ハンドレッド―とある転生者の奮闘記―   作:konvoi

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長らくお待たせしました!

やっと8話が書き終わりました。

3ヵ月とおよそ数週間も掛けて書き上げた今話ですが、自分でもこんなのでよかったのかなと思わない部分が多々あります。経緯や経緯や経緯とか。

そんな前回までと変わらない駄文ですが、今回でアキラ対リディ戦は決着です。これからもこんな小説でよろしければ生暖かい目で見て行ってください。

それではどうぞ。


武器は使い方次第で化ける

イミテーション(模造)型・・・だと・・・? そんな型は聞いた事もない」

 

 それはそうだ。何せ父さん達から聞いた話によると、俺のハンドレッドは『史上初』と言うのだから。知る筈も無い。

 似たような特性の型ならいくつかあるだろうが、俺のハンドレッドの場合は運用的な意味で全く異なる。まぁそれは追々話していくとして、だ。

 

「まぁ俺のハンドレッドについては後でいくらでも説明しますよ。時間も押してますから、ね!」

 

 そう言って、俺は地面に突き刺した武器の中から朱色の長槍を掴む。両の手で構えながら、リディさんに向かって突撃。一瞬で距離を詰めつつ、朱に染まった矛先を突き付けながら刺突を放つ。

 

「くっ!」

「まだまだぁっ!!」

 

 刺突を盾で防いだリディさんに構わず、俺は槍を引いて再び突きを繰り出す。

 盾で防がれ、槍を引いてはまた突きを繰り出す。それの繰り返しで、俺はリディさんに反撃する隙を与えない。先の双剣での連撃と同じ要領で反撃させる暇を与えないよう気を配りつつ、リディさんの体力(ヴァイタル)を削いでいく。

 説明が遅れたが、両手足に付いたヴァイタルリングから反映されるダメージはなにも直接攻撃を受けた時に限った話ではない。例え防がれても、こうしてチクチク蜂のように刺していけば微小なダメージが入り、その分が体力(ヴァイタル)へのダメージとして蓄積されていく。現にもうリディさんの残り体力(ヴァイタル)は7割を切っている。

 先の双剣での攻撃やエナジー刃の爆発ダメージも含めれば、序盤でここまでダメージが入ったのは良い展開だろう。対する俺は掲示板に表示された自分の数値を見るだけでも、既に2割の体力(ヴァイタル)を失っていた。

 僅かだけど、ほぼ五分の戦いと言って良いだろう。後はこのままどれだけ持ち堪えられるかが問題だ。残り時間は十分余り・・・どちらかの体力(ヴァイタル)かエナジーのエンプティ、時間切れによる引き分けを狙うにしても博打打な事には変わりないな。

 

「どっ、せぇいっ!!」

 

 腹の底から絞り出した声と共に、リディさんを盾ごと槍で大きく薙ぎ払う。後方へと押し返されたリディさんに体勢を整えさせる暇を与えずに、俺は引き続き槍で攻撃を加える為に接近する。

 

「嘗めるなよ・・・・・・新入生の分際でっ!!!」

 

 しかし、リディさんは憤怒しながら足腰を力ませる。右足で地面を削りながらも無理矢理体勢を立て直した。そのまま左足を地面にめり込ませるように力強く踏み込むと、右腕のランスを正面から突き出した。

 正面から向かってくるランスの矛先が、俺の朱槍の矛先同士で接触する。

 直線で突き貫くためのランスと、面で切り払う槍とでは前者の方に分が勝り、俺の槍は正面から砕かれる。そのまま砕かれ続ける槍の柄から咄嗟に手を離し、追撃が来る前に俺は遥か後方に突き刺さったままの武具の一つを操作し、手元に引き寄せる。

 手元に呼び寄せたのは岩のようなゴツゴツとした大剣だった。呼び込んだ俺の身の丈以上もある大剣の柄を握り、大きく横薙ぎに振るう。リディさんは盾でそれを防ぐと、防いだ衝撃を利用して後ろへ飛び込み、敢えて距離を置く。

 なるほど。一瞬だけ距離を離してそのままランスで追撃してくる気か。ならこのまま迎え撃つか。

 

「食らうがいい! はぁっ!!」

 

