―――数時間前
僕は、急いで公園に向かうと一足先に少女がついており、いつものベンチに座り空を眺めていた。僕は彼女の隣に座った。
「こんにちは」
「あっお兄さん!」
僕が声をかけると少女は、嬉しそうに僕の存在に気付いた。そんなに嬉しそうな反応をしてくれると、僕も嬉しくなってしまい、自然と声が弾んだ。
「もしかして待たせちゃったりしたかな?」
「いいえ、私も今来た所です。・・・ってこれじゃ恋人みたいですね」
そう言って恥ずかしそうに少女は自分の髪を撫でる。実際見た感じ少女は朝陽と同じか下だと思うので、恋人というより妹って感じの方がしっくりくるかな。
僕は照れている彼女の顔を見て、今回呼び出した理由を思い出す。そして鞄の中から僕は小さな袋を少女に渡した。
「はい、今日はこれを渡したくて・・・」
「これってなんですか?」
「お守り・・・みたいなものかな?小さい頃にお母さんに貰ったんだ」
少女は渡したお守りを手の感覚で形を探っている。その小さな袋の中には一つ青く綺麗な石が入っているだけであり、本当に効果があるのかは分からない。でも、少なくとも僕はこのお守りのおかげでたくさんの勇気を貰えたから、今度は彼女に僕の勇気をあげる番なんだと思う。
「このお守りを持ってるとね、不思議と何でも出来るような気持ちになってくるんだ。だから僕がどうしても怖くて動けないときこれに頼ってたんだ。」
「そんな大事な物を私なんかにいいんですか?」
「私なんかじゃないよ。―――君だから渡すんだ」
彼女の今の状況は僕の時とは違うし、きっと僕の時よりも遥かに怖い事だと思う。だから、目の前の少女にこそ、このお守りを渡すべきだと思ったんだ。まぁ、お母さんには悪いとは思うけどきっと僕の判断は間違ってない。
「中にね、名前は忘れちゃったんだけど・・・石が入ってるんだ。その石が君にきっと力をくれる、それは僕が保証するよ。」
「・・・ありがとうございます。これをお兄さんだと思って大事にしますね」
少女は嬉しそうにお守りを胸に抱き寄せる。そこまで気に入ってくれると僕としても嬉しいので嫌な気はしない。でも僕と思って大事にされると言われるてしまっては、妹みたいと思っていても恥ずかしくなってくる。
「これ、さっそく両親に見せて手術を受けるって伝えてきますね」
「う、うん。でも気を付けて帰ってね?」
どうしても早く伝えたかったのか、少女は僕の言葉も聞こえずいつもより早く歩く速度が速い。本当に大丈夫かな?
僕はもう一度大きな声で少女に声を掛けようとすると――――
―――プァァァァァァンッ!!
