今回は前回よりも長く、非常に読みづらいかと思います。
よろしければどうぞ。
時間は進んでリベリア軍支部の避難所。サベージの討伐が確認されて1時間が経過した頃だ。
俺も先に避難を済ませていた両親とこの場で再会して、今は救護テントの中で応急処置を終えて、今はクレア・ハーヴェイさん率いる
ちなみに互いに自己紹介は済ませてある。俺自身彼女らの名前は原作知識で知っていたから特に意味はないんだけど。
「――それで。負傷したリベリア軍の一部隊とエリカがサベージとの抗戦中に負傷し、エリカに狙いを定めたサベージから逃れる為にあなたは所持していたヴァリアブルストーンを使い、ハンドレッドを展開した・・・そういうことですの?」
「ういっす」
彼女らと別行動になってからの出来事の詳細を事細かに伝え、クレアさんの確認する言葉に頷く俺。それぞれに用意されたパイプ椅子に腰掛けて対峙するように座っている。すると彼女は眉間に寄った皺をほぐすように人差し指と親指で押さえる。彼女の後ろにはリディ・スタインバーグさんが仕えるように控えていて左手にメモ帳、右手に万年筆と俺の言葉を細かく書き記す。あとで報告書に纏めるつもりで書き綴っているのだろう。
ちなみに俺の後ろで同じく用意されたパイプ椅子に腰掛けるのは両親だ。後ろに居るので詳しくはわからないが、父さんは「どう言えばいいのか解らない」と言いたげにしかめっ面、母さんは多分ニコニコ笑顔をそれぞれに浮かべているに違いない、多分。
「全く・・・
「返す言葉もありません」
「そう思うのならもっと民間人らしく行動を慎んでくださいませ」
否応ながらも俺が進んでやった事とは言え、事実そうなっていた可能性のほうが高かったのだ。こうやって怒られるのは当然の事だ。今後からは同じ道を踏まぬよう、しっかりと正面から受け入れるしかない。
そんな俺の心境を汲み取ったのか、クレアさんは溜め息を付きつつも、
「ですが、私達の仲間を救ってくれた事には素直に感謝します。今や私達にとってエリカは無くてはならない存在ですから。本当に、心から感謝いたしますわ」
微笑みを浮かべて感謝の意を示してくる彼女に俺は、視線を逸らして頬を搔くしかなかった。頬と耳が熱いのはテントの中が熱すぎるせいだ、そうに違いない。…後ろで両親がにんまりと笑っている顔が視界の隅に映り込む。クッソ殴りてぇ・・!
「そ、そういえば、お姉さんの怪我の具合はどうなんですか? 不意を突かれたとは言え、結構ダメージも大きかったと思いますけど」
露骨な話題変換で場の空気を変える。これ以上は俺の精神が耐えられない。
「エリカの事なら大丈夫だ。君の話が本当なら確かにダメージは大きかったのだろうが、ヴァリアブルスーツの耐衝撃吸収効果はしっかり機能していたようだし、あの程度なら数日の休養で回復するだろう。医療スタッフからそう判断された。それに君達が出会ったベルグリット・レオンハルト達、
俺の質問に答えてくれたのは、クレアさんの後ろで控えていたリディさんだ。決して地球連邦軍MSパイロットの方ではない。彼女は安心させるような口調で答えてくれる。
医療スタッフと言うのはリベリア軍所属のチームの事だろう。その人達が言うのだから、本当に大丈夫なのだろう。それにベルグリットさん達も無事だと知らされ、実は気掛かりだった彼らの安否が確認でき、思わず安堵の息を付く。
「・・・あなたは優しい方なのですわね」
そんな様子の俺を見て気が付いたのか、クレアさんは先ほどよりも柔らかい笑みを浮かべてそう言った。ヤバ、顔に出てたか。気恥ずかしさで再び熱くなる頬を片手で隠しながら、俺は後ろの両親に振り返りながら訊ねた。
「と、ところで父さん母さん! 何で俺にヴァリアブルストーンなんて渡したのか理由をお尋ねしても宜しいですか!?」
俺がそう尋ねると、2人は揃ってキョトンとした顔を浮かべる。後ろでクレアさんとリディさんがクスクスと小さく笑う声が聞こえたのは気のせいだ。
「忘れたのか? 普段から不運に見舞われるお前の為の『御守り』だと。何のための方位除守だと思ってる」
「いやだから、何で御守りの包みにヴァリアブルストーンを入れたのさって話だよ。あれじゃまるで予め用意していたみたいじゃないのさ」
「それは偶然よ。まさかサベージが上陸してくるとは思わなかったし。何よりあなたが武装を展開できたのだって完全な予想外よ。ね、お父さん」
母さんの言葉に同意を示すように頷く父。まさか・・・本当に偶然なのか? いや、だとしてもタイミングが良すぎだろ。俺がそう言おうとした時、父さんから予想外の言葉が発せられた。
「しかし妙だな。そのヴァリアブルストーンは本来
・・・・・・は? 今なんて? 『武装を展開できない』?
