次の日、私はハリー達に連れられ、ハグリッドの小屋へとやって来た。
扉をノックすると、満面の笑みのハグリッドが現れ、私を見るなり大袈裟に小躍りを始めた。
「助かった!本当に…本当にありがとう!」
「ベヨネッタ、やっぱり君は最高だよ、まさかあのマルフォイを説得するなんて」
「そんなに大袈裟な事じゃないわよ。少し背中を押してやっただけよ」
「本当かい?何か薬でも盛ったんじゃないのか?」
ロンが何やら疑いの目線を送っているが、ここは無視しよう。
「まあ、あいつも人の子だっちゅう訳だな。うん」
ハグリッドは一人で納得したように頷いている。
ハグリッドから、しつこい感謝を受けた後、私は小屋から出ていく事にした。
ハリー達はどうやらこのまま小屋で祝賀会を開くようだ。
小屋から離れた後、慣れた手付きで暴れ柳を避け、シリウスの元へと向かった。
扉を開けて中へ入ると、中には誰もいなかった。普段なら犬の状態で横になっている筈なのだが…
そんな事を考えていると、入り口の方から、ドタドタと音を立てながら、聞き慣れた悲鳴が聞こえてきた。
「なんだよ!離せよ!このっ!バカ犬が!」
この声は、ロンだな。
そう思って扉を開けると、黒い犬に引きずられているロンの姿が目に入った。
「アンタ達、何やってるのよ…」
「ベヨネッタ!なんで君が?」
ロンが引きずられながら、私に問いかけてきた。
私は、そんな状況をただ見ている事しかできなかった。
シリウスは部屋の奥までロンを引きずると、人の姿に戻り、仁王立ちしている。
「君も来ていたのか、それよりようやく捕まえたぞ!」
シリウスはロンに杖を向け大声を上げた。
これではまるで、ロンが標的になっているみたいだ。
シリウスの姿を見たロンは、何処か怯えた様な表情で、周囲を見回している。
すると、部屋の扉が勢いよく開かれ、慌てた様子のハリーが飛び込んできた。
「ロン!大丈夫か!」
「ハリー!逃げるんだ!これは罠だ!」
ロンが何か勘違いしたようで、大騒ぎしている。
「さっきの犬が…そいつが…」
ロンが怯えながら、シリウスを指差している。
「お…お前は!」
ハリーの後ろから、普段より顔色の悪いルーピンとハーマイオニーが入ってくると、シリウスを睨み付けている。
「お前が…お前が僕の両親を!」
ハリーが怒声を上げ、シリウスを睨み付けると、後ろからやって来たルーピンがそれを制した。
「待ってくれハリー…ここは任せてくれ」
ルーピンは杖を構えながら、シリウスに歩み寄って行く。それに呼応するようにシリウスもルーピンに近付いてく。
「………友よ!」
「会いたかったぞ!」
すると、二人はがっつりと熱い抱擁を交わした。
その光景を目にした3人は絶望しきった表情をしている。
「そんな…どうして先生まで…」
どうやら、ハーマイオニーはこの場に居た私を怪しんでいる様だ。まぁ、現状から考えれば当たり前か。
「どうなってるんだ!僕は…信じていたのに!先生の事も!ベヨネッタの事も!それなのに…ブラックの仲間だったなんて!」
ハリーまで私を敵だと思い込んでしまったようだ。なんか面倒な事になってしまった。
「待ってくれ…いろいろ誤解している様だ。説明させて欲しい…」
ルーピンが必死に語り掛けるが、それはハーマイオニーによって遮られてしまう。
「駄目よ!ハリー、騙されては駄目よ!この人はシリウス・ブラックの手引きをしていたのよ!だって…この人は、人狼なのよ!」
「待ってくれ!説明させてくれ!」
それからは、ルーピンが身の上話を始めていった。
どうやら、ルーピンはブラックと同級生で、人狼だったルーピンはホグワーツに入学する事は拒否されていたのだが、ダンブルドアが無理押したようだ。
人狼であるルーピンは、満月になるとこの場所。通称『叫びの館』で過ごして居たという話だ。
余談だが、スネイプは学生の頃、同級生だったルーピンとブラックに虐げられ、そのことを憎んでいるという話だ。
とを憎んでいるという話だ。
やはり、根に持つタイプなのだろう。
「もう十分だろう…私は十分待ったんだ!さぁ!早くそいつを殺そう!」
「あぁ…そうだな」
2人は杖を取り出すと同時に、部屋の入り口が吹き飛ばされ、土煙が上がる。
土煙の奥からは、愉悦に満ちた表情のスネイプが杖を構え悠然と入室してきた。
「復讐は蜜よりも濃く、そして甘い。お前を捕まえるのが我輩であったらと…どれほど願ったか。今どれほど歓喜に満たされているか、お前には分かるまい」
スネイプが自作のポエムを口遊みながら、憎しみを込めた視線をシリウス達に向けている。
「待ってくれスネイプ!シリウスは……」
「黙れ!貴様もディメンターに引き渡してやる」
スネイプは、杖を構え、ルーピンに魔法を放とうとする。
