ブラック邸の前に付いた私達は、館の中へと入って行く。
廊下の奥の部屋の扉を開けると、ムーディを始めとする面々が、信じられないといった表情で、私とハリーを見ている。その中にはダンブルドアの姿もあった。
「ご苦労じゃったな」
ダンブルドアはハリーとは目を合わせずにそう告げる。
その時、ドタドタと音を立て誰かが階段を駆け下りてくる音が聞こえた。
「ハリー! また会えてうれしいわ!」
声の主はロンの母親だった。
大袈裟に挨拶をした後、彼女はハリーをきつく抱きしめている。
「痩せたみたいね。ちゃんと食べてたの? お腹すいてない?」
「大丈夫、さっきミルクを飲んで来たから」
「そう? なら良かったわ」
ハリーは拘束から解放され、大きく息を吸っている。
そんな時、ダンブルドアが声を上げた。
「さて、会議を始めるとしようかの。騎士団員は厨房の方へ移動してくれんか。セレッサ、お主もだ」
ダンブルドアの声に従い、騎士団員の面々が続々と厨房へ移動していった。
ハリーはシリウスと共に厨房に入ろうとしたが、ロンの母親によって引き留められた。
「駄目よハリー。騎士団のメンバーだけの会議ですからね。ロンとハーマイオニーも上の階で待っているわ。後で夕食にしましょうか」
私は先に入った騎士団員に続くように厨房へと入って行った。
騎士団員が円卓とは呼べないが、テーブルの様な物に腰かけて、皆がダンブルドアの方を見ている。
私は、入り口付近の壁に背を盛られ掛け、軽く腕を組みながら話を聞く事にした。
「護送は無事終わったようじゃな。よくやってくれた。セレッサ」
「どうも」
ダンブルドアの賛辞に、私は軽く手を振り答える。
「お主が護送をしている間、死喰い人の動きはあったかの?」
「なかったと思うわ」
「そうか…それは良かった。皆も良く頑張ってくれた。ハリーはしばらくこの本部で預かろうと考えておる。皆でハリーを警護するのじゃ。無論、ハリーが移動をする際は誰かが護衛に付くようにしてほしい」
ダンブルドアの要請に、私を除く全員が、首を縦に振り頷いている。
そんな時、2階の方からハリーの怒鳴り声が響いた。
「ひどいよ! 僕があの家に幽閉されている間、君達はここでよろしくやっていたっていうのか!」
迎えに行った時からそうだが、ハリーは事あるごとに怒鳴り声を上げる様になっている。そういう年齢なのかもしれないが、だとしても異常だ…後でジャンヌに相談してみるか。
尚もハリーの怒鳴り声が館中に響く。
ダンブルドアは溜息を吐きながら、杖を一振りすると、ハリーの叫び声が嘘の様に聞こえなくなった。
「さて…会議を続けようかの」
ダンブルドアは悲しそうな瞳でそう呟いた。
数日後
私がいつもの様にバーでくつろぎながら、日刊予言者新聞に目を通している。
いつもは胡散臭い記事しか書かれていないが、今日のは違った。
その新聞の一面には、ハリーが無罪になったと書かれている。
どうやら、魔法省へ呼び出されたハリーだったが、ダンブルドアが何とかしたようだ。
ハーマイオニーとロンの手紙には、最近いつも以上にハリーが大荒れて手が付けられないと言う内容のだった。
「ねぇジャンヌ」
「どうした?」
隣で飲んでいたジャンヌに、最近のハリーの状況を話した。
「なるほどな…まぁそう言う年齢なのだろう。私の生徒にも毎年1人は居る」
「アンタも大変ね」
「なぁに、その時は念入りに指導してやるだけさ」
ジャンヌはそう言いながら笑う。だがその目は笑っている様には見えない。
「程々にしなさいよ」
「そっちもな」
