次の日
朝から大広間は今まで見た事の無いほどの人だかりが出来ていた。
皆、誰がゴブレットに投票するのか目にしたいのだろう。
ゴブレットに名前を書いた紙が入る度、大広間からは歓声が上がる。
しかしそんな光景も、昼を過ぎた頃には人々の姿は疎らになり始めた。
そんな中ウィーズリーの双子が何やら薬の入った小瓶を片手に、もう片方には羊皮紙を握り絞めゴブレットを眺めている。
2人は小瓶を打ち合わせ、乾杯すると一気に飲み干す。
すると、2人の姿はどんどんと年齢を重ね、成人男性になった。
「「よし! 行くぞ!!」」
双子は声を合わせ、同時に年齢線へと飛び出した。
「「うわあああああ!!!」」
年齢線に1歩足を踏み入れた瞬間、2人の体は弾き飛ばされ、はるか後方へと吹き飛んだ。
「おい! 兄貴!!」
ロンがそんな2人に駆け寄り、顔を見た瞬間大笑いをしている。
吹き飛ばされた当人達はその状況を全くと言っていいほど理解していないようだ。
それもそうだろう。なぜなら2人は吹き飛ばされると同時に、70代ほどの老人となっていたのだから。
まぁ、ダンブルドアの策はそれなりに機能している様だ。
さて、私は何時頃投票に向かおうか………。
夕食も終わり夜も更けた頃、私は1人大広間へとやって来た。
流石に大勢の前で投票すればそれこそ大騒ぎになり、ダンブルドアがやり直しを申し出るだろう。
大広間に人気は無く、青白い炎を放つ薄気味悪いゴブレットが鎮座しているだけだった。
肌寒い空気が周囲を包む。すると、背後から聞き覚えのある声が響いた。
「セレッサ…まさか…君…」
振り向くとそこには、何処か不安そうな表情を浮かべたドラコの姿があった。
「あら、ドラコじゃない。こんな所で奇遇ね」
「君が大広間に入るのが見えたからね…」
そう言うと、私の横へと歩みより、共にゴブレットを見据える。
しばらくの間、静寂がその場を制す。
しかし、ドラコがその静寂を破いた。
「立候補するのかい…その、代表選手に…」
「もちろんよ」
「そうか…君ならそう言うと思ったよ」
私は1歩、また1歩とゴブレットへと歩み寄る。
そして、ついに私は年齢線を踏み越える。
ドラコはその様子を、驚く事無く、当たり前の出来事の様に眺めている。
年齢線を越えた私は、ゴブレットに悠然と近付き、その炎の中に、私の名を書いた羊皮紙を投げ込んだ。
炎は羊皮紙を喰らうとその炎を一瞬だけ激しく燃やした。
私はその炎を背後に感じながら、年齢線の外へと出る。
そんな私を、ドラコの拍手が迎え入れた。
「おめでとう…」
「まだ、私だと決まった訳じゃないわ」
「そうだね…」
ドラコは一瞬、複雑な表情を浮かべた後、踵を返し大広間の扉へと歩きだした。
「アンタは入れないのかしら?」
私の声に、ドラコはその歩みを止め、私に振り返る。
「僕は…僕は君を…いや…君の様に強くは無いから…」
ドラコはどこか悲しそうな表情を浮かべながら、手にしていた羊皮紙を握りつぶす。
「だから…応援するよ…心から…」
ドラコは思い詰めた様な表情を浮かべ、顔を伏せている。
「はぁ…」
私は、ゆっくりとドラコを横切り、大広間の扉へと近付く。
「好きにしなさい。ドラコ」
「あぁ…ありがとう」
炎のゴブレットだけの大広間にドラコの声が響く。
ハロウィーンの夜。
私達は、大広間で食事を楽しんでいる。
炎のゴブレットはダンブルドアの前に鎮座していた。
「誰が代表かな?」
ハリーは代表選手の発表を今か今かと待ちわびている様で、そわそわしている。
「ついにこの時が来た。ゴブレットが代表選手の選考を終えた様じゃ。名前を呼ばれた者は前に出るのじゃ」
ダンブルドアが杖を一振りすると、大広間に置かれている蠟燭の灯が消え、ゴブレットの炎が周囲を照らし、その場の全員の視線がゴブレットに集まる。
次の瞬間、ゴブレットが紅く燃え上がると、1枚の羊皮紙を吐き出した。
宙をヒラヒラと舞う羊皮紙をダンブルドアがつかみ取る。
「ダームストラングの代表は…ビクトール・クラム!」
次の瞬間、会場が歓声に包まれた。
クィディッチの有名選手という事で、ファンが多いのだろう。
クラムはスリザリンの席から立ち上がると、ダンブルドアの横を抜け、隣の部屋へと消えていった。
歓声が止んだ後、ゴブレットが再び燃え上がり、羊皮紙を吐き出した。
「ボーバトン代表は……フラー・デラクール!」