「ち、ちょっと待って。どういうことそれ。意味がわからないよ」
「そのままの意味だ。そのヴァリアブルストーンは今までどの
「それでそのヴァリアブルストーンが最後に行き着いたのが私達の研究室なの。でも結局私達でも原因がわからなくて、誰の手にもわたらないのならいっその事――」
「御守りとして俺に上げようとした?」
「「その通り」」
馬鹿じゃないの? もう一度言う。 馬 鹿 じ ゃ な い の ? 採掘量が限られるほどの貴重品に入るヴァリアブルストーンを個人に渡そうとするなよ。もしかしたら何かの役に立つかもしれないでしょ。いやわからんけども。
「だが結果的に渡して正解だったようだしな」
「そうね。もし持ってなかったら今頃アキラはこの世にいないでしょうからね」
さらりと怖いこと言わないでよ母さん。そりゃ結果としては持ってて良かったかもしれないけどさ。
「そんな話を聞いてみるとよくそんなのを展開できたよね、俺って。そうなると、これを武装展開できたのって俺が初めてなんでしょ?」
「そうなるな」
「あれ? でも父さん、このヴァリアブルストーンはありあわせの物から錬成したとか言ってなかった?」
「それはだな、最初に私達の研究室に届いた時、所々欠けていた部分があってな。もしかしたらそのせいで誰にも反応を示さないんじゃないかと思って他のヴァリアブルストーンの切粉を加工して繋ぎ合わせたんだ。だが、結果は芳しくなかった」
つまり結局は誰にも反応しなかった、と。それでお手上げになったのか。
「だけどそのヴァリアブルストーン、複数個のヴァリアブルストーンの原子配列を組み込んでいるから、他のヴァリアブルストーンと比べても高いポテンシャルを秘めている筈よ。どう? すごいでしょ?」
母さんが自慢げに話してくる。そりゃ凄いだろうけどさ。それってつまり俺が展開できなきゃ無意味に終わってたよね?
何故そんなものを
流石にそんな事で天狗になるつもりは一ミクロンもないが、かといってこのまま持ってるだけというのは宝の持ち腐れというものだ。
・・・もし俺が、このヴァリアブルストーンを持ち続けられるのなら、これを使って"何か"の役に立てられるような事をしてみたいな。それこそ、前世でなりたかった・・・子供の頃からの"将来の夢"というやつに。
「『この力で何かを成し遂げたい』・・・・・・そう言いたそうな顔ですわね」
掌のヴァリアブルストーンを見つめながら思い耽っていた所に、まるで俺の心情を読み取ったかのような言葉が届く。俺はそちらへ顔を向ける。そこに俺の顔を真っ直ぐ見つめながら、真剣な表情を浮かべるクレアさんがいた。
「失礼、唐突過ぎましたわね。何しろあなたの表情がそう物語っていたので、つい」
本当に唐突だったので一瞬呆けてしまった。すぐに持ち直した俺はなぜそんな事を言ったのか訊ねてみる事にした。
「なんでそう思うんですか?」
「これでも
何そのリアル心理学。しかし流石はリトルガーデン艦長様だな。恐れ入る。
「今のあなたからは、その"力"を何かの為に役立てたい・・・・・・大半の
そう言われると・・・違わなくない・・・のかな? アレ? 何で俺一瞬迷ったんだろ?
