ハンドレッド―とある転生者の奮闘記―   作:konvoi

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やっと始まりました、原作1巻目。
今回は無駄に文章量が多くて中途半端な所で区切る事になりました。

今回も駄文になりますが、それでもと言う方はどうぞ。


第一章
入学したての決闘宣言はラノベ特有の恒例行事


 4月の某日。天気は快晴。本日は陽の当たる所が多く、洗濯物を干すのには丁度良いお天気となるでしょう――はい、そんな雲一つない空を飛ぶ小型飛行機の中から窓の外を眺める俺、四宮アキラは現在リトルガーデンに向かっております。

 試験の数日後から昨日の夜まではフランソワ王国のとある場所に御厄介になっていて、個人的な知り合いである"友人の少女"のご厚意で自家用ジェット機でリトルガーデンまで送ってもらっている所なのである。今この場にその知り合いはいない。一庶民な俺とは違い、立場的な意味であまり外出が許されない彼女は空港まで見送ってくれたきりだ。

 何故国外にまで出向いたのかと言うと、その知り合いが現役の武芸者(スレイヤー)であり、武芸者(スレイヤー)としての能力を高めるのなら教官役として最適な人物は彼女しかいないと言う訳で、俺は無理を言って彼女に協力を申し出た。当の本人はと言うと、快く承諾してくれた。期間は短かったが、それでもセンスエナジーの扱い方が多少分かっただけでも助かったというもの。近いうち何かお返ししないとな。

 

 さて。そんな短い修業期間を経て多少は戦えるようになった俺ではあるが、何も俺一人だけでヤマトを出たわけではない。

 

「アキラ。間もなくリトルガーデンが見えてくるそうだ」

「あの都市艦の建造には私達も多少は携わってるんだから、よぉくその眼に焼き付けておきなさい」

 

 父さんと母さんも、俺と共にフランソワ王国まで付いてきたのである。

 付いてきた、とは言うものの、流石に一日中一緒と言う訳ではなかった。二人は国内近隣に支部を置いたリベリア軍の研究室に入り浸り、"俺のヴァリアブルストーン"を調整してくれていたのだ。

 

 前回のリベリアでの一件、俺が展開したハンドレッドは所々歪な針のようなものが飛び出た不完全な形状だった。両親曰く「様々な原子配列が入り乱れてそのような状態になった」らしい。

 そんな状態のせいか、普通のヴァリアブルストーンと比較しても高いポテンシャルを引き出せる分、入念な調整が必須だと言う。それも数日に一回と言う頻度で。この話を聞かされた時、内心でもうちょっと頑張ってよと思いはしたが、そんな事を俺が知る由も無かったので文句なぞ言える筈もなかった。

 父さんと母さんが付いてきたのは、主にそれが理由の大部分を占めている。態々軍の研究室を借りたのも、俺のヴァリアブルストーンを調整する為なのだった。

 

 関話休題。

 そういう事もあって、俺達家族は揃ってリトルガーデンに向かう。

 今日は入学式。記念すべき高校デビューだ。・・・転生したとは言え二度目の高校デビューとか複雑な気分だな。

 

「アキラ」

「ん?」

「見えてきたぞ」

 

 父さんに促され、俺は窓の外へ身を乗り出すようにして覗き込む。

 

「あれが・・・」

 

 眼下に広がる大海原を悠々と進む一隻の巨大な艦艇。父さん曰く、全長四平方キロメートル以上はある超巨大な胴体の上に、俺が入学する学園を含めた一つの都市を備えていると言う。

 無論、この世界を知っている転生者の俺がそれを知らない筈はないのだが、両親はそんな事は知る由もないので知らない体で貫いている。

 しかし、原作知識で予め知っていたとはいえ、実物を見るのは初めてだ。率直な感想を述べるなら「デカい」としか言いようがない。これほどのものの建造に携わっていたと言う父さんと母さんも、相当な人達だと思い知らされる。

 

「どうだ。あれがワルスラーン社主導で建造した学園都市艦、リトルガーデンだ」

「あそこにうちの子が通うようになるとはね、人生何が起きるかわからないものね」

 

 それは俺も同じだ。まさかこの間の一件で、ここに通えることになるなんて、俺自身夢にも思わなかったんだから。

 

「そろそろ着陸態勢だ。シートに座れ」

 

 窓の外をじっと見つめていた俺は父さんにそう促され、急いで窓際の座席に座り直り、シートベルトを締める。それからすぐにジェット機は下降を始め、眼下の滑走路に向かっていった。

 

 

 

 

 

 滑走路に着陸したジェット機から降りた俺達は、着いて間もなく飛び去っていくジェット機を見送った後、手荷物検査や諸々の手続きを終わらせ、空港の外へ出た。

 