物凄い大きなクラクションが聞こえる。
僕はどんな状況なんて考えることはぜず。とにかく走った。
走って走って走って走って走って、少女の事も考えずにその勢いを使ってとにかく彼女を突き飛ばしていた。
真っ暗な部屋の中たった一つ真っ赤に光っている【手術中】の文字。ガヴリール、ヴィーネ、サターニャ、ラフィエルの四人は、事故の関係者として一緒に来るように言われた少女の付き添いで病院に来ていた。
いや、これは建前でしかない。ガヴリール達は友達である紅夕陽の無事を信じついてきた。少女は先ほどからごめんなさいと何度も口にし、執拗に自分を責めている。そんな少女をラフィエルとヴィーネは世話をしている。
「ガヴリールさん!」
そんな時、一度聞いたことのある声がガヴリールを呼んだ。ガヴリールはその声に振り向くと、一人の見慣れた少女がガヴリール達の元へ駆け寄って来る。
「・・・朝陽」
その見慣れた少女とは、夏休みの終わりに夕陽の家を訪ねてきた夕陽の妹の朝陽だった。すると朝陽の後ろから歩いて来る男性もこちらに向かって来ていた。後ろから歩いて来る男性はどこか夕陽と朝陽に似ている男性で、彼はガヴリール達と目が合うと一礼をした。
それを見てガヴリール達はそれぞれ頭を下げる。きっと夕陽の父親なのだろうとガヴリールはすぐ理解することが出来た。
「わざわざ、遅くまで夕陽の傍にいてくれてありがとうございます。私は紅 真昼(くれない まひる)といいます。―――本当は妻も来れば良かったのですが、夕陽の事を聞いた途端寝込んでしまい、仕方なくおいて来ることにしました。」
「いえ、きっと奥様もつらかったんだと思います。ここは私達がいますので奥様の傍にいてあげてください。」
「ラフィのいうとおりです。朝陽ちゃんは私達で見ますから安心してください」
「・・・本当にありがとうございます。では娘をよろしくお願いします。」
そういうと真昼は今度は頭を深く下げる。そして朝陽の頭を撫でると病院を出て行った。
朝陽はヴィーネに今回の事故の状況を少女の代わりに説明してもらった。
「・・・手術の状況はどう、なんですか」
「・・・あまり良くはないらしいわ。今夜が山らしいけど」
「そ、そんな・・・」
言いにくそうにヴィーネがそういうと、朝陽は自分の心の温度が何度も下がったような感覚に襲われる。今にも膝が抜けそうになる。
サターニャはヴィーネの言葉を聞いた朝陽の様子を見て我慢が出来なくなったのか、ヴィーネに詰め寄っていく。
「ふざけないでよっ!」
「サターニャさん止めてください。ヴィーネさんに、いえこの中の誰一人として非がある人なんていません」
サターニャを引き離そうとラフェルは肩にそっと手をおく。
だが今度はラフィエルにしがみ付く様に詰め寄る。いつも自信に満ち溢れている瞳から想像も出来ないような涙を流している。
「どうにかできないの!?アンタ天使でしょ!」
「それは出来ないんです。神の奇跡を使えばきっと治ります、でもいくら夕陽さんだとしても一人だけ特別扱いは出来ないんです。」
「だから天使は嫌いなのよ!私が大悪魔にさえなっていればこんな事には・・・」
悲しみに耐え切れず、サターニャは言い過ぎてしまったのは理解していた。いつもならこんなこと言わないと他のみんなも理解はしている、だがもう自分を自分で止めることは出来きず、思ってもいないことすら言葉に出てしまう。
「やめてくださいっ!」
―――だがその時、朝陽が仲裁に入った。そのあまりにも大きな声にさきほどまでヒートアップしてしまったサターニャでさえ静かになった。
そして今度は先ほどとは反対に声が今にも途切れてしまいそうな声で話を続けた。
「・・・お兄ちゃんがそんなケンカみたら悲しくなると思います。皆さんの笑顔が好きだって言ってましたから」
きっとこの中で一番つらいはずなのに、泣き出してしまいたいはずなのに。そんな朝陽を見ていると自然にサターニャの怒りも落ち着いたような気がする。
