城に着き、スネイプの先導で校長室の扉を開けると、そこには、ダンブルドアとマクゴナガル、そして見知らぬ男が一人話し合っていた。恐らくその男が魔法省大臣なのだろう。
「これは、セブルス…どうしたのじゃ?」
「校長。シリウス・ブラックを連行しましたぞ」
「それは本当か!」
「はぁ…」
スネイプの発言に、魔法省大臣は歓喜の声を、マクゴナガルは深い溜息を吐いた。
そんな中、ただ一人ダンブルドアだけが、無表情だった。
「して、奴は?」
「ここにおります」
スネイプが体を逸らし、入り口の方を指差すと、ハリーに肩を借りたシリウスが、苦しそうな表情を浮かべている。
「ハリー!怪我をしておるのか。早く医務室へ…」
ダンブルドアは立ち上がると、大声を上げ、ハリーを心配している。余程ハリーが大切なのだろう。
「僕は大丈夫です…それより、シリウスの話を聞いてください!」
「そんな奴の話だなど聞く価値は…」
「私は犯人ではない!」
魔法省大臣の言葉を遮る様に、シリウスが大声を上げる。
「真犯人は、ピーター・ペティグリューだ!ここに奴がいる!今!この瞬間!この部屋にぃ!」
「ここに居ます」
シリウスが悲痛な叫びを上げ、ロンがポケットから、薄汚い鼠を取り出し、床に放り投げる。
床の上では、口から血を流している鼠が、苦しそうにもがいている。
「奴は…奴は鼠の動物もどきだったんだ!」
「なんじゃと…」
ダンブルドアはゆっくりと鼠に近寄ると、杖を振りかざす。
すると、鼠はみるみる人の姿へと変貌し、今にも倒れそうな小汚い男が一人、肩で息をしている。
「これはっ!」
「コイツが…真犯人だ!」
そこまで言うと、シリウスは力尽きた様に、その場に倒れ込んでしまった。
「シリウス!」
「分かった…じゃがまずは、全員医務室へ行くのじゃ。話はそれからでも良かろう…」
ダンブルドアはそういうと、その場の全員が、医務室へと歩いていった。
ただ一人倒れてしまったシリウスはスネイプとハリーに抱えられながら、医務室へと向かっていった。
そんな彼等の後を追う様に、私も校長室を後にした。
数日後、ハリー達の事情聴取も終わった。
私は、バーカウンターでジントニックを飲みながら、ロダンが定期購読している日刊預言者新聞に目を通した。
新聞の一面には、魔法省がピーター・ペティグリューの存在を認め、シリウスの冤罪を認めた事が書かれていた。
だが魔法省もただ冤罪と言う事ではメンツが保てないのか、シリウスの投獄は、死喰い人を騙す為のカバーストーリーという話だ。
まぁ、裏で取引があったのだろう。
後に聞いた話だが、裏でシリウスは魔法省大臣から、多額の賠償金を支払われたという話だ。
これでようやく、シリウスは普通の生活に戻り、随分前に放棄された自宅で生活している様だ。
ハリーはブラックとの生活を望んだが、ダンブルドアがそれに反対し、未だにあの家に幽閉されている様だ。
一体何を考えているのだか…
まぁ、何はともあれこれでシリウスの無実は証明された。この事だけでも、ハリーは満足なようだ。
私は、グラスに注がれたジントニックを煽り、今年も1年が終わったことを実感した。
ちなみに、ルーピンは人狼であることが公になり、職員としての地位を追われたという話だ。
やはり、人狼に対する風当たりは強いようだ。
これでまた、闇の魔術に対する防衛術の教員が居なくなった。
次は一体どんな教師が来るのだろうか…来学期に多少の期待を膨らませた。
また1年が過ぎた。
ワシは自室の椅子に座り、今年の出来事を思い出している。
「はぁ…」
思い返すだけで頭が痛くなる。
最初はディメンターがホグワーツ特急を襲撃した事から始まる。
その場は、リーマスが居たおかげで、大した被害は出なかったと多くの生徒が口にしているが、リーマスの話を聞く限りでは、セレッサが撃退したという話だった。それも守護霊を使用せずに…その時点で最早規格外だ。
次に思い出されるのは、占い学での事だ。
トレローニー先生が多くの生徒を占ったという事だが、セレッサに関しては恐怖すら覚えたという。それほど深い闇に彼女は関わっているという事なのだろうか…今のワシには知る事もできないじゃろう。
次の出来事は魔法生物飼育学だ。
ハグリッドに教員を任せたが、事故が起きた。
ドラコが怪我を負ったという事だ。それ自体は大した事ではないが、それによってヒッポグリフが処刑されるとは思いもしなかった。しかしこれはハリー達を成長させる好機ではないか………ワシはそう考えておったが…
次の事件は、何といっても、クィディッチの試合中にディメンターが乱入してきたことだろう…
あの時はハリーが被害を受けてしまい肝を冷やした…しかし、落下するハリーをセレッサが救出してくれた事で何とかなった…
この時ワシの中で一つ疑問が浮かんだ、なぜ彼女がディメンターに恐れを抱く事無く立ち向かえるのか…それと同時に、興味と恐怖が湧いて来たのだ。このまま彼女にディメンターの相手をさせたらどうなるのかと…もし彼女がこの窮地を切り抜ける事が出来たら…そして出来なかったら…
ワシはその疑問を確かめずには居られなかった。気が付いた時には、守護霊を放とうとして居る教職員を制止していた。あの時のミネルバの表情は恐ろしかった…
