プロローグ
世界は永き混沌の中にあり、混沌の核には能力者達の暴走があった。
「なんとかこのサイズで造れたぜ……他世界から掻き集めた“Z-END”の力を圧縮して造った小型のブラックホールをよ」
同時多発的に人間から変異した能力者達は様々な能力(ちから)に陶酔しあらゆる犯罪を生んだ。
「テメェは俺の半分だ。その炎を吸いつくす力くらいはあるだろうぜ」
「フ……フフ……いやだな、明さん。ハッタリでしょ? どうせ」
能力なき人間達は彼らを恐れ
「ク……ちょっと……ジョーダンはやめて下さいよッ」
「ジョーダン? 何が? 今更ビビってんじゃねえよ、しげる」
「……や……やめろ…………」
脅威と決別の意を込めて
「い……いや…だ、いやだっ……いや…だッ! 俺はッ!」
地獄の門叩いた者達
「俺はまだ 生きていたいよ」
「KNOCKERS(ノッカーズ)」と呼んだ
その男は暗闇の中にいた。地面はおろか上も下も分からない、完全な黒一色の空間。その中で男は途方に暮れていた。
(……駄目だ。もうどっちが入り口だったか見当もつかねえ)
あらゆる質量、時間すらも飲み込み、光すら抜け出せない闇の世界、そこは人類未踏の地である。そこに生身の人間が放り込まれたという話を聞いた時、多くの学者がこう言うだろう。「生きているはずがない」と。
(こなつ……“オプイェクト”とも繋がらねぇ)
その体は流されているのか、或いは留まっているのかも判らない、まともに五感など機能しない空間でその男は生きていた。そして不可思議な点を挙げるならもう一つ.
この空間は男の視界から外れて捉えれば、完全な闇ではなかったということ、彼自身がまるで宇宙の中の恒星のように“光り輝いていた”という点だ。
(《この姿》で長くいるわけにもいかねえ。ハッ、いよいよどん詰りかよ)
そうやって男は自嘲気味になると、ふと己を顧みる。思えば自分のこれまでは、情けないことこの上なかったと。
幼少の頃に力に目覚め、やったことと言えば唯一向(ただひたすら)の破壊と家族を傷つけた暴走。
その後は自身の能力に怯え、力を秘して平穏に生きようとするが、私利私欲に身を任せる犯罪者達の姿に憤りを隠せず、悪い奴なら相手を選ばず手当たり次第にぶつかっていく荒んだ毎日。
それでもようやく吹っ切れて、いざ「このスゲェ力で世界でも守ってみるからよ…」などと粋がってみたものの、守るどころか破壊と混乱を広げた挙句、大切な人の記憶と、友の在るべき未来を奪った。そして最後はこれだ。
(全く、なにやってたんだ俺は)
何一つとして満足のいく事を成していない。そもそも、具体的にどんな生き方をしたかったのか、平和な世界でも築きたかったのか、それとも周りから賞賛されるような人間になりたかったのか、思い返しても全く理解のできない意味不明で支離滅裂な人生。
そうやって一通り物思いに耽ると、男は自分がこれからどうするかを締めくくる。己の進むべき道を。
(だったら…………とことんヤルしかねぇだろが)
それは愚直なまでの前進。何がなんでも己を通すという決意。男の口元は自然にニィっと不気味な笑みを作った。
生きたいと願った友の命を奪っておきながら、そう考える自分があまりにも馬鹿らしくて笑う。そして、あまりにも自分らしくて笑う。
(無様だろうが罵られようが構わねえ。じゃなきゃ“奴ら”を背負ってきた意味が無い)
男の顔に悩みは無い。いや、振り返ったところで苦悩する余裕など与えられていない。あれこれと考えて選ぶ時間など無い、「選ぶまでもない」生き方しか男には無い。
(生きてやるッ! たとえどんな形になったとしてもだッ!)
男の意思は進み出す。未だ視認することさえ不可能なその先を、必死に見据えようとしながら。その時だった。
(あ? 何だありゃ?)
遠目ながら、自分が生み出す光によって確認できる“何か”。それがこちらに向かってヒラヒラといった感じに降りてくる。男には分からなかったが、何の抵抗も存在しないこの空間では有り得ない現象だった。
徐々に近づいてくる何かに対し、咄嗟に手を伸ばす男。しかし、十分にそれと距離が縮まったところで、男は自分のミスに気付く。慌てて手を引っ込めようとするが遅かった。
落ちてきた紙のようなものに、ボゥっと火が着いてしまう。
よく見るとそれは一枚の封書だった。ブラックホールという異空間には不釣り合いな存在、さすがに男にも分かった。これは今の状況を打破するために必要なものだと。何者かの罠の可能性もあるが男には関係ない。少なくとも何かしらの変化はあるのだから。
再度、燃えている手紙を取ろうとする男。
手紙はその間も燃え続けて、封筒は燃え尽きかけ、中の便箋が露になる。その様子が男の視界に入ったとき、
“男はその場から姿を消した”
余談ではあるが、彼が目を通すことができなかった手紙の内容はこうだ。
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能(ギフト)を試すことを望むならば、
己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、
我らの“箱庭”に来られたし』
さらに追記しておくと、彼が燃やしてしまった封筒には
“宛名は書かれていなかった”
本編に入るのは次からとなります。できるだけ、どちらの作品の雰囲気も壊さないように精進していきます。