再び会場が歓声に包まれた。
ボーバトンの代表は、先日私と会話をした生徒だった。
デラクールはレイブンクローの席を立つと、クラム同様拍手を浴びながら隣の部屋へと移動した。
歓声が止み、三度ゴブレットが炎を上げ、羊皮紙を吐き出した。
その途端に会場全体が緊張に包まれた。
とうとう自校であるホグワーツの代表選手が決まるのだ。
ダンブルドアは嬉しそうな顔で吐き出された紙を掴み声を張り上げた。
「我が校…ホグワーツ代表は! セドリック・ディゴリー!!」
歓声が上がる。
特にハッフルパフからは、今まで聞いた事の無いほど歓声を上げている生徒までいる。
まぁ、あまりパッとしない寮というイメージが強いから、仕方ないのかもしれない。
多くの生徒が拍手する中、セドリックは少し恥ずかしそうに立ち上がると、隣の部屋へと小走りで向かった。
そんな時、視線の端のドラコと目が合った。
何処か残念そうだが、安堵の表情を浮かべている。
「これで三校総ての選手がそろった! これよりルールの説明を………」
その時、ダンブルドアの後方にあるゴブレットが再び燃え上がった。
「なんじゃと…」
炎は激しさを増し、1枚の羊皮紙を吐き出した。
羊皮紙をキャッチしたダンブルドアは静寂の中、呟くように読み上げた。
「ハリー・ポッター………ハリー・ポッター!!」
その瞬間、会場に居る全員総ての視線がハリーに集まった。
当人のハリーは何が起こっているのか理解していないようだった。
「ハリー! 来るのじゃ!」
ダンブルドアが怒声を上げ、ハリーはフラフラと頼りなく席から立つと、引っ張られるように隣の部屋へと消えていった。
「え…えぇ、想定外の事が起こったようですが、皆さん落ち着いて!」
職員席からマクゴナガルが立ち上がると、声を上げる。
しかし、多くの生徒は状況を呑み込めないのか、ざわついている。
そして、この惨状はさらに続くことになる。
ゴブレットは再び…本日5度目の炎をまき散らした。
しかし、先程とは比べ物にならない程の勢いと、天井まで届く程の火柱を上げている。
「何事…です…これは!」
燃え上がる火柱を前に、マクゴナガルはその場で棒立ちになっている。
そして、炎がより一層激しく燃えると同時に1枚の羊皮紙を吐き出した。
その羊皮紙は、紫色の魔力を纏っている。
なるほど、そういう事か。
私は、席を立ちあがると、周囲の視線を浴びながら、レッドカーペットを歩くかの様に優雅に歩きながら、空を舞う羊皮紙を掴む。
「ミス・セレッサ! 何事です!」
「私への招待状よ」
「まさか…」
私は招待状をマクゴナガルに見せつけると信じられないと言った様子で羊皮紙に目を落としている。
「セレッサ…」
マクゴナガルは誰に語り掛ける訳でも無く、呟いた。
周囲の生徒は、嫉妬や怒り、驚きの表情で私を見据える。
そんな中、ドラコだけは、納得したような表情をしていた。
扉に入ると、そこには魔女や魔法使いの肖像画で溢れた小さな部屋があった。向かい側では暖炉が轟々と燃えている。クラムとデラクール、セドリック、そしてハリーとダンブルドアは小さめな円卓に腰を掛けている。私もその近くへと移動する。
「ベヨネッタ、どうしたんだい?」
「セレッサ…何事じゃ…」
私は、手に持った羊皮紙をひらめかせながら、ダンブルドアの前に置いた。
「素敵なパーティーへの招待、感謝するわ」
私の言葉が理解できないのか、セドリックを始めハリーとダンブルドアは絶望した顔をしていた。
文字通り言語を理解していない、クラムとデラクールは首をかしげている。
「まさか…それじゃあ君も…」
「えぇ、代表選手よ」
「どういう事じゃ…」
「どーいーことでーす? この人たち若すぎーです」
「これヴぁいったい?」
その場に居たクラムとデラクールは顔を険しいものへと変えた。
それもそうだろう。自校は1人、対するホグワーツは3人なのだから、その不満は大きい。
その時、肩で息をしながらマクゴナガルが部屋に入って来た。
「ミネルバ…これはどういう事じゃ…ハリーだけではなくセレッサまで…」
「ハァ…ハァ…先程、彼女の名前がゴブレットから…」
「何という事じゃ…」
ダンブルドアは、両手で顔を塞ぎ天を仰いでいる。
天に縋るようになったらそれこそ終わりだろうに。
「しかし、ゴブレットから名前が出た者はこれに従わなければならない…これは魔法契約だからな…」
バクマンだったか?
