装甲車が車道を爆走し、ハイウェイに入った頃、ルカが口を開いた。
「で? 目的地はどこなんだ?」
「アンタ場所も知らずにかっ飛ばしてたわけ?」
「仕方ねぇだろ! で? この先はどこへ行けばいいんだ?」
「とりあえずハイウェイを抜けた先に……」
その瞬間、背後の方から爆破音が響いた。
「どうやら、お客さんの様だぜ! ベヨネッタ!」
振り返るとそこには、箒に乗った死喰い人が杖を構えて周囲を飛び回っており、さらにその背後から、爆走する数台の乗用車が現れた。
一見普通の乗用車に見えるが、その正体は、『アイレニック』という、車によく似た見た目の天使だ。
アイレニック
もしも人がこの天使を見たならば、きっとその姿を車と重ね合わせるに違いない。しかし言うまでもない事だが、この天使は有史以前の遥か昔より存在している。アイレニックは、天の意思をあまねく天界に伝令する役目を持つとされ、箱型の体に4つの車輪を付け、猛スピードで走る姿で表されることが多い。その速度は風よりも速く、人間界の数千倍とも言われる広大な天界を、僅か一日で走り抜ける。この天使が人間の前に姿を現すようになったのは18世紀の中頃、ちょうど産業革命に湧き始めた時代のことであり、人類初の蒸気機関で走る自動車が現れた頃と符号する。
余談だが、人間界に現れる際は、法定速度を厳守している様だ。
「ルカ、もっと飛ばして。お客様は私が相手するわ」
私は両手に銃を構え、周囲を飛び回る死喰い人に狙いを定め引き金を引く。
「うぉお! あぶっ!」
放たれた弾丸は死喰い人の箒に命中し、バラバラに砕け散る。
「あぁああああー!!」
乗っていた死喰い人は空中で吹き飛び、そのまま海へと落下した。
「さて、次の相手はアンタかしら?」
アイレニックが爆音を鳴らしながら、こちらに近寄ってくる。
「邪魔よ!」
装甲車の上で仁王立ちになり、両手の銃を一斉に発射する。
その瞬間、アイレニックがエンジン音をならし、左右に蛇行運転を行い、銃弾を回避する。
「ちょこまかと、鬱陶しいわね」
私は、銃に魔力を籠め、銃弾を放つ。
魔力を込めた銃弾をアイレニックが蛇行運転で避けるが、その瞬間、私は目を軽く横へ動かす。
その動きに合わせて、銃弾も移動し、アイレニックのガソリンタンクに酷似した部分を貫いた。
その瞬間、アイレニックの胴体が火を噴き、爆発四散した。
「汚い花火だぜ」
ルカは装甲車の運転席で首を振りながら呟いている。
「前! 前見てよ!」
ハリーが大声を上げると、そこには、ハイウェイを封鎖しようと、隔壁が下がり始めている。
「俺の…バカッ!」
ルカは悔しそうに呟いている。
「まったく…しょうがないわね」
私は装甲車から飛び降りると、ビーストウィズインで姿を黒豹に変え、閉まり始めた隔壁の向こう側へと走り出す。
「これでもくらいな!」
隔壁を超えた先で、人型に戻ると同時に、前方を走っていたトラックの荷台に両足で着地する。
そのまま、両手の銃を乱射し、ハート形の弾痕を穿つ。
「「うわっぁあっぁ!」」
スピーカーから悲鳴を上げながら、ルカ達が乗った装甲車がハート形の弾痕を突き破り、隔壁を突破した。
「ハァ…ハァ…助かった…」
「あぁ…はぁ…だから言っただろ! 大船に乗ったつもりで居ろって!」
「その大船が泥で出来ていたなら何の意味も無いよ…」
私はその場で飛び上がり、再び装甲車の上に着地し、上部ハッチを開ける。
「はぁい、二人とも無事なようね」
「うぉ! だから急にハッチを開けるなって!」
「良いじゃない。アンタ達は車の中で、のんびりとドライブを楽しんでいるんだから」
