皆一様に、スネイプを起さない様に部屋を出て外へ出ると、周囲はすっかり日も暮れてしまっている。
「変な気を起すなよ、ピーター」
ルーピンはピーターに杖を突き付けながら、城への道を歩いている。
そんな中、何か思いつめたような表情で、シリウスが口を開いた。
「その…もし私の潔白が証明されたら…私と一緒に暮らさないか…」
「え?」
突然のシリウスの申し出にハリーは驚いた表情をしている。
「誰かに聞いて居るかもしれないが…私は君の名付け親でもあるんだ…それはつまり…君の両親が私を君の後見人に決めたのだ。もし自分たちの身に何かあればと…」
シリウスは声に抑揚を付けながら、どことなく、不安と期待の入り混じった声でハリーに話掛ける。
「もし君が、叔父や叔母との生活に満足しているというなら、無理強いはしない…でも…その、考えてくれないか…私が汚名返上する事が出来たら…もし君が家族を欲するなら…」
「それは…僕が、貴方と一緒に暮らせるという…」
「そうだ…だが君が望まないなら…その…」
シリウスは何処と無く悲し気な表情をしている。
「僕は、あの家からは一刻も早く出たい!出来る事なら貴方と暮らしたい!」
「ハリー…」
シリウスは満面の笑みを浮かべ、ハリーもそれに応える様に、微笑み返している。
「ふぅ…これで一件落着だな」
ルーピンは祝福したような表情で、二人を見守っている。
何処と無く和やかな雰囲気を私達が包んだ。
そんな私達を月明かりのみが照らしている。
月明かり?
「ううぅうぅぅうううぅ!」
突如ルーピンが苦しそうな呻き声を上げ、夜空に輝いている満月を睨み付けている。
「何てこと…先生は今日は薬を飲んでいないようだわ!」
ルーピンの体が人の形を離れ、変貌していく。
「離れるんだ!」
シリウスが緊迫した声を上げ、ハリーを突き飛ばした。
「うぅうう…うううぅう!」
「リーマス!落ち着くんだ!私を見ろ!自分を失うな!」
シリウスは変貌を続けているルーピンに駆け寄ると、肩を掴み、大声を上げる。
「がぁあ!」
「うっ!」
掴みかかるシリウスを払い除ける様に人狼が爪を振るい、吹き飛ばした。
吹き飛ばされたシリウスの腹は、爪で引き裂かれ、片手で腹を押さえながら、口から血を流している。
「にげ…るんだ…」
シリウスは力なく声を上げる。
その時だった…
「待て!」
先程まで、縄で縛られていたピーターが、ルーピンの落とした杖を拾い上げ、自らに呪文を掛けた。
すると、みるみる体が小さくなっていき、最終的にはみすぼらしい鼠に変貌した。
「逃すか!」
ハリーは、薄汚い鼠に飛び掛かるが、人間が鼠を簡単に捕まえられる筈も無く、ハリーの手を逃れ、走り出した。
「くそっ!」
ハリーは悔しそうに悪態を付く。
このままでは、あの鼠に逃げられてしまうだろう。
「逃さないわよ」
私は、その場で走り出し、鼠を追いかける。
「駄目だ!追いつかないよ」
鼠は、私を嘲笑うかのように、左右に走り回り、森へと逃げようとしている。森に入り込めば安全だと考えているのだろう…
だが、そうはさせない。
私は、勢いそのまま、前のめりになり、内に眠る獣を開放する。
その瞬間、私の体は黒豹となり、風のような速さで、一瞬のうちに鼠との距離を詰めた。
「え?」
突然現れた黒豹にハリー達は間抜けな声を上げている。
「ギヂュ!!」
私は、鼠に対して腕を振り下ろし、踏み潰すようにして、捕獲した。
人型に戻り、鼠のしっぽを摘まみ持ち上げる。
捕獲する際、肋骨と、内臓を少し負傷したのか、口から血を流している。まぁ…死にはしないだろう。
「任せたわよ」
尻尾を持ち、鼠を数回振り回した後、ロンに投げつける。
空中で数回転した後、ロンの足元に鼠が落下した。それをまるで汚物を摘まむかのように掴むと、ポケットへと押し込んだ。
「さて…次はこっちね」
私は、今にもハリー達に襲い掛かりそうな人狼の前に立ちはだかった。
「コイツの相手は私がやっておくわ。アンタ達は離れなさい」
私の言葉に従ったのか、ハリー達がシリウスに肩を貸しながら、その場を離れ森へと向かった。
少し遠ざかった所で、ハリーが声を上げた
「その人狼はルーピン先生なんだ!殺さないでくれ!」
「私からも…頼む…リーマスを…うっ…」
どうやらハリーとシリウスは、私がルーピンを殺すと考えている様だ。
「わかっているわよ、安心しなさい」
私の声を聴き、安心したのか、森へと走り出した。
「さて?それじゃ遊びましょうか?」
「うぐううう!」
私ターゲットを絞ったのか、人狼が私に突進してきた。