「おー!」

 

 空港の出入り口を抜けた先には、俺の良く知る街並が広がっていた。

 普通の街と違わない風景に加え、街の中を歩く人々は活気に溢れている。

 座敷茶屋や寺などの和の伝統が今も色濃く残るヤマトと違い、リトルガーデンの街並みはこの間行ったリベリアとあまり変わらない風景が広がっている。

 普通の人なら見慣れない光景で多少困惑するだろうが、転生者の俺からしたら懐かしさが勝って感慨深くなってしまう。

 

「さて、着いて早々悪いんだが、アキラ。お前は一人で寮まで行きなさい」

 

 父さんの言葉がここからは一人で行けと促してくる。そんな父さんの言葉に補足を付けるのは母さんだ。

 

「私達はこれから少し用事で行くところがあるの。入学式には参列できると思うから先に行っておいて」

 

 それじゃここからは別行動か。それは別に構わないんだけど、二人が言う「行くところ」というのがちょっと気になるな。まぁ、ちょっとと言うだけで特段問うつもりはないのだけれど。

 

「分かった。それじゃあここからは別行動だね。ちゃんと入学式には間に合ってよ?」

 

 俺の言葉に二人はそれぞれ頷きつつ、俺は荷物を詰めたバッグを背負い直し寮のある方向へ、父さんと母さんは俺とは別の方角へと分かれた。

 二人はこのリトルガーデンの建造にも関わってるから、何処に何があるのかの地理も見当が付いてるんだな。まぁそれで俺が二人のように何処に何があるのかなんて知ってる訳でもないんだけどね。

 とりあえず、俺は空港の受付嬢から受け取ったリトルガーデンの地図を頼りに、「武芸科・男子寮」と書かれた地点を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たどり着いた先は、二階建ての白い洋風の建物だった。

 空港の受付嬢の話によると、その周辺には他の建物は無く白い外観が特徴と言っていたのでここだと確信できた。ちなみに建物の前に「リトルガーデン武芸科・男子寮」と看板が立て掛けれてあったので更に一押しだ。

 建物の扉を開き、玄関を通ってロビーに入る。

 

「ほー、中々に綺麗だな」

 

 寮の内部は外観通りの白で統一され、ロビーには大きなソファーやテーブルが幾つか設けられている。生徒同士での交流の為の備品であることは直ぐに分かった。

 ただ一つ気になる事と言えば・・・

 

「何で誰も居ないんだよ」

 

 まぁ、それも今日が入学式だからという事だろう。この時間帯だと、殆どの生徒がもう会場に向かっている頃合いだ。他の誰とも会わないってのは少しばかり寂しいけれど。

 しかし、そんな俺の落胆は直ぐに裏切られることになった。

 

 

 

「ハヤトっ!?」

 

 

 

 二階廊下の手すりから身を乗り出して姿を見せたのは、男子生徒用の制服を身に纏った一人の生徒だった。

 顔立ちは幼さの残る中世的な顔立ちで、肌は白く制服の上から見ても体は華奢なように見える・・・って。ここに来て初の遭遇一番手は"こいつ"か。

 

「って・・・なんだ、違う人じゃん・・・」

 

 俺の姿を認識するなり、落胆した様子で乗り出した手すりに項垂れる彼(?)。

 こいつ・・・出会い頭に失礼だな。まぁ、特段気にするほどでもないからいいけど。

 

「違う人で悪かったな。とりあえず姿勢を正した方がいいんじゃないか? そのままだと落ちるぞ」

 

 見ていてハラハラしてくるからな。頼むからさっさと姿勢を正してくれ。

 

「あ、ごめんごめん。さすがに失礼だったね、誤るよ」

 

 そう言って手すりから身を乗り上げた彼は苦笑を浮かべながら階段を駆け下りて俺の前に立つ。

 背は俺の方が高いが、頭一つ分と半分程度で大した身長差はない。俺が少し見下ろす程度だ。しかし、改めて見ると中世的な顔立ちが余計に女の子らしく見える・・・いや、まぁ、転生者の俺からしたら彼(?)の正体は既に分かり切ってるんだけどね。

 

「始めまして、僕はエミール・クロスフォード。君と同じ新入生だよ、よろしく!」

 

 こいつこそが原作キャラの一人にしてメインヒロイン――エミール・クロスフォード。

 今は男装で偽名を使っているが、これでも歴とした女性だ。男装しているのには訳があるので今は具体的な事は離さないでおく。まぁそんな事を初対面の俺が知る筈もないので、彼(女)から教えてくれるまでは知らない体で行くが。

 