「まぁ、そうだな。ドリンクまであるぜ。どころで後どれくらいだ?」
「あと少しで、ハイウェイを抜けれるから、もう少しだと思う」
ハリーがそう言うと同時に、周囲に格子状のビームが現れ、私に襲い掛かる。
「邪魔ね」
私は飛び上がり、格子状のビームを縫うように回避し、アスファルトの上に着地する。
「次はアンタ達ね」
私は、背後で走り去る装甲車を見送りつつ、格子状のビームを放った張本人たちと向き合う。
そこには3体のジョイが両手に様々な武器を構えながら、悠然と佇んでいる。
ジョイ
天使のヒエラルキーの最上位に君臨する「熾天使」の一人。このクラスの天使は、物質的な概念を超えた霊的な存在である。彼らがとる姿も川の流れのように不定形で、一時的なものでしかない。時に人間の女性形に似た姿を見せる熾天使ジョイは、姿を変えるどころか、その身を分離させて複数の意識を持つことすら自在だという。
ちなみに以前、私の姿をまねされ、ダンスバトルに発展した事がある。
「さて、ご用件は何かしら?」
「フンッ!」
ジョイ達は、武器を構えると、臨戦態勢を取った。
「そう、私と遊びたいのね。良いわ、かかってらっしゃい!」
「ェイヤ!」
刀を構えたジョイが切っ先を突き付けながら、突進してきた。
「甘いわね」
体の軸を横に動かし、ポーチから修羅刃を取り出し、ジョイに切りかかる。
「アァ!」
ジョイは瞬時に、体を動かし、修羅刃の攻撃を、刀で受け止め鍔迫り合いになる。
「やるじゃない。でもこれでどお?」
私は修羅刃に魔力を送り、一気に押し込む。
すると、ジョイの刀がビキビキと音を立て、砕け散った。
「フォ!」
刀が砕かれたジョイはその場で鳥の羽のような物を空中に浮かせ、こちらに向けて乱射しながら後退を始めた。
「逃さないわよ!」
羽根を回避すると同時にウィッチタイムを発動させ、一気にジョイに詰め寄り、修羅刃を突き立てる。
「ァア!」
修羅刃で切り付けられた、ジョイはその場に倒れ込むと、苦しそうな声を上げている。
「さて、お仕置きの時間よ」
倒れ込んだ、ジョイを右足で踏み付けると、その背中に修羅刃を突き立て、滅多刺しにする。
「ァアァ!!」
最後に、胴体を蹴り上げると、ジョイは苦悶の表情を浮かべながら、その場で力尽きた。
「さて、次はだれかしら?」
「ァァア!!」
次は鞭を片手に構えた、ジョイがこちらに突進してきた。
「次はアンタね」
突進を避けると同時に、胴体を蹴り上げ、吹き飛ばす。
「シャァ!」
壁に激突したジョイは瓦礫を吹き飛ばすと、鞭を振り抜いた。
「危ないわね」
迫り来る鞭に対して、アルーナをぶつけ、鞭同士を絡める。
「ァァアア!」
「力比べね。頑張りなさい」
ジョイは必死に抵抗し、鞭を引っ張っているが、私は一気にアルーナを引っ張り、勢いそのままジョイを地面に叩きつける。
「ぁ…アガァ!」
「さて…お仕置きの時間よ」
上半身をアスファルトに埋め、下半身だけど見せているジョイの尻を右足で踏み付ける。
「アァアァ!」
その瞬間、ジョイが艶かしい声を上げる。
「今日のはキツイわよ耐えなさい」
手にしたアルーナをしならせると、ジョイの尻を打つ。
「アァッアガァァァ!!」
「良い声で鳴くわね。続けるわよ」
そのまま何度となくアルーナを振り、尻を何度も鞭打ちする。
「あ…アァァアァ!」
「終わりよ!」
最後に、アルーナを最大にまで引き絞り、勢い良く尻を叩き上げる。
「アッアッアアアァァァアァァア!」
尻を叩き上げた瞬間、ジョイは悲鳴を上げ、尻を震わせながら、上半身が見えないまま力尽きた。