私達は、互いにグラスを傾けあい、軽く乾杯をした。
新学期最初の日。
先日届いた、不死鳥の騎士団からの手紙には、ハリーをブラック邸から、キングスクロス駅まで護送すると書かれていた。
正直ここまでくると過保護すぎるだろと思えるが、騎士団員からすれば重要な事なのだろう。
それに伴い、私にも参加して欲しいと書かれていたが、そこまでしてやる義理も無いので、私は普段通りに駅へと移動した。
駅に着いてから数分後、大人数でハリーを取り囲んだ、騎士団員達と、ハーマイオニー達の姿が目に入った。
「小娘! なぜ参加しなかった!」
私を見るなり、開口一番にムーディが声を荒げた。
「私が参加する必要があったのかしら?」
「護送中に死喰い人に襲われたらどうするつもりだ!」
ムーディの怒りのあまり私を睨みつけている。
「ハリーを守るのがアンタ達の仕事じゃないのかしら? そこまで私にやらせる気?」
「あぁ! その通りだ! だがらこそなぜ貴様が参加しなかったのかと…」
「何か勘違いしているようね」
ムーディの怒鳴り声を私は遮る。
「参加する、しないも、私の自由よ。それが条件で入ってあげたのよ。そこを勘違いしないで欲しいわ」
「フン! 小娘が!」
「まぁ、落ち着けよ。彼女にだって都合ってものが――」
「黙れシリウス! 大体貴様はな!」
ハリーの隣に立っていたシリウスは、ムーディにずっと愚痴を言われている。ここまでくれば多少なりとも不憫だろう。
「それにしても、アンタこんなに堂々と出てきて大丈夫なの?」
私は、シリウスに目線を向けながら問いかけると、若干微笑みながら、口を開いた。
「冤罪は晴れた訳だからね。今じゃこうして堂々として居られるさ。まぁ、未だに怪しい目を向けて来る奴もいるがね」
「アンタも大変ね」
「フッ、しょうがないさ」
シリウスは何かを悟ったような表情で笑って居る。
その時、駅の中に発車の時間を告げるベルが鳴り響いた。
「さて…そろそろ発車の時間ね。行きましょうか」
私の後に続くように、ハリー達も急ぎ、ホグワーツ特急に乗り込んだ。
車内は生徒で溢れかえっている。
「うわぁ…こりゃ凄いな…とりあえず空いているコンパートメントを探そうか」
ハリーがそう言うと、ハーマイオニーの表情が少し曇った。
「えっ…と…私達、監督生の車両へ行かなきゃいけないの…」
「そっか…そう言えば今年から監督生になったんだったね…ロン、君もだろう?」
「そうなんだよ、まぁすぐに終わると思うから、何処か開いているところ探していてよ」
「あぁ、じゃあまた後でな」
私達は、ハーマイオニー達の背中を見送った後、2人で開きのコンパートメントを探す事にした。
しばらく捜し歩くと、コンパートメントからドラコが姿を現し、私達と鉢合わせになった。
「やぁ、セレッサじゃないか。それと…フッ、ポッターか。てっきり退学になったかと思ったぞ」
「黙れ、マルフォイ。お前に構っている暇はない」
「そうかよ。ところでセレッサ。この混み具合じゃどこも開いているコンパートメントも無いだろう。良かったらここを使わないかい? 僕は監督生の仕事で少し抜けなきゃならないんだがすぐ戻ってくるよ」
「悪いわね。使わせて貰うわよ」
私はそう言ってハリーに目配せするが、それが気に食わないのか、怒鳴り声を張り上げた。
「誰がマルフォイが用意した場所になんて入るもんか! 君一人で入ればいいだろう! 僕は他を当たるよ!」
私の横を大袈裟に足音を立てながら、ハリーは奥の車両へと移動していった。
「アイツ…どうしたんだ?」
