ついにこの章も終盤ですね。
最終課題が始まり、私達はクィディッチ会場に集められた。
しばらく待っていると、会場内に観客が入り始める。
観客の中には、ジャンヌとロダンの姿は無く、ルカがカメラを片手に構えこちらに手を振っている。
どうやら、あのカメラは魔法界の物ではないが、ロダンに頼んで改造してもらったのだろう。
またしばらくすると、審査員たちが自身の席へと着席を始めた。
「私達教師陣が迷路の外側を巡回します。助けが必要な時は、空中に赤い花火を上げなさい。私達の誰かが救助へ向かいます。よろしいですね?」
マクゴナガルの説明を聞き、ハリー達は数回頷いた。
それを見た教師陣は、バラバラに歩きだした。
バグマンはそれを見送ると、喉に杖を押し当て、声を響かせた。
「さて諸君、いよいよ最終課題だ! 覚悟は良いか!」
バグマンの怒声がクィディッチ会場に響き渡る。
それをかき消すかのように、会場からは歓声が上がる。
「それでは、最後の確認だ。私がこのホイッスルを鳴らしたらスタートだ! 一番手はセレッサからだぞ!」
私はその言葉にウィンクをして返す。
「よし。それでは行くぞ! 1………2………3!」
カウントと同時にホイッスルの音が木霊する。
私はその場から悠々と歩きながら、迷路の中へと入って行った。
迷路の内部は、木々が生い茂っており、視界も悪い状況だ。
「好き放題に荒れているわね。庭師ぐらい雇ったらどうかしら?」
私は溜息を吐きながら、ポーチからチェルノボーグを取り出した。
「少し剪定しましょうか」
チェルノボーグを下段に構えながら、走り出し、目の前を遮る生け垣を切り裂いていく。
下段から横に薙ぎ、そのまま、斜めに振り下ろす様にチェルノボーグを振るう。
「仕上げよ!」
チェルノボーグを前面に押し出す様に腕を振り、ウィケットウィーブを発動させる。
すると、3枚の巨大な刃が現れ、あたりに生い茂っていた蔦を全て切り払う。
そのおかげで、辺りは随分と開け、奥には青白く輝く、優勝杯が置かれている台座が目に入った。
「すっきりしたわね、さて行きましょうか」
綺麗に整地され、障害を取り除かれた迷路を、私は直進していく。
その時、2回目のホイッスルが鳴り響いた。
少しすると、ハリーが私の間横に差し掛かって、唖然とした表情を浮かべた。
「ベヨネッタ…これ君がやったのか?」
「そうよ、遠回りなんて私は好きじゃないのよ」
「へ…へぇ…じゃあ!」
ハリーは優勝杯目掛けて、突然走り出そうとした。
しかし、私はハリーの襟首を掴み後方へと投げ飛ばす。
「ぐわぁ!」
ハリーは驚きの声を上げ、後方に投げ飛ばされる。
「はぁ! 何をするんだ!」
ハリーが大声を上げる。その直後、先程までハリーが居た所の地面が盛り上がり、巨大な口が付いた触手が飛び出して来た。
「あれは!」
ハリーが大声を上げる、その瞬間、巨大な触手が引っ込み、代わりに小型の触手が数本出現し、私に襲い掛かってくる。
「はぁ!」
私はその場で飛び上がり、1本目の触手を回避し、そのまま2本目の触手を踏み付け更に上空へと回避する。
「くっ!」
その時私の右足に、1本の触手が絡みつき、地面に空いた穴へと引きずり込もうとする。
「離しなさい!」
両手両足、4丁の銃を触手に向け一斉に発射する。
放たれた弾丸は、一直線に触手を撃ち抜き、バラバラに引き裂いた。
上空で1回転決めた私は、地面に着地すると、消え去って行く触手に目を向ける。
大本はもっと別にあるのだろう。
その時、右足に違和感を覚える。
右足を見ると、千切れた触手が絡みつき、ウネウネと蠢いている。
「気持ち悪いわね!」
蠢いている触手を摘まみ上げると、その辺へ投げ捨てる。
「触手は趣味じゃないって言ったでしょ」
私が溜息を吐くと、他の代表選手達も私の少し後ろで、唖然とした表情をしている。
「これで、全員が揃ったわね」
「そうだね」
ハリーがそう言うと、他の代表選手も数回頷き、一触即発の空気が流れる。
優勝杯はもう見えている。後は真直ぐ進めば優勝が確定だ。
そんな時、地響きと共に、地面が揺れ、周りから巨大な触手と、その大本である球体状の巨大な天使、ユスティジアが優勝杯の前に姿を現した。