「始めまして、俺は四宮アキラだ。よろしく、クロスフォード」

「こちらこそ。ねぇねぇ、どうせなら僕の事は『エミール』って呼んでよ。僕も君の事は『アキラ』って呼ぶからさ」

 

 マジでか。初対面で名前呼びとかハードル高過ぎね? 中一からの腐れ縁である数少ない友人達でさえ未だに名字呼びなんだけど。ここは頑張るしかないか。

 ん? 前回まで生徒会三人の事は内心で名前を呼んでたじゃないかって? あの三人は原作キャラの中でも特に好きなキャラクターだったんだから自然とそうなるさ。エミールは正直普通だ。

 

 ちなみにどうでもいい事だが、前世で名前を呼び合っていた友人などいなかった・・・と、思う。多分。

 

「・・・わかった。エミールだな。これからよろしく」

「うん! よろしくね、アキラ」

 

 明るい笑顔を向けてくるが、正体を知ってる時点であまりときめかないんだよなぁ。仮にエミール目当てで転生した人間が猛烈にアタックしても振り向かない可能性100%だもの。いや、それだけを目当てに転生してくるヤツなんてまずいないだろうけど。

 

「お、早速打ち解けてるみたいだな」

 

 エミールとは別に、別人の男子生徒が俺達に声を掛けながら階段から降りてくる。

 俺よりも頭一つ分は背が高く、短めの金髪で爽やかなイケメンフェイスを張り付けた好青年がやってきた。イケメン張っ倒したい(願望)。

 

「"フリッツ"。彼も新入生だよ」

「見ればわかるさ。俺はフリッツ・グランツだ。一年の中でこの寮に最初に入ったって事で仮リーダーをさせてもらってる。これからよろしくな」

 

 そう言って青年――フリッツ・グランツは手を差し伸べてくる。所謂握手を求めてきた。

 

「四宮アキラだ。よろしく、グランツ」

「おっと、そこは『フリッツ』と呼んでくれ。エミールだけ名前呼びなんて不公平だと思わないか、"アキラ"?」

 

 むぅ・・・それを言われると痛い。てかナチュラルに名前呼びかよ。・・・まぁ、これから色んな人と会うかもしれないんだし、練習とでも思えばいいか。

 

「わかったよ、"フリッツ"」

「そうこなくちゃな」

 

 俺の名前呼びに満足したのか、フリッツははにかむ様にしながらウインクを飛ばしてくる。この固く交わしたフリッツの右手を握り潰したらダメですか? ダメ? ですよね。

 

「さて。自己紹介が済んだ所で、俺はリーダーとして寮内を案内する役目がある。まずはお前の部屋からだ。付いてきな」

「おう」

 

 寮の部屋は二人で一部屋を共有する事になっている。基本的に同室になった相手とは初対面な形になるが、まぁ出会い頭に失礼が無ければ後々面倒な事にはならないだろう。さて、俺の部屋・・・もとい、誰と同室になるのかなっと。

 俺に充てられた部屋は二階の一角にある。フリッツがPDA――リトルガーデンにおける学生証兼通行証のような物で、携帯電話や財布としての機能を併せ持つ。俺も先程の空港で支給された――を扉のドアノブ上部にある小さな正方形液晶パネルにかざすと、ピッ、という電子音が鳴り、扉が開いた。

 

「ここが今日からお前が暮らす事になる部屋だ」

 

 そう言って俺を招き入れ、洋風のお洒落な様相をした室内が視界に飛び込んでくる。室内は中々に広く、2人分が使うには丁度良い広さと思ってもいいくらいだった。ベッドも椅子もテーブルもそれぞれ二つずつあり、共有スペースとしては申し分ない。

 

「へー、ロビーのほうでも思ったけど、部屋も中々だな」

「だろ? あ、窓際のベッドは"俺が使わせてもらう"からな」

 

 はいはーい・・・ん? 今『俺が使わせてもらう』って言った?

 

「え・・・え、ちょ、なに? 相部屋、君となの?」

「そうだぞ。言ってなかったっけ?」

「今初めて聞いたぞ」

 

 あー、そういえばそうだな!じゃねぇよ。そういうことは先に言えよ。てっきりもっと別の奴と相部屋になるのかと思ってたわ。まぁその分変に気を遣う必要がなくなったからいいんだけど。

 

「部屋の次は、そうだな」

「ちょっと待った。まずは制服に着替えさせてほしい。このままじゃ入学式に出られないからな。今のうちにいつでも出られるようにしておきたいんだ」

 

 唸るフリッツを手で制しながら俺が言う。何せ昨日から私服姿だ。予め送られてきた制服を持ってきているから、今のうちに着替えておかないとまずい。

 

「おっと、そういやそうだな。それじゃロビーのほうで待ってるからな」

「ああ。悪いな」

 