 地を蹴り、刺突の構えでランスを突き付けながら真っ直ぐこちらへ突撃を仕掛けるリディさん――彼女が地を蹴った瞬間、ランスに変化が現れる。

 ランスの切っ先を基点に、円錐全体が螺旋を描くようにして装甲が開かれる。内側から覗いた彼女のエナジー色が輝く中、柄の接続部を基点にランス全体が回転を始めた。

 リディさんのハンドレッド《漆黒の天槍(ミドガルドシュランゲ)》の特徴は、あのドリル状に回転を加えた突貫攻撃に集約されていた筈だ。確かサベージの(コア)をシェルターごと突き貫く事を前提とした戦闘を毎回披露していたと記憶している。原作の様子から俺自身が予想した見識だけども。

 そんな攻撃が俺に向かってくる。俺の身の丈以上もあるこの大剣じゃ防ぐどころか、一撃で簡単に砕かれるのは目に見えていた。サベージのシェルターと同じくらいの頑丈さを誇るこの大剣でも、あの攻撃で容易に突破される。

 ならば、"もう一手"を増やすだけだ。俺はもう一つの武器を操作、左手に引き寄せる。引き寄せたのは金色に煌く聖剣だ。右手の大剣で防御を取り、左手の聖剣で攻撃する。見方によっては無茶な戦法だが、今はリディさんの攻撃を防ぎつつ反撃する術としてはこれが最良だと思う。

 左右の手でアンバランスな武器を携えた俺に構う事無く、リディさんはランスの矛先を向けつつ俺に吶喊。対する俺は大剣の側面でガリガリと削られる音を聞きながらランスを受け流し切り、彼女の右側に躍り出た俺は左手の聖剣をリディさんに向かって横薙ぎに振るう。

 

「くっ!」

「おっとぉ!!」

 

 しかし、聖剣の一振りは振り抜かれた盾であっけなく弾かれ、代わりとばかりに横薙ぎのランスが俺の顔面を打ち砕かんとばかりに迫る。それを身を屈めて躱しながらバックステップで距離を離す。

 さすがに実戦経験者とだけあって対応能力はかなりあるな・・・。対する俺は実戦未経験のトーシロ。それを考えると何でこんなことになってしまっているのか理解に苦しむな。誰だよ、こんな面倒な事態に発展させた馬鹿は。言うまでもなく俺です。

 さて、真面目な話、ここからどう攻めようか迷う。俺の残り武器は、さっきは槍が破壊されたから、残るは四種類・・・いや、さっきのすれ違いで大剣の峰が豪い程抉られてる所から鑑みるに、防御に使うにしても攻撃に使うにしても、一撃で完全に砕け散るだろうから実質残るのは三種類だけか。

 対するリディさんの武装はまだまだ健在、ランスと盾が少々傷ついている程度で完全な無力化、つまり武器破壊を狙うのは実質不可能だな。残った武器でどこまで押し通せるか。

 

「何をしている!!」

 

 と、そんな考えを巡らせているとリディさんの呼び掛けでハッと我に返り、突撃してくるランスの一撃を大剣で受け流しながら防御する・・・て、あぁっ!? 大剣が砕けた!! 咄嗟にこれで防いだせいで大剣はお亡くなりに・・・え? また作り直せばいいんじゃないかって?

 残念。俺の武器は確かにすぐに作り直す事は出来るんだけど、さっき武装を構築するのに大分エナジーを消費した上、今から作り直すにしてもわずかの時間がかかるからそれをするのも難しい状況なんですわ。かと言って作り直してる間にリディさんが攻撃を仕掛けてくる可能性の方が高いからしないだけですけど。

 

「これでまた一つ、貴様の武装は減ったな。残るは三つの武装だけだが、今しがたわたしが破壊した大剣・・・あれの強度を鑑みるに、貴様の武装はそこまで強度は高くないのではないか?」

 

 あれま、今の流れでそこまでわかっちゃうの?

 お察しの通り、俺の武装はその構造上は模造を得意とするけれどその実、模造した武装に関しては今でも不安が拭い切れない面が少なからずある。その一つが強度だ。

 敢えて詳細は省くけど、さっきの槍や大剣の脆さを見ればわかる通り、ほとんど見掛け倒しな側面が強くて碌に武器としては未だに使えない模造品だけど、それもヴァリアブルストーンの構成プログラムを整理や構築を繰り返していけば、それらも解消されていく筈と、父さん達が言ってた。

 

