海軍特別犯罪捜査局【改】   作:草浪

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NSCI改 #02 好奇心(2)

 

「ご苦労様です!」

 

車に戻ると、制服を着た婦警が私達に声をかけてきた。

本来、立ち入り禁止テープの中にはスーツを着ている警察官しかいない。なのに何故制服を着た婦警が中にいるのか。答えは明白。

 

「青葉さん……? 何をやっているんですか?」

 

のわっちが正解を言う。そもそも婦警帽を被っていても、ピンク色の髪の毛がまったく隠れていない。まったく意味を成していない。どうして誰も気がつかないのだろうか。

 

「私は青本巡査であります! お探しの青葉の居場所がわかりましたのでご案内いたします! 乗ってください!」

 

青葉改め、青本巡査は躊躇なく後部座席に乗った。私はこの青本巡査を日向の前に突き出そうかとも考えたけれども、大人しく指示に従う。のわっちに青葉を逃さない為に後ろの席に座らせる。けれどもエンジンはかけない。

 

「……それで。巡査。どこに向かえばよろしいので?」

 

「とりあえず車を出しましょう!」

 

元気よく車に乗り込んだ青葉は、はやくこの場所を離れたいようだ。

 

「行き先をナビにセットしないといけないのだけど?」

 

「青葉が……いえ、私がご案内します!」

 

「心配ご無用よ。最近のナビは優秀だからね」

 

私はナビを適当に弄りながら時間を稼ぐ。

 

「いいからはやく出してください!!」

 

青本巡査が私の肩を掴んだ。振り返ると、その顔は焦っていた。私はため息をつくと、エンジンをかけた。こちらを見ているお兄さんおじさん達に一礼し、ホテルから車を出す。

しばらく走り、ホテルからだいぶ離れた場所で青本巡査に声をかけた。

 

「それで、巡査殿。どちらに向かうので?」

 

「とりあえず適当に走ってくださいな」

 

「あんた、今からでも引き返して日向につきだしてあげましょうか?」

 

「そんなモテないからってピリピリしないでくださいよ。足柄さんはきっと美人だから交際相手ぐらいいるだろうって思われてるんですよ」

 

ちょうど信号が右折信号出した。ここの交差点はUターンができる。私はあたりに車がいないことを確認し、一気に右車線までうつると、ギリギリのタイミングで交差点に侵入しハンドルを一気に右に切った。

 

「わっ!! 冗談です!! 足柄さん!!」

 

「……青葉さん……退いてください」

 

バックミラー越しに、左の窓に張り付くのわっちの上で、青葉が涙目で訴えているのが見えた。そんな青葉を、のわっちが力づくでどける。

 

「次はないわよ」

 

「お二人とも手厳しいですね……あっ、そこ左に曲がってください!」

 

青葉の指示に従い、車を走らせる。無茶苦茶な指示をするのかと思えば、青葉の指示はタイミングも的確でわかりやすかった。ちゃんと、曲がった後の車線まで教えてくれる。

 

「そこの時間貸しの駐車場に停めてください」

 

青葉が最終的に案内した場所は先程のホテルからそれほど遠くない、人気の少ない路地の駐車場だった。空いているスペースに車を入れると、青葉がグイッと身を乗り出してきた。

 

「さて……足柄さん。取材してもいいですか?」

 

「私があなたを取材したいのだけど?」

 

「後でいくらでも。足柄さんが先です!」

 

青葉はそう言うと、グイッと手を伸ばし、ナビの画面の下の部分に手を引っ掛けた。

 

「何をする気かしら?」

 

「緊急企画! 気になる噂を検証! 元M型重巡Aは本当に派手な下着を着けているのか?! です!!!

 

青葉はそう言うと、力任せにインパネを引っ張り剥がした。バキッ!!っと嫌な音を立てる。

 

「あんた何してんの?!」

 

「大人しく剥かれてください!!」

 

「馬鹿やってんじゃないわよ! のわっち! 抑えて!」

 

「青葉さん!!」

 

のわっちが青葉の肩を掴み、引っ張り戻そうとするも、青葉を更に身を乗り出す。剥がしたインパネを助手席に放ると、中の配線部分まで手を突っ込んでいた。私も青葉を押し戻そうとするも、青葉は配線を引っ張り出すのをやめなかった。

 

「さぁ! 観念してください!」

 

青葉の力が緩んだ。そのまま青葉を後ろの席に押し込む。ブチブチっと何かを引きちぎる音がした。のわっちに抑え込まれた青葉は自信満々な顔で手に持っている黒い箱を掲げた。私はそれが何かすぐにはわからなかった。見覚えのあるそれは電源を失い、点滅していなければいけないライトが消えていた。

 

「青葉、見ちゃいました!!」

 

「……のわっち。そいつを外に出しなさい」

 

「わかりました」

 

のわっちに引きづられるような形で青葉は車を降りる。どっと疲れが押し寄せる。

 