ヴィーネもホッと安心したのはつかの間、彼女はあることに気づいた。
「・・・ガヴリール?」
そう何度も辺りを見渡し、彼女の名前を呼ぶがどこからも返事は返ってこない。先ほどまでガヴリールの座っていた椅子はどこか寂しそうに見えた。
――――ここはどこだろう。真っ暗で何も見えない。
あの少女はどうなったんだろう、勢いよく突き飛ばしてしまったし、もしかしたら怪我をしちゃったかな・・・
「いや、あの子は怪我はしてないよ。」
「良かった・・・ってガヴ!?」
突然真っ暗な場所にいつの間にか眩しい光を放って立っているガヴリールがいた。ってか眩しいよ・・・暗いのに慣れてきたときに突然電気をつけられた気分だ。
彼女はいつもの制服の上にパーカーではなかった。白い服に白い羽、頭には光を放っている輪がある。いつもより優しそうに微笑みを浮かべている天使だ。
「そっか・・・僕は死ぬんだね。」
「まさか、私はそんなに勤勉じゃないって夕陽は良く知ってるでしょ?」
「・・・まあ確かに。でもだったらなんで?」
「皆心配してるから。ヴィーネもサターニャもラフィエルも朝陽も・・・そして私も」
ガヴリールは恥ずかしそうに頭をポリポリ掻いている。最後の言葉は聞き取りずらかったが、きっとガヴリールも心配してくれたのだろう。それと同時に僕はガヴリールが何をしようとしているのか何となく分かってしまった。
強制送還
そんな言葉がぼくの頭を過ぎる。
「でも、そんな事したらガヴは・・・」
「いいよ。元々ギリギリで天使してたし「ダメだよ!」
ガヴリールは少しおどけた様な顔で言う。だけど冗談でもその言葉を聞きたくはなかった僕は、ガヴリールの言葉を遮った。驚いた顔をしているガヴリールに僕は言葉を続ける。
「もしガヴのおかげで助かったとしても僕は嬉しくない。目覚めた時にガヴがいなくなってたら僕は楽しくないから」
「でも、他にも夕陽には沢山友達がいるだろ?ヴィーネ達だけじゃなくて、いんちょとか」
「―――そうじゃないよ。僕は皆と居たいんだ、そこに誰が欠けてもダメで皆と笑ってたいんだ。だからガヴともっと一緒にいたい」
僕はガヴ達と一緒に居て今までよりずっと世界が明るくなったんだ。それなのにガヴに居なくなられたらまたあの時のように戻ってしまうかもしれない。
だから嫌だ。
ワガママかもしれないけど、今までガヴのワガママを聞いてきたんだ。たまには僕のワガママを聞いても罰は当たらないはずだ。
「僕は大丈夫。必ず戻ってくるから・・・」
「分かったよ」
ガヴリールはフッと笑い、そんな顔を見て僕も笑うと恥ずかしそうに後ろを向いてしまった。
すると突然何か思い出したようにガヴは少し困ったような顔をし始めた。
「あー。勝手に天使の力を使って夕陽の精神世界に来ちゃったし・・・最低でもお小遣いは減らせれるよな」
「大丈夫。その時はバイトを頑張ればいいよ。マスターも喜ぶし」
「えー」
一瞬ガヴは嫌そうな顔を見せるが、僕が笑うとガヴも笑顔になり笑いあう。
どうやら、ガヴは僕に天使の力で治すのは止めることにしたらしい。これで強制送還なんて一番ひどい罰にはならならないと思う。
「じゃあ、また。」
「うん・・・」
お互い落ち着くとガヴの体は再び光に包まれていく。きっと元の場所に帰るのだろう。
「あっそうだ!ガヴ!」
「うん?」
「一つだけ、あの子に伝えてくれるかな――――」
私のせいだ。私のせいでお兄さんは事故に巻き込まれたんだ。
お兄さんを放って自分だけ目の手術を受けようなんて。そんなことをしちゃいけない。
私にはそんな資格なんてない。
私の涙が枯れることはなく先ほどから涙が出続けている。
そんなときフワッと温かい手が私の頭を撫でた。
「大丈夫、夕陽は必ず目を覚ますよ」
「・・・ガヴお姉さん」
