下校する時間になり、僕と月乃瀬さんは一緒に天真さんという名前の少女の家に向かっている。
そういえば、あの人に会えなかったな。まだこれから卒業までには会えるよね。
そういえばこの道僕とそろそろ僕の住んでいるアパートが近い、もしかして天真さんの家近所なのかな。
僕はもしかしたらどこかで会っていたのかもしれないそんな風に思っているとヴィーネさんが気を付けてねと言ってくる。
「ガヴの部屋は生半可な覚悟で行くと、逃げ出しちゃうからね」
「う、うん分かったよ」
「もうすぐ着くから」
そこまで言うなら少し見てみたいと思う自分がいる。そう思ってしまった数分前の自分に後悔をしていた。
なぜならそこは、僕のアパートで関わらないようにしようと決めたお隣さんだったから。
「月乃瀬さん、ぼ、僕家となりだから帰っていい?」
「そうなんだ~でもダメ」
後ろを振り向き歩こうとした僕の肩をがっちりと掴んだ。無言で逃げるなと言われてるようで恐ろしかった。
僕はこの時初めて知った本当に怖い時って涙は出ないことを涙ではなく冷や汗が出ることを。
結局関わらないと決めたその日にかかわってしまう僕なのだった。
月乃瀬さんは天真さんの家の鍵をガチャリと開け入っていく。
なんで彼女は普通に鍵をあけてるの?朝陽だって僕の部屋に勝手に入ってくることないのになんで普通に入って行っちゃうの?
月乃瀬さんと天真さんの関係ってどんなのなんだろう。
そんなこと思っている僕を知らずに月乃瀬さんはどんどん中に入っていく。僕もついて行こうと部屋に入ったとたんそこには地獄絵図が広がっていた。
ゴミ袋、カップ麺の容器、お菓子の袋があちらこちらに散らばっていた。僕も引きこもっていたので時々こんな状況になることはあったが、定期的に朝陽が掃除してくれたおかげでここまでひどい状況にはなっていなかった。
ここに来てあらためて妹の大切が分かった気がする。朝陽、頼りないお兄ちゃんでごめんね。
僕たちはゴミの山を向けいよいよ天真さんのいる部屋へ入っていった。
そこにはベットで布団にくるまっている、物体がモゾモゾ動いていた。
「なにやってるのガヴ・・・」
月乃瀬さんはモゾモゾ動いている物体に呼びかけた。どうやらそこの物体が天真さんらしい。
「どうして学校こなかったのよ」
月乃瀬さんが問いかけても天真さんは何も答えない。まぁどうしてか分からないけど自分のパンツが落ちてきたんだ、恥ずかしくて答えられないか。
・・・あれ?そういえば何で月乃瀬さんは降ってきたパンツが天真さんのって分かったんだろ。
「もしかして、下着だけで学校に来て出席になると思ったわけ?」
「思ってないわ!!」
さすがに反応した天真さんはガバッと布団から飛び出した。
出てきた彼女はボサボサしているもったいない金色でやる気のなさそうな目をしていた。同じ長い髪できれいな金髪なのにあの時であった少女とは全く違ってだらしなく見えた。
天真さんも彼女を見習ってほしい。
「だって行けるわけないじゃん!私のパンツが高校デビューしたんだよ!?」
「まぁ、可哀そうだと思うけど自業自得じゃない」
「もうこうなったら・・・」
天真さんはそう言うとどこから取り出したのか分からないラッパを構えはじめた。
ってか天真さんラッパ吹けるんだすごい。
「見た奴らを全員消すしかない」
「ちょっそれ世界の終わりを告げるラッパでしょ!?全人類消すつもりか!」
ど、どういうこと?何でRPGに出てきそうなラッパを持ってるの?しかも月乃瀬さんもそんなにノリノリなの?
「それも止む無し!」
「とりあえず落ち着けっ!紅君もこいつとめて!」
でも必死に止めてるもしかして本当の事なのかな、天真さんの目も本気だし冗談じゃないのかも。
僕のせいで人類が滅びるなんてそんなのは嫌だ。
月乃瀬さんが僕の名前を呼んだ途端天真さんがギロッとこちらを向いた。
「お前、私のパンツを見たのか」
「は、はい!だから他に見られないように天真さんのパンツをポッケットに入れました!」
「何でホントの事言った!」
「触ったのか・・・」
しまった何で言っちゃったんだろう。余計に天真さんの怒りのボルテージは上がっていく、ゆっくり僕の方へ歩いていく。
ラッパは何とか下げて貰えたが彼女の目は僕を殺す目をしていた。パンツは他の人に見られていないなら、見てしまった人だけ殺そうと頭を切り替えたらしい。
恐ろしくて泣きたくなったけど、見てしまったのもホントの事だから。僕が取らなきゃ行けない行動は一つしかない。
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!」
僕は謝るのには慣れている、今までいろんな人に迷惑かけてしまっていたからだから。
そして今回は特に死の恐怖からか僕の人生で一番綺麗な謝罪だったと思う。
すると、天真さんの足が止まった。
「わ、わるかったよ・・・さすがに泣きながら謝られたら何もしないって一応天使だし」
先ほどの殺気に満ちた目とは違って最初に出会った時と同じでやる気のない目に戻っていた。
「僕、隣の席でだからパンツ見ちゃってごめんなさい」
「いいよもう。それより名前なんだっけ?」
「紅 夕陽よろしくね天真さん」
「紅・・・最近隣に引っ越してきた人か・・・」
そういうは無視して天真さんは地べたに座る。