「どうしてあんなものが……?」

 

私は大きなため息をつき、車を降りた。

 

ーーーー

 

青葉はのわっちに羽交い締めにされていた。しかし、青葉の顔は自信に満ち溢れている。

 

「のわっち。離してもいいわよ?」

 

「えっ? いいんですか?」

 

「構わないわ」

 

私はボンネットに腰掛け、青葉を見た。のわっちの拘束から解放された青葉は私に取り外された黒い箱を渡した。

 

「足柄さんはこれが何かわかっているようですね」

 

「えぇ。前に見たことがあるわ。海軍高官の車が盗難から奇跡的に無傷で帰ってきた時に取り付けられていたものと同じものだからね」

 

「なんなんですか? それ?」

 

のわっちが興味深かそうに私の持つ機会を見ていた。

 

「車用のGPSと盗聴器。電源が車から供給されるから常に電源が入ってる厄介なやつよ」

 

「恐らくこの場所も車内での会話も漏れているでしょう。面倒になる前にここを離れましょう」

 

青葉はそう言うと精算機に向かった。料金を支払うと、出しやすい場所のロック板が下がった。その上には派手な羽根をつけた車が鎮座していた。

 

「下品なリアウィングね……」

 

「何を言いますか! この子は崩落事故から記者の命を守った凄い車なんですよ! それにラリーでも証明された高い走破性能もあります! どんなとこにも取材に行けるんですよ!」

 

「私は丸目の時の落ち着いた羽根の方が好きだわ」

 

「あれは丸目だからいいんです。 青葉のは最終型ですからこれが純正なんです」

 

ニ代目最終型インプレッサ。鷹目インプと呼ばれるそれの運転席のドアを開けた青葉がこちらに早く乗れというジェスチャーをしている。私は助手席に乗り込む。マフラー以外、純正で手が入れられていない外装に対し、中はバケットシートにロールバー、追加のメーター類まで付いていた。のわっちなんて乗り込む時にロールバーに頭をぶつけている。

 

「記者のインプって初代よね?」

 

「本当は初代の二枚板のが欲しかったのですが……衣笠がこの子の方がカッコいいって譲らなかったんですよ」

 

「野分は前の車の方がいいです」

 

のわっちがぶつけた頭を抑えながら、抗議の声をあげる。私もそう思うわ。

 

「車の趣味は人それぞれですからね」

 

青葉はそう言うとエンジンをかけた。野太い低音がうるさくも心地よい。

 

「でも野分さん。運がいいですよ。今度四点式を入れようと思っていたので」

 

「そうしたら今度あなたをしょっぴきに行くわ」

 

「野分には何が何だか」

 

青葉は苦笑いをすると車をゆっくりと発進させた。段差を乗り越える振動がモロにくる。

 

「衣笠もよくこんなにするのを許したわね」

 

「アハハ……いつも文句ばっかりですよ」

 

ーーーー

 

青葉が向かった先は横須賀のはずれにある彼女の事務所だった。一階部分がまるまる駐車場になっている。三台ほど停められるスペースには原付とオフロードタイプのバイク、そして乗ってきた車が停められていて、一台分は空いている。

 

「随分と広い事務所ね。他にも誰かいるの?」

 

「青葉と衣笠だけですよ。どうぞ」

 

青葉に案内され、中の応接用のスペースに通された。

 

「それで……衣笠さんはどうしてあそこに?」

 

「日向さんと足柄さんは特捜に移ったことをしっていましたが……野分さんはいつから特捜に?」

 

「今日からよ」

 

「そうでしたか……それはまた……」

 

青葉はのわっちから顔を背けると何か考え始めた。

 

「これについても話した方がいいですね」

 

青葉は机の上に置かれた盗聴器を見た。

 

「なんであなたがこれが車にあったのか知っているか聞きたいけれども、そこは私から話すわ」

 

「じゃあ青葉は飲み物をいれてきます」

 

青葉はそう言うとパーテンションの裏に消えていった。

 

「それで……」

 

「えぇ。さっきも話したけれども、これは海軍高官の車につけられていたものと同じものだわ。日向と私が上から盗難車の捜査を押し付けられてね。実物を見たことがあるから間違いないわ」

 

「それが何故あの車に……いったい誰が?」

 

「そもそも、これが取り付けられた理由も外部の人間が海軍内の情報を得ようと取り付けたものなのよ。ここで言う外部っていうのは民間だけじゃなくて、役人さんも含まれているわ」

 

「どういうことですか?」

 

「のわっちも知っているとは思うけど、海軍はいまや大きな組織になりすぎたわ。知られたくない情報もたくさんある。それを知りたい人間はいっぱいいるってことよ」

 

「その知られたくない情報というのは私達艦娘についてが多いです。どうぞ」

 

コーヒーカップを三つ乗せたお盆を机においた青葉が補足する。私はその一つに口をつけた。のわっちもそれを飲む。みるみるうちに渋い表情に変わっていく。

 

