ハンドレッド―とある転生者の奮闘記―   作:konvoi

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前回からおよそ一か月と二週間。お待たせしてごめんなさい。あとこのプロローグはまだ続きます。原作突入までまだ暫くかかります。
あと一話で終わらせるとか宣っていましたが、何卒もうしばらくのご辛抱を。

今回は13000字余り。前回から1000文字以上も増えてしまっています。
読みづらいとは思いますが、それでも楽しんでいただければと思って投稿します。

それでは第三話、どうぞ。


覚醒パートは一話の終わりになることが多い。

 サベージの左腕の鋏――それが俺に迫る中、目の前に重なる影があった。

 

 

「させませんっ!!」

 

 

 エリカさんだ。右腕のガントレットを盾の様にして構え、眼前に不可視の壁――自らのエナジーを壁のように展開する"エナジーバリア(以下「Eバリア」)"を作り出し、俺を掴まんとしていたサベージの鋏を抑え込む。

 

「ッ! ・・・い、行ってください!」

「あ・・・は、はい!」

 

 サベージを抑え込むエリカさんに言われ、俺はやっと体を動かす事ができた。とっさの事でとにかく後ろに数歩下がり、すぐに踵を返した。

 体感で随分と離れてから後ろを振り返ると、サベージはEバリアを展開した状態のエリカさんを持ち上げていた。鋏で挟まれているのもあってか、宙に持ち上げられたエリカさんが展開するEバリアの表面は目視で確認できる程に揺れ動き、パリパリと電流のような音を迸らせていた。

 

「エリk・・・お姉さん!」

 

 思わず名前を呼びそうになるのを堪えながら呼びかける。しかし、エリカさんは気にするなとばかりに声を張り上げる。

 

「そのまま離れて! このままでは、あなた達にまで危害が及んでしまいます! ッ・・・そうなる前に!」

 

 普通の人ならここで逃げるか迷うのだろうが、俺は言われた通りに従い、更に後方に下がる事にした。

 

「ぐぅっ・・・!」

 

 エリカさんの苦悶の声。無意識の内にか、俺の聴覚が自然とそれを聞き取る。

 同時に、本能の赴くまま暴れるサベージの叫び声が辺りに響き渡る。直後、背後から何かを叩きつけたような、凄まじい音が鳴り響いた。

 

「がぁっ!!」

 

 その悲鳴にも似た声によって、俺の意識と視線は再び背後へと振り返らせた。

 そこに居たのは、地面に倒れ伏すエリカさんだった。先ほどまでサベージに掴まれていたのに、苦しそうにうめき声を漏らす彼女が何故地面に倒れ伏しているのか。

 しかし、その謎も直ぐに解けた。今しがた聞いた物音と悲鳴は、サベージがエリカさんを地面に叩き付けた衝撃のものだった。

 着用するヴァリアブルスーツは小さな円を形作りながら擦り切れ、彼女の柔肌に軽い出血を伴う傷跡が生まれているのが遠目から見てもわかる。

 やだ、ちょっとエッチィ・・・なんて思ってる場合でなくて。

 

「お姉さん! 大丈夫!?」

「ぐっ! は、早く・・・逃げ・・」

 

 俺の心配する声に、エリカさんは尚も俺に避難を促そうとする。が、彼女の頭上に影が差した。サベージが再び腕を上に振り上げたのだ。

 

「っ・・!!」

 

 エリカさんの息を吞む様子が遠目からでもよくわかる。あれは危ない。あのままではサベージに殺されてしまう。その現状を目の前にした俺は走っていた。

 

「アキラ! とまれ!!」

「戻ってきて、アキラ!!」

 

 両親の呼ぶ声がする。しかし、俺はそんな声を無視して一直線に進む。向かう先は当然エリカさんの下へ。ここから走ればまだ間に合うかもしれない。殆ど死に体のサベージが腕を完全に振り下ろす前に、エリカさんを助け出す!

 せっかく原作キャラと出会えたのに、ここで退場させるわけにはいかない。つうかそれ以前に原作崩壊なんかさせて堪るか!! まだ本編すら始まってねぇんだぞ(メタァ)ふざけんな!

