すっかり温かくなり、枯れてしまった葉の代わりに桜が満開に咲き誇っている。僕は朝陽と共に入学式の前日に通学路の確認のため一緒に歩いていた。
「朝陽は一人暮らししないの?」
「うん・・・ダメって言われちゃった。私はしたいって言ったんだけどお母さんに止められちゃって。」
どうやら朝陽は家族の中で一番のしっかり者なので、基本的に僕達子供の意見を聞いてくれる両親が反対したのは意外だった。それにてっきり少し心配性なお父さんが朝陽に反対したのかと思ったのだが、どうやら基本的には僕達のやりたいことをさせてくれるお母さんが反対したらしく余計にびっくりしてしまった。
「お母さんが『面倒見てくれる人が居なくなる』って言ってた。・・・いつもお父さんに甘えてるのに」
「まぁ、お父さんもお仕事で忙しくから。きっと寂しいから朝陽には居てほしいんだよ」
「そうなんだけどさ。―――いいよね~お兄ちゃんは。一人暮らし出来るし」
「一人暮らしも大変なんだよ?お隣さんに迷惑かけられたりするから・・・」
ちょっと拗ねてしまった朝陽をそんな風に宥めて、目についた少し公園で休憩することにした。
朝陽がお手洗いに行っている間に、飲み物を買っていると―――
―――この町、というかこの地上においても中々見慣れない宇宙服のような格好をした人が歩いて来る。
「酸素濃度・・・問題なし・・・ぜぇ・・・有害物質感知せず・・・」
宇宙服を着たその人は息苦しそうに何か呟いている。
色々と不思議な人というか天使と悪魔に会ってきたので、大抵のことなら驚きはしないと思う僕でもさすがに驚きで固まってしまう。
「やっと・・・この時が来たんですね。どれだけ待ち望んだか・・・」
そのまま力尽きたようにその場に座りこんでしまった。さすがに気温自体は熱くないとはいえ、そんなに分厚い物を来ていたら熱くなってしまうのだろう。
僕は慌てて座り込んでしまった人の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「あ・・・あついです・・・」
僕はすぐさま宇宙服のような物のヘルメットを取ると、そこには金色の短めの髪に花の髪飾りを付けている可愛らしい少女の姿がそこにあった。
僕は先ほど買っていた飲み物を彼女に飲ませてあげ、影のある場所へ彼女を移動させた。苦しそうに倒れた彼女だったが、僕の対処が早かったおかげかあっという間に一人で歩けるぐらいまで回復していた。
そして彼女は体を覚ますために一度脱いだ宇宙服をもう一度着なおすと、動きにくそうに頭を下げた。
「本当にありがとうございました!」
「気を付けて帰ってね?」
「まるで天使みたいです!きっとあなたは天国に行けると思います」
「・・・まだ死んでないし、遠慮しとくよ」
最近死と生との狭間を彷徨った経験を持つ僕は、もうあんな経験したくはない。だからキラキラした目で僕を見つめてくる彼女に、僕は一歩足を後退させた。
というか何かガヴリールみたいな事を言う子だな・・・もしかしたら天使だったりして。
いや違うかな。ガヴもラフィエルさんも天使らしからぬ性格だし、きっと僕がそうだろうと思っていた天使とは反対の性格が本物の天使なのだろう。
だからこんないい子が天使なはずがないよね。
「そうですか。でも何かあったら私を頼ってください。」
「いや、でも・・・」
「ぜひお礼がしたいんです!」
「う、うん・・・分かったよ。また逢えたらね・・・」
もう逢うことはもうないとは思うが、彼女の純粋な目にあの人とどこか重ねてしまいついつい頷いてしまった。性格も顔も違うのになんでなんだろう。
僕が頷くと、絶対ですよともう一度念を押して手を振りながら去って行ってしまった。
すると入れ違いになったかのようにお手洗いから帰ってきた朝陽が見えなくなるまで振っていた僕に不思議そうに声をかけた。
「何してるの?」
「いや・・・不思議そうな子にあったんだ。」
そういうと突然朝陽は視線をジッとしたようなものに変える。
「・・・なに?」
「ううん。多分女の子なんだろうなって・・・」
「な、なんで分かったの・・・?」
朝陽は呆れたようにため息を吐き、やっぱりねと呟いた。朝陽はテレパシーか何かを使えるの?お兄ちゃんこわいよ。
「まぁ、お兄ちゃんは昔から周りには男の子より女の子の方が多かったし・・・もう諦めたよ」
「そんなことないと思うけど・・・」
「はいはい」
確かに友達は昔からいなかったけど、それは性別に関係なく話せなかったからであり、さすがに朝陽が勝手に言っているだけのはずだ。だが僕の反論も朝陽は適当にあしらわれてしまう。僕は不満が顔に出てしまっていたのか、僕の顔を見た途端噴き出す様に朝陽は笑い始める。
