事も無かったかのように、目線を反らした。
「なんだか…お前さんのは調教済みの様な気もするが…まぁ、簡単な話撫でてやりゃいいんだ」
そういうと、ハグリッドはハーマイオニーから教科書を受け取ると、テープをはぎ取った。
その途端に本はハグリッドに噛付こうとしたが、背表紙をひと撫ですると、嘘の様に落ち着き、その大きな手の上で開いた。
「本当に愉快な本だな!背表紙を撫でるのか。思いつかなかったよ」
マルフォイは皮肉を込めながら背表紙を撫でた。
その途端に、先程まで暴れていた本が、ぶるっと震えマルフォイの手の上で開いた。
本の様子を見ているマルフォイは、どことなく羨ましそうな表情をしており、時折、自身の体をぶるっと震えさせている。
「じゃ…じゃあ俺はちょっと連れて来るから、ここでまっちょれ」
ハグリッドはぐだ付きながら、森の奥へと消えていった。
しばらくするとハグリッドが十数頭の鷲のような頭と鉤爪と翼に馬のような体をした生物を片手で従えながらやって来た。動物たちからは好かれるようだ。
「ヒッポグリフだ!すごいだろ!」
確かに、すごい迫力だ。この世界に居る気味の悪い生物とは違い、美しさすら感じる。
「そんじゃ皆まずは近付いてみろ」
ハグリッドはそういうが、その場に居るほとんどの生徒が動こうとはしない。
それもそうだ、ヒッポグリフの巨大な嘴と鉤爪に警戒して近付こうとはしない。
私はそんな事を気にも留めずに、柵へと近付くと、ハリー、ロン、ハーマイオニーも恐る恐る柵へと近づいた。
それに釣られるように、複数の生徒も近付いて行った。
「さて…いっちゃん最初にヒッポグリフについて知らにゃならんことは、こいつらは誇り高いというこった。ヒッポグリフは怒りっぽい。絶対、侮辱しちゃなんねぇぞ? そんなことしてみろ。それがお前さんたちの最後になるかもしんねぇからな…」
ハグリッドは説明を続けているが、私はそんな事はお構いなしにヒッポグリフへと近付いた。
私に気が付いたのか、ヒッポグリフも私に近寄ってくる。
軽く、その嘴に触れようとすると、私の手に噛付いて来る。
噛まれる寸前に、手を引き、間の抜けた音だけが周囲に響いた。
「危ないじゃない、躾がなってないわね」
私の言葉が逆鱗に触れたのか、ヒッポグリフが私に攻撃態勢を取った。
「いいわ、言う事聞かない子には、躾が必要ね」
「いかん!止めるんだ!セレッサ!」
1年の時、フラッフィーを殺された事を思い出したのか、ハグリッドが大声を上げる。
「安心なさい、ちょっとお仕置きするだけよ」
私は、ポーチの中から、普通の鞭を取り出すと、両端を力の限り引っ張り、周囲に鞭の音を響かせる。
「あっ…」
「どうしたんだ、マルフォイ?」
「なっ!なんでもない!」
ギャラリーが騒がしいが、今は放っておこう。
私は、再び鞭をしならせ、空気が裂ける音を響かせる。
その音に呼応するように、ヒッポグリフが襲い掛かってくる。
「はぁ!」
突進を横に避けると同時に、首元に鞭を絡ませリードの様に引っ張る
「ぐぁ!」
しっかりと鞭が食い込んだのか、ヒッポグリフは苦しそうな声を上げている。
私は軽く飛び上がり、鞭を手繰り寄せ、一気にヒッポグリフの背中に座り込む。
「ふぅん、座り心地は中々ね」
「ぐあぁ!」
私に無理やり背中に乗られたのが、気に障ったのか、その場で振り落とそうと、暴れ牛の様に暴れまわる。
「なかなか楽しいアトラクションね」
暴れまわっているが、その衝撃をうまく逃し、片手を首に回し、空いている手を振り回し、ポーズをとる。