 何より俺がさっさと離れなかったのが原因なのだ。目の前に佇む死の恐怖に怯えて、一瞬でも硬直した数分前の自分自身をぶん殴りたい衝動に駆られつつも、俺は急いでエリカさんの下へ駆け寄る――しかし、そこはやはり距離的な問題で彼女と一番近い所にいるサベージのほうに分がある。

 サベージはボロボロになりつつも振り上げた腕を直下に下ろした。重力に則った鋏がエリカさんを貫かんと迫る――が。

 

 

 

「させるかぁっ!!!」

 

 

 

 サベージの腕とエリカさんの間に割って入ったのは、先に女性武芸者(スレイヤー)を突き飛ばしたベルグリットさんだった。彼が自らの斧状ハンドレッドを振るい、振り下ろされたサベージの鋏を打ち返す。打ち返された衝撃によって、サベージの左腕は粉々に粉砕。直接的な攻撃手段を奪われたサベージはその痛みに耐えかねたのか、悲痛な叫び声を上げ始める。

 

「坊主! 動けるか!? 今のうちにそこの嬢ちゃんを連れてけ!」

「わ、わかりました!」

 

 ベルグリットさんの言葉で俺は再び動き出す。現状、俺に出来ることはそれくらいだ。ならぱさっさと連れてその場を離れるとしようそうしよう。

 

「立て、ますか?」

「くっ・・・なんとか。・・・何故、さっきは逃げなかったんですか?」

 

 助け起こしながら投げかけられたその質問に息が詰まる。

 

「えと・・・まだ、間に合うかなー、と思って・・・」

「・・・それで、私を助けようと、したのですか?」

 

 呆れた顔を浮かべたエリカさんの言葉に、首を縦に振る俺。すると彼女は途端に「はぁ・・・」とため息をついた。ですよね。薄々そんな反応されると思ってた。

 

「あの距離で「助けられる」と思うなんて、あなたは馬鹿なのですか?・・・いえ、ご両親の対応からして薄々そんな感じはしてましたが」

 

 なんと。俺達家族のやり取りだけでそこまで把握したとは、やりますねぇ。理解されたよ! やったねアキラ! 全然嬉しくないけどな。

 そんな事よりもさっさとここを離れないと。今後ろでベルグリットさんがサベージを引き付けてくれている間にできるだけ離れた位置に移動する。勿論エリカさんに肩を貸しながら、だ。

 体感で二十歩ほど離れたところで、俺は顔を後ろに振り向かせる。

 そこには満身創痍のサベージに斧を振るうベルグリットさんがいた。彼が振るった斧がサベージの頭部を往復ビンタのように左右から叩き付け、一撃毎に飛び散るサベージの体液が地面に広がっていく。

 正直に言ってドン引くレベルであのサベージが不憫だ。両腕を失った瀕死の状態であの殴打・・・怪物相手に同情するのもどうかと思うが、それでもさっさと止めを刺してあげた方がいいと思うの俺は。

 そんな事を思っていると、ベルグリットさんは殴打を突然停止させ、その場から瀕死のサベージの頭上高くを跳躍する。

 

「今度こそぉぉぉぉッ!!」

 

 咆哮と共に振り下ろされた斧が、真下にいるサベージの(コア)に深く突き刺さる。落下時の重力による重たい一撃が(コア)全体を粉々に砕き、心臓部を完全破壊されたサベージは今度こそ、息を吹き返すことなくその場に倒れ伏した。

 

「ハァッ・・ハァッ・・・やっと終わったか」

 

 軽い息切れを起こすベルグリットさんが安心したように呟く。そりゃあんな斧の振り方をしてたら、いくらベテランでも疲れるものだ。今にして思えば連戦だもの、本当にお疲れ様です。

 

「ベルグリットさん。休んでるところ申し訳ないんですけど、そろそろ移動しないと」

 

 俺がそう言うや否や、2~3回軽く深呼吸を繰り返したベルグリットさんが駆け寄りながら答える。

 

「わかってるさ。嬢ちゃんのほうはどうだ? 怪我はないのか?」

「私は平気です。まだ自力で動けます」

 

 強く打ち付けられた上、数ヶ所の擦り傷を浮かべるエリカさんが答える。彼女は自分の足で立とうとするもふらついて上手く歩けそうもない。見るからにダメージが抜けきっていない彼女の様子を鑑みてベルグリットさんが、

 

「・・・無理はするな。さっきのダメージが抜けきるまでは俺が前に出る。それまで坊主に肩を貸してもらえ」

 

 と言う。遠回しな戦力外通告を受けてエリカさんの表情が強張る。

 

「ですがっ・・・ッ!」

 

 それでもまだ動けると主張しようとするエリカさんだが、突然歯を食い縛りながら腰に手を回した。まだ前線に出られる状態でないことだけは確かなようだ。

 

「そんな状態で前に出られても足手まといだ。こっちの部隊の連中はさっきので多少は動けるようになったから、周囲をこいつらに任せておけばいい」

 

 後ろを指差しながら言うベルグリットさん。彼の後ろで控えるように立つ三人の女性武芸者(スレイヤー)達は俺達から目をそらすように顔を俯かせている。先ほどの醜態を晒してしまったのを気にしているのだろう、申し訳なさと後悔の感情がごっちゃになっているのが見てとれる。