その男は複雑そうな表情でそう語ると、部屋の扉が開かれ、クラウチ、カルカロフ、マクシーム、スネイプがぞろぞろと入って来た。
『マダム・マクシーム! セドリック以外にこの2人も参加すると言っています! これはどういう事です!』
「ダンブリ・ドール! これはどういうことでーす?」
「私も説明が欲しいな」
マクシームとカルカロフの2人に詰め寄られダンブルドアは意気消沈といった感じだった。
「ホグワーツは3人、こちらとそちらは1人ずつ。開催校は人数制限が無いという話なのですかな? それは初耳ですなぁ」
「はぁ…」
ダンブルドアは溜息を吐くと、私達に近付き、静かに声を上げた。
「ハリー…お主はゴブレットに名前を入れたのか?」
「いいえ!」
ハリーは身の潔白を証明するべく声を荒げる。
何処と無くシリウスに似ているな。
「そうか…セレッサ…お主はどうじゃ」
ダンブルドアは私を覗き込むように目線を合わせてくる。
私は人差し指で眼鏡の端を上げると、正直に答える。
「えぇ、入れたわよ」
「なんじゃと…」
信じられないといった表情のダンブルドア、ふら付きながら、近くのソファーに腰かけた。
「どういう事じゃ…年齢線は越えられない筈…」
「あれくらい有って無いようなものよ」
私がそう言うと、その場の全員が息を呑んだ。
なにせ、今世紀最強と呼ばれたダンブルドアの魔法を突破したのだからその反応も当然か。
もっとも、私は17歳以上なのだから何の問題も無いのだが。
「何てことじゃ…まったく…予想外じゃ…ハリー…君は一体どうやったのじゃ?」
「僕はやっていません!」
ハリーは否定するが、その場に居る全員が、疑いの目を向けている。
「ヴぉういいです」
突如、クラムが声を上げた。
「相手が何人だろうとヴぉくが勝ちます」
「そのとーりですー、相手が誰だろうーとわたーしは負けませーん」
2人は自信に満ちた表情で立ち上がる。
「そうですね…相手が下級生だからと言って僕も手を抜くつもりはありません」
セドリックもその場で立ち上がり、覚悟を決めたようだ。
「あら、楽しい事になりそうね。早く始めましょ」
私が急かすと、ハリーはどうにでもなれといった表情で立ち上がる。
「皆…良いのじゃな…」
「えぇ、問題無いわよ」
「では、開催と行きましょうか」
バグマンは楽しそうに語った。
「では最初の課題の説明だ」
クラウチは、声を上げ説明を始めた。
「最初の課題は君たちの勇気を試すものだ。どの様な内容なのかは教えるつもりは無い。教師陣に援助を頼むことも禁ずる」
私は周囲を見回すが、マクゴナガルを始め、全員が厳しい顔で私を見ている。
まぁ、援助など必要はないのだが。
「未知のものに遭遇したときの勇気は、魔法使いにとって非常に重要な資質である…非常に重要だ。最初の競技は11月24日。全生徒、審査員の前で行われる。選手は杖だけを武器として最初の課題に立ち向かう。第一の課題が終了の後、第二の課題の情報を与えよう。試合は過酷で、また時間のかかるものであるため、選手たちは期末テストを免除される」
説明が終わると、他校の代表選手たちは、自校の校長に連れられ退室していった。
まぁ、予想通りベヨネッタは代表選手に選ばれました。
ダンブルドアの貼った年齢線は17歳以上が条件ですからね。
たって、ベヨネッタの年齢は………
おや、外が騒がしいな。