その手は温かくて優しかった。不思議と止まることはないだろうと思っていた涙は、落ち着き始めている。
「ガヴちゃん・・・もしかして」
ラフィお姉さんの言葉にガヴお姉さんは一言だけ「ああ」と答えた。その言葉だけでラフィエルさんは理解したのかそれ以上聞いてこなかった。
「私が・・・私が・・・お兄さんに相談しなければ・・・こんなことにならなかったのに」
「夕陽は助けたことを後悔はしていないよ」
「えっ・・・?」
「むしろ、もしかして自分のせいで手術を受けるのを躊躇うかもって不安がってた」
まるで、先ほど会って話を聞いてきたかのようにガヴお姉さんの言葉は私の心に沁みこむように入ってくる。
「そうだった、一つだけ伝えってくれって言われたことがあったんだ」
「・・・なんですか?」
「【笑ってて、僕の勇気をあげるから】一つじゃないし・・・」
「本当に、お兄ちゃんが言いそう・・・」
そう言って微笑みながら私に伝える。すると他の皆さんも悲しそうな顔から笑顔に変わっていく。
―――その瞬間私は気づきました。
あ、そうか。お姉さん達は本当に天使だったんだ。
だからお姉さん達は私に優しくしてくれたんだ。
だからお兄さんは私に勇気をくれたんだ。
「・・・そうですね。頑張ってみようかな」
「うん、きっとその方が私はいいと思います。」
「夕陽はこんな所でくたばるほど、ヤワな部下じゃないわ!」
「アンタの部下じゃないでしょ・・・」
きっとお兄さんなら大丈夫。だって私に勇気をくれた人だから、怖くなってもお兄さんから貰ったお守りもある。
だからもし、私の目が治ったなら必ずお兄さんに会いに行こう。そして、お姉さん達には悪いけど伝えてみようかなって思う。上手くはいかないかもしれないけど、感謝ともう一つの気持ちを―――――
~天界~
「天真くん。君は何をしたのかは理解しているね?」
「はい。どんな罰も受けるつもりです」
ここは天界の天使学校。
ガヴリールはラフィエルと共に天使学校の校長のもとを訪ねていた。そしてガヴはいつものボサボサな髪ではなくあの日夕陽と初めて出会った時の姿で校長の言葉に首を縦に振る。
「ですが、校長。ガヴちゃ・・・天真さんは確かに天使の奇跡を行使しました。でも特別に彼を救ったわけではありません。」
「そうだね。厳しく天真くんを罰するつもりはないが、やはり天使の力を彼に行使してしまったのは事実だ。それなりの罰を受けて貰う」
「ですが―――」
「ラフィ」
ラフィエルがさらに食い下がろうとするのを、ガヴリール自身が制止させる。
そしてガヴリールは校長に「続けてください」と促すと校長は頷き、彼女に罰を伝えた。
「天真=ガヴリール=ホワイト。君には一年の仕送りを減らす事とする。そして、行使した彼とその影響を及ぼした少女の記憶から天真くん、白羽くん。それと悪魔である胡桃沢君、月乃瀬君に関する記憶を消すこととする。」
「そ、そんな・・・」
夕陽と少女から天使と悪魔である四人の記憶が消される。ラフィエルは想像以上に大きな罰に声を漏らしてしまった。
「確かに、天真くん自身の罰は小さくできるが。天使の力を見られてしまったのなら見てしまった本人と影響を及ぼした彼らは、天使と悪魔からきっぱりと離れて貰わないと困ってしまうんだ。」
在学中にラフィエルとガヴリールは習っていた。言うだけなら天使や悪魔の力は人間には信じられることはない。なので何も問題はないのだ。だが天使の奇跡を見られてしまっては話は別、奇跡を見ることにより天使の存在が人間界にたちまち広がってしまう危険がある。
夕陽や少女は言い広めないかもしれない。だが、それを許してしまえば天使を守るためのルールはルールでなくなってしまう。
「・・・分かりました」
「これで話は終わりとする。退室してくれたまえ」
「失礼します」
ガヴリールは何も言わず素直に校長室を退室する。その背中を追うようにラフィエルも続いて退出する。退出し廊下を二人は歩く、その空気はどこか気まずいものがあった。
