さて…どこまで壊そうか…
ダンブルドアからの呼び出しを受け、校長室へと足を運ぶと、そこにはシリウスやルーピン、ムーディといった不死鳥の騎士団員と、疲れた表情のドラコを連れたジャンヌが勢揃いしていた。
「やぁ、セレッサ」
「どうしたのよ? かなりお疲れの様ね」
「まぁね…」
「しっかり鍛えてやっているからな」
「正直死にそうだ…」
ジャンヌは嬉しそうに微笑んでいる。
全く何をしているのだか…
「皆よく集まってくれた」
ダンブルドアは神妙な面持ちで、重い口を開いた。
「先程連絡が入ったが…魔法省が完全に死喰い人の手に落ちた様じゃ…」
「それは…つまり…」
マクゴナガルを始めとした面々が絶望にその顔を染めている。
「アズカバンに収容中の死喰い人が大手を振って歩き、ディメンターが死喰い人の指示で人々を襲うじゃろう…それに、ホグワーツへの資金援助も打ち切られ、我々は孤立無援じゃ…」
「そんな…」
「それだけではないぞ…恐らく奴等はすぐにでもこちらに攻撃を仕掛けて来る筈じゃ…」
現実を突き付けられ、ハリーは絶句している。
そんな時、勢い良く扉が開かれた。
「父上!」
「ハァ…ハァ…ドラコか…」
息を切らせ、肩を上下に動かしているルシウスが、ドラコの姿を確認した後、ダンブルドアと向き合った。
「何の用じゃ? ルシウスよ」
「報告だ。闇の帝王がホグワーツに進行を掛けて来るぞ!」
「それはまことか?」
「あぁ、本当だ」
「何という事じゃ…」
ダンブルドアは溜息を吐き、頭を抱えている。
「今のうちに、1人でも多くの生徒達を退避させた方が良いぞ」
「退避じゃと?」
ルシウスの発言にダンブルドアは疑問の声を上げた。
「あぁ、闇の帝王は無慈悲な御方だ。マグルだろうが、純血者だろうが関係なく邪魔するものは排除するはず。例えそれが、非力な生徒と言えど、容赦はしないだろう。だから――」
「じゃが…それでは我々の戦力の低下に繋がる」
「それは…どういう…」
ダンブルドアの言葉にルシウスが固まる。
「つまりじゃ。ホグワーツに居る全員の力を合わせ、死喰い人に抵抗する。それが最良の策じゃろうとワシは言いたいのじゃよ」
何という事だ。つまりこの老害は自分の生徒を戦闘に参加させるつもりのようだ。
「まったく…ふざけた事を…」
ジャンヌが憤怒しながら口を開いた。
「非戦闘員や、非力な生徒を戦闘に駆り出すだと? 貴様それでも教師か?」
「じゃがのぉ…今更どこに退避するというのじゃ? それならばいっその事、対抗した方が勝率が上がるのでは?」
ダンブルドアは真剣な目線でジャンヌと向かい合っている。
「スリザリンの寮だ。あの地下室ならば、一時的に退避するには最適だろう」
「じゃが、退避したとして、その後はどうする? 攻まり来る死喰い人に、教師陣だけでどう立ち向かう?」
「フン、腰抜けが」
ジャンヌはダンブルドアを笑い飛ばした後、銃を取り出した。
「我々が負けると思うか?」
自身に満ちた表情のジャンヌは私と目が合う。
「そうね。あんな奴等に負ける程、私達は弱くは無いわ」
私も銃を構え、ダンブルドアに突き付ける。
その時、空が曇り、窓に雨粒が当たる音が響く。
「雨かの…」
ダンブルドアがそう呟くと、爆音が響き、空に闇の印が上がる。
『聞こえているな、ダンブルドアよ』
闇の印から、ノイズが混じったヴォルデモートの声が響き渡る。
『魔法省は俺様の手に落ちた。残りはお前達だけだ。どうだ怖いか? だが慈悲深い俺様は貴様等に少し猶予をやろう。その間に祈るなり、自害するなり、抵抗の準備を進めるなり好きにするが良い。ハーハハッハハハハッ!」
ヴォルデモートの高笑いが響き、先程までの暗雲が掻き消える。
「何という事じゃ…」
「どうするのだ?」
「…………」
ジャンヌの問いかけに、ダンブルドアは無言のまま頭を抱えている。
「校長!」
痺れを切らしたマクゴナガルが怒声を上げる。
「仕方あるまい…生徒全員を一度大広間に集めてくれ。避難の指示を出そう。その後、城の周囲に防御を張り、ホグワーツの守りを固めるのじゃ…」
ダンブルドアは苦しそうに呟くと、マクゴナガルは走り出した。