「もしそうであるならば、一つ、あなたに提案がありますわ」
「提案?」
俺が反復すると、彼女は口元に小さく笑みを浮かべてその"提案"というものを口にした。
「私達の学園―――リトルガーデンに来ませんか?」
その提案というのは所謂「勧誘」というやつだった。
「俺が・・・リトルガーデンに・・・?」
「ええ。先の抗戦の経緯を聞いてみる限り、あなたからは
「『何より』?」
「あなたの力はきっと、何か大きな出来事に対処できるような力がある――そう感じたのですわ」
直感めいてていまいち信用できなさそうな言葉だが、彼女の目からは真剣さがありありと伝わってきて、本気で言っているのだと理解できた。
しかし、そんな力が俺にあるのかと言われても実感が湧かない。クレアさん自身もそう感じただけで確信はないんだろうが、当事者としてはもっとはっきりしないものだ。ぶっちゃけ俺は逃げてばっかりだったからその分余計に、ね。
「これはあくまで提案です。それを決めるのはあなた自身ですから、ゆっくりお考え下さいな」
そう言って彼女はおもむろに立ち上がり、リディさんを伴ってテントから出て行こうとする。
「何処に行くんですか?」
「リトルガーデンに帰還するのです。そろそろエリカの治療も終わってる頃でしょうから。それにあまり長居してリトルガーデンを不在にするわけにもいきませんのでその準備を。答えはまた後日で結構――良い返事を期待していますわ」
そう言い残して、彼女らは今度こそテントから出て行ってしまった。あとに取り残されたのは、未だに答えを見いだせずにいる俺と、静かに静聴していた俺の両親だ。
「中々強引なお人でしたね」
「そうだな。・・・それで、お前はどうしたいんだ?」
おもむろに母さんと父さんが口を開く。どうしたいって言われてもな。こればかりはよく考えないと。もしかしたら俺の人生にも左右する事柄だからな。今は頭も体もゆっくり休めて、また後日・・・て、俺あの人達の連絡先とか知らねぇよ。父さんと母さんも顔合わせは今日が初めてな様子だったし、今のうちに追いかけて連絡先を聞いとかねぇと。
「ごめん、ちょっと用事思い出したからまた後で。父さんと母さんは先に旅先のホテルに帰ってて。行ってくる!」
父さんへの答えを置き去りに、俺はすぐにテントを出て後を追い始める。後ろから父さんと母さんの「行ってらっしゃい」なんて間の抜けて言葉にどこか安心感を覚えるのはこの際放っておいても大丈夫だろう、うん。
「全く・・・答えはとっくに出ているだろうに。それに中々気付かないのがアキラの短所だな」
「ですね。勧誘の話が出てきた時点であの子がどんな顔をしていたのか教えてやりたいくらいだわ」
「まぁ、それでも後で気付いて自分なりに正すのがあいつの良い所でもある。私達は温かく見守るとしよう」
「そうですね。"いつもの事"ですから、ね」
避難所には無数のテントが張られている他に、軍の
「ち、ちょっと待って」
下さいと言いかけた所を、視界の隅に捉えた人物の姿を確認した事で止めた。
「あなたは・・・先の民間人の少年ですか」
「お、お姉さん?」
俺達がここに着いて早々リベリア軍の医療スタッフに連れていかれた、エリカ・キャンドルその人だった。
頭や腕に包帯を巻いて、先ほどまで俺達を守ってくれていた事に感謝の意識が芽生えると同時に、彼女にそんな怪我を負わせてしまった自分に対して行き場のない憤りを感じてしまう。
それを表に出す事もなく、俺は自然な口調でエリカさんに話しかける。
「怪我の具合はどうですか?」
「問題ありません。医師からは数日の休養で快調するだろうと診断されました。心配をかけたみたいですね」
手をぐっぱと握りながら体に不調がない事を示すエリカさん。額から一滴の小さな雫が流れているのを見てそれが強がりだとわかり、俺は憤りに加えて彼女に対して何も出来なかった自身の不甲斐無さに更に憤りを募らせる。
「そう・・・ですか」
「? どうかされたのですか?」
今度は心配そうな表情で窺ってくるエリカさんから目をそらしつつ、俺は「なんでもないです」と返した。嗚呼、何やってんだか俺は。助けてくれた恩人の一人にこんな態度は無いだろうに。
「そうですか・・・あぁ、そういえば伝え忘れていたことがあります」