しかし、そんなスネイプの不意を突くように、ハリーが魔法を放った。
「なっ!」
不意打ちにより魔法を喰らってしまったスネイプは、部屋の奥に吹き飛ばされ、気を失ってしまった。
「ハリー…」
シリウスは感極まったようで、ハリーにゆっくりと歩み寄って行く。
「動くな!僕はお前を庇った訳じゃない!真実を知りたいんだ!」
「あぁ…分かった真実を話そう…君の両親を裏切ったのは私ではない…ピーター・ペティグリューだ」
「ピーター・ペティグリュー…」
ハリーはその名前に聞き覚えがあるのか、何かを考えている様だ。
「そうだ…そして奴は今この場所に居る!」
「え?」
ハリー達は間の抜けた声を上げた。
「一体どこに…」
「奴はそこに居る!」
シリウスはロンの方に杖を突き付ける。正確には、ロンが手にしている鼠にだが。
「ロンがそうだっていうの?そんなのありえないわ!」
ハーマイオニーが大声を上げるが、それをシリウスが遮った。
「違う。奴が持っている鼠だ!」
「スキャバーズが?そんなのありえないよ!」
鼠を隠すように、ロンが体を捻る。
「奴は鼠の動物もどきだ!」
「そんな事…スキャバーズは僕の家族だ!ずっと一緒だったんだ!ペティグリューなんて奴知らないよ!」
「12年も生きる鼠がいるものか!」
全く持ってシリウスの言う通りだ。
「ロン…スキャバーズを渡すんだ」
ハリーが宥める様な口調でいうが、ロンはそれに応じようとはしない。
「嫌だよ!なんでスキャバーズなのさ!鼠なんて何百匹といるじゃないか!」
「それを証明する為さ。違うようなら危害は加えないよ」
ルーピンが諭すように話しかけ、ロンが渋々鼠を渡そうとした瞬間…
「スキャバーズ!!」
「くそっ!」
鼠はロンの手から逃げ出し、部屋の中を走り回る。
「逃すか!」
ルーピンとシリウスが杖を振り、魔法を連射すると、そのうちの1発が鼠に命中した。
すると、小さな鼠はみるみるうちに、小汚い、まるで鼠の様な男に姿を変えた。
「や…やぁ、リーマス…シリウス…久しぶりだね…」
小汚い男はオドオドしながら、二人に話しかける。しかし二人から帰ってくるのは、憎悪に満ちた視線だった。
「やっと会えたな!」
2人は鋭い視線で杖を構える。
「ま…待ってくれ!私は悪くないんだ!」
「貴様…この期に及んでまだ戯言を!」
「話を聞いてくれ!私は逃げていたんだ!シリウスが私を殺しに来ると…それが怖くて…」
あまりにもずさんな言い訳に、私をはじめ、その場の全員が呆れかえる。
「貴様が私を恐れている?違うだろ!貴様が恐れているのは私ではない!アズカバンの連中に聞いたぞ!主の死の切っ掛けを作った者を許さない!…とな」
「ヒィ!リ…リーマス…君は信じてくれるよなぁ…」
「君の話が本当なら…だがなぜ12年も鼠になって隠れていたんだ?」
ルーピンの的を得た質問に、答えが見つからないのか、少し考えた後、苦しそうな言い訳を放った。
「シリウスは、あの人の仲間だったんだ…だから…」
「貴様!ふざけた事を!」
苦し紛れの言い訳に、シリウスが怒声を上げた。
「私が友を裏切っただと!ふざけるなよ!そんな事をするくらいなら、私は死を選ぶ!」
シリウスは怒りに任せ、ピーターを殴り飛ばすと、杖を構えた。
「リーマス!」
「あぁ、分かっている!共にコイツを殺すぞ」
「嘘だろ…君ならわかってくれるよな…」
近くに横になっているロンに、這いずりながら近付き、頭を垂れている。
しかし、ロンはそんな姿を、まるで汚らわしい鼠を見るような視線で見据える。
「お前のような奴と一緒に生活していたなんて…」
「お…お嬢さん、君からも何か言ってやってくれ…」
今度はハーマイオニーに擦り寄るが、ハーマイオニーは軽蔑した視線を向けながら、後ずさった。
「誰が貴方みたいな人を…」
「君なら…賢そうな君なら分かってくれるよね…お嬢さん…」
今度はあろう事か、私に擦り寄ってくる。
「近寄るんじゃないわよ」
擦り寄ってくるピーターの鼻先を何の躊躇いも無く蹴り飛ばす。
「ぐぅ!」
蹴り飛ばされ鼻が折れたのか、血を流しているが、今度はハリーに標的を変えたのか、血塗れでハリーに近寄っていく。
「ハリィ、君は本当にお父さんにそっくりだ…君のお父さんなら、許してくれるはずだよ…もちろんお母さんもね…」
「ジェームスの名を出すな!」
シリウスは堪忍袋の緒が切れたのか、ピーターに杖を構えている。
しかし、それを遮る様にハリーが二人の間に入った。
「ハリー!退くんだ!」
「許してくれるんだね…やっぱり君は優しい…」
ハリーに擦り寄り、媚を売っているが、それを遮る様にハリーが言い放つ。
「お前の為じゃない!お前は…ディメンターに引き渡す…そして…シリウスの無実を証明する…」
ハリーの宣言に、薄汚い鼠は、絶望の表情を浮かべた。