 ベルグリットさんには悪いけど、とてもじゃないが俺達の周りを任せられるような精神状態ではないな。父さん母さんだけでなく、エリカさんもきっとそう思っているはず。

 ふとエリカさんのほうへ向き直ってみると、俺と同じ事を考えているのか、「まるで信用できない」と言わんばかりの難しい表情を浮かべていた。しかし、そんな意識もすぐに切り替え、仕方ないとばかりにため息をついた。

 

「・・・わかりました。でしたら先頭をベルグリットさんに、私達の左右及び後方を部下の方々に任せます。私は救援を呼び掛けますので、何かあればすぐに報告してください」

「元からそのつもりさ」

 

 エリカさんの言葉に同意を示したベルグリットさんは、部下達にそれぞれ指示を与えていく。

 

「あの、そろそろ離していただきたいのですが」

 

 ベルグリットさん達を見ていた俺にエリカさんが言った。そういえば肩を貸した状態だったな。そんなに俺から離れたいのか、ちとショック。でもなぁ。

 

「お姉さん、さっきふらついてたでしょ。このまま肩を貸しますんで、ダメージが抜けきるまでは大人しくしていてください」

「いえ、本当に大丈夫ですから。歩くだけならできますので」

 

 頑なに俺の厚意を拒むエリカさん。そんな彼女に諭すように語りかけてくるのは父さんと母さんだ。

 

「今のアキラに何を言っても無駄だ。そいつは一度こうと決めたら中々折れない性分なのでな。ここは大人しく肩を貸してもらったらいい」

「大丈夫よ。その状態のアキラは特に問題を起こすようなことはしないから安心して」

 

 父さん母さん、それってつまり俺が有事でなければ変態的行動に出るとお考えですか? 今は有事だからそんな余裕もないことは俺でもわかってる。しかし、もしも今が有事でなければ、俺はしっかりとエリカさんの手や腰の感触を堪能していただろう。かと言って現状、『いやぁ程よくやわかい肉付きで気ン持ちぃぃぃッ!!』なんて思えない。思えないったら思えないのだ。ん? 現に今触ってるし思ってるじゃないかって? これはほら。たんに『肩を貸してる』だけだからセフセフ。

 

「まぁ、あなた方がそれでいいのならこのまま支えてもらいますが」

 

 やったぜ(歓喜)。

 

「さて。そちらも話が纏まったようだな。坊主には嬢ちゃんを支えながら移動してもらう。大変だろうが、近くにあるリベリア軍の基地まで頑張ってくれるな?」

 

 ベルグリットさんの言葉に俺は頷く。同様に頷き返した彼が「出発だ」と俺達全員に促し、基地への後退を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 移動を開始して数分後。俺達はまたもサベージに遭遇した。丁度繁華街の前を通り過ぎる頃、正面の建物の影から現れたのがそいつだ。数は一体。どうやら他の個体とは別行動中のようだ。

 現在、俺と両親とエリカさんは近くにあった車の影に隠れてやり過ごそうとしていた。移動中だったがエリカさんはようやっとダメージが抜けてきたのはいいのだが、それでも戦闘には出られない。なので今はベルグリットさん達と部下の人達に前線を任せている。

 

「・・・何でこんな短時間で2匹目と遭遇するのかねぇ~」

 

 胡座をかきながら、そう愚痴めいた事を呟く俺。

 

「私達が見たのが4体だったんだ。そうなれば遭遇率が高くなるのは必然と言える。討伐されるまで私達は大人しくここで待っていればいい」

「そうね。こういう時こそ一休さんの精神で待っておかないとね」

「『慌てない慌てない』って? 後ろの爆音とか打撃音とかが無ければ一休みにはなれただろうね」

(この家族の落ち着き様って一体何なんでしょう)

 

 ぶっちゃけこんなところにいるよりも建物の陰にいたほうが安全のような気がしないでもないが、遭遇してとっさにここに避難したのだから、終わるまで待つしかない。

 ここで俺はちと向こうの様子を窺ってみる事にした。確認した方が移動するタイミングを見計らいやすいからだ。そんな訳で頭をちょこっと出してみる。さながら砂漠の地中の巣から顔を出す小動物の様に。

 

「ちょっと、何しているんですか!?」

「ん? 向こうの様子を見るだけですけど?」

 

 エリカさんの慌てた声に俺は当然とばかりに答える。

 

「危ないですから、少しは大人しくしててください。私が確認するので」

 