「?」
すると彼女は俺と正面から向き合いながら、柔らかい笑みを浮かべた。
「!」
「今日は危ない所を助けていただき、ありがとうございました。あの時、あなたがいてくれなかったら私はどうなっていたか・・・それに、あなたを囮役にしておいてこう言うのは可笑しな話ですが、助けられた一人としてこれだけは言わせてください――」
「あなたが傍にいてくれて、本当に助かりました。心から感謝致します」
彼女の口から紡がれる感謝の言葉。眩いばかりの笑顔を共に向けられた俺は、気恥ずかしさと照れ隠しで顔ごと明後日の方向へ逸らしてしまう。何故か目にフィルターらしきものが掛かっててとてつもなく可愛く見えてしまうのは気のせいか。
それにしてもこの人ってここまで素直に感謝示す人だったっけ? 確か原作では主人公に対してかなりつんけん・・・というか辛辣な態度を取っていた印象なんですけど。何で会って一日も経たない初対面の相手にこんなに眩しい笑顔を向けてくるの? 何でこんな可愛く見えてしまうの? 実はこれが全部夢で、現実では俺は負傷して長い夢を見ていた、なんてオチだと言われても疑う事無く信じられるぞ。
「今返せるのは感謝の言葉くらいしかありませんが、私に出来る事があれば喜んで協力する所存です。何かあればご一報を。相談事でも何でもよろしいですよ!」
握り拳を作りながら言うエリカさんだが、少し積極的過ぎる気がしないでもない。ちょっと俺の中の原作キャラ崩壊が現在進行形で進んでるんですががが。
「そ、それはどうも。それよりも、お姉さんはどうしてこっちに? あの人達はリトルガーデンに戻る準備をしに戻っていきましたけど」
「あぁ、クレア様達が戻ると連絡が入りましたので、私もその準備の為に。あなたは?」
そうだった。あの人達に連絡先を聞くのを忘れていた。
「実はですね」
俺は手短に先の勧誘の事を話した。最初こそ吃驚していた様子だったけど、話を聞くうちに次第に納得したような頷きを返しつつ、話を聞き終えた時には苦笑を浮かべていた。
「なるほど、クレア様の御眼鏡にかなったという訳ですか」
「かなったかどうかは知りませんけど、返事するにしても向こうの連絡先を知っておかなくちゃと思って、今からそれを聞こうと」
「それでしたら、少々お待ちください」
俺の目的を聞いたエリカさんは胸ポケットから手帳を取り出し、適当に開いたページに万年筆で何かを書き出していく。十秒も満たないで書き終えるとおもむろにそのページを破り取り、それを俺に差し出してくる。
「こちらにリトルガーデン生徒会への直通番号を書いています。答えが決まればこちらへ直接ご連絡を」
え、そんな簡単に教えちゃって大丈夫なの? 生徒会と言えばリトルガーデンの中心部に相当する筈だけど・・・まぁ、教えるという事は、俺が相手でも問題ないと思われてるんだろうな。これは大人しく貰っておこう。
「それではこれにて失礼いたします。私からも良い返事を期待していますね」
「ち、ちょっと待ってください!」
笑顔でそう言って、再び歩き出そうとした彼女を俺は呼び止める。
「なんでしょう?」
「さ、さっきから不安に思っていたんですけど・・・本当に、俺なんかがリトルガーデンに行っても良いんですかね?」
「? どういう意味ですか?」
俺の発言に振り返りながら訊ね返してくるエリカさん。俺はここに辿り着くまでの間隠していた事を、包み隠さず吐露する事にする。
実のところ、俺には不安があった。数時間前にサベージと遭遇したばかりの時、俺は"怖かった"。生まれて初めて、俺の中で恐怖の感情が芽生えた瞬間だったが、あの時は父さんと母さんに連れられて走った事もあって直ぐに落ち着きを取り戻した。その後はまぁ、普段通りでいられたが、もし今度こそサベージに遭うとなると・・・やっぱり、不安が込み上げてくる。
「サベージと向かい合ってる間、俺は冷静で居られましたけど・・・正直に言えば、怖いんですよね。何せサベージを直接目にしたのは今回が初めてですし、それと遭遇した途端、俺は恐怖で一瞬だけ体が動けませんでした」
「・・・・・・」
「今度サベージに会えば、俺は今度こそ動けなくなる・・・そんな予感がするんです。そんな俺が、リトルガーデンに行っても意味が無いんじゃと思いまして・・・」