「・・・よかったんですか?」
「別に、校長は間違った事は言ってないよ。それよりラフィエルやヴィーネ、サターニャには悪い事をしたな」
「いいえ、きっと誰もガヴちゃんを責めたりしませんよ」
「・・・ありがとう」
ガヴリールの小さな呟きは、夕陽と違ってラフィエルにはしっかりと聞こえフッと優しく微笑んだ。そしてガヴリール、ラフィエル、ヴィーネ、サターニャの四人はその日以降夕陽の見舞いに行く事はなかった。
僕が目を覚めると、朝陽とお父さんとお母さんが涙を流しながら僕に抱き着いてきた。どうやらあれからずっと眠っていたらしく目覚めた時には既に終業式が終わっていた。
僕は出席日数も単位も問題なかったので無事進級できるとお父さんから説明してもらった。
よかった・・・危うく朝陽と同学年になるところだった。
僕は始業式までは病院で入院する事となっておりベットから出れなかったのだが、リハビリの一環としてお医者さんに外出許可をもらい近くの公園を散歩していた。
久々に外に出てると少し歩いただけで、疲れてしまったのでベンチに座り休憩をすることにした。
―――すると女の子が三人ほど向こう側からこちらに向かい歩いて来る。
なぜか僕は少女達の声に耳を傾けてしまう。
「もう、大丈夫なの?」
「うん、もうしっかり目が見えるんだよ!」
そういって友達に嬉しそうに説明している少女の姿を、僕は目の前を通り過ぎていくのを視線が勝手に追いかけてしまう。
なんか・・・不審者みたいだったかな。
すると通り過ぎてすぐの所で彼女は小さなお守りを落とした。
だが三人とも落としたお守りの存在に気づかずそのまま去ろうとしてしまう。あせった僕は慌ててそのお守りを拾い彼女のもとに駆けだし声を掛ける。
「あ、あの!」
「はい?」
そう返事をして振り向く少女に僕は先ほど拾ったお守りを手渡した。そのお守りを見た瞬間彼女も焦りだし慌てなが僕から受け取った。
「これ、さっき落としましたよ」
「あ、ありがとうございます!」
そう勢い良く頭を下げ、安心したかのように胸にそのお守りを大事に抱きしめている。すると、少女が僕の顔をマジマジと見つめ始め、不思議そうに首を少し横に傾けた。
「あ、あの・・・僕に何かついていますか?」
「い、いえ、何でもないんです。すみませんでした!」
そういってもう一度僕に頭下げまた友達の元へと戻っていき、友達とおしゃべりを再開し始める。
「も~大事って言ってた物を落としちゃダメじゃん」
「えへへ~」
「それ、そんなに大事なの?」
「うん!大切な人から貰ったんだ」
「何それ、彼氏?」
「ち、違うよ~でも、大切な人で手術を怖がっていた私に勇気をくれた人なんだ!」
「へぇ~じゃあ好きな人なんだ」
「うん。そうかもしれない・・・」
「でもアンタその人の事、
「それは言わないでよ~」
彼女達の会話は既に聞き取れなかったが嬉しそうにしていたので僕は満足して、もう少しベンチで休憩してから帰ることにした。
―――始業式
ガヴリール達は無事に皆進級することが出来た。夕陽も後半入院により進級の心配をされたが、無事進級できると聞き皆ホッとしていた。
だが夕陽のガヴリール達の記憶はない。もちろんあの時の少女も。
だからなのだろうか、ガヴリールの隣の部屋に夕陽が帰ってくることはなかった。改めてガヴリールは夕陽が自分達の記憶を無くしたという現実を受け止めることとなった。
その現実からガヴリール、ラフィエル、ヴィーネ、サターニャの四人はある一つの事を決めた。
――――進級したら必ずもう一度夕陽と友達になると。今度は普通の人として悪魔や天使の事を秘密にして。
「今年もヴィーネとおなじクラスだな。」
「そうね、あっサターニャも!」
「えーあいつはいいよ・・・」
「ちょっと、どういう事よガヴリール!」
「今年は私も同じクラスですよガヴちゃん」