「もう!お兄ちゃん拗ねないでよ。帰ったら好きなの作ってあげるから!」
そういい可愛い笑顔で僕の手を握って引っ張っていく。その笑顔は大きくなって僕なんかよりもしっかり者な妹の変わらない笑顔であった。
~次の日~
入学式も無事終わり昼休みに僕とガヴリールは飲み物を買いに自動販売機まで歩いていた。
「それでね、あんなに小っちゃかった朝陽が大きくなって寂しさもあったんだけど。あの時だけは変わらないんだって思えて嬉しかったんだ―――って聞いてる、ガヴ?」
「あぁ、聞いてるよ。お前がシスコンって事でしょ」
いや朝陽は確かに可愛いと思う。でもシスコンというほど僕は妹離れできていない人ではないよ。
そんな事を言うガヴは昨日朝陽の料理を三人で食べ少しみんなで遊んだあといつもよりかなり早い時間に自分の部屋に戻っていった。顔の様子を見ると多分あの後もゲームして徹夜したんだろうな。
僕達が自販機の前まで来るとガヴはポケットの中に手を突っ込んだ。
「ゲっ・・・教室に財布忘れた。」
「自販機に行く前にちゃんと確認したのに、しっかりしてよ・・・」
「わざわざここまで来たんだから何か出せよ」
そう言いながらガヴリールは自販機のボタンを出るわけないのに連打をしている。そのボタンを押す力も次第に強くなっていってしまってるため不良がイライラしてるようにしか見えない。
「―――あの~すみません。少しお聞きしたいことがあるんですが」
イライラガヴを宥めていると突然とある少女の声に僕たちは振り返る。すると振り返った先には綺麗な金色の髪も台無しにしてしまうほどの怪しさ全開のガスマスクを身に着けた少女が立っていた。なんかガスマスクからシュコーシュコーと息が漏れてくる。
その姿はまるで主人公に倒されて死んだと思われていたけど改造手術を受けて生きていた、超大作の敵キャラのようだ。
というかこの子どこかで見たような―――
「あっ!この間親切にしてくれた人じゃないですか!」
「あ、あぁ!あの時の宇宙服の子!?新入生だったんだ」
すごい・・・こんな偶然あるんだ。運命の人とまでは言わないけど、やっぱりこうして会うと嬉しいものがある。
すると僕と彼女の間に割り込んできて、ガヴが怪しいものを見るような目で目の前の子を見ている。その目つきが眠いからなのかひどく悪く、まるで新入生に早速絡んでいる不良のようであった。
「・・・お前新入生?」
「はい。そうです」
「あーならちょうど良かったわ。ちょっとお金貸してくんない?」
「何なんですかこの人!?」
そんな怯えた目で僕を見ないでほしい。正直言って今のガヴは僕も怖いのだ。
というか初対面の相手にお金を借りるって非常識すぎるでしょ。
「あー大丈夫、大丈夫。ちゃんと返すから―――アタリを引いて」
「返ってくるか未確定!?」
「全くもって大丈夫じゃないからねそれ・・・」
あぁほら、今のせいで少女が僕の後ろに隠れてしまった。ガヴは少女の行動にさらに目つきを悪くして僕を睨んでいる。ってなんで僕が睨まれてんの?悪いのはガヴだと思うよ。
少女はガヴが僕を見るその目つきでさらに震えあがり後ろを向き何か腕時計みたいなものをポチポチ押している。
「飲み物なら僕が奢るから。後輩を怖がらせちゃダメだよ?」
そういうと僕は財布を取り出し自販機の全てのランプが点灯する。ガヴはお礼をいい、ほぼノータイムでボタンを押しもジュースが落ちてくる。そのジュースを手に取った瞬間今度は聞きなじみのある声が僕達の名前を呼んだ。
「夕陽くーん、ガヴちゃーん。戻りが遅いので来ちゃいました。」
少し遠い場所で手を振りながらこちらに歩いて来る。その姿は周りの生徒が皆が皆ラフィエルさんの方に振り返ってしまう様子は本当に天使であった。
「あれ?あの方は・・・タプちゃんではありませんか?」
「タプちゃん?」
「はい、天使学校での後輩のタプリスちゃんです。結構ガヴちゃんや私と仲良かったんですよ?」
「あーそんなのいたね」
やっぱりあの子も天使だったんだ、僕としては彼女みたいな子が天使だと知って安心したかも。
というかガヴ、仲のいい後輩を忘れちゃダメでしょ・・・
ガヴは僕からの視線を外しバツの悪そうな顔をしている横にいたラフィエルさんは、タプリスさんの元まで歩いて行き肩を叩いた。
「あの――」
「あ、新手を出しても無理ですっ!私は悪には屈しませんので、お金は出しません。」