生前あんな怪物と遭遇した経験なんてないし・・・あっても困るけど・・・逃げてる最中は俺自身落ち着いて行動できていたけども、次にそういう場面に出くわすと、正直冷静でいられるかわからない。直接目にしてはいないとは言え、サベージによって人が死ぬ直前の様子を見ていた事も加えて尚更だ。
そんな心配事を胸の奥底で考えていると、エリカさんはそんな俺の心中を知ってか知らずか、下に俯きつつある俺の前まで歩み寄ってきて―――俺の頬に手を添えた。
「ッ・・!」
「その気持ちは分かります。あなただけに限らず、全ての
「私だって最初はそうなりました」と、昔を懐かしむような様子でエリカさんは言葉を続けていく。
「ですがその時、私には自分を奮い立たせるモノがありました。それが何か、分かりますか?」
彼女の言葉にピンと来るものが無くて、言葉の代わりに首を横に振る。そんな返答を予想していたのか、エリカさんは微笑みを浮かべつつ答える。
「私には、いつまでもお傍で仕えたい御人がおります。その方の為なら、私はどんな困難にも立ち向かえます。初めてサベージと対峙した時に抱いた恐怖を、それで乗り越えました。ハンドレッドがその気持ちに応えてくれて、私に恐怖を乗り越える"勇気"を与えてくれたんです」
勇気――それは、どんな絶望的な時でも心を奮い立たせる魔法の言葉。自らが宿す気持ちを力に変えて、困難に立ち向かえる力を与えてくれる。
「私が恐怖を乗り越える事ができたのは、ハンドレッドが勇気を与えてくれたからなんです。あなただってそう・・・私を助けに来てくれた時の勇気にハンドレッドが応えてくれた――」
「だから大丈夫。あなたの中にある勇気はサベージを相手に決して挫ける事はない筈です。私達の命を救ってくれた自分に自信を持ってください。あなたならきっと、その恐怖心を乗り越えられる筈ですから」
真正面から励ましの言葉を受け、俺の中にふつふつと熱い何かが湧き上がってきた。俺はそれが何なのか、自然と頭の中で理解していく。
全身を駆け巡る熱く滾る何か――それは紛れもない"熱意"の感情そのものだ。先程まで抱いていた不安が今では嘘のように無くなっていて、逆に何かに打ち込みたいという衝動に突き動かされ始めていた。
「どうかされましたか?」
突然黙り込んだ俺を心配したのか、エリカさんは顔を覗き込みながら言葉を掛けてくる。
先程まで俺を励ましてくれていた様子は何処へやら、今はそんな様子は微塵も感じられなかった。俺を安心させるように小さく笑みを浮かべながら「大丈夫です」と短く答え、俺の頬に添えていた手をゆっくりと離しながら彼女の横を通り抜ける。
「あれ、どちらへ行かれるのです?」
「さっきの勧誘に応えてきます」
俺の返答を聞いたエリカさんが「えぇっ!?」と驚きの声を上げると、タッタと後ろに近づいて言葉を続ける。
「待ってください! 先程も言った通り返事はまた後日でいいと」
「いいえ、今決めました。ですので今から返事しても問題ないでしょう」
「そ、それではさっき渡した連絡先が無駄に」
「その事に関しては申し訳なく思っています。ですけど、今を逃したら俺は後悔すると思うんです」
「後悔・・・ですか?」
俺はこの胸の奥からこみあげてくる熱意を、今あるうちに今後に示しておきたい。でないと後になって冷めてしまうと思ったから。ならば今のうちにやれる事はやっておこう。その為にも向かうは一ヵ所、クレアさん達が乗ってきたヘリが待機する場所だ。さっきまで向かっていた方向へ進路を向けて、数機もある軍用ヘリの群れの中で一機だけ、他の機体とは違うヘリを見つける。
その機体の胴体部にはリベリア軍のとは別物のエンブレムが塗装されていて、それに綴られている文字を見てリトルガーデンの物だとすぐに理解する。俺は迷わずその機体に向けて歩を進めていく。
「あら、エリカ・・・と、先程の。どうか致しましたか? 何かご用でも?」
ヘリの外で待機していたクレアさんが俺達の姿を確認すると真っ先に俺に話しかけてくる。外にいたのは恐らくエリカさんを待っていたからだろう。という事は今は見えないリディさんはヘリの中か。