 気にするなと背で語るフリッツを見送り、扉が閉まるのを確認すると背負っていた鞄を壁際のベッドの上に置き、ファスナーを開けて中に仕舞っていた武芸科の男子用制服に手を掛ける。

 

 

 

 

 

 制服に着替えると、俺は支給されたばかりの真新しいPDAを胸ポケットに仕舞いつつ、部屋を出る。

 ガチャリッ、という電子音で施錠を掛けた事を確認してから、着慣れない制服に違和感を覚えつつもロビーに向かう。

 すると、ロビー側の方向から二、三人ほどの声を俺の耳は捉えた。

 

「―――――――、―――ッ!」

「――、―――――?」

 

「・・・やけに騒がしいな。他の新入生が来たのか?」

 

 今でも捉え続ける声の中にはエミールの他、フリッツのものまで含まれている。この流れで行くとあとの一人は・・・あ! もしかして!

 三人目の声が誰なのか。俺は大体の見当を付けて、軽めの駆け足でロビーに向かう。

 

 

 

 

 

 ロビーに降りる階段の上に立つと同時に、フリッツ達がいるであろう方向に目を向ける。そこにはつい先ほど見知ったばかりの二人ともう一人、この世界にとっては初めて目にする顔だが、前世の記憶がある俺にとってはとても見慣れた人物がそこに立っていた。・・・いや、より厳密に言えば、前世で読んでいた原作の中の意味でだけどね。

 

「あ、アキラ! 制服に着替えたんだ」

 

 エミールが俺の存在に気付き、残る二人も揃って俺のほうに向いた。見知っているようで見知らぬ謎の新入生が目の前の二人に問う。

 

「誰だ?」

「あ、紹介するよ。彼も僕達と同じ新入生なんだ」

「アキラ、降りてこいよ。お前も自己紹介しておけ」

 

 フリッツの言葉に頷きを返しつつ、俺は階段を降りていく。あとエミール。それは紹介になっていないからな。

 

「初めまして。俺の名前は四宮アキラだ。君は?」

「え? あ、ああ。俺は如月ハヤトだ。よろしく」

 

 如月ハヤト。原作主人公である彼は既に武芸科の男子用制服に袖を通している。恐らく原作通りの展開で行けば、つい先程まで妹さんが入院している病院に居たのだろう。そんな事を俺が知る由もないので知らない体で行くが。

 個人的にこの世界が原作準拠なのかアニメ準拠なのかが一番の疑問点だが、まぁどうせ後でわかる事なので今は頭の片隅に置いておくことにする。

 

 この後、フリッツが如月とエミールを連れて彼らが共有する部屋まで案内している間、俺はロビーのほうで待機した。だって俺が行く必要もないし。PDAをスマホ感覚で操作しつつ、俺は両親に『寮に着いた。これから入学式に行く』と言う内容でメールを送る。

 暫くして、ロビーに再び戻ってきたフリッツ達と共に、俺は武芸科校舎へと歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく来たか、待ちわびたぞ!」

 

 入学式が執り行われる講堂前まで行くと、フリッツに向かって呼び止める声が上がる。

 明るい橙色の髪を後頭部で一括りに纏めた、見た感じ150cm程の身長しかない小さな少女だ。無論、俺はこの子を知っている。

 

「悪い、こいつらの準備に手間取ってな」

 

 フリッツが親し気にそう返すと、少女は俺達の方を向いて目を輝かせ始める。気のせいか彼女の瞳の奥から黄色の椎茸が見えた気がした。

 

「おお、お前達も新入生なのか! 私はレイティア・サンテミリオン。フリッツと同じリベリア合衆国の出身だ。こいつとは所謂顔なじみと言うやつだな」

「幼馴染の間違いだろ?」

 

 呆れたように訂正するフリッツの手が少女――レイティア・サンテミリオンの頭にポフリと置かれる。当然、彼女が歯をむき出しにしながら威嚇するようにフリッツに突っかかる。

 

「そうやって髪を乱すなと言っているだろう、バカフリッツ!」

「置きやすい所にいるのが悪いんだよ」

「ぐぬぬ・・・」

「二人って随分仲が良いんだね」

 

 そんな微笑ましいやり取り見ていたエミールが訪ねる。幼馴染と言ってたくらいだしな。それもそうだろう。

 

「ちっさい頃からずっと一緒だったからな。俺とは違ってこいつはあまり成長してなくて、こうやって子供扱いされるのが常だ。胸も相変わらず無いしな」

「だーかーらー・・・子供扱いするな! 胸の事も言うな! それよりもだ! 今度はお前達が自己紹介する番だぞ」

 

 ウガーとでも言いそうな形相でフリッツにそう吐き散らしたら、今度は打って変わって俺達の自己紹介を要求してきた。そんな彼女に答えたのはエミールだった。

 

