ハンドレッド―とある転生者の奮闘記―   作:konvoi

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またも遅くなりました。本当に申し訳ありません!

今回も短いうえに前回の登場人物が完全に空気化しております。カレンとかオリ主の両親とか。

それでも良いという方はどうぞ。


やだ、俺ってば空気すぎ。 byアキラ

 食堂のテラススペースに面した広場。

 クレアからの了承を得て、エミールとエリカは対峙していた。

 

「手加減してあげるから、早く掛かってきなよ。副会長さん?」

 

 挑発を掛けるエミールの周囲に漂う六つの浮遊砲台がエリカに向けられる。

 

「そんな挑発紛いに乗る気はありませんが、今は敢えて乗ってあげましょう。無論、ハンデとしてですが――百武装・展開(ハンドレッド・オン)!!」

 

 対峙するエリカは冷静にそう返すが、持ち直した眼鏡の奥に見える彼女の瞳からは明確な敵対心が見て取れた。そして懐から取り出したヴァリアブルストーンを頭上に放り投げると、淡い光を放ちながら微粒子が彼女の手足を包み込む。

 淡い紫色のプロテクターが彼女の両手足に作り出されていき、次いで右手にさらに粒子が集中して集まりだしていく。それらが一つの形として作り上げたのは、プロテクターよりも大型の篭手のような物体だった。

 

「それが副会長のハンドレッドなんだね」

「その通り。これが私のハンドレッド――《絶対運命の鎖(エヴァー・ラスティング)》です」

 

 作り出されたそれを一瞥してエミールが問うと、エリカは自身のハンドレッドを名乗り上げる。

 

 

 

 

 

「──なぁ、四宮。止めなくて本当に良かったのか?」

「こうなっちゃ仕方ないと思う。何より一昨日の決闘を承諾した俺達に止める権利なんて無いしな。それに副会長は上級生で実戦経験者だ。何があっても状況を鑑みて切りのいい所で終わるだろうよ」

「当然ですわね」

 

 まるでさも当然のようの言ってのけるアキラにハヤトは顰めっ面を浮かべつつ、隣にいるクレアが言葉を紡いでいく。

 

「一昨日の件に関してはわたくしから申し込みましたが、それを承諾したのは紛れもないあなた方ですわ。その時点で、二人の決闘を止める権利は既に失われております」

「新入生であるエミール・クロスフォードはともかくとして、エリカならば納め時もわかっている筈だから問題はないはずだ。そうですね? クレア様」

 

 引き継いだように言うリディの言葉に、クレアは「そうですわね」と短く肯定するのみに留めた。視線は相対する二人の様子をじっと観察しているようで、リディとアキラ達も、話を止めて二人の勝負を見届ける事にした。

 

 

 

 

 

「エミール・クロスフォード。どうやらあなたのハンドレッドはドラグーン型のようですね」

「さぁ。どうだろうね。砲台かもしれないし、そうじゃないかもしれないよ?」

「・・・何を言ってるのですか? あなたの武装はどう見ても遠距離攻撃系のドラグーンではないですか。只でさえクレア様と同系統の武装を作り出す癖して、そうではないかもしれないなどと戯言をのたまうとはっ・・・!」

 

 どうやらエリカにとって、新入生であるエミールの武装が自身が崇拝するクレアと同列の武装を形成することに我慢ならないようだ。空いている左手で拳を握り締めている。

 しかし、それも一瞬だけで、次の瞬間にはエリカは冷静な眼差しでエミールを観察しながら言葉を紡ぐ。

 

「ふー・・・しかし、あなたの武装では砲撃などで周囲に被害が出てしまいますね。どうしたものか・・・」

 

 挑まれ、それを承諾した手前、今更止めるという選択肢が取れない以上、相手側に何らかの制限を設ける他ない――そんな考えが頭を過ぎるが、それを当の本人であるエミールが否定する。

 

「なら、周りに被害が出ないようにすればいいんだよね?」

「は? 何を言って・・・ッ!!」

 

 何を言うかと思えばと、思案していた思考から意識をエミールに向け直す――そこでエリカは自身の目を疑った。

 エミールの周りに浮遊する砲台の一つが"粒子状に散る"。

 それらが砲台とは別の、より具体的に言えばランスのような真っ直ぐ伸びた武器へと形を変えていく。

 

「武装が・・・変わった・・・!?」

 

 文字通り、彼の武装が形を変えたのだ。先程は遠距離砲撃を行える"砲台だったもの"が、突くことを前提とした"刺突武器"を形成した。普通ならばあり得ない筈の光景を前にしたエリカの胸中で、懐疑的な疑問が浮かび上がる。

 

(彼のハンドレッドは【ドラグーン型】としてデータベースにも記載されていた筈・・・それが、リディと同じファランクス型のランスに形を変えるなんてあり得ない!)