「先程の考えが纏まったので、その返答に来ました」
「返答に? それはそれは・・・で、どういう結論にお達しで?」
一瞬驚いた表情を見せるとそれは直ぐになりを潜め、代わりに興味があると言いたげな表情で俺に問うも、その声色は真剣味がありありで、まるで俺を値踏みしているかのように聞こえなくもない。実際そうなんだろうけど。
「俺は・・・出来るならこの力を"何か"の為に使いたいです」
「何かとは曖昧ですわね。もっと具体的な言葉をお選びなさい」
俺の言葉に語気を強くして訂正を促してくるクレアさん。尤もな意見だね。
「俺は昔から、"他人を助けられる人間になりたい"と思ってきました。所謂「正義の味方」ってやつに強い憧れを持ってまして・・・だから、俺に
俺の紡いでいく言葉に、クレアさんは黙って静聴している。俺の話を遮らないという事は、まだ喋ってもいいという証拠だろう。
「資質があっても、俺にはきっと才能は無いでしょう・・・ですけど、俺にはなりたい目標があるんです。俺に
「―――その人達の笑顔を、守りたいから・・・です」
先程のエリカさんが笑ってくれた姿を見て、俺が率直に抱いた気持ちだ。小さい頃から抱き続けてきた将来の夢。人を守る事でその人の、ひいては周りの笑顔を守れる、"人を助けられる人間になる"。それが俺にとっての、なりたい俺自身だ。
例え誰かに馬鹿にされても、これだけは諦めはしなかった。だってそれが俺にとっての、嘘偽りのない目標なのだから。
「・・・なるほど」
クレアさんが不意に呟く。声は真剣そのもので、しかしその表情には若干の笑みが浮かべられているのが見て取れる。
「了解致しましたわ。既に入試試験は終了していますが、あなたの意思を汲んで特別に個別の試験を設けます」
「それって・・・」と俺が最後まで言葉を発する前に、クレアさんは「ただし」と念を押すように区切る。
「まずは中学を卒業してからですわ。リトルガーデンは
あー・・・言われてみればそうだった。リトルガーデンはあくまで
「それもそうですね。それじゃあまずは帰って卒業を目指します」
相槌を打ちつつ俺はクレアさんの言葉に同意を示す。なに、卒業までにはそれなりに時間がある。それまでには
「ええ。日程が決まり次第、後日改めてお伝えしますわ。それまでに
つまり試験勉強ですね、わかります。
「クレア様。離陸の準備が整いました」
そこでヘリの中からリディさんが姿を現し、クレアさんにそう報告した。俺を一瞬だけ一瞥したが、それだけで特に話しかけてくるなんて事はなかった。
「了解しましたわ。それでは私達はこれにて失礼致します。エリカ、行きますわよ」
「あ、はい! ・・・それでは私もこれで失礼させていただきます。それから・・・試験、頑張ってください」
「ええ、頑張らせていただきます」
俺がそう返して、エリカさんは微かに微笑みを浮かべる。すぐに傍を離れるとヘリの中へ駆けて行き、ハッチが閉じられていく。
ヘリのローターが回転を始めると、俺は少し離れた位置に下がりゆっくりと上昇していくヘリを見詰める。
胴体部の窓からこちらの方向を覗いてきたエリカさんと目が合い、俺は彼女に向けて手を振った。すると彼女のほうも手を振り返してくれる。
地上から足を離したヘリはやがて数十メートルほどの高さにまで上昇すると、ゆっくりと前進して飛んでいった。
「行ったか」
「行っちゃいましたね」
「!?」
突然後ろから掛けられた声に驚き、そちらへ振り返る。そこにはいつの間にか父さんと母さんが立っていて、エリカさん達を乗せたヘリが飛び去っていった方向へ顔が向いていた。
「い、いつからいたの?」
「『先程の考えが纏まったので』の所からだな」
「ほぼ最初からじゃん!! 来たのなら声くらいかけてよ!」
「アキラがあんなに熱弁していたんじゃ出るに出られなかったのよ。ね、お父さん?」
「あのアキラがあそこまでの決意を胸に秘めていたとは・・・今まで思う事はなかったが、正直に言って見直したぞ。お前が他人の為にありたいと言ったのは。親として鼻が高いな」
あ‶ぁぁぁぁぁっ!!! 恥ずかしい! めっさ恥っずかしい!! さっきまでのやり取りが見られてたのもそうだけど、俺の発言自体が聞かれていたのが何よりもキツイ!