「・・・まぁ、一応はその通りです。さっき破壊された槍と大剣に関して言えば、"あなたを威圧する為に"模造した、ただの見せかけです」

「やはりか。まさかあの程度で気圧せると思われていたとは、わたしも嘗められたものだな」

「別に嘗めちゃいませんよ。手数で言えば俺の方が圧倒的に有利ですからね。まぁ尤も・・・こんなあっさりと破壊されるとは思ってもいませんでしたが」

 

 リディさんを威圧する為に作りだした模造品だった訳だが、まさかあんなあっさりと逝くとは思わなんだ。まだまだ活躍させられると思ってたんだけどな。これが未熟者と熟練者の決定的な違いってやつか。

 

「手数で言えばわたしに勝てる・・・いや、引き分けに持ち込める、などと思っていたのだろうが、浅はかだったな。そんな考えを持った貴様ではわたしにはおろか、そこらの新入生にすら負けてしまうぞ」

 

 それを言われるとぐうの音も出ない。実際問題浅はかな考えだったことは薄々感じてはいたけれども。

 

「そ、それは言い過ぎなんじゃないですかね? べ、別にこれなら勝てなくとも引き分けに持ち込める? なんて考えは全くこれっぽっちも微塵も思ってなんかいませんけれど?」

「声が上ずって聞こえてくるんだが・・・まぁ良い。そろそろ興醒めもいいところだ。これに懲りたら、もう我々に歯向かおうなどという態度は取れないように幕を引くとしよう」

 

 おやま。もう終わらせる気でいるよ、この人ってば。俺からしてみればそれも十分浅はかな考えだと思うんだけれどね。

 

「先輩。いくら何でももう終わらせると言うのは呆気無さすぎませんか? まだ試合は始まったばかりなんですから、もうちょっとやりあいましょうや。俺も体が火照ってきたばかりですしね」

 

 実際問題体にエンジンが掛かったばかりで温まってきたので早く動きたくてしょうがない。具体的に言うと真冬の真っ只中に駐車させた車の中が冷凍庫かと言うくらいの冷気が車内を満たし、エンジンを掛けて暫く走った後の温かい温度が車内を覆い尽くすような、そんな感覚だ。あれは地獄から天国だね、まさに。

 え? それなら炬燵の中に入ったと言った方が解りやすい? 実は俺もそう思ってた。何で車で例えようとしたのかね?

 

「戯言を。もう貴様には五分・・・いや、三分も時間を掛けてはやらん。早々にケリをつけてやる」

 

 そう宣告をして、リディさんはランスを携えて俺に向かって一歩を進み出る。

 これ以上の問答は不要とばかりに敵意を滲ませた瞳が俺の姿を捉えているのが、雰囲気だけでも認識できる。本当に三分もかけて俺をなぶり倒そうとは思っていないみたいだけど、同時に完膚なきまで俺の心をへし折ってやろうという意気込みは感じ取る事ができた。感じたくなかったけども。

 それでも・・・あの目から逃れられる事ができないのは明白、つまり回避不可能であるという事。これは流石に真面目にやらないと駄目か。最初から真面目にやれというツッコミは無しの方向で。

 俺は聖剣を八相の構えでリディさんの動きに備える。ここから考えられる彼女の動きは正面からの吶喊・・・と、ドンッ! という爆音と共に地面を蹴り出した彼女が本当に正面から突撃してきた!

 

「――はぁっ!」

「ふっ!」

 

 短く吐き出された息と共に繰り出されたランスを、俺から見て左側に逸らすように聖剣で弾く。持ち直されたランスの一突きが再び正面か来るが、それを冷静に見てはいなすように聖剣で受け流していく。

 突き貫く事が専売特許のランスと取り回しに優れた剣とでは、いくらか手数ではこちらが有利だ。問題は俺の聖剣の強度だが、あと幾分かの余裕はあるが長くは持たない。防戦一方と言うのも時間を掛ければ掛けるほど不利になるのは此方だ。となれば、ここからは俺も積極的に攻めていく。

 俺の夢の為、まずはシェルダンと劉の処分を取り消す為に、出せるだけの全力で抗う。

 追撃するランスを弾いては受け流すこと数合目。俺は柄を握る両手に力を込め、正面から迫るランスを上に打ち上げるようにして叩き付ける。

 

「ぐぅっ・・!」

 