 そう言って、慌てて俺の頭を無理矢理押さえつけて大人しくさせた。手袋越しとはいえ、見知らぬ女性の手が俺の頭を押さえつけている・・・これはこれで(歓喜)。

 

「・・・・・・どうやら状況は均衡しているようですね」

 

 頭を覗かせ向こうの状況を確認したエリカさんが呟く。

 均衡している、という事はベルグリットさん達も限界が近づいてきたという事か。先ほどとは違い、今では部隊員全員で任務に当たれるようになったとはいえ、聞いたところによれば三人の女性武芸者(スレイヤー)は今回が初陣・・・そんな彼女らを取り仕切るベルグリットさんには多大な負担がかかっている筈だ。その上サベージに遭遇して連戦続き。いくらベテランでもそろそろ限界に近付いてきた、と言ったところか。

 

「お姉さん、こういう時って大体増援とか駆けつけてきてくれるはずですよね? そこはどうなってるんですか?」

 

 俺がエリカさんにそう問うや、彼女は途端に言い辛そうに表情を歪めながら答えた。

 

「・・・いえ、残念ながらこの場への増援は期待できません」

「は? なんでですか?」

「実は他の所にもサベージが出現しているんです。あなた方が見た群れとは別の群れが、です。それらが別の地点に現れ、それらの対処に追われて他の部隊に手が空いてないからだそうです」

 

 それは初耳だ。何故そんな重要な事を話してくれなかったのだろうか。そんな俺の考えが顔に出ていたのだろうか、エリカさんは俺を見つめながら答えてくれる。

 

「『何故話してくれなかったのか?』と言いたそうな顔ですね。無論話そうとは思いましたが、今のあなた方の精神状態にこれ以上の負担を掛けたくなかったからです。今は冷静に振る舞っていても、それがいつ限界を迎えてもおかしくありません。ましてやあなた方は民間人・・・そんな方達を守り、いち早く安全な場所に送り届ける事こそが今の私達のすべき事です」

 

 俺を、というよりも俺達を見つめながらエリカさんは優しく微笑みだす。

 

「それが私たち、武芸者(スレイヤー)の仕事の一つです」

 

 守るべき人命を安堵させるような笑みを浮かべながら、最後にそう付け加えた。

 つまりは俺達をこれ以上危険な目に遭わせない為にこれまで黙っていた、という事か。なるほど。確かにその通りだ。いくら両親がワルスラーンの人間だからって、俺達は所詮一般人。戦う力を持たない"守るべき対象"だ。

 "普通"ならばそう考えるだろう。しかしながらエリカさんや。多分その心配は杞憂に終わると思いますよ。

 

「流石武芸者(スレイヤー)だな、立派な心意気だ。今まで誰にも喧嘩で負けた事が無い誰かさんも見習ってほしいものだ。なぁアキラ?」

「そうねー。腕っぷしには自信があるのだから、せめて自分の為なんかじゃなくて誰かの為と言って力を振るってほしいわ。ねぇアキラ」

「お姉さん。こんな時にこんな事を言える一家がこれ以上冷静さを失うように思えますか? 自分たちの子供をDisるような人達ですよ。こんなの普通じゃ考えられませんよ」

「・・・どうやらそのようですね」

 

 キメ顔で言ってくる父さん、ほんわか笑顔で言う母さん。そして俺の言葉に呆れるような表情を浮かべるエリカさん。しかしまぁ心配してくれていたので、俺もこれ以上は彼女の手を煩わせるようなことはしないと誓いましょう。誰にですって? それは勿論まだ見ぬ『この世界の神様(自称)』にです。

 

 

「ぐぁっ!!」

 

 

 俺達家族とエリカさんがそんなやりとりをしていた時だ。俺達が背にしていた車の横を通り過ぎて誰かが吹き飛ばされてきた。壁に叩き付けられたのは、今もなお抗戦中の筈のベルグリットさんが率いる部隊の一人である女性武芸者(スレイヤー)だ。

 その人は今の衝撃で肺の中の空気が無理矢理吐き出され、壁を背に力なく倒れ伏した。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 そんな彼女の下に先に駆け寄ったのはエリカさんだ。まだ全快していないとは言え、すぐさま動き出したのは流石武芸者(スレイヤー)と言える。

 そんな事を考えながら、俺も同様に駆け寄り、女性隊員の意識の有無を確認するエリカさんからの返答を待つ。

 

「・・・・・・今の衝撃で意識を失ったようです」

 

 神妙な表情でそう告げる。まぁ、あんな叩き付けられ方をしたらな。

 

「とりあえず抗戦の余波が届かない場所に移しましょう。すみませんが、お願いできますか?」

「ちょっと待ってください。お姉さんはどうするんですか?」

 

