異端児が世界を終わらせるそうですよ?   作:タッタ

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 ようやく原作に入ります。それではどうぞ。


1話「他人の迷惑を省みず異端児が落ちてくるそうですよ?」

 その地平線は円を描いてはいなかった。

 果てしなく続く大地には木が、花が、水が、地球には存在しない沢山の命が溢れていた。

 そこはまさに異世界だった。

 

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます」

 そうやって嬉々と話す美しい少女は頭にあるウサギの耳をピコピコと動かす。

「が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいです?」

 問い掛けた先には三人の少年少女。

礼服を着て長い黒髪の両サイドをリボンで結った女性。

動きやすそうなジャケットとショートパンツを着込んだ短い茶髪の女性。

学生服にヘッドホンを付けた金髪の男性。

 共通しているのはみなずぶ濡れだということ。

 

 ここは箱庭と呼ばれる世界。

 修羅神仏、悪魔、精霊、摩訶不思議な存在が寄り集まって構成された舞台、そこでは日夜、特異な力を持つ者達が鎬を削っている。

 それらの勝負は「ギフトゲーム」と呼ばれ、勝者には多大な“恩恵”が与えられ、敗者は全てを奪われるという。

 彼ら三人は各々がこの箱庭に招待された強大な力を持つ能力者達、そして説明をする彼女は黒ウサギと呼ばれる箱庭の住人である。ちなみに三人が濡れているのは、呼び出されて早々に空から湖に落とされたからだ。

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 口を挟んだのはヘッドホンの少年、逆廻(さかまき)十六夜だった。

「………どういった質問です? ルールですか? ゲームそのものですか?」

「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ」

「それにしても、暑いわね」

 十六夜が話している最中に黒髪の少女、久遠飛鳥は誰に言った訳でもなく、そんな事を呟きながら手をパタパタさせる。

「ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ」

「………………暑い」

 もう一人の茶髪の少女、春日部耀(よう)も弱々しく暑さを訴え始める。腕に抱いたお供の猫も舌を出してバテ気味だ。

「俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 十六夜の話を聞いている黒ウサギの扇情的な衣装の間から見える肌理の細かい肌も汗ばんでおり、辺りを見回しながら話している十六夜の額には一筋の汗が流れた。

「この世界は………ってなんだありゃ」

「「「へ?」」」

 十六夜の視線を追うように三人も空を見上げる。と同時に、足元の影が濃さを増す。

 

 それを一言で現すなら「白」だった。

 夜、明かりを点けたばかりで眩しいという感覚に近い。但し、その明るさは蛍光灯の比ではない。おまけに熱まで感じる。日光の何十倍はあろうかというものだ。“それ”の大きさはその光故に判断することはできない。

 端的に言えば、空を覆うほどの光と熱を放つ物体が落ちてきたのだ。

「な、に……かしら? 隕石?」

「ただの鉄のカタマリが、あんなに光るかよ。箱庭だからな……UFOとか?」

「………キレイ。だけど……キケン?」

 正に三者三様の意見を述べる来訪者達。

「って貴方がたは何を落ち着いているのですかぁ―――!?」

 それにすかさずツッコミを入れる黒ウサギ。

 その間にも謎の発光体は地上へと向かって落ちていく。既にその熱量は笑い事では済まされないものに変わっていた。

(これはもしかして“魔王”のッ!?……いやっ、それは考えられないのですッ!)