 打ち上げた時の衝撃が伝わったのか、リディさんは小さな呻き声を上げつつもその場に踏みとどまる。その隙を見逃さず、俺は一歩前を踏みしめる。

 振り落とされた聖剣の一閃が盾に防がれるも、その一撃が僅かに盾の表面に傷を付けていた。手応え有りだ。

 反撃の隙を与えず、俺は切り返した黄金色の刃で盾に斬撃を与えていく。一撃毎に細かい傷が盾の表面に浮かんでいき、次第に盾全体に亀裂が走っていく。

 

「っ! この!」

 

 盾の異変を感じ取り、リディさんは防御を捨てて反撃に移る。破壊される前に盾を投げ捨て、ランスを突き出してくる。盾を捨てる判断が早い・・・とすれば、ここからは純粋な力量勝負になるな。

 ランスと聖剣が互いに一本ずつ(俺はまだ二種類残ってるけど)。突き出されるランスを聖剣で受け流しながら開けた左手でランスの側面を握りしめる。左プロテクターの鋭い指先がリディさんの得物を抉り、動かせないように抑えながら右手の聖剣をリディさんの頭目掛けて振りかぶる。

 え? 刃物で頭狙うのは危なくないかって? 向こうは実戦経験者なんだ、きっとEバリア張って防御してくれるからダイジョブダイジョブ。

 そんな俺の考えを余所に、正確に捉えた瞬間『取った!』と思った矢先、自らの得物から『手を離し』、海老反りの要領で聖剣の一太刀を寸での所で回避された。

 

「うっそだろオイ!?」

 

 驚いているのも束の間。海老反りから姿勢を戻したリディさんは再びランスの柄を握りしめると地を蹴って俺の腹目掛けて膝蹴りを叩き込んできた。

 

「ッ・・カハッ!」

 

 地を蹴った時の勢いとランスに体を引き寄せる勢いとが合わさって、モロに一撃を食らった俺は腹に詰まった物が肺の空気と一緒に吐き出される感覚に襲われるも、一瞬唾を飲み込んで無理矢理抑え込む。その一連で俺はランスから手を離していた。これ以上得物を掴んでいると打撃だけに留まらないと判断したからだ。

 俺の一太刀を回避しただけでなく、カウンターばりに打撃を与えてくるとは・・・やっぱりこの人は強い。さすがは生徒会。軍人家系の血筋なこともあって、判断力と対応力に優れている上に力量の違いを思い知らされる。

 

「ふむ、浅かったか」

 

 距離を取る俺を一瞥しながらリディさんは惜しいなと言わんばかりの表情をしながら呟いた。浅いも何も腹の物が出そうになったんですががが。

 俺が出そうになっている物を飲み込んでいる最中、リディさんは再び突撃。何度目になるか忘れたランスの矛先が俺の喉元を貫かんと差し迫ってくる。出そうになった物もギリで押さえられたんで聖剣でそれを軽くいなしながら、突き出されるランスの下を滑らせるように聖剣を振るう。

 ギャリギャリと金属同士が削り合う音が響く中、聖剣が向かう先はリディさんの腹部だった。

 

「っ!」

 

 リディさんも聖剣が向かう先を察知したのか地を蹴って、飛び上がる。彼女の腹に向かっていた聖剣は空を裂き、間一髪のところで回避された。が、そうなる事は分かっていた。リディさんの目が聖剣の向かう先に向いていた一瞬を見逃さなかったから。回避されることは確信していた。

 回避したリディさんは真後ろで着地しながらランスを振るってくるだろう――それを見越して、俺は振り向きざまに聖剣を切り返しながらいつでも応戦できるように備える。

 振り返ると案の定、リディさんはランスを突き出していた。俺が思っていたよりも早く地に足を付けていたが、その程度で動揺するわけにもいかない。動揺するならさっきの海老反りだけで十分だ。

 切り返していた聖剣でランスを弾き、反撃とばかりに斬りつける。彼女も同じことを考えていたようで、ランスで防ぎながら弾き、同様に返してくる。

 

 突かれ、防ぎ、斬り、防がれ。そんな攻防を幾度も続けると、流石に体力がもつ筈も無く。俺とリディさんはほぼ同じタイミングで互いに息を切らせ始めていた。

 

「ハァッ! ハッ・・・どうしました? 三分も時間はかけないとか言ってませんでしたっけ?」

「ハァ・・・ハァ・・・黙れ! 宣告通り、もう終わりにしてやる!」

 