 気を失った女性の移動を促してきたエリカさんに嫌な予感を覚えつつ、俺は問う。

 

「私は・・・彼らの援護に回ります」

 

 やっぱりか。んな事だろうと思ったよ。

 

「それ、本気で言ってるんですか?」

「本気も何も、今はそうするほかありません。抗戦中の欠員は、あなたが思っているほど小さい事ではないんです」

 

 エリカさんがそう言うや、節節に残る痛みを抑えながら立ち上がる。少し苦悶の表情を浮かべるも、すぐに表情を引き締めながら改めて俺に向き直り、言葉を紡いでいく。

 

「先ほどまではベルグリット・レオンハルトが凌いでくれてましたが、彼は連戦続きで疲労が溜まっている筈です。今の状況で誰かが空けた穴をすぐに埋めないと、益々不利になっていきます。最悪・・・全滅の場合も」

 

 確かにそうだ。このまま続けば長期戦に入る前に彼らが倒されてしまう危険性が高まるばかり・・・そんな事態にさせないために、エリカさんは最善となる道を選ぼうとしている。

 

「・・・・・・わかりました。どっち道俺達に止める権利なんてありはしないですからね。増援も来ない以上、お姉さんとベルグリットさん達に頼るしかないです」

「ご理解頂き、ありがとうございます」

 

 エリカさんの言葉に対し、俺は「それと」と付け加える。

 

「俺のせいでそうなってしまって、こんな事を言う資格はないですけど。それでも、無理だけはしないでくださいね」

 

 身を案じる俺の言葉が意外だったのか、エリカさんは一瞬驚くような表情を見せた後、すぐに切り替えて微笑むように表情を緩めて言葉を繋げる。

 

「心配してくれてありがとうございます。ですが大丈夫です。あまり無理をすることもないでしょうし、私の役目はあくまでサベージの動きを抑えるだけ・・・それにこれ以上怪我を負うつもりは欠片もないので、あなたは心配せず、家族の下へ戻ってください」

 

 エリカさんが優しい声で諭す。俺は彼女の言葉に従い、気絶した女性隊員の背負ってその場を離れた。

 

 

 

 ★☆☆☆

 

 

 

「さて・・・」

 

 気を失った女性隊員をアキラと一家に任せ、見送ったエリカは改めて抗戦中のベルグリット達の方へと顔を向けた。

 エリカの見立て通り、先の抗戦では機敏に動いていたベルグリットだったが、今の彼の動きにはむらが見られる。彼が一瞬だけ動きを止めた時をエリカは見逃さなかった。

 彼の顔からはおびただしい量の汗が流れ、激しい息切れも起こしている。おまけに彼の一撃に込められたエナジーの量も著しいもので、サベージに対して決定打になりえていない。

 疲労困憊――そんな状態でいまだに倒れていないのは度重なる実戦経験と極度の集中力があってこそと言えるだろう。しかし、

 

(決定打になりうる攻撃をできるあの人がそれをしないという事は、もうすでにそこまでのエナジーが残されていないという事)

 

 逆に考えれば、彼が機を見て止めを刺すという可能性は無きにしも非ずだが、今の彼の状態から察するにその可能性は限りなく低いとも言える。となれば、ベルグリット以外に必殺の一撃を決められる武芸者(スレイヤー)が必要となる。

 現時点でこの場にいる武芸者(スレイヤー)はエリカとベルグリットを除いた、残された二名の女性武芸者(スレイヤー)のみ。彼女らの武装はそれぞれ双剣と槍の二種類という事が確認できる。

 

(連続攻撃に秀でた双剣は一撃必殺に向かないですね。槍を持ったあの武芸者(スレイヤー)の方が適任・・・ですが)

 

 様子を見てみる限り、槍を持った女性武芸者(スレイヤー)の攻撃はお世辞にも鋭いとは言えず、ただサベージの攻撃を避けては槍の切っ先を当て続けるだけのループ作業だった。彼女の表情には仲間が倒れた時の動揺で混乱や焦り等の感情が見え隠れしていて、その動作は誰の目から見てもお粗末としか呼べないものとなっていた。

 

(がむしゃらに突いているだけですね、あれは。リディならばとっくに(コア)を破壊できているでしょうに)

 

 身近に槍(より厳密に言えばスピア)の扱いに長けた同生徒会員と比べると、やはり見劣りしてしまう。そんな感想を抱きながらもエリカは分析を止めない。

 

(私の《絶対運命の鎖(エヴァー・ラスティング)》で動きを封じつつ、彼女の槍か、可能であればベルグリット・レオンハルトにシェルターを破壊してもらいつつ止めを刺していただきたいのですが)

 