僕はふと先ほどの言葉を不思議に思い、先ほどまで不機嫌だったので恐る恐る聞いてみることにした。
「そ、そういえばさっき天使って言ってたけど・・・」
「あぁ、そのままの意味だけど?私天使だし」
「ちょっとガヴ!」
天使?確かに天真さんは可愛いとは思うけどそういうのは現実には存在しないものじゃないのかな。でもさっき、天真さんは世界の終わりを告げるラッパを吹くとか言ってたしどうなんだろ。
「いいじゃん別に、他の人に言っちゃいけないなんて天界で決められたわけじゃないし」
「そうだけど・・・」
「ご、ごめんあんまり信じられないんだけど」
さすがに天使なんてアニメやゲームでしか見たことが無いのでどうしても天真さんの言っている事が信じられない。
すると天真さんはめんどくさそうに立ち上がると――――
―――バサッと白く綺麗な翼を見せた。
まるで夢を見ているようで、僕は何度も目を擦ってみるがその白い翼が消えることはなかった。
彼女を見ていると自分の中の天使が崩れていく。もちろん入学式の時に出会った彼女が天使というなら信じるのは簡単だったが、天真さんのような人が天使だと言われ証拠を見せれば僕の中の天使だと思っていた人が崩れてしまう。
「も、もしかしてパンツが降ってきたのも・・・」
「あんまり言わないでよ、かなり恥ずかしいし」
「ご、ごめんなさい」
「まあ、でも詳しくまでは言えないけど天使の力であってる」
だから月乃瀬さんもあっさり信じてくれたんだ。いや待ってということはもしかしてそのことを知ってた月乃瀬も
―――
「ちなみにヴィーネは悪魔だから」
「ちょっとガヴ!」
頭がパンクしそうだった。今度は月乃瀬が悪魔?こんな優しい人が?実は逆とかじゃなくて?
「ほ、ほんとなの?」
「うん騙すつもりはなかったんだけど・・・」
「もしかして世界をほ、滅ぼそうとか・・・」
「ち、違うのよ昔は悪魔はそんな事もしてたらしいけど今は違うのよ」
嘘だと思いたいけど、本物の天使である天真さんが言うのであれば本物なのだろう。
とりあえず、頭を整理するために今日は部屋に帰ることにして僕は一人料理を作っている。朝陽が一人暮らしする僕のためにいろんな料理のレシピを作ってくれた。
さすがに朝陽みたいに上手に料理は作れないけど、これのおかげで僕の好きな味の料理が食べられてホームシックになることはない。まだ引っ越して来たばっかりだけど。
僕が食事をしてると突然玄関の扉からコンコンとノックされた。
「はーい」
返事をして扉を開けるとそこにはつい数時間前にあったボサボサ金髪の低身長天真さんだった。
「よっ」
「ど、どうしたの?」
「いや~ここ何日かの美味しそうな匂いって夕陽からだったんだ。ってことで何か食べさせて」
「何がってことなのか分からないんだけど・・・」
入っていいよととも言っていないが天真さんは強引に入ってくる。そして勝手に僕の部屋に寝ころびテレビを見始めた。なんなんだろう、男の部屋に抵抗とかないのかな。
僕はため息をつきながら再び台所で料理を始めた。一応お父さん達から貰ってる食費もそんなに多くはないんだけどな。
僕はせっせと天真さんのために料理を作り上げた。僕の料理が出来るころにはテレビにも飽きたのか持ってきていたゲームをしている。
「できたよ」
「ん~ありがと」
ゲームを片手で僕の料理を器用に食べ始めた。僕がそんなことしてたら朝陽に怒られた事があって僕の中で絶対に出来ない恐ろしい事だ。
「うまいなこれ!」
「そ、そうかな?」
「いや~今月課金しすぎて金欠だったんだよ。これから金欠になったらここで食べさせてもらおう」
「い、いやなんだけど・・・」
褒められるのは嬉しいけど何でここに来たら食べれるって思うんだろ。しかも理由がゲームなのが納得いかない。
「バイトとかしてないの?」
「やだよ~バイトなんてめんどくさい」
天真さんの白い羽を見た後だがやはり信じられない。だってゲームに課金してお金が無くなって隣人のタダ飯を食べてる人に私は天使って言われても疑っちゃうでしょ?
でも見せてくれたし嘘はないから信じはするけどさ。
「そういえば、天真さんそのゲームやってるんだね」
「夕陽もやってんの?」
「ちょっと前までね、なくしちゃってやらなくなったけど」
入学式の時にお父さんの話を聞いて僕も好きなもの持っていけば話の合う人に会えるかもと思ったけど、結局どこかで落としちゃってそれから出来ていない。
入学式の時に登校途中何度も転んで鞄をぶちまけたからどこで落としてしまったか分からなくなっちゃったからもう僕の元には帰ってこないだろう。
「私はこのゲームが始まりだったな」
「始まり?」
「これから私はゲームにはまったから」
へぇ、じゃあ天真さんにとってそのゲームは大切なゲームなんだ。
その後ゲームの話を時間を忘れるほど話していた。自分の好きな物を好きな人と話すのは楽しい事なんだって引きこもってたら分からなかったんだろうなって今は思う。
「じゃあ、そろそろ部屋に戻るよ。明日はヴィーネと買い物約束してるし」
「うん分かったよ。来週は学校に行くんだよ〝ガヴ″」
いつの間にか僕の中で彼女の呼び名はガヴリールがしっくり来るようになっていた。それに僕が誰かに学校に行く事を進めるなんて今まであり得ないことだった。
もしかして、ガヴリールが天使の仕事をしてくれたのかも・・・・なんてね