 

 つい先程、自身の使う眼鏡型のモニターでエミールのハンドレッドを直前に調べたので間違いなかった筈だ。

 本来、クレアのようなドラグーン型は遠距離での射砲撃を得意とする物だ。それがいつもの浮遊する砲台であれ、手に持って砲撃を行う"銃"のような形を形成しても何ら可笑しくはない。

 しかしである。彼のハンドレッドはリトルガーデンのデータベースでも記載されている限りでは、そのクレアと同型だった筈。しかし、現実では遠距離系から近接系へと変えられ、自身が考えうる限りの行動予測が遥かに上回る形で崩されてしまった。

 だが、それで彼と対峙する意欲が失われた訳ではない。これまで幾度となくサベージや他の武芸者との戦いで研鑽を続けてきたのだ。この程度で激しく動揺してしまうほど、エリカの精神は柔ではなかった。

 

(いいえ! エミール・クロスフォードのハンドレッドの正体はともかくとして、あれは明らかにリディと同じファランクス型と見て間違いないでしょう。ならば、まずはその対抗策を練らなくてはなりません!)

 

 意識を切り替えて、まずは相手からの出方を窺う事にする。

 

「そろそろ行っても良いよ──ねッ!」

 

 エリカの動向を窺っていたであろうエミールが答えを待たずして先手を仕掛ける。僅かに腰を降ろして形成したランスを正面に構え、一迫を置いて突撃する。

 エリカとの距離は僅かに数メートル程しかない。その距離を目測で測ったのか、両足にエナジーを集中させて蹴りの衝撃を加えた加速で彼女との距離を一瞬に詰め、手のランスを突き付ける。

 

「・・・ッ! その程度ッ!」

 

 辛うじてエナジーによる不可視の防壁──Eバリアを張って突きを受け流したエリカは右手のハンドレッド、《絶対運命の鎖》からフック状の物体を、目の前のエミール目掛けて飛ばす。

 それを見切ったエミールが仰け反りで回避し、自身の顔を狙っていた筈のフックを宙返りの勢いを乗せた足蹴で上に弾く。

 距離を離すエミールと同じように、バックステップで後方に下がるエリカ。二人の足は同時に地に付き、一瞬の互いの動きを分析する。

 

(咄嗟に身を翻して初擊を避けましたか・・・フックを飛ばした際に鎖を彼の身体に絡め、動きを封じる算段でしたが、弾かれるとは予想外・・・流石は新入生第二位と言った所ですか)

(今のを避けてカウンターを狙ってくるとはね。武器を再構築した際の動揺を引き摺らせたまま勝負を決めたかったけれど・・・流石に実践経験豊富は伊達じゃないみたいだね)

 

 互いに先程の初擊を鑑みて、二人は次の手段を構築していく。今のように搦め手や油断を誘った姑息な手段を取る選択肢を摘まれた以上、別の手を模索するしかない。一瞬の攻防だけで、二人の脳内には既に次なる一手が紡がれつつあった。

 

「ふっ!」

 

 次に攻撃を仕掛けたのはエリカだった。右腕を大きく振りかぶり、先端のフックをチェーンごとエミール目掛けて投げ飛ばす。

 

「そんな攻撃!」

 

 しかし、エミールは落ち着いてそれに対処する。わずかに前に体重をかけて前進。走り出したことでチェーンの追突から逃れつつ、ランスの穂先を前面に向けながら吶喊。

 

「──ッ!!」

「見え見えなんだよね!」

 

 地を踏み込む足にエナジーの付与で一気に加速、距離を詰め、そのままランスを眼前のエリカに刺突する。エリカは寸での所で突きを防ぎ──彼の右腕を"掴んだ"。

 

「へっ?」

「それはあなたもです!!」

 

 叫びながら、エミールの着用する制服の襟元を左手で掴みつつ彼の足を地面から蹴り離し、突撃の勢いを殺さずにそのまま投げ飛ばした。

 

「うわわっ、ったぁっ!?」

 

 奇妙な声を上げながら地面に叩き付けられるエミール。地面が土だったお陰か、アキラ達が遠目から見ても、たいした怪我も見当たらないようである。

 

「いてて・・・・・・ハンドレッド使ってるのに、武術使うとか卑怯じゃないの?」

「エナジーバリアと同様で、護身術も立派な身を守る術の一つです──尤も、サベージ相手には意味のない技術ですが」

 

 所謂"背負い投げ"で地面に伏せられたエミールが呻き、ずれた眼鏡を元の位置に持ち上げ直したエリカが当然とばかりに返した。

 