 しかし、ここで下手にベルグリットへ通信を繋げてしまえば、彼の集中力を途切らせてしまう可能性が非常に高くなる。そうなれば最悪、サベージによって彼が行動不能に陥ってしまい、エリカとろくな実戦経験のない2人の女性武芸者(スレイヤー)とで抗戦を続けなければいけなくなる。

 それだけは何としても避けたい事態だとエリカはより念密に考える。

 

(増援は望めない。部隊を率いるベルグリット・レオンハルトもすでに疲労困憊。実戦経験がほとんどない武芸者(スレイヤー)が2人。残る此方の戦力のみでサベージを撃破・・・ッ、ここは無理を通すしか)

 

 考えれば考える程不利な状況。仮にサベージの動きを止められたとして、残る面子で確実に撃破できるのかすら怪しい。

 先のアキラとの会話で「無理をすることはない」と口にしたが、無論それは"可能であれば"の話であり、絶対にしないという保証は付けていなかった。

 ならば、エリカに出来る事は既に決まっていた。その場から駆け出し、ベルグリット達と対峙するサベージに向かって右側面へと走り出ながら、エリカは右腕に装着した《絶対運命の鎖(エヴァー・ラスティング)》からフックの付いた鎖を伸ばし始めた。

 

「ハァァァッ!!」

 

 サベージの攻撃が届かない距離を保ちつつ放たれた鎖は込められたエナジーによって伸び続け、三~四メートルの巨体を誇るサベージの上半身を覆い尽くすように雁字搦めにしていき、攻撃と防御を同時に封じる。

 エリカはそのままエナジーを鎖に流し続け、怪物特有の怪力任せな抵抗で砕かれないよう頑丈にしていく。

 

「私の残るエナジー全てを込めた鎖・・・そう簡単に砕けるとは思わないことですっ!!」

 

 エリカの宣言通り、サベージが鎖を破壊しようともがき続けるが、ギシギシと音を鳴らすだけでヒビすら入らない。それでも何とか振りほどこうともがくサベージだったが、同じことの繰り返しでろくな抵抗ができるはずもなかった。

 そんな両者の様子に、既にサベージと対峙している三人はエリカが取った行動の意図を即座に理解する。ベルグリットはより意識を集中させ、二人の女性武芸者(スレイヤー)はそれぞれの得物を構え直す。

 エリカがさらに力を込めて拘束力を強め、その場にサベージを抑えつける。彼女の拘束が続いている間、二人の女性武芸者(スレイヤー)がサベージの両側から攻撃を仕掛け始める。

 

「脚を狙うわよ!!」

「了解!」

 

 二人はそれぞれ狙いを定める。両者共にサベージの硬い皮膚と皮膚の間、生物ならば必ず存在する急所目掛けて双剣を振るい、槍を突き出して的確に攻撃を加えていく。

 

「グォォォォォォッ!!!」

 

 得物は違えど同じ個所を二ヵ所も同時に攻撃されれば、いくらサベージでも堪らず叫び出してしまう。

 そんなサベージの躰を足場にして、ベルグリットがサベージの頭上に飛び出していく。狙いは頭部の(コア)を守る膜であるシェルター。空中で斧を上段に振り上げ、落下の勢いと合わせて膜目掛けて振り下ろす。

 

「おぉぉぉぉぉっ!!」

 

 雄叫びと共に振り下ろされた斧がシェルターに叩き付けられる。その一撃でシェルター全体にひびが入り、その勢いのまま力任せにシェルターを破壊。斧の刃が(コア)に触れる――その直前。

 

「うぉ!?」

 

 サベージは拘束されているにもかかわらず、頭を振る事で無理矢理(コア)への直撃を避けたのだ。あと数センチというところで(コア)破壊を免れたサベージは頭上に滞空するベルグリットに頭突きの要領で反撃する。自らの心臓部である筈の(コア)を武器として扱う――普通ならば考えられない行動に驚きの声を上げつつ、ベルグリットは地面に叩き落とされた。

 

「「教官!」」

 

 両側から攻撃を続けていた二人の武芸者(スレイヤー)が攻撃の手を止めながら声を荒げる。

 

「クソッ・・・そんなのアリかよッ・・・!」

 

 驚嘆な声を上げるベルグリットが斧を杖代わりに立ち上がり、正面のサベージを睨み付ける。エリカが抑えてくれているおかげで反撃を受けずに済んでいるが、それもいつまで保つかわからない。早々にケリを付けたいベルグリットだったが、如何せん連戦続きでろくなエナジーが残っているはずもない。

 ただし、シェルターは破壊できたのだ。あと一撃――それに全てのエナジーを注ぎ込み、叩き込む事ができれば、或いは。

 