 俺の言葉に苛立ちを募らせたのか、リディさんの周囲に異変が起きた。彼女の躰から溢れんばかりのエナジーが放出され始めた。

 陽炎の様に揺らめく透明なエナジーがランス全体に収束されていく――同時に、ランスが開いてドリル回転を始めた。さながら残るエナジーを余さず込めて突貫に集中し、恐らくガードするであろう俺を防御ごと破ってダウンさせる腹積もりなんだろう。流石にあれだけのエナジーを込められたら、さきの攻防で6割にまで削られた俺の残り体力(ヴァイタル)も全て削がれるに違いない。それほどの威力があの一撃にあると、俺は直感で感じ取る。

 ならば当たらないように回避するまで・・・と言いたいところなんだけど、流石にこの決闘(デュエル)が始まってからこれまでの短い経験上、リディさんが当てないという確証はない。実戦経験豊富でありこれまで幾度となくサベージを屠ってきた彼女の実力は、はっきり言って指折りだ。そんな彼女が『目標を外す』などという失敗はまずしない筈だ。とすれば、俺が取るべき選択肢は自ずと絞られてくる。

 

「エナジーの大半を込めた最大の一撃、ですか。ならば俺も・・・それなりにお応えしましょう」

 

 俺の言葉の真意が掴めないのか、リディさんは訝し気に首をかしげつつ、俺を一直線に見据える。

 対する俺は右手を前に突き出した。聖剣がリディさんに向いて掲げられているが、何も"攻撃する為に向けたわけじゃない"。

 意識を集中――右手を基点に、質量として固定させていた聖剣のエナジーを分解させる。離れた位置に突き刺さった長刀や双剣を俺の前に引き寄せつつ、それらの形状を固定させていたエナジーも分解し、右手に集束。

 淡い光が右手に宿る中、突き出した右手の先に一輪の蕾のような物体が現れる。手元に現れたそれは次第に花が咲くように開いていき、蕾だったものが完全に開かれるとそれを基点に『三枚の花弁』が展開される。

 それら三枚が俺のエナジーである事を意味する色を放っていて、眼前に三層の壁となってリディさんとの間を遮っていた。

 俺のエナジーで模造した双剣と長刀、聖剣それぞれに込められたエナジーを使って形成した盾。その名も――

 

 

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)

 

 

 

 某赤い弓兵ご用達の盾まんまである。七つと書いて実際は三枚しかないけど、そこんところはツッコミは無しの方向で。OK?

 

「大型の盾・・・だと? そんなものまで持ち合わせるか・・・だがっ!」

 

 近接武器のみしか模造できないと踏んでいたのか、俺が展開したそれに驚きを隠せないリディさんが呟く。

 

「その程度で防がれるほど――わたしの攻撃を甘くないぞッ!!」

 

 しかし、いつまでも驚いている訳にはいかず。リディさんのランスの回転が最高潮に達すると、激しい唸り声を上げるランスを真正面に突き出しながら突撃――彼女の誇る最大の一突きが、俺が誇る最強の防御に向かってくる。

 ランスの矛先が接触したのは第一の壁。三層の壁から成る俺の盾を突破するには、まずは順に破壊して第二第三の層を破壊していかなくてはならない。しかし、第三となる最後の壁はそう簡単には突破する事は難しい程、堅牢な造りとなっている筈だ。

 

 この盾自体は先程言ったような問題点には当てはまらず、最初から盾として機能するよう設計してもらっている。

 この盾が父さん母さんに相談して設計・構築してもらったプログラム通りに機能しているのなら、最後の壁は分厚い壁となって、リディさんの突きを防いでくれるだろう。まだ試したことはないけど、きっとクレアさんの砲撃にも耐えれるようになっている筈だ。・・・多分。

 

 だからと言って他の壁が脆いなんてことはない。最後の壁とはいかなくとも、それぞれも負けないほどの強固な壁が合わせて三層にもなっているのだ。そう簡単に突破されることなんて滅多にないだろう。

 

「おぉぉぉぉっ!!」

 

 しかし。それはあくまでも『通常の攻撃』ならばでの話だ。

 今リディさんが破壊せんと押し込むように突き出しているランスの回転がさらに唸りを上げる中、俺は見た・・・一枚一枚が強固な壁となっている筈の、第一の壁にヒビが走った瞬間を。

 それに伴い、ランスの回転もさらに激しくなっていくとヒビが第一層の壁のほぼ全体に及んでいく。とすれば、後は必然的に――

 

「まずは一枚!」

 

 声と共に、さらに突き出されるランスの先端が第一の壁を完全に破壊した。そのまま第二の壁にランスの矛先が突き進んで・・・ッ!?