「僕はエミール・クロスフォード。エミールと呼んで。それでこっちが・・・」

「如月ハヤトだ。お前達と同じ新入生だ。これからよろしくな」

「・・・四宮アキラ。同じく新入生」

 

 それぞれ端的に名乗ると、如月の名前を聞いた途端、サンテミリオンは驚きの表情を露わにする。

 

「お前が如月ハヤトか!? クレア様の記録を打ち破ったという、あの!?」

「『クレア様』? 誰なんだ?」

 

 サンテミリオンの言葉の中にあった一人の人物の名前に首を傾げたのは当然の如く如月だった。なんでこうも原作主人公は無知なんですかねぇ(恒例)。

 

「お前、クレア様を知らないのか?」

「ああ」

「いいか。クレア様はだな・・・」

 

「そこの新入生! 何をやっている、入学式が始まるぞ!」

 

 サンテミリオンがリトルガーデンにおけるクレアさんの話をしようとしたら、教員の人に呼びかけられた。

 クレアさんの事は後で話すとして、俺達は早足で高度の中に向かった。

 

 

 

 

 

 都合が良い事に俺達が最も多く空いていた席に着くと、ほどなくして入学式が開始された。

 席の位置は特に決められておらず、各々で好きな所に座る、もしくは仲良くなった組で隣同士に座ったりしていた。俺達も一グループとして席に座る。席順はエミール、如月、フリッツ、サンテミリオン、そして俺の順だ。

 講堂内のホールの殆どの証明が落ちて、正面にある壇上に向けて幾つものスポットライトが当てられる。

 

「新入生諸君、リトルガーデンにようこそ。わたしは高等部武芸科二年で、このリトルガーデン生徒会副会長の一人、リディ・スタインバーグだ。今後、君達新入生の教育係も務める事になる。よく覚えておいてほしい」

 

 壇上の中心部にある教壇にスポットライトが当てられる中、俺達新入生が今着ている制服とは異なる色合いをした制服を着用したリディさんが自己紹介を始める。その隣には、リディさんと同じ制服を着たエリカさんが立っていて、その手には大きめの箱が下げられている。

 

「続いて隣に立っている君達の先輩を紹介させてもらおう。彼女もわたしと同じ生徒会副会長の一人で、同じく二年のエリカ・キャンドルだ。これからはわたし達二人でこの入学式を取り仕切らせてもらう」

 

 軽めの紹介を終えたリディさんは一礼すると、隣のエリカさんと今の位置を交代する。

 

「ご紹介にあずかりました、エリカ・キャンドルです。まずはリトルガーデンへの入学、おめでとうございます」

 

 そう言いつつ、丁寧に頭を下げるエリカさん。頭を上げた時、一瞬だけ俺達に視線だけを向けるとすぐに真正面に向き直り、手に下げていた箱を教壇の上に置いた。

 

「ねぇ。あの副会長さんさ、今一瞬だけこっちに視線を向けてこなかった?」

 

 エミールが小声で言う。確かに一瞬だけそう見えたが、あれはどちらかと言うと・・・"俺を見ていた"・・・気がする。と、思う。勘違いじゃなければ。

 

「わたしの目にもそう見えたぞ」

「期待の新入生君に目を向けてたんじゃないか?」

「いや、偶々だろ」

 

 気になる事はあるが、まぁそんな会話が長く続く筈もなく、以降はつつがなく式が進行していく。

 エリカさん曰く、今から新入生全員にリトルガーデンの生徒を表すバッジを授けていくという。

 リディさんが読み上げた名前の順にバッジを渡していくようだ。

 

「どうやら呼ばれるのは適性試験の反応数値が低い順のようだな。外に張り出されていた紙の通りだとすれば、恐らくは次に呼ばれるのはわたしの筈だ」

 

 「途中何人か飛ばされているがな」と補足を付け足しつつ、次に呼ばれたのはサンテミリオンの予想通りに彼女の名前だった。

 

「ほら、言った通りだろう」

 

 自慢げに言った彼女は席を立ちあがり、壇上に向かって歩き出していく。

 

「残るは俺達四人だけだな」

「ハヤトが一番上なのは当然として、次は誰なんだろうね」

 

 壇上でサンテミリオンがエリカさんからバッジを受け取っている。傍から見ると幼い子供にプレゼントを配っているような図式にしか見えない。それぞれの表情からはそんな様子は一切見られないが。

 

「次、フリッツ・グランツ」

「どうやらお前のほうが上だったみたいだな。行ってくる」

 

 俺にそう語り掛けると、壇上に向かう花道を歩くフリッツへと周囲の女生徒から黄色い歓声が送られていく。これだからイケメンってやつは。

 ふむ。原作だとフリッツは新入生の中でも上から三番目だった筈だ。それを俺が割り込む形であいつが四位に下がっているってのは・・・正直申し訳ない気分になってくるな。まぁ、あえて口には出さないけど。

 あれ、もしかしなくてもこの時点で既に原作崩壊だよねコレ? 大丈夫なのか?