「うしっ! もう一度!!」

 

 腹を括り、もう一度駆け出すベルグリット。またサベージの躰をつたって空中に飛び出す算段だろう。

 

「キャアッ!」

「何っ!?」

 

 しかし、サベージは突然躰を右に大きく揺らし、その巨体を抑えつけていたエリカを力任せに引っ張ってこちらに向かってきていたベルグリットにぶつけるという驚きの行動に出た。

 攻撃も防御もできない状態でこの反撃。予測できない動きに驚く暇もないまま二人は地面に倒れ、ベルグリットは最後の攻撃のチャンスを失い、エリカが全霊を込めた拘束から無理やりに脱したサベージ。拘束が緩んだその瞬間を見逃さないように、サベージは今度こそエリカが放ったハンドレッドの鎖を引き千切り、ようやく解放する事ができた。

 

「オォォォォォォッ!!!」

 

 歓喜にも聞こえる咆哮が響く中、エリカとベルグリットは傷ついた体に鞭打ちながら立ち上がろうとする。が、ぶつけられた時と地面に叩き付けられた時のダメージが重なって中々立ち上がれずにいる。

 そんな二人に向き直ったサベージはまず左右の鋏を大きく振りかぶり、一連の行動を見ていた二人の武芸者(スレイヤー)を後方に下げさせる。更に追い打ちをかけるように鋏を使ってベルグリットに振るう。

 

「クッ!」

 

 鋏が当たる直前に残るエナジーを込めてEバリアを展開してそれを防ぐも、立ち上がるのもやっとな彼がまともにそれを受け止められるはずもなく、叩き付けるような衝撃と共にベルグリットは後方に吹き飛ばされていく。そのまま乗り捨てられた車両に叩き付けられる。

 

「ガハッ!」

 

 ベルグリットはその衝撃で口から血を吐き出し、車体を背にズルズルと下がり地面に座り込む。

 

「ッ・・ベルグリット・・・レオンハルト・・!」

 

 心配する声を上げながらエリカが彼の方へ向くも、直ぐにサベージに向き直って自らのハンドレッドを構え直す。

 触覚を動かし、次の獲物へ狙いを定めたサベージ。ギョロリとした目に映すのは、ハンドレッドを構えた臨戦態勢のエリカだった。

 彼女があまり動けないのを良い事に、サベージが容赦無く左腕の鋏を振るい、とっさにEバリアを展開したエリカをまるで火の粉を払うかのような動作でその防御ごと薙ぎ払う。

 この攻撃で真横に吹き飛ばされたエリカが今の状態から受け身を取れる筈もなく、そのまま背中から煉瓦造りの建物に叩き付けられる。

 

「グハッ! ゴホッ・・ケホッ」

 

 勢いが乗った衝撃で煉瓦造りの壁を突き破り、建物の中で滑るようにして地面に倒れ込んだエリカの口から血が吐き出された。

 ベルグリットとほぼ同時に倒れたエリカに、立ち上がる力は殆ど残っていなかった。

 ここで自分は討たれるのか・・・そんな考えが過った時だ。自身が倒れる建物の部屋の中に、聞き覚えのある声が響く。

 

「お姉さん!!」

 

 アキラだ。一時間もかからないうちに彼らと出会い、先ほど倒れた女性武芸者(スレイヤー)の一人を抗戦の余波が届かない場所へ移動させた家族のうちの一人が、心配する声を上げながら部屋に入ってくる。

 

「あな、たっ・・・な、何で・・ここに・・・?」

「何でって。そりゃ様子を見に来たからに決まってるでしょ。さっきの会話でお姉さんは"絶対に無理する"と確信してましたから」

 

 自身を助け起こすアキラに問い質したエリカの顔に、一瞬だけ驚きの表情が浮かぶ。まるで最初から自分の行動を先読みしていたかのような口ぶりに、エリカは驚きを隠しきれなかった。

 

「やっぱりね。ベルグリットさんが疲労困憊なのはわかっていたし、あの状況でサベージを倒すには"相手の意表を突く"よりも"確実に身動きを封じた"状態にしたほうが確実性が高まりますからね。でも、実際はそう簡単に上手くいかなかったようですけど」

「なっ・・!」

 

 冷静な様子で先の抗戦の流れを口にするアキラに絶句する。短時間ながらもアキラ達家族のやりとりを見ていて少なからず彼らの事を理解し始めていたエリカだったが、ここにきて改めて彼ら家族の一端を垣間見た。

 どんな時も冷静を保つアキラの父と穏やかな笑みを崩さない温厚な母。その子供であるアキラは二人の性格を綺麗に分けて足したような存在だ。

 非常時の今ですらそんな様子で状況を分析したのだ。驚愕を通り越して感心すら覚えてくる。

 