 

「ハァァァァッ!!」

(おいおいおい、さっきよりも勢い増してるのは気のせいですか!?)

 

 俺の考えた通り。リディさんのランスの回転は勢いを落とすどころか、さらに激しさが増しているように感じた。

 何故、あれほどまでのエナジーが減るどころか増えているのか疑問に思う。リディさんの残りエナジーは6割程度しか残っていない筈。それがこうして第一の壁を破壊して、そのまま第二の壁すらも破壊せんとさらに勢いを高めていく。

 しかし、全てのエナジーを費やしてまで迫ってきた彼女のエナジーでは、確かに第二の壁"まで"は破壊できると思う。但し、それで第三の壁を破壊するというのは無理に近い。仮にできたとして、堅牢な第三の壁を突破するにはエナジーが足りない筈。

 過去に幾度と無くサベージを屠ってきた経験豊富な彼女が、そんな計算ミスをするとは思えない。だが現に、彼女の得物は内包するエナジーが増してきていると実感できる。まるで『余所からエナジーを供給している』ような・・・

 

(? 『余所から』?)

 

 現状、リディさんと相対しているのは俺だけだ。互いに武芸者(スレイヤー)――俺は『見習い』と付くけど――ならば、共通するのはエナジーくらいだ。それでいて実戦経験豊富な彼女ならば、あるいは。

 俺は正面に掲げた自身の右手の先、その手元に展開した盾を見やる――そこで俺の表情は驚愕を露わにした。自分でも自覚できる程の筋肉の強張りを感じながら、俺は目の前にある現実を言葉にすることができなかった。

 

「ほう・・・この状況でも冷静に事態を把握するとは大した奴だ!」

 

 相対するリディさんが感心した口調で言う。それも当然だろう。何せ『盾を削っていく際に生じた粉状のエナジーが、ランスに吸収されていく』なんて光景を目の当たりにしたら、誰だって言葉にできない筈だ。

 

 

 リディさんのやってることは実に単純な事だ。高速回転するランスで俺の盾を削り、その際に生じたエナジーの残滓をランスが吸収して勢いを増加させているだけに過ぎない。

 やっている事は単純に見えるだろうが、これを戦闘中にやるには相当な熟練度と集中力が必要になる筈。ランスと盾が接触している箇所を一ミリもずらさず、一点に集中してただ穴を開けるが為に他から足りないエナジーを補う――武芸者(スレイヤー)見習いの俺から見ても明らかな高等技術を前にしては、もはや感服の念を抱かざるを得ない。

 

 

 原作ではされる筈も無かった戦い方に驚いている中、リディさんは勢いを増したランスを更に押し突きながら、俺の言葉を待たずして言葉を続ける。

 

「わたしにここまでさせた事は正直に褒めてやろう! だが・・・最後に勝つのは、このわたしだっ!!」

 

 その勝利宣言を証明するかのように、俺の盾の二層目が突破された。このままだと確実に三枚目も突破されてしまう・・・そんな予感を裏付けるように、ランスの切っ先と接触した第三の壁にも次第にヒビが走り始めていた。早すぎだろオイッ!?

 

「こン、のぉッ!!」

「む!?」

 

 俺は余るエナジーを費やして第三の壁の修復にかかる。走っていたヒビが徐々にだが押し返され、元通りの壁に修復されていく。

 防いでいる最中に修復できるか試したことなんてなかったけど、とりあえずは出来てよかった。これでまだ何とか出来る・・・筈。

 

「「おぉぉぉぉぉっ!!!」」

 

 ランスの回転が更なる唸りを上げ、俺は盾に亀裂が生まれる度にその修復を繰り返し、互いに腹の底から絞り出すように雄叫びを上げていた。

 ここを突破されたら、ほとんどのエナジーを費やしている俺が僅かな差で敗北する。反対にリディさんのエナジーが尽きれば奇跡的に俺の勝利。だけど互いにエナジーが尽きれば……えぇい、今は目の前に集中しろ俺!

 相手は本気で向かってきてるんだ。俺も全霊を掛けて向き合わなきゃ失礼だろ! とにかく耐えろ、俺! ここで踏ん張らなきゃこの戦いに赴いた覚悟が無駄になる!