そんな言いあいながらいつもの日常が戻ってき始めていた。
だがそれでも何かが足りない。
いつも笑って傍にいたはずの少年の姿が。
そう皆が理解したら、少しだけ皆の表情が暗くなってしまう。
「夕陽も同じクラスね・・・」
「いいですねサターニャさん。決めたこ「わかってるわよ」
サターニャはラフィエルの言葉を遮り答える。そういうとサターニャはどこか不満げにそっぽを向いてしまった。そんな姿を見てラフィエルはふっと笑みを溢す。
「そうですね。大悪魔のサターニャさんにはいらない心配でしたね。」
「そうよ!」
「じゃあ・・・行きましょうか」
ヴィーネの言葉に皆は頷き教室へと向かった。
教室に着くと自分の席で皆あれこれ準備をした。ラフィエルは席の近い生徒と早速お喋りをし交流を深めており、ヴィーネは今日提出のプリントであったりHRの準備をし、サターニャは自分の席でふんぞり返っている。
大悪魔のつもりなのだろうか。
ガヴリールは皆のようにはせず、退屈そうに外を眺めている。
自分はラフィエルやヴィーネのように友達を作りに行くタイプではない。どうすれば自分に対する記憶がない夕陽に話しかけるか考えるが思い浮かばない。
もういっそ関わらなくていいのかもしれない。
そう思うと、胸の中で何かが突き刺さるような痛みを感じた。
―――――ガラガラガラッ!
視線をちらっと向けるとそこには、ここ何日も会っていなかったがガヴリール達が会いたかった優しい少年。
夕陽の姿だった。
夕陽は鞄を持ち自分の席を確認するとガヴリールの隣の席に座った。ガヴリールは夕陽に視線を合わせることをしなかった。
昔の自分ならきっとまた友達になることは出来ただろう。でも、今の自分では怖がれてしまう。
自分にはもう彼と居ることは出来ない。
夕陽はガヴリールを不思議そうに見ているが、それでもガヴリールは視線を外の方へと向けている。そんな二人の姿をヴィーネ達は不安そうに見てしまう。
その時少年が口を開いた―――
「おはよう。
「・・・っ!」
その言葉にガヴリールは思わず反応してしまった。ついつい視線を夕陽に向けると、いつものように夕陽は彼女に笑いかけていた。
「・・・やっとこっち向いたね。僕、ガヴに何か悪い事したかな?」
「お、おまえ・・・覚えて・・・」
「ガヴリールみたいなの忘れるわけないよ」
どういうことか分からなかった。校長から直接ガヴリールは聞いたのだ。四人の記憶に関する記憶を消すと。
それなのに彼は出会ったときは【天真さん】と呼んでいた彼がいきなり【ガヴ】と呼んだのだ。
それに驚いたのはガヴリールだけではなかった。ラフィエル、サターニャ、ヴィーネは慌てて夕陽の元へと集まった。
「アンタ、ホントに大丈夫なの!?頭がおかしくなったとか・・・」
「新学期早々失礼だよ・・・」
「・・・私達の事も覚えてるの?」
「うん。一緒に海に行ったことも、初詣に行ったことも」
「どういうことなんでしょうか・・・?」
天界の決定が覆ったとは考えずらい。天界の判断はラフィエルも食い下がりはしたが間違ってはいないと分かっているし、もし覆ったとしたら何らかの形でガヴリール達の耳に入ってくるはずだからだ。
「そんなことはどうだっていいのよ、ラフィエル」
「・・・そうですね。今は夕陽さんが無事帰ってきたのを喜びましょう」
「じゃあ、この後どこかに遊びに行かない?ねぇ、ガヴもいいでしょ?」
「・・・まぁ」
なぜ、夕陽の記憶は消えなかったのかは分からない。
だが今はそれでいい。
今は退院祝いのために重い腰をあげなくてはいけないのだから。
また始まる―――――
彼と彼女達の物語が―――
新たな仲間も加えて―――
堕ちた天使と救われた男の物語が――――
次からは新入生が入ってきます!朝陽はもちろん、タプリス、黒奈もたくさん出せたらと思います。
これからも【救われた男と堕ちた天使】をよろしくお願いします。