さて。ここからは少し時間を飛ばそう。
あの後、俺達家族はヤマトへ帰国しようとしたのだが、件のサベージのせいで空港に影響が出て、乗る筈だった便が遅れに遅れた。飛び立ったのは夜の10時頃で、ヤマトに着いたのはおよそ朝の10時過ぎになってしまった。フライト時間が遅れた時点で翌日の学校は午前中は休めるよう予め学校へ連絡を入れていた。午後からの授業には参加しなくてはならない。この時はぶっちゃけ眠気がヤバくて、午後は結局居眠りをしてしまった。担任に叩き起こされた。
更に数日後。自宅にリトルガーデンから一通の封筒が届いた。中身を確認すると、【リトルガーデン・武芸科入学試験のご案内】とヤマトの言語で複数の書類が同封されていた。これが届いたという事は、どうやら準備が整ったという事だろう。
書類によると、ヴァリアブルストーンを用いた反応数値を測定する一次試験。次に身体検査と体力測定・知力測定の二次試験。最後に面接を行う三次試験についてと、それらが中学の卒業式から数日後に行われることが明記されていた。器官は二日間。一日目に一次と二次試験を執り行い、二日目に三次試験を行う段取りとなっている。場所はヤマト国内のリベリア軍支部にて行われるらしい。最終的な結果報告は後日自宅へ郵送で送られるとのことだ。・・・こう言うのもなんだけど、態々俺なんかの為に試験を設けてくれたクレアさん達には多大なるご迷惑をおかけしましたと同時に感謝の意を抱かざるを得ないな。これでもし合格したら、しっかりと恩返ししたい所存です。
二次の試験内容のうちの一つである知力測定と三次試験の面接以外はどうとでもなるな。しかし、一番の課題は知力だ。俺は言うほど頭が良くない。逆に悪いとも言えないが。これは本格的にフランソワ王国にいる"あの子"に教わるしかないかなぁ・・・後が怖い。近いうち何かしらの要求があるかも。俺ができる範囲内であればいいんだけど。
そしてリベリアから帰ってきて一週間が経過した平日。俺は中学の卒業式を迎えた。あれから学校の通常授業の傍ら、
これからは片手でかぞえるほどしかいない友人達との交流も減ってしまうが、こういう事は誰にでもある事だろう。元々その友人達とは別々の所に進学する予定だったからさして問題なかった。せいぜい「マジかー」とか「試験頑張れよー」とかの言葉を貰ったくらいだ。その時は適当に返事しておいた。
さて。そんなこんなでリトルガーデンへの進学試験を迎えた俺は、午前中に執り行われる知力測定にだけは直前まで入念にとりかかった。事前に"あの子"に教わって入念な復習を繰り返していたとはいえ、まだまだ力不足感が否めなかったのは事実だ。ちなみに一次試験と体力測定は無問題。俺にとっちゃ体を動かす事は日常茶飯事なんでね。運動神経には大分自信があったし。面接の三次試験もこれと言って大きな失敗もなく、無事に通過したと自信を持って言える。
兎も角として、俺は全ての試験を終え帰宅した。帰ると珍しい事に普段は多忙で家を空けることの多かった父さんと母さんがいて、試験を受けに行った俺へのお祝いor慰めパーティーなるものを開催した。まだ合否通知も来てないのに先にやるのは縁起が悪い気がしたが、まぁ基本的にマイペースなのが我が家の長所だ。ここは変に気負わずパーティーを楽しむとしよう。この時、母さんが買ってきてくれたチョコミントケーキなるものが俺の大脳的な部分に電撃を与え、両親の分まで貪った。翌日腹を下した。若干ミントっぽい色のした何かが出てきたが、すぐに調子は戻った。
その更に数日後、通知が届いた。
封を開けてみると、一枚の紙切れに―――「合格」の二文字が掛かれていた。俺のリトルガーデンへの進学が決まった瞬間である。
無理矢理な終わらせ方で申し訳ないです。
早く本編に入らせたいが為にこのような締め方にしました。
読んでくれた皆さま方からしたら読みづらかったと思います。まことに申し訳ありませんでした。
次回からやっと本編を始められますので、もしよろしければ次回も読んでいってくださると嬉しいです。
それではまた次回。