今も昔もヒーローは僕の憧れだ。強くて、優しくて困っている人がいたら助けてくれるそんなヒーローに自分もなりたいと思った。
でも現実は甘くなくて、小学校に上がってもいつも泣いてばかりで転んで怪我をしては泣いていた。
しまいには犬が怖くて、犬を飼っている家の前を一人で通れなくていつも妹を盾にするように通っていた。そんな風に過ごしているとクラスの子達に笑われるようになっていた。
――――二年生になってもあいつまだ泣き虫のままだっ!
――――恥ずかしくないのかな?
――――あいつと遊ぶとすぐ泣きそうで遊びたくないな~
その声が入ると僕はまた泣いていた。そんな僕を見た先生はクラスのみんなを怒ったけどきっとそんな理由ではないのだと今の僕なら分かる。
きっと申し訳なかったのだ、こんな弱い自分がみんなに迷惑をかけてしまっている事に。
それから僕は、学校に行くことを嫌がるようになった。
そして現在――――――
僕、紅 夕陽(くれない ゆうや)/15歳/引きこもり
これが、今の僕の現状。結局あの後すぐに学校に行かなくなり、それ以来時々しか学校に行かなかった。
それでもどうにか高校には入学する事が出来て、実は明日から高校の入学式なのだ。
「いいか、夕陽お前もいつまでもこのままじゃダメなのは理解しているだろ?」
お父さんは優しく言いきかせるように語り始める。いつもこうして父さんが僕を説得してくれる、でもいつも逃げてしまう自分が嫌になる。
僕のそんな気持ちが表情に出てしまっていたのか、あわてて怒ってはいないんだとお父さんは笑う。
「父さんも昔お前のように引きこもっていた時もあったから、お前を責める資格はないんだ」
その言葉も何度も聞いていると思った瞬間、余計に申し訳なく思う。そのあとにいつもこう言うんだ。
「でも、だからこそお前の気持ちは理解できるつもりだ。だからお前の説得はお母さんに頼んで任せてもらっている」
「ごめんなさい・・・」
そしてこの後僕が、明日は頑張って行ってみると言って学校に行く。でも、学校についても直ぐに周りの視線が怖くなって逃げ帰ってくる。
そんなことの繰り返しだった―――――
―――――でも今日の父さんの言葉はいつもと違った。
「明日からお前も高校生だ。楽しみな事だってきっとある、恋だってあるかもしれないんだ。」
「恋?」
恋なんて他人がすることで僕にはどこか遠いものだと感じた。
お父さんは僕の言葉にスイッチが入ったのか、楽しそうに話をしてくれた。
「そういえば、父さんもお母さんと出会ったのは高校生だった。そのときのお母さんはとても可愛くて頭がよくて首席で入学してきたんだ。当然お母さんは周りの男子に人気があったんだ」
「そんな優秀なお母さんとどうやって知り合えたの?」
お父さんの話はどこか僕を引きつけるものがあり、いつの間にかお父さんの話に夢中で自然と質問していた。
「入学式にお母さんとぶつかったんだよ。そしてお互いのカバンの中身をぶちまけちゃって拾い合ってたらね。僕が持っていた本を拾ったお母さんがね『私もこの本好きなんです!』って言ってきてそこから意気投合したんだ」
それからお父さんはお母さんと結婚までの話を聞かせてくれた。こうして両親についての話をちゃんと聞いたことは初めてで、少し学校に行く怖さもなくなってきた気がした。
僕も明日何か学校に持っていこうかな・・・
拝啓、お父さんどうやら本当に気がしただけでした。
朝、心配だと言って付いて来た妹の朝陽と中学校への分かれ道までは昨日のお父さんの話をしながら楽しく登校できた。でも妹と分かれた途端突然視線が気になってしまい、足に重りを付けたかのように動きが鈍くなった。
「・・・でも、今回こそ頑張らなくちゃ」
今度こそ、今度こそと自分に何度も言い聞かせその思い足を引きずるように入学式のある学校へと向ける。
時間が何時間も経ったかのように思えるが、実際まだ十分も歩いていない。ここから駅に乗って三駅ほど乗った先に僕が通う学校がある。
早くも帰りたくなってきたよ。朝陽助けて・・・
なんとか学校にたどり着くことが出来たが、既に体力の限界だった。一応早く着くことが出来たからどこかで落ち着こう・・・
だが一歩踏み出そうとした瞬間、足に力が抜け倒れこんでしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
倒れると、一人の女の子が近づいてきた。ただでさえ既に女の子に心配されてるのに、これ以上倒れていると注目を浴びてしまう。このままではまた学校に行き辛くなって今までと同じになっちゃう、それだけはさけないと。
「す、すみません。どこか休む場所に連れて行ってもらっていいですか?」
「わ、わかったわ!」
僕は先ほど声をかけてくれた藍色の髪を結んだ少女に頼むことにした。その少女は直ぐに僕を起き上がらせ、保健室へと連れて行ってくれた。
ベットに横になると登校の疲れが出たのかそのまま眠りについた。
あとで、お礼言わないと・・・
僕は目を覚ますと飛び起きるように起き上がった。