 人を助けられる『正義の味方』になる――その夢を叶える為に・・・何よりも、困っているシェルダンと劉を助ける為にも!!

 

 

「負けて・・・たまるかぁッ!!!」

 

 

 最後となった盾にエナジーをさらに付与し、防御に集中する。一点突破を仕掛けるランスの切っ先が当たる点に集中してエナジーを収束――こうすれば突破するのも難しくなる筈だ!

 上方の掲示板に目をやれば、互いのエナジーはぐんぐんと減り続けていく。よし、このまま推し切れば最悪は引き分けに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――残念だが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『持ち込める』・・・そう考えていた俺の思考を読んでいたかのように、リディさんの言葉が思考を遮る。

 先程とは打って変わって淡々とした口調のせいか、頭の中で警鐘を鳴らしたような錯覚を覚える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さきの宣告通り、この勝負――わたしの勝ちだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変わらぬ勝利宣言を裏付けするかのように、リディさんのランスが"俺の盾を貫通し、破壊していた"。

 一点に集中していたエナジーを勢いのままに削り取り、その残滓を吸収して爆発的な勢いで加速したランスが盾を貫いた。

 削り取るというただそれだけの行為で、俺が唯一持ち得る最大の防御を突破された。その現実が、俺の心臓を抉るような勢いで心に深く刻みつけられていく。

 

「――ッ!!」

 

 驚きを隠せない俺の眼前にまで突き付けられたランスが寸前で止まり――直後、決闘(デュエル)終了を示すブザーが鳴り響く。

 

『――試合終了。勝者、リディ・スタインバーグ』

 

 実況席に座るエリカさんの淡々とした言葉がマイクを通して会場全体に設置されたスピーカーから流れてくる。結果は、残ったエナジーが僅かな偏差でリディさんに軍配が上がり、俺は残存エナジーがゼロという事で勝敗が付いたのだ。

 その直後に観客席からかなりの歓声が沸き上がり、誰もがリディさんの勝利を讃えていた。しかし、そんな中でも俺に対する称賛の声は意外にも少なくなかった。

 「上級生相手に善戦したな!」とか、「残念な結果だったが頑張っていたぞ!」とか、そんな声が耳に届く。ふと振り向くと、観客席から見ていたであろうフリッツとサンテミリオンが揃って親指を突き立てた拳を突き出していて、その隣に座っていたシェルダンと劉が2人に同調するようにしきりに頷いていた。

 

「・・・ハハ・・・別に善戦できていなかっただろ」

 

 否定的な言葉を呟く俺の言葉を聞き届ける者はこの場にいないが、まぁ、一応全霊は出したと思う事にする。

 しかし、やはり全霊は出しても当初の目的を果たせなかったのには悔しさが残る。

 

 当初、俺はこの試合を引き分けにまで持ち込んで、二人の放校処分を考え直してもらうのが目的だった。

 

 原作では如月が途中でその身に宿る力――"ヴァリアント"の力を覚醒させてクレアさんとの試合には敗北したが、試合前にクレアさんが自らに課した「全身武装はしない」というルールを破った事で試合結果は引き分けと言う形で収束し、2人の放校処分は無かった事にされた。

 だが、『俺』というイレギュラーの存在でその確定された結果にどう影響を及ぼしたのか、見当がつかなかった上にリディさんとの決闘(デュエル)が加わって――これだけでもう十分に原作崩壊を起こしているのだ。2人の放校処分が確実に決定してしまうという事態もあり得たのだ。

 二次創作で見られる原作改変――『転生者』と言うイレギュラーが混じれば、原作とは違う結果に繋がってもおかしくはない。俺は『そんな存在』なんだ。だから俺は先程クレアさんに「敗北以外の結果ならば再考の余地あり」と確認と言質まで取ったのだ。

 俺と如月、『2人揃って敗北以外の結果を示したら』という目的が達成できなくなった以上、シェルダンと劉の処分は決定されたも同然だ。

 かなり悔しいけど、ここは我慢して飲み込むしかない。俺にはもう悪足掻きする事も出来なくなったのだから。

 歓声が沸き上がる中、俺はリディさんに一礼して踵を返し

 

「ちょっと待て」

 

 退場しようとしたところでリディさんに呼び止められる。振り返らないように横顔だけを見せるようにリディさんに向けた。

 

「昨日の様子から鑑みるに、貴様はあの2人とは何の接点も無い筈だ。そんな貴様がこの決闘(デュエル)に赴いた覚悟を問いたい」

 