 

「次は僕らのどちらかだね。アキラはどっちだと思う」

「直ぐに解るだろ」

 

 言わずともわかる事を敢えて聞くなよ。しかし、俺からしたら手に取るようにわかる。次に読み上げられるのは、

 

「次、四宮アキラ」

 

 ほれ来た。やっぱり原作主人公とヒロインには勝てんね。行ってきまーす(AIBO感)。

 

「ふふん、どうやら僕の方が上だったみたいだね」

 

 何でそんな自慢げに言うんだよ。別に羨ましくもないからな。とりあえず適当に相槌を打ちつつ席を立ち、壇上に向かって歩き出す。

 壇上に上がり、エリカさんの前に立つと彼女から語り掛けられる。

 

「よくいらっしゃいました、四宮アキラ。制服姿がよくお似合いです」

「ありがとうございます」

 

 エリカさんに褒められ、つい照れてしまう。こういうのを御世辞と言うんだろうな。

 

「新入生としてもだが、わたしからも貴様を歓迎しよう。これからみっちり鍛えていくので、覚悟しておけ」

「臨むところです」

 

 短く言葉を交わし、俺はエリカさんからバッジを受け取る。数は一つ。一年を現す値で、エリカさん達は二年なので二つ付けている。

 二人に一礼した後、壇上を下りて席に戻る。腰を落ち着けると隣のサンテミリオンが疑問の言葉を投げてくる。

 

「なぁ、四宮。さっき壇上で副会長達と何を話していたんだ? 遠目から見た程度だが、何やら親密そうだったが」

「何でもない、ただの世間話だよ」

 

 サンテミリオンの言葉を曖昧な返事で返す。本当になんでもないだなこれが。だから四人揃って俺を見るな。正面を見てなさい、正面を。まだ式の最中なのよ。まったくこの子達ったら。

 

 さて、ここからは特に原作と変わりないのではしょる事にする。

 俺の後は当然の如くエミール、如月の順に呼ばれ、それぞれにバッジを受け取っていく。

 エミールの時は女子達から「可愛い」等の声が上がっていたが、対する如月には歓声の代わりにライバルとしての敵意の籠った視線や彼自身に備わる才への嫉視が含まれている。尊敬や羨望の眼差しもあるにはあるが、それでも比率の多くは負の感情を込められているのが多かった。針の筵状態も楽な物ではないか。いや、当然だが。

 ちなみに俺が呼ばれた際には何の声も上がらなかった。この時だけ静かすぎて心の中で泣きそうになったのは言うまでもない。あぁぁぁんまりだぁぁぁっ!!

 

「続いて、この海上学園都市艦リトルガーデンの艦長であり、初等部、中等部、そして高等部の普通科と武芸科、全ての学生を束ねる生徒会長――武芸科として、女王(クイーン)の座にも就かれているクレア様からのご挨拶となります」

 

 エリカさんがそう言うと、舞台の袖から一人の女生徒が現れる。金髪の長髪を縦ロールにして両サイドから垂らした美女――我らが生徒会長こと、チョロインとして知られるクレア・ハーヴェイさんのご登場だ。

 彼女が教壇の前に立ち、その上に置かれたマイクに言葉を発しようとしたその時だった。講堂の出入り口から、バタンッ、という大きな音が講堂内に響き渡り、クレアさん達生徒会のみならず、講堂内に居た全ての者達の意識がそちらに持っていかれる。

 

「すいませんっ!!」

「遅れてしまいましたっ!!」

 

 そこに立っていたのは、俺達と同じ武芸科としての制服を身に纏った女生徒二人だった。それぞれに口にした言葉が講堂内に響く。あー・・・そういやあの二人の事すっかり忘れてた。

 ノア・シェルダンに劉雪梅――栗色の髪を腰まで伸ばした方がシェルダンで、黒髪を三つ編み且つ一つに束ねた方が劉である。

 

「ノア・シェルダンに劉雪梅。遅刻とはいい度胸ですわね」

 

 壇上に立つクレアさんが冷徹な眼差しを二人に向ける。その声色は思わず背筋が凍るほどに冷たいものだった。俺まで凍えてどうすんだよ。しかし、そんな人に睨まれながらも、二人は怯えつつ勇気を出して言葉を紡いでいく。

 