「・・・全く。どういう人生を送ってきたんですか? あなたは」

「ん? 至って普通の生活ですが?」

 

 苦笑を浮かべるエリカのそんな問いにアキラは飄々と答える。しかし、これで事態が好転したわけではない。

 

「とにかく早くここを出ましょう。また肩を貸しますんで、立ってください」

「解って、います・・ウッ!」

 

 立ち上がろうとしたエリカが突然自身の右肩を押さえる。恐らく建物の壁を突き破った際に骨折をしたのだろう。彼女の額から浮かんでくる汗の量が尋常ではない様子から、アキラはそう判断する。

 

「大丈夫ですか?」

「痛っ・・え、ええ・・・ッ!!」

 

 言葉を掛けるアキラに答えようとしたエリカだったが、その視線の端でサベージの姿が映り込み、それが"口を開いて砲撃状態に入っている"事に初めて気が付いた。

 

「危ないッ! あなたは逃げてッ!!」

「ハァッ!?」

 

 突然避難するよう呼びかけるエリカの言葉に戸惑いを隠せず、素っ頓狂な声を上げる。しかし、それも束の間で彼女が何故そう言ったのかすぐに理解できた。

 サベージが攻撃を仕掛けてくる――そう瞬時に理解したアキラは逃げるような素振りを見せず、今度はいまだに座ったままのエリカを突然"抱き抱えた"。所謂『お姫様抱っこ』である。

 

「なっ、何をするんですかっ!?」

「煩い! 今はとにかく黙ってて!!」

 

 ハンドレッドを展開しているとはいえ今の状態のエリカを抱き抱えるアキラの腕力と有無を言わさぬ迫力に驚きつつも、いきなりの行為に頭の処理が追い付かず、エリカの両の頬は真っ赤に染まっていく。

 そんなことに構わず走り出したアキラは、視界の先に砲撃体勢のサベージがいるにも関わらず建物の外へ飛び出す。このまま砲撃されれば建物ごと下敷きにされてしまうからだ。ならば砲撃の射線上から出るべきと判断したアキラはエリカを抱き抱えたまま砲撃から逃れる為、がむしゃらに足を動かし続ける。

 幸いサベージの砲撃の直前にはチャージタイムがあり、難なく外に出る事は出来た――ただし、"それだけ"だ。外に飛び出して走り続けるだけでは簡単に砲撃から逃れる筈もなく、その臨界はすぐに迎えた。

 サベージが開いた砲口から黄色い極太の光線が放たれた。それが狙うはエリカを抱え走り続けるアキラだ。砲撃が彼らを消し灰にするのに数秒も掛からない。

 高密度のエネルギーの束である砲撃がアキラとエリカを諸共に包み込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこには、何も残らない筈だった。

 

 サベージの砲撃で残るのは破壊の傷跡のみ――それが、"庇うようにエリカの全身を覆うアキラの背中"がそこにはあり、同時に彼らの周りに『不可視の壁』があった。

 

「あ・・・あなた・・・は・・」

 

 今の砲撃を完全に防ぎ切った『不可視の壁』。それがエナジーによって作られた壁である事は武芸者(スレイヤー)であるエリカ自身が理解していた。しかし、それを展開したのはエリカ本人ではなかった。彼女はとうにエナジーを使い果たし、負傷までしている。そんな状態でエナジーを放つことすらできない。

 では誰がやったのか?――その答えは自らの目の前に"居た"。

 

「・・・・・・ん? ・・・ん?」

 

 砲撃を浴びたはずなのに、事態を把握できないでいる困惑顔の一般人である少年。エリカ達選抜隊(セレクションズ)が安全を保障させる筈の民間人の一人。外敵との対抗手段を一切持たない筈の守るべき存在。そんな少年から、自分とは違う流れのエナジーを放っている事が肌で感じ取れた。

 

「あなたは・・・武芸者(スレイヤー)・・・なのですか?」

「・・・・・・・・・はい?」

 

 エリカの問いに少年――四宮アキラは困惑顔を浮かべたまま、呆然と呟くだけだった。




長いっ・・・!(驚愕)
あと後半の殆どが三人称視点って・・・。

本当ならこのままの形式で投稿していく予定でしたが、一話毎を分割して投稿しようと考えております。恐らく原作突入時にそうするかと真剣に検討しています。

まだ暫くはこのままで勧めていく所存です。活動報告で発言しましたタグ追加に関してはまだ暫くは増えません。

次回の投稿時期も未定です。またも今回のような駄文にお付き合いいただきありがとうございます。
それではまた次回。
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