「さぁ? 最近あんな感じよ。年頃の男ってあんな感じになるって聞いたけど?」
「僕はならないさ。流石にアレは酷い」
ドラコは首を振りながら、嘲笑うような表情を浮かべている。
「じゃあ、僕は行ってくるよ。しばらくしたら戻るから待っていてくれ」
ドラコはそう言い残すと、手前の車両へと移動していった。
私は一人、コンパートメントの扉を開け、中で待つ事にした。
しばらく待っていると、コンパートメントの扉が開かれ、肩で息をしているドラコが入って来た。
「はぁ…はぁ…待たせたね…」
「バカね、そんなに急がなくても大丈夫よ」
「ハハッ…あまりレディを待たせるものじゃないからね、はぁ…」
息を整えたドラコが、ゆっくりと対面の座席に腰かけた。
「ふぅ…それにしても、まさかグリフィンドールの監督生があのウィーズリーだとはね…」
「そうみたいね」
「全く何を考えているんだが…まぁあのグレンジャーが付いているのだから問題は無いだろう」
「意外ね、アンタの口からそんな言葉が出るなんて」
「マグル生まれという点さえ除けば、彼女は優秀さ」
ドラコはそう言うと、手に持っていた瓶の中身を一気に飲み干している。
「はぁ…なぁセレッサ…一つ聞きたいのだが…」
急にドラコが真剣な表情と声で話し始めた。
「君はあの時…闇の帝王が復活する時、その場に居たのか?」
「えぇ居たわよ」
ドラコは少し驚いた表情を浮かべた後、ゆっくりと口を開いた。
「その時…その…父上は…」
「アンタの父親ならその時居たわ。お互いに顔も見たわよ」
「そうか…いや…あの日以来、父上の様子がどうも変で…何かを隠している感じだったんだ…」
「そうだったのね」
ドラコは俯き、呟くように声を紡いだ。
「僕は…父上の事を尊敬している…だから僕もきっと父上の後を継ぐと思うんだ…」
「そう…ならアンタも死喰い人に入るのかしら?」
「驚かないんだね…多分そうだね…だって僕は、マルフォイ家だから…」
ドラコは何処か乾いたような笑みを浮かべている。
「闇の帝王は、天使と関りを持っているって、父上達が話しているのを盗み聞きしたから…多分そうなったら君と敵対するようになるのかも知れないね…」
「そうね、奴等と関わるなら容赦しないわ」
私は一言そう言うと、右手で眼鏡の位置を戻す。
「そうだよね…はぁ…」
ドラコは再び頭を抱え込んだ。
「僕…どうしたら良いのか分からないんだ。僕自身は死喰い人になりたい訳じゃないし…でも家柄がそれを許さないんだ…本当は君と敵対なんか…」
ドラコは今にも泣きそうな表情で私を見ている。
「泣くのはやめなさい、私は泣き虫とゴキブリが一番嫌いなのよ」
「それは…失礼したね」
袖の部分で、顔を拭き、涙を拭っている。
「人間には選択の概念が有るのよ、どうするかはアンタの自由よ。理由はどうあれ、決めるのは家柄や血筋じゃなくて、ドラコ…アンタ自身よ」
「僕…自身…」
「その結果、奴等に目を付けられるかもしれないけど、まぁしょうがない事よ。受け入れなさい」
私の発言を聞いたドラコは、少し微笑んだ。
「酷いなぁ、その場合、僕は奴等に八つ裂きにされてしまうね」
少し笑いながら、冗談っぽく呟いた。
そんな時、駅に着いたのか、ホグワーツ特急の動きが止まり始めた。
私はゆっくりと立ち上がり、コンパートメントの扉に手を掛けそっと振り返った。
「そうね…私の目の前でなら、守ってあげるわ。奴等を狩るついでにね」
私は軽く微笑み、ウィンクした後、扉を開け廊下へと出ていった。
少し短いですが、今回はここまでです。
更新できるうちにやっておかないと、大変ですからね。