チートに不死身を要求したら、投獄された件について 作:泥炭地
牢屋に放り込まれてから、随分と時がたった。
外は見えないが、夜になると牢屋も闇に閉ざされる。
正確に数えられているか不明だが、すでに半年の時は経っているはずだ。
おっ、今日の朝ごはんがやってきた。
そのままこっちに来い、逃げるなよ。
・・・それっ!
うん、よし。
日本で見かけた奴らよりも、大きくて太っていて、食べ応えがある。
鎧土竜と呼ばれる種類だろうか?
「にちっ・・・じゅるっ」
赤ん坊ゆえに身動きはとれず、身体の上を這って行く蟲を払いのけることもできない。
なので仕方なく、口に近づいてきた蟲を捕食して腹を満たしている。
・・・顎も歯も弱いから、うまく噛み潰せない。
お腹の中で噛みちぎった脚が動いている。気持ち悪ぃ。
普通ならとっくに気が狂っている環境だと思う
しかし、暇で暇で仕方ないのにもかかわらず、俺の精神は平常運転が続いていた。
恐らく、不死身チートの効果が上手い具合に働いているんだろう。
そうでなければ、こんな環境で気が狂わずに済んでいる説明がつかない。
神様とやらの気配りだろうか。
だったら転生させる前に、ダークソウル行きだと教えてくれればよかったものを。
親切なんだか、不親切なんだか。判断に困る。
「ぁうあうあー」
暇で暇で仕方がないから、定期的に廊下の奥に向かって声をかけている。
誰か反応してくれればいいな、と思っているが、反応があったためしはない。
今のところ、新しい囚人を運んできた人間も見かけていない。
生まれた直後のやり取りで、この世界の言葉が都合よく理解できることはわかっている。
一人でも不死人が運ばれて来たら、おしゃべりして暇を潰すことができるんだが。
「・・・・・・ん?」
鎧土竜を観察していると、石をたたく硬質な音が聞こえてきた。
がちゃんがちゃんと騒がしい音。
不死人が壁を削る鈍い音とは、明らかに異なる。
これはあれだ。金属で石畳を叩いている音だ。
つまり・・・鎧を着た誰かが歩いている。
囚人として連れてこられる不死人が、鎧を着ていることなどありえないのだから、それ以外の誰かさんがやってきた事になる。
もしや、と思って耳を澄ましていると、音はどんどんと近づいてきた。
そして、ちょうど俺の牢屋の前で止まる。
ガチャガチャと鍵を開ける音がして、牢屋の扉が開いた。
「・・・よし、空き牢だな。放り込め」
どうやら布にくるまれて転がっている俺に気づかなかったらしい。
ドサっという音を立てて、何か大きな物が牢屋の中に放り込まれる。
転がってきたそれは、汚れた布に包まれていたが、人の大きさをしていた
もぞもぞと動いている。くぐもった声も聞こえる。
間違いない、こいつも囚人。つまりは不死人だ。
牢屋の扉が再び閉じられて、鍵がかけられた。
金属の音を鳴らしながら、足音は遠ざかっていく。
それと同時に簀巻きの不死人の動きも激しくなった。
「ーーーっ、ーーーっ」
簀巻きにされた布の間に、手首が見える。
おお、これは運がいい。
まだ腐っていない人の肌だ。
正気が残っているなら、話が通じるか可能性が高い。
もぞもぞと動き続ける誰かさんの手首は、何かを探すように指をくねくねさせている。
何をしてるんだ?
少し考えてその訳を理解した。
囚人の手首は、拘束するために荒縄で縛られている。
指先がさっきから掴もうとしているのは、その端っこだ。
結び目をほどいて拘束を解きたいんだろう。
気持ちはわかる。
でも、そんなに慌てて縄の先っぽをひっかいていると、端からどんどんほつれてしまって、やがて掴めなくなってしまうぞ?