「僕の挑発に乗るとか言いながら、その実は全然乗ってなんかいないでしょ?」

「いいえ。わたしは確かに"ハンデとして"あなたの挑発に乗ると宣言しました。そう感じるのは、単純にあなたがわたしの力量を測り損ねてるだけではないのですか?」

「言ってくれるね…!」

 

 エリカからの煽るような言動に小さな苛立ちを顕にするエミール。立ち上がりながらランスを粒子に還元しつつ、新たに巨大なくの字型の武器に作り替える。

 

「また武器が変わった・・・」

 

 再び目の前で新たに武器を形成したのを目撃して、観察するような眼差しを向けながら呟きを溢す。エミールはジャンプして形を変えた武器、ブーメラン状のそれをエリカ目掛けて投擲する。弧を描きながら飛来するそれを、エリカは苦も無く回避する。

 

 

 

 

 

「また武器が変わりましたわね・・・。如月ハヤト」

「は、はい!」

 

 エミールの動きを観察していたクレアは横に立つハヤトに声を掛ける。突然呼び掛けられたからか、当の本人はすっとんきょうな声を上げて振り向く。

 

「彼、エミール・クロスフォードのハンドレッドは一体なんですの? あなたなら何か知っているのではなくて?」

「え、いや。俺も何も知らなくて・・・」

 

 エミールの使うハンドレッドの特性について説明を求めるも、ハヤトは一昨日の放課後でエミールが自身のハンドレッドを展開した所を初めて見ただけの為、詳しい事情を知らない。

 焦って首を左右に振る様子を鑑みるに、彼は本当によく知らないのだろう──そう踏んだクレアは、ハヤトの横で同じように観察している様子のアキラに問いかける。

 

「四宮アキラ。あなたは何か知っていらして?」

「いいえ、何も。というか、自分もエミールのハンドレッドを見るのは今回が初めてです」

 

 クレアは、もしアキラが何かを知っているのなら、質問責めでもして探ってみるつもりだった。しかし、思案する仕草も見せずに即答したのを、クレアは訝し気になってアキラを睨む。

 

「四宮アキラ。貴様、エミール・クロスフォードの形状を変えるハンドレッドを見てもたいして驚いていないようだな。何故だ?」

 

 リディのその問いこそ、今のクレアを疑問に思わせていたものだった。

 

「俺のハンドレッドも似たような事はできますよ。模造している点で彼のとは微妙に異なりますけど、運用的な意味で言えば、彼のハンドレッドと俺のハンドレッドは共通してますね。だからたいして驚く程でもないんですよ」

「フム・・・・・・確かに昨日の試合を鑑みるに、貴様のその反応も頷ける、か・・・」

 

 リディはそう納得するも、クレアの表情は未だ晴れず。今のアキラの説明だけでは納得しきれていないようだ。

 

(確かに、四宮アキラのハンドレッドも複数の武器を生成するタイプのようでした・・・・・・しかし、それだけで大きなリアクションもないなんて有り得ませんわ。恐らくですが・・・・・・彼の、エミール・クロスフォードのハンドレッドについて、四宮アキラは“彼の何か”を知っていますわね)

 

 アキラの変わりようのない表情を見て訝しんだクレアはもう一度訊ねようと思った、そんな時だ。

 

「――エミールのハンドレッドについてなら、ボクが答えようじゃないか」

 

 観戦するクレアとアキラ達がいる位置から反対の方向から声が響き、戦いあうエリカとエミールを除いた一同は一斉にそちらへ振り返る。

 

「あなた、どうしてここに・・・」

 

 振り返った先にいたのは、リトルガーデンに研究所(ラボ)を構える技術主任(メインテクノロジスト)、シャーロット・ディマンディウスだった。

 

「食事に来たからだよ。その後に、君達の耳に入れておきたい話もあったから、会えたことは丁度いいのだけどね――とはいえ、その話の前にエミールのハンドレッドについての話をしたほうが、君の問いには答えられるかな」

「まどろっこしいですわよ。彼は、いったい何者なんですの?」

 

 回りくどい話し方で語るシャーロットに嘆息交じりに先を促すクレア。そんな彼女に肩をすくめながらもシャーロットは彼女の問いに答え始める。

 

「エミールとボクの出会いは五年前に遡るんだ。仕事でグーテンブルグの病院に訪れた際に、ぜひ診て欲しいと言われた患者がいてね」

「それが、エミール・クロスフォードだったと?」

 

 そうだ、とシャーロットが頷く。

 