ユスティジア
「正義」が表される姿で、天使の中でも殊に異形である。幾つもの顔が集まって出来た塊、そこから伸びる無数の触手、まさに悪魔とも形容できる威容だ。正義を成すことの難しさが、描く者の心にあまりにも大きい畏敬の念を抱かせるためだろうか。このユスティジアは、天の意思の中でも、実は最も魔界に近い意思だという考え方がある。正義とは、人が従うべき正しい道理のことであるが、その道理を定めるのもまた人であり、見方を変えれば悪にも転じる-その危うさが、ユスティジアの姿や伝承に表れているのかも知れない。
空中に浮いているユスティジアが、甲高い笑い声と共に、エノク語で話し始めた。
『久しぶりだな、アンブラの魔女よ、貴様に復讐する時をどれだけ待ちわびた事か』
「それはアンタの都合でしょ、どいてくれないかしら?」
『それは貴様の都合だろう、我にはやるべきことが有るのだ…ん?』
ユスティジアが疑問の声を上げると、隣に居た、デラクールとクラムが杖を取り出し、ユスティジアに魔法を放っていた。
だがその魔法は、虚しくもユスティジアには全く効いていないようだった。
『邪魔をするな人間よ、貴様等に用は無い』
再び地面が揺れると、小型の触手が現れ、クラムとデラクールの2人を薙ぎ払う様に襲い掛かった。
「くっ!」
2人は何とか回避しようと、飛び退いたが、完全には避け切れずに、吹き飛ばされる。
「くそぉ!」
ハリーとセドリックは吹き飛ばされた2人の元に駆け寄ると、口元に手をやっている。
「よかった…息は有るみたいだ」
2人は胸を撫で下ろす様に、ほっと、溜息を吐いている。
「2人とも、安全な所へ行ってなさい」
「ベヨネッタは!」
「私はコイツの相手をするわ」
ポーチからロリポップを取り出し口に咥え、魔力を開放させる。
『これで邪魔者は居なくなったな』
「かかって来なさい!」
両手に構えた銃を軽く振り、ユスティジアを挑発する。
突如、地面から大量の触手が姿を現し、一斉に襲い掛かる。
「邪魔よ!」
ポーチからチェルノボーグを取り出し、襲い掛かる触手を切り裂いていく。
『無駄な事を!』
ユスティジアの1つの顔の口から、巨大な触手が吐き出される。その先端には、ビラブドによく似た顔が付いている。
口から出た触手が、一直線に私に襲い掛かってくる。
「喰らいなさい!」
拳を振り上げる。それと同時にマダムの拳が現れ、私と同じような動作をする。
「吹き飛べ!」
拳を前に突き出し、迫り来るユスティジアの触手にカウンター気味に殴りつける。
『ぐぉ!』
マダムのストレートを喰らった触手はその場に力無く倒れ込む。
「お仕置きの時間よ」
倒れた触手の上に乗ると、触手を駆け上がり、巨大な顔へと走り出す。
『近寄るな!』
その声と共に、触手から、無数の光の刃が現れ、私の行く手を阻む。
「無駄よ!」
光の刃が当たる寸前、私は飛び上がり、刃を避けると、勢いそのままにユスティジアの顔面に飛び蹴りを喰らわす。
『ぐぅぅうぅう!』
苦痛に歪む声を上げながら、ユスティジアの口から触手の根元が現れる。
「くらえ!」
チェルノボーグを取り出し、横に薙ぎ払い、触手の根元に切れ込みを入れる。
そして、切れ込みにチェルノボーグの刃元を押し付け、手元のトリガーを引く。
その瞬間、チェルノボーグは音を立てて、その先端に付いていた3枚の刃を一斉に射出した。
3枚の刃の直撃を受け、触手の根元がブツリと音を立て千切れ堕ちる。
『ぐぅうおぉおおぉお!』
ユスティジアは口から血を吐くようにして、触手の塊を口から吐き出した。
地面に着地した私は、チェルノボーグのトリガーを再び引いた。
すると、先程射出された3枚の刃が再び装填され、元の状態へと戻る。
『なめるなよ、アンブラの魔女が!』
ユスティジアは周囲の触手から毒を撒き散らし、迷路を毒沼へと変化させた。
ハリー達は何とか毒の無いエリアに退避している様だが、このままではいつ毒に襲われるか分からない。
「何時までもアンタを相手している暇ないのよ」
ユスティジアは咆哮を上げると、再び別の顔から、巨大な天使の顔を付けた触手を吐き出す。