その間もヒッポグリフは暴れ続け、その度、腰が背中でホッピングする。
「いぃ…」
「マルフォイ、どこを見ているんだ?」
「う…うるさいぞ!ポッター!」
様々な視線を感じるが、今は気にしないでおこう。
「はぁ!」
左手で持っていた鞭で、思い切りヒッポグリフの尻を叩いてやると、流石に諦めたのか、大人しくなってしまった。
周囲を見回すと、多くのギャラリーが私を見ており、中には拍手をしているものまでいる。
「あーー…まぁ、礼儀正しく接すれば問題はないはずだから…」
ハグリッドはしどろもどろに、そう説明した。
「躾はしっかりした方がいいわよ」
颯爽とヒッポグリフの背中から降りると、ハリーが前に出てきた。その表情は早く乗りたいと言っているようだった。
次に、ハリーが別のヒッポグリフに近付くと、礼儀正しく接したようで、背中に乗せて貰ったようだ。
しばらく、空の旅を満喫したハリーは、満足しきった顔で降りてきた。
「よーし、よくやったお前さんたち」
ハグリッドはどこか、複雑そうな表情で褒めると、パチパチとまばらな拍手が上がった。
「さて、他にもやってみたいモンはおるか?」
ハリーが成功させたのを見て、他の生徒も恐る恐る、ヒッポグリフへと近付いてく。
多くの生徒が、礼儀正しく接し、お辞儀には、お辞儀で返している中、マルフォイの番がやって来た。
「フッ、ポッターに出来て、僕に出来ない筈が無いだろ、君もそう思うだろ、醜いデカブツ君?」
マルフォイが軽口を叩いた途端にヒッポグリフは激情しマルフォイに襲い掛かった。
「ヒィイイイィイ!」
一瞬で鉤爪によりマルフォイの腕を掠め、みるみるうちにローブに血が滲んでいく。
「死んじゃう!僕!死んじゃうよ!」
ようやくいつものマルフォイに戻ったようだ。
そんな状態のマルフォイにヒッポグリフは止めを刺そうと襲い掛かる。
ハグリッドが止めに入ろうとするが、このままでは間に合わないだろう。
「世話が焼けるわね」
私は、鞭をしならせながら、ヒッポグリフの方へと振るった。
放たれた鞭は、ヒッポグリフの真横を通り、マルフォイの足に絡みついた。
「イィ!」
「少し痛いけど、我慢なさい」
鞭を一気に手繰り寄せ、マルフォイを一気にこちらへと引き寄せる。
次の瞬間、ヒッポグリフの鉤爪が空を切る音が響いた。まさに間一髪だった。
「あぁあ!痛い!死んじゃうよ!助けて…助けてよ…僕死にたくないよ…セレッサぁ…」
所々、血と泥で汚れているマルフォイがひどく情けない声で、私の足に両腕を回し、縋り付いて来る。
「その程度じゃ死なないから安心なさい」
「あぁああ!」
マルフォイが尚も喚き散らしているので、顎を右手で持ち上げ、口に治癒効果のあるロリポップを突っ込む。
「んぐぅ!」
「少し静かにしてなさい、後で医務室へ行った方がいいわよ」
「う…うん」
マルフォイは落ち着きを取り戻したのか、ロリポップを口に咥えながら、頷いた。
その間に、ハグリッドがヒッポグリフに手綱をかけ、落ち着かせた。
その後は、マルフォイをハグリッドが軽々と抱え城の方へと走っていった。
他の生徒たちも、少しショックを受けているのか、心配そうな表情でその後姿を見送っていた。
「あんな教師!すぐに首にするべきだ!」
「マルフォイの自業自得だ!ハグリッドは悪くない!」
「それにしても、さっきのマルフォイ…情けなかったな…」
またしても、スリザリンとグリフィンドールの対抗が始まった。
多くの生徒が、自分の意見を叫ぶ中、今回の授業は終了した。
やっぱりマルフォイは少し、ヘタレな方が良いですね。