「入学式だった!」
「よく寝れた?」
僕の焦るような声音とは反対に落ち着いた声で保健室の先生が声をかけた。
「大丈夫、時間はギリギリだけどまだ間に合うわ」
「・・・ありがとうございます」
「お礼ならあなたを連れてきた女子生徒に言いなさい、あなたが起きるまで待とうとしてくれたのよ。さすがに遅れるとまずいと思って行かせたんだから」
僕は自分が出来る精一杯の全速力で体育館へと向かった。
お礼は言えなかった・・・・きっとまた会えるよね。
どうやら保険の先生から自分の担任になる先生に情報が伝わっていたのか、遅れて入ってくるとまず心配されてしまった。だがそこまで遅れておらず注目を浴びることはなかった。
そしてつつがなく入学式は進んでいく。
『新入生代表挨拶、天真=ガヴリール=ホワイト』
「はい」
よばれた少女が壇上に立った瞬間、あたりにざわめき始めた。
あちこちで男子生徒の可愛いという単語、女子生徒はいいなぁと聞こえる。どうやら彼女は男子、女子どちらも虜にしたようだ。
――――それは僕も例外ではなかった。
「・・・・かわいい」
彼女を見た瞬間天使だと思った。もちろん天使の輪や羽が見えたわけではないが彼女の存在は眩しく見えた。
綺麗な金色の長い髪、宝石のような綺麗な瞳彼女の全てが僕の景色に色を付けていくように思えた。
でも彼女の目にはきっと僕なんて移らない、今もこれからも。やはりこの学校は自分にとっての居場所じゃない。同時に彼女と自分の違いを見させられたかのようで苦しくなった。
彼女の挨拶は無事終わり舞台上から去っていく。
そしてそのまま閉会の挨拶をし、僕も含めた入学生が自分達の教室に戻っていく。そういえば僕は早くに学校に着いたのに保健室で寝ていたから自分のクラス知らないんだ。
急いで教室が張り出されている所へ確認しに行く。もうほとんどの生徒は移動を完了していた。二回も遅れてくるなんてそんな恐ろしいことが出来ない僕は慌てて走り出した。
いつも僕の行動はうまい方向に行かない。今回も体力のない僕が遅刻しないように早くに家を出たのに、学校に着いた途端倒れて入学式もギリギリで教室も確認できなくてこんなに焦っている。
こんな自分が嫌になってくる。
廊下を走っていると曲がり角で突然何かにぶつかった。
僕とぶつかった相手はそのまま尻餅をついた。
「す、すみません・・・」
「い、いえ。こちらこそすみません。学園長とお話ししていて遅れてしまいましたので、急いでいて」
ぶつかった時にどうやら僕はカバンの中身をぶちまけてしまったようで、慌てて拾っているとぶつかった女子生徒も手伝ってくれるのか拾ったノートを僕に渡してくれた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます・・・」
先ほどから怖くて相手の顔を見れなかったが、さすがに手伝ってくれる相手に失礼だと思い僕はお礼を言い顔をあげる。するとそこには―――
―――――あの時壇上に立って挨拶をした金髪の少女だった。
えっ?なんで彼女がここに居るの?しかもこの状況お父さんが昨日話してくれた状況と同じ?
僕の頭の中がパンクしそうなくらい色々な考えが頭の中を駆け巡った。
彼女に何か話さなくては、『君の挨拶すごかったよ』話が広がらないダメ、『なんかマンガみたいにぶつかっちゃたね』恥ずかしくて言えない、『僕の天使・・・』絶対引かれる!
「な、なんかすみません・・・」
結局出た言葉が一番ダメなセリフで、泣きたくなった。
「い、いえホントにあなたに怪我がなくてよかったです」
それでも笑顔で返してくれた彼女は本当に優しくて涙がでてくる
「あなたも新入生ですよね、同じクラスだといいですね」
「は、はいっ!」
そうだもしかしたら彼女と同じクラスになれるかもしれないんだ。そう考えただけで体温が何度も上昇したかのように熱くなってくる。
「よかったら、一緒に教室に行きませんか?」
「えっ・・・」
一瞬思考が停止した、天使のような彼女と一緒に歩くなんて夢をいてるかのようだった。こんなチャンス逃すわけにはいかない、もちろん僕が出した答えは―――――
「ごめんなさぁぁぁぁぁぁいっ!」
「あ、一年生の教室そっちじゃないですよ!」
僕は彼女の制止も聞かず逃げるようにして学校を出た。
紅夕陽 学校一日目 途中下校
結局僕は学校初日すら学校に行けなかった。でも不思議といつもみたいに落ち込むことはなかった。今度こそ頑張って彼女に会いに行こうと思えたから。
高校こそ頑張ろうって思えたから。
一方、夕陽に置いてけぼりにされた少女。天真=ガヴリール=ホワイトはおそらく先ほどぶつかったと思われる男子生徒の持ち物を拾い上げた。
「これは・・・ゲーム?」
何か引かれるものがあるのか拾い上げたPCゲームのパッケージを何度も見ていた。
「これが、人間界の娯楽なのですね。明日は土曜日ですし・・・月曜日に返さなくてはですね!」
こうしてここに救われた人間と堕ちた天使が誕生するのであった。