 黒ウサギの頭の中を箱庭最悪の存在が過ぎるが、これを否定する。なぜなら

「来るぞ」

「え?」

 そこで十六夜の声が掛かり、黒ウサギは思考を中断し空を見上げた。

 理由は分からないが、それまで空を覆っていた光が集まっていく。現れた実体は近くまで来ているにも関わらず意外と小さかった。

「全員避けろッ!」

「!!」

 十六夜の一声で咄嗟に飛鳥を除く全員が動いた。耀と黒ウサギは自力で、飛鳥は瞬く間に十六夜に抱きかかえられ湖のそばから離れる。

 地震にも似た衝撃、辺りに強烈な水蒸気と熱波が吹き荒れたのはその直後だった。

「うっ……」

 耀があまりの熱気に顔を手で隠す。

 四人がいた場所の草花は消し飛び、地面は抉れ、周りの木々は湖から外側に向かってミシミシと音を立てて倒れた。

「一体、何事ですかッ?」

「見りゃわかるだろ。落ちてきたんだよ、謎の物体Xが」

「って十六夜君ッ! 早く下ろしてくださらないッ!?」

 足をばたつかせて抗議してくる飛鳥を十六夜はその場にそっと降ろす。

「おいおい、助けてもらってそれはないんじゃないか?」

「自称ダメ人間に身体を任せたままでは助かった気にもならないわ!」

「ハハ、違いねぇ」

 揺れも収まり、飛鳥の皮肉を笑顔で躱しながら十六夜は未だ視界の悪い落下地点へと目を向ける。

「しかし、途中で縮んだのも妙だが、それを差し引いても被害が小さすぎる」

 そう言って、周りも見渡す十六夜。

「最後に見た質量から考えても、ここ一帯さら地になってもおかしくない筈だ」

「なにを今更。手紙で空の上にご招待されたときから、おかしな事だらけじゃない」

 十六夜の疑問にさらりと返す飛鳥。

「まぁな。だが俺が思うにあれは」

「……な……にあれ」

 掠れるような耀の声を聞いて、十六夜と飛鳥は視線を動かす。だが“それ”が視界に入った時点で二人の動きは止まった。

 黒ウサギと耀に関しては既に視線が固まり微動だにしていない。

 

 二眼レフカメラ。上下に連なっている二つのレンズのように、その“目”は並んでいた。なぜ目とわかったのか、理由ははっきりとしていない。

 朧ろげに見える影が人型で、ちょうどそれが頭の位置にあったからかもしれない。とにかく、全員が直感で確信したのだ。

 煙越しからでも見える鋭い眼光は、カメラのフラッシュとは比較にもならない。そこにいる全ての者がそれから放たれる凄まじい威圧感に動きを止める。

 先程までとは違う、嫌な汗が体にまとわりつくのを皆が感じた。

 しかし、そんな呪縛からの解放は意外と早く、呆気なかった。

 ギラギラとした目の光が消えた後、程なくして人影が倒れる。

 「何で?」と考える間もなく、最初に走り出したのは十六夜だった。

「十六夜さん!?」

 黒ウサギの制止の声を聞かず、十六夜は影の消えた場所まで一瞬で近づくと、その勢いで周りに漂う水蒸気の壁をも吹き飛ばす。

 残りの面々も追いついた頃、靄は完全に晴れ、湖の荒れ果てた姿と全ての元凶が明らかとなった。

 視界の開けた先に見えたのは、地に伏す一人の男だ。

 なんて事はない。歳は十六夜より一つ二つ上だろうか。黒のTシャツにジーンズ、肩まで伸びた黒髪をヘアバンドで留めた極々普通の少年がそこにはいた。

 あえて言うなら、目つきが悪かった。気を失っていたので瞼は閉じていたが、そこを差し引いても人相の悪い少年だった。

 だがそれだけだ。そのへんにいる不良となんら変わりない、寧ろその雰囲気には薄っぺらさすら感じた。

 見れば見るほど普通。だからこその不気味さが彼からは感じられた。

「………………人、よね?」

 少し怯えた様子で周りに確認する飛鳥。

「…………なんだろ?」

 正体が分かり、落ち着きを取り戻す耀。指で男の顔をツンツンとしている。

「彼は一体……」

 目の前で起こった事の答えを必死に探る黒ウサギ。

「わからねえのか」

「十六夜さん?」

 いの一番に駆け出した十六夜が口を開く。

「ギフトだ」

「え?」

 

 その時、十六夜は

 

「箱庭から俺達への」

 

 箱庭に来て二度目の

 

「サプライズギフトさ」

 

 愉悦を感じていた。

 

 

 




 寝る子を起こすのは次回になります。次はもっと早く投稿できるように頑張ります。
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