 あの二人・・・と言うのは、言わずもがなシェルダンと劉の事だろう。確かに俺とあの2人とは何の接点もない。直接話をしたのは昨日の入学式の後が初めてだった。他人同士の筈なのに、何故そこまで2人の肩を持つのか――そう言いたいのだろう。

 そうだな・・・・・・具体的に言えば俺自身の夢を叶える為、まずは「2人を救って見せろ」と言ったクレアさん達にそれを証明する為と言うのが主な理由だが、それとは別にもう一つ理由がある。なに、他愛のない事だ。

 

 

 

 

 

「――単純な事ですよ。ただ、同じ学び舎でこれから時間を共にするんですから、入学早々困った状況になった彼女達の助けになってあげたい・・・それだけです」

 

 

 

 

 

 「まぁ・・・それも無駄に終わっちゃいましたけどね」と小さく呟く俺の言葉に、「・・・そうか」とだけ返したリディさんに構わず、俺は如月とエミールが待つ控えに向かう。

 

「アキラ、残念だったね・・・・・・で、でも、戦い自体は悪くなかったはずだよ! 結果が結果だったとはいえ、アキラはよく奮戦したと思うよ、うん!」

「仕方ないって。相手は実戦経験豊富で先輩なんだしさ。そんな人を相手に、お前は頑張ったよ」

 

 エミールと如月が励まそうと声を掛けてくる。そう言ってくれるのはありがたいけどさ、今はとにかく、悔しさが勝って気分を上げられない状態なんだわ。

 

「ありがとな、2人とも。俺はもう下がるけど・・・残る会長との戦い、頑張れよ」

「あ、ああ・・・」

「・・・アキラ」

 

 傍から見たら相当意気消沈しているのだろう俺の表情を見るや、2人はそれ以上言葉を掛けてこなかった。

 

 控えから去った俺は更衣室で制服に着替えると、如月の試合の中継に耳を傾けることなく闘技場(コロシアム)から出て行った。・・・目指すは男子寮の自室だ。

 

 

 ★☆☆

 

 

 PDAで開錠した自室のドアを開き、おもむろに制服の上衣を脱いでデスクに設けられた椅子の背凭れにかけるように投げた。が、完全に乗る事はなく、ズルズルと滑り落ちて床に落ちてしまう。それに目を向けずに壁際のベッドに倒れ込むようにして身を沈める。

 思い返すのは、今日の決闘(デュエル)の結果だ。経緯はどうあれ、俺はリディさんを追い込みつつも(実際はそういう風に見えていただけかもしれないが)冷静に返されて最終的に敗北した。

 結果が結果な為、残るクレアさんと如月との決闘(デュエル)がどうなるにしろ、2人の放校処分は決まっているようなもの。これは覆しようがない事実だ。

 結局は、今日俺のしてきた事は全て無駄になった。その事実に俺の中にある悔しさが次第に募っていく。何よりも、自分の力の不甲斐無さにどうしようもない憤りが強くなっていく。

 

「ッ・・・悔しがったところで、現実は変わらないのにな・・・クソ」

 

 悪態を付きつつ、俺は窓の外から照り付ける太陽の光を背に浴びながら、ベッドに浮かんだ自らの陰に塞ぎこむようにして縮こまる。そんな状態で何分もいたせいか、先程までの激しい運動のせいで次第に眠気が募っていき、俺はいつの間にか、深い眠りについていた。結局その日は、翌朝になるまで俺が目を覚ます事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日の夜、床に落ちた上衣の胸ポケットにしまっていたPDAの着信音に気付かなかった。




と言う訳で、アキラの初戦闘は敗北で終わりました。

その結果とアキラが最後に募らせた心情等は最初から決めていたとはいえ、描写にするのに相当頭と時間を使いました。
手数で追い込ませるために5種類もの武器を模造しましたが、それらを使い切ることなく盾の形成に使われました。これ以上長引かせると読んでいる方が疲れると思ったので。近いうちに活躍させてあげたいな・・・出番のなかった双剣と長刀は特に。

そんなこんなでアキラ対リディ戦はこれで決着しましたが、次回は飛んで原作時間翌日の休日から始めたいと思います。クレア対ハヤト戦の描写はスキップさせます。この展開を期待していた方々には申し訳ありません。

こんな駄文小説擬きですが、これからもよろしくお願いします。
それではまた次回で。
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