「なら、我々も準備を始めよう。恐らく天使共も動き始めるだろう」
「そうね」
私とジャンヌは、ダンブルドアを一瞥した後、校長室を後にした。
数分後、大広間に集められた生徒達は混乱していた。
それもそうだろう。先程のヴォルデモートの声明を聞いて平常心を保つのは難しいだろう。
「皆に話がある。先程の出来事でおおよその事は理解していると思おうが…このホグワーツが戦場となる」
ダンブルドアの言葉を聞いて、生徒達がざわめきだした。
「無論…ワシ等は抵抗する。じゃが…危険が無い訳ではない…そこで生徒諸君にはスリザリンの地下寮へと退避してもらいたい」
「何だって!」
その瞬間、グリフィンドールを中心に抗議の声が上がる。
「誰がスリザリンの寮になんか逃げるものか!」
「それなら、俺達も戦う!」
どれほどスリザリンは嫌われているのだろうか。
そんな状況を見たダンブルドアは、喉元に杖を押し付けると、一呼吸置いた。
「静まれ!!」
ダンブルドアの拡声された怒声が響き渡り、周囲の喧騒が静まり返る。
「今は緊急事態じゃ…寮の垣根を越えて行動して欲しい」
ダンブルドアの懇願に生徒達はゆっくりと頷き、一人、また一人と大広間を出て行った。
「先生!」
生徒の半数が退室した頃、ハリーを始めとしたDAのメンバーが30人程の上級生を引き連れてやって来た。
「僕達も戦います!」
「ハリー…お主達…」
その場に居た全員が決意に満ちた瞳でダンブルドアを見据えていた。
ダンブルドアが振り返り、ジャンヌに目を向けるが、ただ頷くだけだった。
「よかろう…じゃが、身の危険を感じたらすぐに逃げるのじゃぞ」
「わかりました!」
ハリーはその場で、メンバーに指示を出している。
「リーマスとトンクス。君達はスリザリンの地下寮の前で生徒達を守ってやってくれ。他の不死鳥の騎士団員は、死喰い人との戦闘に備えるのじゃ。ハリー、君はワシと共に行動するのじゃ」
「わかりました」
その後、各々が自分の役目を果たす為に移動を開始した。
その顔は決意に満ちていた。
外へ出ると、ホグワーツの職員が城全体に防御魔法を張り巡らしている。
これで少しはマシになるだろうか。
「ベヨネッタ!」
ハリーがこちらに走りながらやって来た。
「こっちは準備万全さ!」
「そう。何をしてきたのよ? ダンブルドアと一緒じゃないの?」
「ちょっと裏門の橋に細工をね。これで奴等の進軍を少しは遅れさせられるよ。それが終わったら向かうさ」
「こっちも完了したわ」
「あぁ、完璧さ。後は奴等に一泡吹かせてやる!」
ハーマイオニーとロンも緊張しているが、気持ちが高揚している様で、テンションが高くなっている。
その時、再び空に闇の印が上がる。
『そろそろ時間だ。覚悟は良いな』
ヴォルデモートの忌々しい声が響き渡る。
それにしても、奇襲でもすればいい物を、わざわざ進行を宣言するとは…
慢心しているのだろう。
『よかろう。精々後悔する事だな』
闇の印が消えると同時に、大量の魔法がホグワーツ城を目掛け放たれている。
「うぉおお!」
飛び交う魔法は、周囲に張られている防御魔法に直撃し、爆発が起きる。
「どうやら始まった様ね」
その時、マクゴナガルとダンブルドアの魔法を詠唱する声が響き渡る。
「「
「ホグワーツを守るのじゃ!」
「境界を警護せよ! 我等、そしてこの学校への務めを果たすのです!」
二人の声が響き渡ると、ホグワーツに設置されていた様々な石像が動き始めた。
「この呪文を一度使ってみたかったの!」
「ハハッ! ワシもじゃよ!」
動き始めた石像は、ホグワーツに掛かる大橋の手前で待機し、敵の進軍に備えている。
別ルートの橋にはハリー達が細工を施したようだが…
果たしてどう出るだろうか…
別の進行ルートである、桟橋の先端には、防御魔法の内側でネビルが一人で大勢の死喰い人と対峙している。
「どうした! 怖いのか!」
「舐めるなよ! ガキが!」
ネビルの挑発に乗った一人の死喰い人が走り出したが、その体が防御魔法に触れた瞬間、血煙となり、霧散した。
「うっ!」
その姿を見て、死喰い人は攻勢を躊躇っている。