「ーーーっ!-----っ!!」
「なあ、ちょっとまて。あんた」
このままだと本当に縄が擦り切れて行ってしまいそうなので、意を決して声をかけた。
赤ん坊の舌だが、思ったよりもまともな声が出る。
暇に飽かせて半年近く、独りで発声練習した甲斐があったというものだ。
「っ!」
「口もふさがれているのか?まあいい。そのままだと縄がダメになりそうだからな。俺が言うとおりに指を動かせ」
人の声が聞こえたことで落ち着きを取り戻したんだろう。
パニック状態で縄をつかもうとしていた動きは止まり、代わりに周囲をうかがうように息をひそめている。
しばらくすると、モゴモゴとくぐもった声が簀巻きの中から聞こえてきた
喋りかけられている?まあ、何言ってるかわからんが。
「ーーー?」
「・・・何を言いたいか、なんとなくわかるよ。悪いが、実はこっちも自由に動けなくてね。解いてやることはできんのさ」
あんたが解いてくれよ、みたいなことを頼まれている事は察せたので、こう答えた。
言いたいことは伝わったらしい。
わかった、とでもいうように、親指を突き立てている。
グッドだ。
「よし、まずは右手をだな、限界まで内側に折り曲げろ。そうしたら次はーー」
数分後。
簀巻きにされていた人物は手首の拘束を解き、頭に被せられていたずた袋を脱ぎ去った。
そして頭に巻かれていた目隠しと猿轡を引きちぎり、足首にまかれていた縄を解いて捨てる。
牢屋の中ですくっと立ち上がった人影を見上げて、思った。
おっさんだ。
何の変哲もない、普通のおっさんだ。
布の服を着ていて、武器の一つ思っていない、無課金の如きおっさんが一匹である。
ただ、まあ、筋肉はすごいな。堅気の人間には見えない。
いや、不死の囚人に何を期待していたって話だ。
これが使命を帯びた上級騎士のオスカーさんだったら、牢屋やら連れだしてくれたかもしれないのに、と思いもしたが。
そんな都合のいい話はないだろう。
「なあ、誰だか知らないが助かったよ。礼が言いたい。あー・・・どの牢から見てるんだ?」
おっさんは格子の外を覗いている。
廊下に並んだほかの牢屋に向かって話しかけているところを見るに、同じ牢の中にいる俺に気づいてないようだ。
まあ、そうだろうな。
俺の身長はまだ40センチそこらのはずだし、布の中にくるまっている。
まさか牢屋の隅につくねられている布の中に、流暢に喋る赤ん坊が隠れているとは、思うはずがない。
「ああ?なんだこりゃ。どの牢の中も見えねえぞ?」
「あー・・・ここだ。ここにいる」
自分の状況をどう説明したものか、さっぱり考えはなかったが、とりあえず声をかけた。
どうせこの狭い牢屋の中なら、すぐに見つかってしまう。
先手を打って話しかけよう。
なるべくフレンドリーに、だ。
「・・・なあ、あんた。その布の下で喋ってるのか?」
「ああ、そうだ」
「ここにいるってことは不死人なんだろうが・・・まさか首だけか?」
男の言葉に、なるほどその考えがあったか、と唸る。
いや、というか、不死人ってのは首だけになっても喋れるのか?
肺と声帯はどうした。
ファンタジーにもほどがある。
「残念ながら、五体満足だよ・・・想像以上に奇妙な身なりだとは、自分でも理解している」
「そ、そうか」
「これから長いこと同室になる好だ。早いところお互いの身の上を知っておこう。この布をどけてもらえるか?・・・ああ、驚いて蹴り飛ばしたりしてくれるなよ?」
長くしゃべると喉が痛むな。
赤ん坊の体だとこんなことも難しいのか。
おっさんは布の塊に近づいてきて、しゃがみ込む。
そしてうさんくさげに布の塊を眺めて・・・俺と目が合った。
めっちゃビビってる。
まあ、同じ状況なら俺もビビると思う。
「なあ、あんた、まさか」
「・・・お互い不死になった身の上だ。外見と中身が釣り合わない事だってある。わかるだろう?」
「いや、だが、さすがにこれは」
おっさんはおっかなびっくり、布の端をもってパラりとめくる。
・・・。
一度布が掛けなおされた。
数秒後、再び布がめくられる。
あー。やっぱり、そういう目で見るか。
気持ち悪いんだろうな。
中途半端に乾燥した赤子のミイラなんて、どんなホラーだよ。
どうも初めまして。
私が赤さんです。
「信じられねえ。狂ってるぜ、こんなのは」
「俺もそう思うよ」
鎧土竜で画像検索。
たぶん続かない