VIVID STAND PROUD   作:反町龍騎

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 ジョジョを見直してたら書きたくなったので書きました。


裁くのは、俺のスタンドだァッ!

 ある日の夜の事である。学生帽を被り、黒い学生服を着た筋肉質で長身の男が、一人の女性に声を掛けられた。その女性の外見は十八程で、バイザーをかけている。そしてエメラルドグリーンの長い髪が印象的だった。

 

「失礼します。空条承太郎さんとお見受けします。貴方にいくつか伺いたい事と、確かめさせて頂きたい事が」

 

 女性にそう言われた男性、――空条承太郎は、己の鋭い瞳を女性へと向ける。そしてふんっ、と鼻を鳴らすと、

 

「質問をするのなら、バイザーを外して名を名乗りな」

 

「失礼しました」

 

 言って女性はかけていたバイザーを外す。その瞳は青と紫の虹彩異色だ。

 

「カイザーアーツ正統、ハイディ・E・S・イングヴァルト。『覇王』を名乗らせて頂いています」

 

「――覇王」

 

 女性の名前を聞き、承太郎の記憶から一つの答えが導き出される。

 

「なるほど。テメェが噂の通り魔ってやつか」

 

「否定はしません」

 

 女性の返答に鼻を鳴らし、女性へ質問する。

 

「伺いたい事ってのはなんだ」

 

「伺いたいのは、貴方の知己である『王』達についてです。聖王オリヴィエの複製体と冥府の炎王イクスヴェリア。貴方はその両方の所在を知っていると⋯⋯⋯⋯」

 

「⋯⋯知らねぇな」

 

 ズボンのポケットに手を入れ、堂々とした姿で女性にNOを突きつける承太郎。承太郎は更に言葉を続ける。

 

「聖王のクローンだの、冥王陛下だのなんて連中と知り合いになった覚えなんざねぇ。人違いじゃあねぇのか」

 

「そんな事はありません」

 

「少なくとも俺は、そんな奴等と知り合いになった覚えなんざねぇよ」

 

「――分かりました。その件については他を当たるとしましょう」

 

 承太郎から視線を逸らし、何事かを思った女性は、承太郎の方へ視線を戻す。

 

「ではもう一つ確かめたい事は、貴方の拳と私の拳、いったいどちらが強いのか、です」

 

「⋯⋯やめときな、俺は拳で戦うのはリングの上って決めてるんだ。――俺とやりたいなら、リングに上がってきな」

 

「⋯⋯遠慮しておきます。私の確かめたい強さとは、――生きる意味とは、表舞台には無いんです」

 

 そう言い、左手を前に出し構える女性。その女性に溜息を吐き、承太郎は女性を指差す。

 

「ならテメェにチャンスをやろう。今から俺のやる事が見えたのなら、俺はテメェと戦ってやるよ」

 

「⋯⋯いいでしょう」

 

 試されている。そう思った女性は、承太郎に全神経を集中させる。いつ動いてもいい様に、承太郎の一挙手一投足に目を光らせる。

 

「――ッ!」

 

 だというのに、女性は殴られてしまった。承太郎は一切動いていない。一歩どころか、ピクリとも動いていない。だというのに殴られた。これは一体どういう事なのだろうか。

 

「――そうか、見えなかったか。ならテメェは、リングの外で俺と戦う資格は無いって事だ」

 

 そう言って承太郎は女性に背を向け歩き出す。

 

「――ッ!待ってください!」

 

 女性が承太郎の背中に静止の声を掛ける。

 

「今、貴方は一体、何をしたというのですか?」

 

 女性の問いに、承太郎はふんと鼻を鳴らし、こう答える。

 

「答える必要は無いね」

 

 承太郎は女性に背を向け歩き出す。その背中に、戦意は全くなく。

 

「卑怯ではありますが、貴方と戦うためには、こうする他ありませんね」

 

 僅かながらの殺気を感じ、承太郎は振り返る。すると目の前には先程の女性が。女性の右拳が承太郎の顔面目掛けて放たれる。承太郎はそれをギリギリのところで回避し、その場を飛び退く。

 

「⋯⋯テメェ、背後からの不意打ちとは、いい度胸じゃあねぇか」

 

「私もしたくはないのです。ですが、貴方と戦うためには、こうする他ない様でしたので」

 

 女性の言葉に溜息を吐き、承太郎も構える。

 

「いいぜ。かかってきな、覇王」

 

「防護服と武装をお願いします」

 

「もうしているぜ」

 

「⋯⋯していない筈ですが」

 

「覇王。これは、テメェと戦うのに防護服も武装も必要ないって言っているんだぜ」

 

「⋯⋯そうですか」

 

 呟くと、女性はまたも構える。女性の行動に疑問を覚える承太郎。

 

(この距離で構えた。空戦か、それとも射砲撃か)

 

「――ッ!」

 

 気が付いたら、女性は承太郎の目の前にいた。またも女性の右拳が承太郎の顔面を狙う。間一髪それを避ける承太郎。

 

(突撃!)