「呆気ないわね…さてアンタで最後ね」
「ガァ!」
銃のような武器を構えたジョイが、その場で弾を乱射し始めた。
「無駄よ!」
せまり来る弾をマハーカーラの月で弾き返す。
「アァ!」
弾き返された、全ての弾が全身に直撃し、ジョイが吹き飛び、瓦礫に埋もれる。
「ハァ!」
瓦礫を振り払ったジョイは、銃を構えて突進してくる。
「しつこいのよ」
迫り来る銃を避け、ジョイの顎に銃を突き付ける。
「さようなら」
引き金を引き、銃弾を放つ。
放たれた銃弾は、ジョイの下顎を貫通し、その体が上空に吹き飛んだ。
「ァァァア!」
吹き飛ばされたジョイは、上空で光り輝くと、2体に分裂し、1体はアスファルトの上に倒れ、分裂した1体が華麗に着地した。
「ジャァ!!」
「いい加減しつこいのよ」
私は躊躇い無く引き金を引き、銃弾を放つと、ポーズを決め始めたジョイの脳天に直撃し、呆気無く絶命した。
「ふぅ…随分時間を取られたわね」
装甲車が走り去った方を見るが、すでにかなり先まで走って行ってしまったようだ。
「このハイウェイを歩いて渡れって言うの? このヒールじゃ無理だわ。タクシーでも通らないかしら?」
その時、後方からエンジン音が聞こえてきた。
「お~い! セレッサ!」
振り返ると、サイドカーの付いたバイクに乗ったハグリッドが手を振っている。
「あら? どうしたのよ」
「ちと心配になってな。ところでハリー達は?」
「置いて行かれちゃったわ。まったく失礼しちゃうわ」
私は腰に手をやり、装甲車の行った先を眺める。
「ハハッ、そうだな。さぁ乗りな。追いかけるぞ」
ハグリッドはそう言うと、サイドカーを指差した。
「そうね。でもアンタはここで待ってなさい」
私はハグリッドの首元を掴むと、その巨体を持ち上げ、引きずり下ろした。
「うぉお! おい! 何するんだ!」
「このバイク少し借りるわよ」
「え?」
ハグリッドが間抜けな声を上げている中、私はサイドカーとの接合部を銃で撃ち抜く。
「おいおい! ちょっと待て!」
「じゃあ、気を付けて帰りなさい」
私は中指に魔力を集め、鍵穴に突っ込み、勢い良く回す。
その瞬間、バイクから規格外の爆音が響き、マフラーから炎が噴き出る。
「派手にブッ飛ばすわよ!!」
アクセルを最大にまで捻り、ギアを一気にトップまで回し、急発進させる。
「どうなってやがるんだ…」
残されたハグリッドは私の後姿を見ながら、サイドカーにもたれ掛かっていた。
魔力を込めたバイクが爆音を撒き散らしながら、ハイウェイを爆走していると、爆走を続けている装甲車の後姿が目に入った。
装甲車の周囲には、アフィニティを始めとした、雑魚が周囲を飛んでいた。
「うわぁ! どうなってるんだよ!」
「知るかよ! まったくしつこい奴等だ!」
「何か武器は無いの?」
「そんなもんねぇよ!」
装甲車のスピーカーがONになっているのか、周囲には内部のやり取りが筒抜けだ。
「さて、行くわよ!」
私は最大にまでアクセルを捻り、車体をウィリーさせ、1体の天使を轢き倒す。
そのまま、アクセルを全開にし、両手の銃で周囲の天使に銃弾を放つ。
「「ベヨネッタ!」」
装甲車のスピーカーから2人の声が響く。
「まったく…世話が焼けるわね」
私はそのまま装甲車と並走しつつ、残りの天使を撃ち落として行く。
「ここを抜けた先が、目的地だよ!」
「良し! じゃあ飛ばすぜ!」
そのまま、私達は最高速度で、目的地へと駆け抜けた。
無事にハリーの護送が終わりました。
これによって、被害を受ける予定だった人物は無傷ですね。