「そこでボクは、エミールに武芸者(スレイヤー)としての類稀な才能があることに気付いたんだ。それで研究中だったハンドレッドをエミールに与え、実験に付き合わせた。その結果、彼は、ハンドレッドを上手く操作できるようになったし、制御(コントロール)することもできるようになった。その反応数値を誤魔化すこともできるくらいにね」

「それって、まさか・・・・・・」

「彼のヴァリアブルストーンの反応数値は、如月ハヤトと同等――いや、現時点でそれ以上なんだ。それでいて、その操作能力は高く、その形態(かたち)を持たない。だから、エミール・クロスフォードのハンドレッドに型はない」

「・・・・・・・・・」

 

 クレアの顔には、そんなの聞いたことがないと書いていた。そんな表情をしているのかと知ってか知らずか、シャーロットは溜息を付きながら続ける。

 

「ボクだって、そんなハンドレッドを扱うのは初めてだったさ。それだけに苦労したよ。あの、型を持たない『イノセンス』――そして可変型の武器である、《全てを覆い隠す霧(アームズ・シュラウド)》をつくりだすのにはね」

「つまり、あなたは自分の研究の為に、エミール・クロスフォードをこのリトルガーデンにスカウトしたということですわね」

「キミに彼のことを伝えていなかったのが不服かい? エミールには自分の特殊な能力(チカラ)のことは誰にも言わないでくれと頼まれていてね」

「・・・・・・あなたや彼の意図がなんであれ、このリトルガーデンに優秀な武芸者(スレイヤー)が増えるのであれば、わたくしは構いませんわ」

 

 グッと両手に拳を握りしめながら、クレア決闘(デュエル)を続けている二人に再び視線を戻す。

 

(――まぁ、だからといって、四宮アキラのあの様子を裏付ける理由にはならないのですが)

 

 戦いを尻目にアキラに向けて細めた目線を向けながら、“今はエミールのハンドレッドの正体が分かっただけで十分としよう”と理由をつけながら意識を二人に向け直した。

 

 

 

 

 

「はぁあああああーーっ!」

 

 手元に戻ったブーメラン状から再び先程のランスに形状を変えた武器を突き出し、回避直後の硬直の間隙を狙われたエリカは右手のハンドレッドを盾にしながら突きを防ぐ。が、咄嗟に防いだ為にその威力を完全に凌げる筈もなく、エリカは「くぅっ!」と小さく呻き声を上げながら後ろに押し退けられる。

 

「さっきは『周囲に被害が及ばないように』って言ったけどさ――」

 

 エミールがそう呟きが聞こえた直後、目の前に突き出されたランスの穂先が“左右に分割し、割れた”。その中央部に見えるのは銃口らしきモノ――それにエナジーが集まっていく事にエリカはすぐに気付いた。

 

「この至近距離で撃てば、周りに被害は及ばないよね。どうする?」

 

 端的に言った言葉の中に、『勝敗は付いた』と意味が含まれている事にも気付き、エリカは悔しげに歯を食いしばる。現状、彼女のエナジーはまだ余裕があるが、眼前に収束していくエナジーの量から考えて残るエナジーを削りきる魂胆は丸見えだった。反撃をしようにも、そんなことをすれば自身の腕よりもエミールの指先が最初に動くのも目に見えていた。

 

(わたしの、敗北・・・・・・か)

 

 悔しいが、自身の敗北が濃厚なこの戦いに潔く降参の宣言をしようとした――その時だ。

 

――ブーッ、ブーッ

 

 クレアやリディ、そしてエリカのPDAから低いブザー音のような音が鳴り響いた。

 

「なに、それ・・・?」

 

 目の前のエミールが疑問の声を漏らす。それに伴い銃口を下ろし、続けてシャーロットがそれに答えた。

 

「思ったより早く招集がかかったようだね」

「招集って、なんなんですか?」

 

 疑問の声を上げたハヤトに答えたのは、やはりシャーロットだった。彼女は「なに、簡単なことさ」と前置きしながら、

 

 

 

 

 

「――近隣の島にサベージが出現した、ってだけさ。そして、ボクから話したかったもう一つの事が、その招集についてなのさ」

 

 さも当然のように、加えてしたり顔でシャーロットはそう言ってのけた。

 

 その直後、大きなサイレンの音がリトルガーデン全体に響き渡った。




次でようやく一巻の終盤です。いやぁ、長かった。(遅筆)
やっぱり戦闘描写が難しいです。・・・言い訳に聞こえるかもしれませんけど。

まぁそれでもまだ明記していないメインヒロインとの絡みを交えたいのが終盤で一番書きたいところです。
ぶっちゃけこの作品を書き始めたのもそのキャラクターとの絡みを妄想したからですし。

ちなみにヒントは『年上』、『眼鏡っ娘』です。

それではまた次回で。(未定)
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