「は…ハハッ! 怖いのか!」
調子に乗ったネビルはさらに挑発を続けている。
「退いてな…」
「お前は…」
死喰い人の隊列を掻き分け、先頭にベラトリックスが現れた。
「ネビル・ロングボトムじゃないか、こんな所に居たのか。てっきり逃げたかと思ったよ」
「僕は逃げない! 僕の両親だって、お前達に屈した訳じゃない!」
「あぁ、そうかい。私からすればただの意地っ張りで、馬鹿な奴としか言えないけどねぇ!」
「な…なんだと!」
先程までの立場が逆転したかのように、ネビルをベラトリックスが挑発している。
「まぁ、お気の毒な両親に育てられたんだ。守りの中でぬくぬくしているが良いさ!」
「貴様!」
怒りにその身を震わせている。
「まぁいいさ。後でゆっくりと痛め付けてあげるよ!」
ベラトリックスが声を上げると同時に、魔法を放つが、その魔法がネビルの目の前にある防御魔法に弾かれる。
「フン! 所詮はお前はその程度なんだ! ベラトリックス・レストレンジ!」
「なっ…お前ごときが…この私を侮辱するのかい?」
「お前なんて、侮辱するにも値しない!」
ネビルの言葉に怒り狂ったのか、ベラトリックスが魔法を乱射しているが、まったく効果が無い様だ。
「ハァ…ハァ…くそっ!」
疲れ果てたのか、ベラトリックスが肩で息をしながら、杖を構えている。
「くそぉ! こうなったら…」
ベラトリックスが躊躇いがちに、小さなナイフを取り出した。
「うわぁぁあああああっぁぁ!」
ベラトリックスは絶叫を上げると、ナイフを振りかざした。
「まったく。見て居られませんね」
死喰い人の列の奥の方からロプトが現れると、今まさに振り下ろさんとしているベラトリックスの腕を遮った。
「なっ! どういうつもりだ!」
「それを行うのはまだ早いですよ」
ロプトが軽く指を鳴らすと、ゲートの様な物がホグワーツを取り囲むように現れ、その向こうからミサイルが出現した。
「さて、これでもくらいなさい」
ロプトが掲げた手を振り下ろすと、ホグワーツの周囲を囲んだミサイルが炎を吐きながら、突っ込んで来た。
「ふせろ!」
「うわぁぁあああああっぁぁ!」
ミサイルが防御魔法に直撃すると、爆炎が上がり、甲高い音を立て、防御魔法の表面にヒビが入る。
「まだまだ。ありますよ」
ロプトが再び手を振るうと、さらにミサイルが現れ、ホグワーツを覆っている防御魔法に突っ込んだ。
爆炎が上がり、防御魔法のヒビがさらに広がる。そして、ガラスが割れるかのような音が、周囲に響き渡り、防御魔法はその役目を終えた。
「さて、それでは進行なさい」
「「「「うおぉおおおぉぉおおおぉぉおぉぉおお!!」」」」
その瞬間、死喰い人の軍勢が走り出した。
「まずい!」
橋の上に立っていたネビルは急ぎ踵を返すと、走り出した。
「うわぁぁあああああっぁぁ!! 早く! 早く点火しろ!」
ネビルが叫び声を上げると、他のDAのメンバーが、杖を振るい、導火線に火をつけた。
その導火線は橋の支柱に繋がっている様だ。
「うぉ!」
次の瞬間、橋の下から爆破音が響き渡り、橋が崩壊を始めた。
「うわぁお」
「やろう…派手にやるじゃねぇか」
隣に立っていた、ロンとハリーはその光景を見て、ただ茫然と呟いている。
「くそぉ!」
死喰い人は爆発から逃れる様に必死で走っているが、間に合わずに瓦礫に飲まれていく。
「うおぉぉおぉおぉぉおぉぉお!!」
爆発を背後に受けながら疾走していたネビルが渾身の悲鳴を上げながら、大きく飛び上がった。
「うわぁお!」
飛び上がったネビルの体は爆風に煽られ、何とかこちら側へと着地した。
「よくやったぞ! ネビル!」
「あ…あぁ。死ぬかと思ったよ」
ネビルはハリー達に祝福されながら、生きている実感をかみしめている様だ。
「これによって少しは時間が稼げるな」
崩れ落ちた橋を見たジャンヌは詰まらなそうに呟いた。
確かにこれで、進行ルートの一つを閉鎖し、一つに絞る事が出来た、だが向こうにもまだ手はあるはずだ。
そのうえ、防御魔法を剥がされ、こちらは裸同然だ。
さて…どうなる事か…
ネビル…
君の活躍はここで終わりなんだ…