私は、再びビーストウィズインを発動させ、人狼に飛び掛かった。
人狼と黒豹がぶつかり、周囲に衝撃が走った。
「うがっ!」
衝突後、吹き飛ばされたのは人狼の方だった。吹き飛ばされた人狼は、勢いそのまま、周囲の木々を薙ぎ倒していった。
私はその場で、ビーストウィズインを解除し、吹き飛ばされた人狼を見据える。
「う…うぐぅう…う」
地面に倒れた人狼は、口から血を吐き、苦しそうに、ふらつく体を無理やり立ち上がらせ、気力だけで襲い掛かって来た。
「ぐあ!」
飛び掛かって来たところを、体を屈めて回避し、カウンター気味に顔面を殴り上げ、顎の骨が砕ける感覚が伝わる。
顎の骨を砕かれた人狼は、その場に倒れると、憎しみを込めた視線をこちらへ向けて来る。
「少し大人しくしてなさい。これ以上するようなら…」
右手に銃を構え、眉間に押し付ける。
「容赦しないわよ」
しかし、未だに人狼は勝負を諦めていない様で、戦闘の意思を示している。見上げたものだ…
しばらく互いに視線を交差させる…その時だった。
「エクスペリアームス!」
武装解除の閃光が私の元に迫って来た。
その閃光を、体を多少捻り回避し、左手の銃を魔法が飛んできた方へと向ける。
「そこまでにしたらどうだ…」
声のする方へ視線を向けると、そこには杖を構えたスネイプが立っていた。
「ようやく目が覚めたのね、案外お寝坊さんね」
「生憎とここ数日寝て居なくてな、丁度良い仮眠だ」
冗談交じりに答えたスネイプは、杖を構えながら、こちらへ近付くと、人狼に魔法をかけ縄で縛り上げた。
「これで身動きはとれまい…して、あの男はどこへ行った」
「ハリー達と一緒に森の方へ逃げたわよ」
「そうか…」
スネイプは、私の目を見ると視線をずらさない様にしている。私に開心術をかけている様だ。
「あまりレディの秘密を見ようとするものじゃないわよ」
「………セレッサ、君の心が全く読めん…一体何が目的なのだ?」
「さぁ?想像に任せるわ」
私は軽くウィンクをすると、スネイプは、何処か呆れた様に、杖を振ると、縛り上げられたリーマスが宙に浮き、叫びの館へと飛んで行った。
「まぁ良い…奴を追いかけるぞ」
「そう、なら行くわよ」
私達は、森の奥へと走り出した。互いに動向に警戒しつつ………
森の奥へと向かうと、巨大な湖の畔で、ロン、ハーマイオニー、そしてシリウスが倒れ込んでおり、周囲にはディメンターが浮遊している。そんな中、ハリーが一人で必死に不安定な守護霊を放ち、ディメンターに抵抗していた。
「まずい!」
スネイプは、杖を構え、守護霊を放とうとしている。
しかしそれより早く、私は飛び出すと、ハリーに襲い掛かっているディメンター目掛け引き金を引いた。
引き金が引かれ、撃鉄が起こり、放たれた弾丸は、空を切り裂き、ディメンターの脳天をぶち抜いた。
「ぶぼぉお」
声にもならない声を上げ、脳天を打ち抜かれたディメンターは消滅した。
ディメンターの呪縛から解放され、ハリーは肩で息をしている。
「はぁ…はぁ…セレッサ…君かい…」
「えぇ、危ない所だったわね。頑張ったじゃない」
「遅かったじゃ…ないか…」
先程までの戦いで、体力を消耗しきったのか、ハリーは少し笑みを浮かべた後、眠る様に気を失ってしまった。
そんなハリー達を襲うと、ディメンターが一斉に襲い掛かった。
「はぁ!」
前方から来るディメンターがに両手の銃から放たれる、銃弾を浴びせると、そのまま、銃身を後方へ向け、後方のディメンターも打ち抜く。
「私を甘く見ない事ね」
その場で、右足を軸にし、体を逸らすと、両手の銃で前方の2匹を、左足で後方の1匹に準団を浴びせる。
私を相手取るのは分が悪いと判断したのか、ディメンターが二手に分かれ、片方は私へ、もう片方がハーマイオニー達に襲い掛かった。
「エクスペクト・パトローナム」
その時、スネイプの低い声が周囲に響く。
すると、青白い牝鹿が躍る様に、ハーマイオニー達に迫り来るディメンターを弾き飛ばした。
「こちらの相手は吾輩が引き受けよう」
「あらそう。それじゃ、お願いね」
スネイプが杖を振ると、牝鹿は勇猛にも、ディメンターに襲い掛かって行った。
「さて、それじゃ、アンタ達の相手はこっちよ」
私の挑発に、残りのディメンターが飛び掛かてくる。
「お楽しみはこれからね」
私は指を鳴らし、髪の魔力を開放し、ゲートを開いた。
「『IZAZAS PIADPH』『 我が業の深きに囚われよ!』」
その瞬間、周囲に蜘蛛の巣が張り巡らされ、浮遊していたディメンターがすべて絡め捕られた。