その時、ワシは彼女を注意深く観察していると、ワシと視線が交わった。
ワシはこの時…確信した。彼女ならこの窮地でも難なく乗り越えられるのだろうと…
結果としては、ワシにとって十分な物だった。
彼女はディメンターを手玉に取っただけでは無く、守護霊の魔法まで使用したのだ…
そして、彼女の守護霊の登場に、その場の全員が息を呑んだ…
それもその筈だ…何と言っても、彼女が守護霊として呼び出したのは、艶やかで、凶悪な笑みを浮かべた、巨大な婦人なのだから…
それから先はまさに一方的な状況だった…
周囲を飛び交うディメンターをまるで、羽虫の様に処理し続けた…
結果としては、競技場には大小様々な穴と、ディメンターの残骸で死屍累々の惨状だった…
次に思い出されるのは、ヒッポグリフの処刑の件だ。
処刑の日時も決まり、総てはワシの思惑通りに事が進んでいった。
まずは、ヒッポグリフが処刑されたと言う事実をハリー達に知らせる。
そしてヒッポグリフを1度処刑させ、その絶望を味合わせる。
その後、自らの力でヒッポグリフの処刑を…危機を彼等の手によって回避する事で、結束力を強める事が出来るはずだ。その為の手段も用意されている…
しかし、事態は思わぬ方向へ進んだ。そう…彼女…セレッサが姿を現したのだ…
彼女はドラコに何かを囁くと、ドラコが自らの腕を晒したのだ。その結果、ヒッポグリフの処刑は取り止めになり、ハグリッドの半年間の減給で事が済んだのだ。
まったく…余計な事を…
そして、今年最も驚かされたのが、シリウス・ブラックの登場だった。
しかも、ハリーに肩を借りながら、校長室に現れたのは驚いた。
さらに驚いたのは、シリウスは自らの無実を宣言している。そして真犯人を連れて来たと。
ワシはその時、半信半疑だった。シリウスが嘘を言って居ないという確信が持てなかったのだ…いや、確信が有ったとしても、匿うという選択肢はなかっただろう。
ロンが自らのペットである鼠を床の上に放り投げると、この鼠こそが、真犯人だと口にしたのだ。
ワシはその鼠に魔法をかけると、疑惑が確信へと変わった。
シリウスの話の通り、ピーター・ペティグリューが真犯人だったという話だ。
これにより、シリウスの無実が認められたのだ。これは素直に喜ばしい事だ…
その後、セブルスからシリウスを確保した時の状況を聞き、ワシはさらに頭を痛めた。
何と、セレッサが飛び回っているディメンター達を、総て処分したという事だ。
しかも蜘蛛の魔法生物…新たなペットを呼び出したという事だ…
しかも、セブルスの見立てではその蜘蛛は、悪魔の一種である可能性があるという話だった…
もし、その話を信じるならば、彼女は悪魔を使役しているという事になる…
闇の象徴である悪魔を使役し、光の象徴である天使と敵対する…
トレローニーの話に出た、深い闇…
しかし、それならばなぜ、闇の帝王が光の象徴の天使を使役しているのか…
これらの情報から、推察するに、彼女は闇と関係が有るのは間違い無いだろう。
もし…いや…しかし、それほどの闇の存在である彼女をワシの力でどうにか出来るだろうか…
今、出来る事は、今まで通り注意深く、監視する事だけだろう…
ワシはもう一度溜息を吐き、目の前の書類に向き合った。
書類には、競技場の修繕費用。そして彼女によって葬られたディメンター達の請求書だ。
「フッ」
その法外な金額に、つい笑ってしまった。
まぁ、ほぼ使う当てのなくなった、貯金を消費する良い機会かもしれない。
数日後、日刊預言新聞の一面がまた新たな記事で飾られた。
ピーター・ペティグリューが聖マンゴ魔法疾患傷害病院からアズカバンへの護送中に逃亡したという内容だ。
詳しい事は伏せられているが、護送用の馬車が何者かに襲撃されたようだ。
護送に当たった職員は全員死亡し、目撃者はいない模様。恐らく死喰い人が関係しているのではという情報だ。
次の記事は、近日中に行われる、クィディッチワールドカップについての記事だった。
鬱蒼と茂る木々を避けながら、2人の男が森を歩いている。
正確にはみすぼらしい鼠のような男と、近寄りがたく、不可思議な男だ。
「本当にこの先に御主人様が居るのか?」
「えぇ、その通りですよ」
「その証拠は…」
「………証拠が必要ですか?現状、貴方には私に付いて来る以外の選択肢があるとは思えませんがねぇ」
「うっ…」
2人はそれ以上会話をする事無く、森の奥の古ぼけた館へと踏み入れた。
「この扉です」
「この先に…」
鼠のような男が、扉を開けると、その奥にはおおよそ人とは言えない様な、肉塊が鎮座している。
「ま…まさか…」
「えぇ、これがヴォルデモート卿ですよ」
『その声は…ピーター…ペティグリューか…』
「ご…御主人様…」
ピーター・ペティグリューと呼ばれた男は、その肉塊に擦り寄った。
不可思議な男はその状況を愉悦の表情を浮かべ、その光景を眺めていた。
以上でアズカバン編は終了です。
やっぱり平和な1年でしたね。
次は炎のゴブレットですね。
今回はあまり暴れられなかったので、次回は大暴れしてもらおうかと考えています。
それでは次が書き終わるまで、またしばらくお時間をいただきます。
また次回も宜しくお願い致します。