 

 女性は間髪入れずに承太郎の方へと突進する。

 

(速い!)

 

 この時承太郎は、少し女性に対して違和感を感じた。

 

(違う!これはコイツが速いんじゃあない!歩法だ!歩法によって、俺が認識出来ないようにしている!)

 

 女性の右拳が、承太郎の腹部を狙う。それを承太郎は、膝で受け止める。

 

「オラッ!」

 

 承太郎が反撃とばかりに左拳で殴りかかるが、女性は首を回転させて威力を殺す。

 承太郎は女性の攻撃が来る前に、その場を飛び退く。

 

「列強の王達を全て倒し、ベルカの天地に覇を成すこと。――それが私の成すべき事です」

 

 自分の胸に手を当て語る女性。その女性に怒りを感じた承太郎は、帽子の鍔を指でなぞる。そして女性を指差す。

 

「このクソアマッ!寝惚けた事抜かしてんじゃあねぇぜッ!昔の王様なんざ、とうの昔に全員死んでいる!生き残りや末裔達も、皆普通に生きている!」

 

「弱い王なら、この手でただ、屠るまで」

 

 承太郎の激昴に、女性は淡々と無慈悲に告げる。その言葉が腹に据えかねた承太郎は、一度深呼吸をする。そして静かに、だがはっきりと呟く。

 

「たった一度だ。たったの一度だけ、俺自身が決めた誓いを破るぜ⋯⋯ッ!」

 

 すぅっと息を吸い、承太郎は叫ぶ。

 

「スター・プラチナ!」

 

 女性は、承太郎の後ろに何かの気配を感じる。だが感じるだけで、何かまでは分からない。

 

「ベルカの戦乱も聖王戦争も、もうとっくに終わってるんだよ!」

 

 三度承太郎に、肉薄する女性は言う。

 

「終わってないんです。私にとってはまだ何も」

 

 女性は右腕を振り上げ、承太郎に向かって思い切り振り下ろす。

 

「覇王、断空拳」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それで終わったかに見えた。承太郎が普通の人間であれば、受け止められまい。受け止めたところで、ガードの上から深手を追う。それ程の打撃。――そう、承太郎が、普通の人間であれば、だ。

 

「――ッ!」

 

 女性の手刀が、空で停止している。女性が止めた訳では無い。勿論止めたのは承太郎だ。だが承太郎は動いていない。ズボンのポケットに手を入れたまま、仁王立ちしているだけだ。

 なら何故女性の手刀が止められたのか。

 

「俺はな、俺自身に誓いを立てている。『使わずの誓い』を。テメェは何故、自分の手刀が止められたのか不思議で仕方が無いだろう。その理由は、テメェに最初にやったものと同じだ」

 

 女性には、意味が分からなかった。

 

「俺が立てた『使わずの誓い』――その力の名はスタンド。精神エネルギーを具現化させる力だ。このスタンドという力は、同じくスタンドを持つ者にしか見れないらしい。だからテメェは、これから何をされるのか分からない。――いや、痛みは感じる訳だから、分からないことはないか」

 

 承太郎は鼻を鳴らす。

 

「テメェを裁くのは、俺のスタンドだァッ!」

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!』

 

「ふぐっ⋯⋯!」

 

 承太郎のスタンドによる見えない両拳のラッシュにより殴り飛ばされた女性。その女性が意識を失うと、体が小さくなり、中学生位の姿になった。

 承太郎は驚くと、

 

「⋯⋯やれやれだぜ」

 

 と呟き、デバイスを操作する。

 

『もしもし承太郎君?どうしたの?』

 

 画面に映ったのは、藍色の短髪と翠の瞳をした女性。承太郎が通信した先は、管理局港湾警備隊防災課特別救助隊セカンドチームに所属する防災士長であり、ソードフィッシュ隊の分隊長を務める、スバル・ナカジマである。

 

「ちょいとケンカをしてな」

 

『え!?ケンカ!?』

 

「ああ、先に手を出したのはこっちだし、このまま放っておくのはちと気分が悪いんでな。アンタの家に運んでもいいかい?」

 

『ああ、うん、いいよ』

 

 承太郎に対し、笑顔で答えるスバル。

 

「ありがとうよ。じゃあ今から向かうとするわ」

 

『うん。待ってるね』

 

 通信を切って承太郎は、少女を担ぐ。

 

「やれやれ。コイツの荷物は、――まあ、コイツが起きた後で構わんか」


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