タプリスさんはそう力強く言いながらもこちらに顔を向けておらず、自分の手で顔を隠す様にしてこちらに来ないでとラフィエルさんを遠ざけようとする。
どうやらラフィエルさんにも、どうやらカツアゲされると勘違いしてしまっている。どんだけガヴが怖かったのが僕にも伝わってきてしまう。
だけどラフィエルさんは表情を笑顔のまま崩すことなく優しい声でタプリスさんに話しかける。
「あぁ!やっぱりその声はやっぱりタプちゃんですね?」
「そうです!私は聖なる天使タプリス・・・えっ?」
そこまで言ってようやく少し冷静になれたのか言葉を途切れさせ、見まいとしていた頭をゆっくりとラフィエルさんの方に向ける。そしてしばらく固まった後マスク越しでも分かってしまうほどの嬉しさが溢れ出している。
「白羽先輩っ、お久しぶりです!どうしてここに?」
「たまたま見かけたので、声をかけたんですよ」
「白羽先輩のお顔懐かしいです・・・」
「私はまだタプちゃんのお顔を拝めていません」
タプリスさんはそう言われそそくさと先ほどまでつけていたマスクを取る。その中からはあの時に見たような可愛らしい顔が現れる。やっぱり彼女はガスマスクをつけているよりは素顔のままの方が天使らしくていい。決して二人が悪魔よりなので天使でいて欲しいからなどとは思っていない。・・・・決して
「タプリスさんも同じなんだね」
「はい!私、どうしても天真先輩と同じ学校に通いたかったんです!」
そうなんだ、それほどまでにガヴの事慕ってるんだ。まぁ、その本人は目の前で後輩にお金をたかっていたんだけどね。それも全く知らないタプリスさんは聞いてもいないけど、ガヴの事を熱く語り始めた。
「天界の天真先輩は、天使の中の天使!綺麗で可愛くて非の打ちどころのない優等生。そんな憧れの先輩と一緒の学校に通いたいって思ってたんです。」
「何か・・・僕の知ってるガヴと違うんだけど・・・」
「あれはな、私の黒歴史なんだ。」
ガヴはそっと僕から目を逸らしながら呟くように言う。黒歴史ってむしろ今の方が黒歴史になりそうな気がするんだけど。
「それで叶った今、憧れの天真先輩の教室を探しながら歩いていたんです。そしたら―――」
「そしたら?」
「あっ!私今ヤンキーに絡まれている最中でした!」
「ヤンキー?」
熱くなりすぎて周りの事を忘れてしまったタプリスさんは、突然自分の先ほどの状況を思い出したのか慌て始める。この中で先ほどのやりとりを聞いていなかった唯一の存在であるラフィエルさんはタプリスさんに何事かと聞き返す。
「そうです、ヤンキーです!」
「ヤンキーってどこに居るんですか?」
「ほらそこのジュースを飲んでいるこの人です!」
そう言いながら、タプリスさんの指はガヴリールを指を指した。その瞬間ラフィエルさんの顔が一瞬にして悪魔のような笑顔に変わり、僕の背筋に電撃が走った。
「下界に来て、いきなりこんなことになるなんて思ってもみませんでした・・・ですが私は負けません。必ずこの人を改心させて天使としての全うを――」
「ぷふっ!?」
噴き出す様に笑い出すラフィエルさんは、ついに堪えきれなくなり大きな声でお腹を抱えて笑い始める。その様子を不思議に思ったのかタプリスさんは話が止まり、何事か説明してくれと言うようにラフィエルさんと僕を交互に見て戸惑っている。
「あの・・・私何か可笑しなこと言いました・・・?」
「あははっ、ごめんなさい何でもないんです」
そうして落ち着かせるように一呼吸入れると、タプリスさんの手を取った。
「そうですね。頑張ってこの方を改心させましょう!」
「いい加減にしろよお前ら」
ラフィエルさんの悪乗りが過ぎたので、僕がタプリスさんが誤解してしまっている事について説明することにした。すると面白いようにタプリスさんの顔が驚いたように顔が変わっていく。別にラフィエルさんではないが彼女の素直すぎる表情には僕も楽しいと感じる。だけどそんな気持ちが表に出ないようにグッと心の中に押し込めて説明を一通りにするのだった。
「ええっ!本当にこの人が天真先輩なんですか!?それに駄天使って」
「いや、さすがに気づけよ」
「えっ?でも・・・」
「ちょっと待ってくださいね。夕陽君ガヴちゃんを持っててください」
反抗すると何となく怖い気がするので大人しく従う事にし、ガヴを羽交い絞めの状態で持ち上げる。するとラフィエルさんはどこから取り出したのか分からないメイク道具やブラシ、ドライヤーを取り出しあっという間にガヴを別人へと変身させた。
いつものボサボサな髪は綺麗に整えられ、クマが出来てしまっていた涙袋もメイクで隠れてしまっていた。