すると、その巣を這う様に、巨大な蜘蛛、 ファンタズマラネアとその子蜘蛛達が現れた。
子蜘蛛と言ってもヒッポグリフと大きさは同じ程度だ。
ファンタズマラネア…地獄の地中の奥深くにある、マグマの海に棲む悪魔。ほとんど地表には姿を現さず、魔界でも滅多にその姿が見られる事がないため、この名前が付いた。蜘蛛に似た恐ろしい姿をしているが、比較的温厚な性格で、もしも幸運にも出会うことが出来たなら、丁重に対応すれば珍しい財宝や秘術を授けてもらえるかも知れない。
ファンタズマラネア達は、絡め捕ったディメンターを我先にと捕食し始めた。
すると後方から、悲鳴のような声が上がった。
「ぐわああああああ!なんだよあのでっかい蜘蛛!それが沢山!!」
振り向くと、スネイプに叩き起こされたロンが悲鳴を上げている。
しかし、ファンタズマラネアの姿を見て、驚いたのか、再び気を失ってしまった。
隣に居るスネイプとハーマイオニーも恐怖にその表情を歪んている。
絡め捕った総てのディメンターを捕食し終えたファンタズマラネアは、最後に咆哮を上げると、巣ごと何処かへ消えていった。
周辺のディメンターを全滅させ、スネイプの方に振り向くと、2人は恐怖にその表情を染めながら、こちらに杖を向けている。
「今のは…一体なんなのだ」
「そうよ!あれは…どういうつもりよ!」
スネイプは冷静そうに、ハーマイオニーは恐怖からか、支離滅裂な事を口にしている。
「なんのことかしら?」
「とぼけないで!あの蜘蛛は一体…」
ハーマイオニーは今にも魔法を放ちそうな程、錯乱している様だ。
「ううん…あれ…ディメンターは?」
そんな中、気を失っていたハリーが目を覚ましたようだ。
「お目覚めね、気分はどう?」
「頭がすごく痛い…最悪な気分だ」
「それは良かったわね」
ハリーは頭を抱えながら、立ち上がり、現状を目にして驚愕している。
目が覚めて、スネイプとハーマイオニーが杖を構えていればそれもそうだろう。
「え?どうしたんだよ…」
「さぁ?」
私は肩を竦めると同時に両手に銃を構え直し、2人にそれぞれ、1丁ずつ銃口を向ける。
「っ!」
突如2人に緊張が走り、杖に込める力を強くしている。
「まっっ…待ってよ!どういう状況なんだよ!」
ハリーは二転三転する状況に理解が追い付いていないのか、慌てふためいている。
「ハリー!こっちへ!そこに居ては危険よ!」
「え?」
「ベヨネッタは、危険な魔法生物を呼び出したのよ!」
ハーマイオニーはこちらを睨み付けながら、危機感の籠った怒声を上げる。
「えっ?それって…」
「今度は別の子よ」
「そうだったの!うわぁ見たかったな…」
ハリーの間の抜けた、悲痛な叫びにハーマイオニーの表情が歪む。
「ちなみに何だったの?」
「どうやら、ロンの苦手な子だったらしいわよ」
「ロンの苦手………もしかして蜘蛛?」
「正解よ」
「うわぁ…ちょっと興味あるな」
私達の間の抜けた会話を聞いて、頭に来たのか、ハーマイオニーがヒステリックな声を上げた。
「ハリー!」
「なに?」
「なにって…ベヨネッタが何を呼び出したか分かっているの?」
「ペットらしいよ、僕も何度か助けて貰ったことあるし」
「うそ…あんなに凶暴そうな見た目なのに…」
「あれでもおとなしい方よ。それに躾はちゃんとしているから、暴れるなんて事は殆ど無いわよ」
……………そう、殆どね。
「この事は、校長は知って居られるのか?」
「えぇ、許可を貰ってあるわ。後で聞いてみたらどう?」
スネイプは少し考えた後、構えて居た杖を仕舞い込んだ。それを見たハーマイオニーも何処か諦めた様な表情で杖を仕舞い込んだ。
「さて…それでは城へ戻るとしよう」
スネイプは倒れているシリウスに近付くと、腹に1発蹴りをかまし、目を覚まさせた。
「ぐぅ!」
「さっさと立て、貴様を懐かしの母校へ連れて行ってやる。本日は魔法省大臣が城に来ている。丁度良い事にな」
スネイプは見下すように、シリウスは睨み付ける様に互いに睨みあっている。
「待て…私は…私は犯人では!」
「詳しい話は、城で聞くとしよう」
シリウスを一瞥した後、踵を返し城へと歩き始めた。
ハリーはシリウスに肩を貸しながら、その後姿を睨み付けながら歩いていった。
ハーマイオニーはロンを起すと、2人で少しこちらを警戒しながら、歩いていった。
ディメンター大量捕縛です。
アズカバン編では簡単に天使達に襲撃させられないので、ディメンターに犠牲になってもらいました。
まぁ、相変わらず平和ですね。