「……濃いですね」

 

濃い? 私は薄いと感じたのだけど。

 

「青葉はいつも濃いめに淹れるので薄めたのですが……牛乳でよければお持ちしますよ?」

 

「……お願いします」

 

「足柄さんは?」

 

「私は粉を足してほしいわ」

 

「わかりました……というか、お客さんたち随分とわがままですね!」

 

青葉は何かがおかしいといった表情をしながらまたパーテンションの裏に消えて行く。私は青葉が置いていった青葉用の珈琲に口をつけた。これぐらいでちょうどいい。

 

「それで、艦娘に関する情報を欲しがる人たちって誰なんですか?」

 

「経済界の権力者、議員、大臣……要するに自分の権力を誇示したいおじさんたちね」

 

「……どういうことですか?」

 

のわっちの眉間にシワがよる。

 

「桐生大将が大和を連れていったでしょう? あれが羨ましいのよ」

 

「男女の仲が羨ましいんですか? いい歳した大人が?」

 

「……的を得ているようで得てないわ。そうね……じゃあ例え話をしましょう。のわっち。あなたは普通の人間でとっても偉い人になった。そんなあなたの秘書はこの私、足柄よ。どう思う?」

 

私は胸を張ってのわっちを見た。対するのわっちは訝し気な目で私を見ている。どういうことかしら。答えは一つしかないと思うのだけど。

 

「なんか嫌です」

 

私の想像すらしていない答えが帰ってきた。

なんか嫌?

泣いてもいいかしらね。

 

「頼もしいとは思いますけど」

 

本当についで。そんな具合の言い方でのわっちは付け加える。私の求めていた答えはそれよ。

 

「野分さん。そういうことですよ。さっきも言いましたけど、足柄さんはモテないだけで美人さんです。そんな女性が自分の側近にいたら周りからは羨望されますからね」

 

戻ってきた青葉が余計な一言を添えて補足する。でも悔しいけれど青葉の言う通りでもある。妙高姉さんは大手民間企業の社長秘書として引き抜かれたし、那智にもその手の話がたくさん来ているのは知っている。だけど、何故か私には来なかった。モテないの意味は違うけれども、美人ではある。

 

「いくら美人でも……」

 

「のわっち。なに?」

 

「なんでもないです。なんとなく話はわかりました。それで衣笠さんは?」

 

のわっちが早口に話題を切り替える。なんか悲しく思えてくるわね。

 

「青葉と衣笠はある海運の会社の社長さんが艦娘に興味があると聞いて取材しようと考えていたのですが……先にこれについてお話ししましょうか」

 

青葉はそう言うと、盗聴器を手に取った。

 

「実は、特捜に納品されている車両が不自然な運送ルートを辿っていたのがわかったのです。捜査車両としてメーカーに改修され、納品されるはずなら本来メーカーと特捜との間でやりとりされますよね?」

 

「えぇ。私もそうだと思っているわ」

 

「ですが、新たに設置された特捜車両。日向さん達が七係を設立する少し前から間に何か不思議な動きがあったんです」

 

「なによ。不思議な動きって」

 

「わかりません。ですが、明らかに不自然です。それまで陸路で運ばれていたはずの捜査車両が急に海路で運ばれはじめたんですから」

 

「……海の上なら身内以外の人目につかないから?」

 

のわっちがボソッと呟く。青葉は黙って頷いた。

 

「おそらく足柄さん達の車両にもなんらかの手が入れられているとは思いました」

 

「なるほどね……それで?」

 

青葉に続きを促すと、青葉は真面目な口調で話しを続けた。

 

「おそらく、衣笠がさらわれたのは口封じのためでしょう。ですけど、青葉も衣笠もこうなることを予想していなかったわけではありません」

 

「わざと連れ去られたわね」

 

「はい。もう少し情報を集めてからお伝えしようと思いましたが、青葉の予想よりもはやく日向さんが動かれまして……こうして協力することにしたわけです」

 

「ただのジャーナリストがよくやるわ……」

 

「じゃあはやく助けに行きましょう」

 

のわっちが興奮気味に立ち上がる。

 

「待ちなさい。一度オフィスに戻って日向に指示を仰いでからよ」

 

「そんな呑気なことを言っている場合ですか? 野分だけでも行きますよ。青葉さん、場所を教えて……」

 

私はのわっちの腕を掴んだ。のわっちが私のことを睨む。クールに見えて、意外と熱い子みたいね。嫌いじゃないわ。

 

「野分さん。衣笠は大丈夫です。落ち着いてください」

 

「そうよ。それにあなたの上司は私であり、私の上司は日向よ。言うことを聞きなさい。あなたの独断専行で捜査を引っ搔き回さないで頂戴」

 

のわっちは納得していなさそうな顔をしていたが大人しく座った。

「大丈夫よ。日向なら今頃全てを解決する算段をたてているわ……私にはわからないけどね」

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