「ワンパターンすぎるのよ!」
私は、その場を飛び上がり、周囲の触手を飛び移りながら、触手を吐き出した顔に飛び掛かる。
『ぐぉ!』
先程同様に顔を蹴り飛ばされ、ユスティジアは口から触手の根元を吐き出した。
私はその顔の鼻の頭に着地すると、右腕に力を籠める。
「はぁ!」
力を籠めた右腕を薙ぎ払い、触手の根元を手刀切り払う。
『グぉ!』
先程同様にユスティジアは口から血と、触手の塊を吐き出す。
『クハハハ! まだまだだ!』
宙に浮いているユスティジアは、再び別の顔、今度は前後2か所から巨大な触手を発生させた。
「まだあるのね、いい加減にして欲しいわ」
私は、溜息を吐きながら、眼鏡のふちを持ち上げる。
次の瞬間、顔の付いた1本の触手が、私を貫こうと突進してくる。
「残念、ハズレよ」
私はその場で飛び退き、触手の突進を回避する。
それと同時に、マダムの両手が現れ、触手を掴み取る。
『ぐぅぅおおおお!』
ユスティジアは苦悶の声を上げ、触手を必死に引き戻そうとする。
だがマダムも、触手を引き抜こうと力を籠める。
次の瞬間、ズルズルと音を立て、ユスティジアの口から、触手がどんどんと抜き取られていく。
『ぐぉおおおぉおぅぅぅうおおぐ!』
ユスティジアの口からは、どんどんと触手が抜けていく。
どうやら運の良い事に、反対側の触手と繋がっていた様で、一気に2本、つまり残り総ての触手が抜けたようだ。
「これでおしまいね、さっさと消えなさい!」
『まだだ…うごぉおおぉお!』
触手を引き抜かれ、球体状になったユスティジアは、怒声を上げながら、私にその体で体当たりを仕掛けてきた。
「さようなら」
私が指を鳴らすと、マダムの巨大な手が現れ、突撃してくるユスティジアを迎撃するように殴り飛ばした。
「さて、仕上げね」
墜ちて来るユスティジアを空中に蹴り上げ、私は、自身の魔力を開放し、魔法陣を形成する。
『APACHANA NAPTA!』
召喚ゲートから6本の腕が現れ、球体となったユスティジアの周囲を取り囲んだ。
6本の腕の正体は、ヘカトンケイルと呼ばれる魔獣だ。
ヘカトンケイル
強靭な六本の腕を持つ巨人。その豪腕は山をも砕き、足を踏み鳴らせば三日に渡る大地震を引き起こす。知能が低く凶暴で、優れた術者でもその召喚には危険を伴うと言われる。
本体まで召喚すれば、とてつもない危険が伴うだろう。
ヘカトンケイルの2本の腕が飛んできた、ユスティジアをまるでボールの様にレシーブし、高く打ち上げる。
高く打ちあがった
しかし、アタックは虚しくも空を切り、
一拍置いた後、6本の腕がユスティジアに一斉に襲い掛かり、何十発と殴りかかる。
最後に6本の腕が同じタイミングでユスティジアを殴りつけると、弾き飛ばされる様に宙へと舞い上がる。
舞い上がったユスティジアの後方に魔法陣が現れ、その奥から無数の腕が現れ、ユスティジアの体をキャッチした。
『やはり素晴らしいな、流石はアンブラの魔女だ』
「ねぇ、そろそろ教えてくれないかしら? アンタ達が何を企んでいるのか?」
『クハハハ、それはいずれ分かる事だ』
ユスティジアを掴んていた腕に力が入り、引きずり込もうとしている。
『ファハハハ!貴様の行く先に、天の祝福が有らんことを!』
ユスティジアは最後に皮肉めいた事を言うと、向こう側へと引きずり込まれていった。
周囲を見回す。ユスティジアが残した毒は消え、周囲は荒れ果てて、原形を留めていない迷路だけが残された。
「ベヨネッタ!」
安全を確認したのか、ハリーが声を上げこちらに走って来た。
その後ろには、セドリックも杖を手にしながら走っている。
「終わったの?」
「えぇ、ところでさっきの2人は?」
「それなら、さっき花火を打ち上げた所さ、もうじき助けが来るはずだ」
「そう…」
私達3人は、奥に見えている優勝杯に目を向けた。
「……っ!」
多少の沈黙の後、ハリーとセドリックは同時に走り出した。
「せっかちね」
私は数瞬遅れた後に、走り出し、優勝杯に手を伸ばす。
「うわ!」
そして、私達3人は同時に優勝杯を手に取った。
あの形状なら、バレーボールもできると思うんですよね。