「ち、遅刻した事は謝ります!!」

「朝から繁華街(セントラル)に買い出しに出ていたんですが、ここまで来るのに思っていたよりも時間がかかってしまって、それで――」

「言い訳を聞くつもりはありませんわ」

 

 二人の言葉を容赦なく切り捨てたのはクレアさんだ。冷徹な眼差しはそのままに、さらに追い打ちを掛ける。

 

「事前の情報で時間厳守と書かれていた筈です。その約束事すら守れない人間はこのリトルガーデンに必要ありません。今すぐ荷物を纏めて、リトルガーデンから出ていきなさい」

 

 その言葉に、2人の女生徒は今にも泣き出しそうな表情を浮かべる。あんまりな物言いだが、実際問題クレアさんの言う事は尤もなものだ。尤もなんだが、いざこの場面に直面してみると気分が悪くなってくるな。どうにかできないものか。

 

「クレア様のご命令です。今すぐにPDAを返却し、この場から立ち去ってください。明日にはリトルガーデンから出て行けるように準備致しますので、今晩中に寮の後片付けも済ませておいてください」

 

 エリカさんの淡々として声が響く。それと合わせて壁際に待機していた他の三年生達が二人を退出させようと動き出す。え? 他の上級生いたのかだって? それがいたんですよ。壁際に沿ってまるで西洋の鎧みたいな直立不動で立っていたんです。

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 そんな時だ。エミールが声を上げて立ち上がる。反抗心の宿ったその眼はクレアさんに対して向けられている。

 

「艦長だか女王だか生徒会長だか知らないけどさ、一度のミスで放校処分なんていくら何でも横暴すぎるんじゃないかな? 二人とも泣いてるし、可哀相じゃないか」

「お、おい、エミール。喧嘩腰になるなって」

 

 明らかな敵意を込めた事を言うエミールに如月は抑えようと肩を掴む。そんな如月の手を振り払いつつ、エミールは怒り任せに言葉を紡いでいく。

 

「喧嘩腰にもなるよ! 僕はああやって権力を振りかざす奴が大嫌いなんだ! 親の七光りで艦長に就いてる奴ならなおさらだよ!」

「親の七光り・・・て、どういう意味だ?」

「クレア様はこのリトルガーデンを経営なさっているワルスラーン社のご息女なんだっ! それだけにこの場での権力はものすごいのだぞ!」

 

 如月の疑問に答えたのはサンテミリオンだ。小声で如月に聞こえる声量で答え、それを知った如月の顔が驚愕に包まれる。それほどの身分の高い人物に歯向かったのだから当然の反応だ。

 

「え、ええと、言い方はともかく、確かに一度のミスで放校処分を下すなんて、さすがにやりすぎなんじゃないかと。エミールだって、それが嫌で憤ってるのではないかと・・・」

「そうだそうだ!!」

 

 言葉を選びながら発言する如月のすぐ目の前で、頬を膨らませて激おこぷんぷん丸状態なエミールが叫ぶ。お前ちょっと黙ってようか。流石に緊張感が無さすぎるから。

 ここは俺も立っておくか。このまま放っておくのも気が引けるし。

 

「すみません。差し出がましいですが、俺からも良いですか?」

「四宮アキラ? ・・・いいでしょう、言ってごらんなさい」

 

 俺は立ち上がり、許可をいただくと発言する。

 

「確かにあなたのいう事は尤もです。時間厳守と事前に告知されていたのに、それを守れなかった彼女達に非があるのは明らかでしょう」

「アキラっ!!」

 

 俺の物言いに突っかかってくるのはエミールだ。当然の反応だがまぁ落ち着け。まだ言い終わってないから。

 

「しかし、いくら約束事を守れなかったとは言えその判断は性急に過ぎるかと思われます。ここにいる全員が同じ志を持つ仲間同士なんです。理由はそれぞれで異なるでしょうが、それでも、『誰かを守りたい』という共通の目的があってリトルガーデン(ここ)に来た事実は消えません。先程自分はあなたの言う事に同調を示しましたが、それを踏まえた上で敢えて発言させていただきます――どうか、お考え直し頂けないでしょうか?」

「・・・わたくしの言った事を認めつつも、あくまでもわたくしの意思には素直に賛成できない。つまりそういう事ですのね?」

 

 俺は首を縦に振る。その動作に周囲がざわめき立つ。

 解ってるよ。俺の言ってることが矛盾を孕んでる事くらい。けど、それでも割り切れないものがあるんだ。

 相手は見ず知らずの赤の他人程度の認識だけど、それでも俺の目指したい『未来の自分』となる為に、今はこうした方が正しいと判断したまでだ。誰が何と言おうと、俺はこの意思を貫き通す。今も出入口で泣いている二人の表情から、その感情を"安心"に塗り替える為に。