その姿に今度はタプリスさんは懐かしい人を見つけ尊敬の眼差しを向け始める。恐らく今のガヴの姿が僕の知らない時のガヴリールの姿なのだろう。
というかガヴリール―――
「本当に天真先輩でした!」
「だからそう言ってるだろ」
「じゃあ駄天使っていうのは・・・」
「家に引きこもってゲームだけをする事を目標にしている天使の事だ。」
「本当にダメな天使でした!!」
またまた表情が変わり今度は何かに絶望した様な顔をしている。ガヴはようやく後輩の尊敬の眼差しに対する重荷が消え、ホッと一息ため息を吐いた。
だがそこでタプリスさんは諦めなかった、むしろ何かに燃えるような表情で疲れた表情をしているガヴに近づいた。
「私・・・決めました。きっと天真先輩が駄天使になってしまったのは何か理由があったはずです。だからその原因を取り除き、あの時の天真先輩を取り戻してみせます。」
「え~」
「そうと決まれば私は方法などを考えてきまますので失礼します!」
タプリスさんはそう言い残しあっという間に走って行ってしまった。僕としてはガヴが普通の天使に戻ってくれるなら、むしろ嬉しいから何でも先輩を頼ってね。
あっそうだった―――
「そういえばさ・・・ガヴって家であった時より前にどこかで会ったことある?」
「は?いや・・・ないけど」
ガヴは何か思い出そうとしていたが、心当たりがなかったのか首を振りながらそう答えるのだった。もしかしてあの時の天使さんかな。いや似てるような気がするけど、こんな性格じゃないのだけは間違いないし違うかな。
そんな事を考えていると僕とガヴの間にニョキッとラフィエルさんが割り込んできて、再びおもちゃを見つけたかのように嬉しそうに僕とガヴを見つめてくる。
「ど、どうしたの?ラフィエルさん・・・」
「いいえ、面白いなぁと思っただけです。」
(答えを教えてもいいんですが、面白くないですしね。それにもし真実を知ったのなら二人は―――)
いつものように面白い物を見つけたように笑っているラフィエルさんではあったが、どこかその中に寂しそうな顔が見えてしまったのは僕の見間違いなのだろうか。
後日、タプリスは悩んでしまっていた。この間は張り切って原因を取り除くと言ってしまったが、良く考えてみると自分自身がガヴリールが駄天してしまった原因を知らなかったのだ。
「こうなったら白羽先輩に聞いてみるしかないです」
直接ガヴリールに聞いてみてもいいのだが、ガヴリール自身が乗り気でない今は答えてくれない可能性の方が高いとタプリスは考えた。ならばここはガヴリールと同じ天使であり仲の良いラフィエルに聞くことにし、早速この間出会った中庭の自販機の前にラフィエルを呼ぶことにしたのだった。
「どうしたんですか、タプちゃん」
「要件というのは、天真先輩の事です。」
ラフィエルは真剣な顔になるどころかむしろ嬉しそうな顔になってベンチに腰を下ろす。
「私疑問に思ってたんです。いくら下界の娯楽が楽しいからといってもそれだけでダメになるはずがないって。」
実際、ただ下界の娯楽が楽しいだけで駄天したのだが面白いのでラフィエルはそのことについて何も言わず耳を傾けることにした。
「それで天真先輩を駄天させた悪魔が原因ではないかと思ったんです。何か心当たりはないですか?」
「悪魔ではないですが・・・ガヴちゃんを駄天させるきっかけになった人なら夕陽君ですよ?」
「ゆうひ・・・くん?」
「はい、この間ガヴちゃんと一緒に居た男の子です」
タプリスの中で何かが崩れてしまう音が聞こえる気がした。自分が倒れた所を助けてもらいヤンキーのようなガヴリールに出会ってしまった時も変わらず優しく接してくれた彼が、まさかの取り除かなければならない原因だったのだ。
何も知らないラフィエルはただ事実を述べただけなのだが、さすがに明らかに動揺したタプリスに何かおも―――
まずい事を知ってしまったのが理解できた。
「タプちゃん、どうかしたんですか?」
「・・・あの時は今でも感謝します。ですが天真先輩を駄天させたのはやっぱり許せません―――だから私は彼を倒して天真先輩を取り戻してみせます!」
タプリスは天使のお面を付けた悪魔の人間を倒すことでガヴリール取戻し、彼を生まれ変わらせる事を心に強く誓うのであった。
そういえば夕陽君と朝陽ちゃんのお父さんの名前が出てきたので名前が出ていないのは、あとはお母さんだけになりました。
もしかしたら読んでくださってる人の中にはお母さんの名前を予想できてる人もいるのかもしれないですね笑笑