 

「生徒会長、確か面接に必要な履歴書には、志望動機が必須でしたよね? それをあなたは読んだ上で、面接を通して、合格通知を出した筈です。ここにいる新入生全員を、例外無くです」

「・・・ええ、その通りですわ」

「そして面接時、殆どの受験生に対してあなたは直々に面接を行った筈です」

「おおよそになりますが、それでも大部分の受験生に対して面接を行ったと自負しております」

 

 やっぱりか。あのお堅いイメージ通りに、彼女は全ての履歴書に目を通している筈だと思っていたが、二重の意味で予感的中だったな。

 原作9巻でエリカさんがリトルガーデン入学を目指した話があったからもしやと思い言ってみただけだったのだが、どうやら正解のようだ。

 因みにここだけの話、俺の場合はなぜか面接官はおろか、大型のカメラとモニタが面接相手だったけどな。何分時期がアレだった為、俺の時は時間の確保が難しかったのだとかで態々カメラを通して遠くから間接的に面接を行ったそうだ。大雑把すぎるだろと心の中で盛大にツッコんだのは今も記憶に新しい。

 

「あなたはそれを承知した上で、このリトルガーデンへの入学を許した。それはつまり、あなた自身が彼女らの入学を認めたという何よりの証拠です。それが入学初日で放校処分なんて、理不尽にも程があります。彼女らには彼女らなりにここへ来た理由があるのですから、どうか今回ばかりは、大目に見ていただけないでしょうか?」

「四宮・・・・・・生徒会長! 俺からも、どうか、お願いします! 検討していただけないでしょうか!?」

 

 俺は頭を深く下げ、懇願する。黙って聞いていた如月も俺の意思に同調したのか、同じように深く頭を下げた。

 俺達の言葉を聞いて、クレアさんは目を伏せて静かに考え込む。そんな様子を不安げに見る副会長二人だったが、やがてクレアさんは目を開いて俺に向けて言葉を発する。

 

「四宮アキラ。確かにあなたの言う通り、わたくしはここにいる全員の意思を尊重して入学を認めました。それはあなたも例外ではありません。ですが、それでもあなたの意思と発言を認める訳にはいかないのです」

「何故ですか?」

「今あなたの言った事が全て、あなた自身が抱いた感情論に基づくものだからです」

 

 感情論・・・まさしくその通りだ。二人の為、と言うのももちろんあるが、多かれ少なかれ俺の発言は自分の為のものでもあるのだからそう返されるのも当然だ。

 

「ここにいる全員、これからわたくしが言う事を胸に刻みなさい」

 

 そう言ってクレアさんは講堂にいる全員に向け直り、言葉を続けていく。

 

「わたくし達武芸科は、普通の学校とは違って命を賭してサベージと抗戦する武芸者(スレイヤー)見習いに過ぎないのです。卒業後、あなた方は戦場に出る事もあるでしょう。その時、たった一人のミスが原因で部隊が全滅という事も有り得るのです。回数の問題ではありません。戦場に出てしまえば、誰かが命を落とす・・・そうならない為に、たった一つのミスも許す訳には参りません。ひいてはその結果が仲間の生還率に繋がるのですから」

「ッ・・!!」

 

 思わず歯噛みする俺だったが、「しかし」と続けたクレアさんの呟きに、俺と如月は下げていた頭を上げて壇上の上に立つクレアさんを見据える。

 

「四宮アキラ、あなたの言う事にも一理あるのは確かですわ。あなたの仲間を思うその姿勢に免じて、わたくしから一つ、提案があります」

「提案・・・ですか?」

 

 突然のクレアさんの『提案』という言葉に動揺が走る講堂内。傍に立つ副会長達も同じように動揺を隠しきれず、彼女に近寄るが、クレアさんはそんな二人を気にした様子も見せずに俺達二人に右手の人差し指を突き付ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたくし、クレア・ハーヴェイは四宮アキラと如月ハヤトの両名に、決闘(デュエル)を申請致しますわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の口から発せられた驚きの宣言に、俺達だけじゃなく、エミールやフリッツにサンテミリオン、講堂内の新入生を含めた生徒全員が目を丸くした。

 

 ・・・・・・・・・・・・え? マジで? 原作通りっちゃ原作通りだけど・・・・・・・・・・・・俺もやるの?

 

 この時ばかりは流石の俺も「言うべきじゃなかったかも」と思い、胸中でちょっとした後悔が込み上げてきたのだった。




またまた無理矢理な終わらせ方になっちゃいました。今回バトル展開を期待していた方がいたら申し訳ありません。次回こそバトル有りです。

基本原作沿いですが、原作にない展開も多少含まれておりますのでご了承の上、次回をお待ち下さい。

それでは。

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