"レンズを通して見るこの世界は、とても透き通っているように僕には感じる"
いつからか視力の低下に伴い使い始めた"眼鏡"。最初は視界の変化に違和感を感じたり付け外しが面倒だなぁくらいにしか思っていなかったけど、そんな不満はすぐに消え去り直ぐに自分の身体の一部のように馴染んでいった。
でもラーメンを食べる時に必ず曇るのは昔からずっと困っているんだ。いちいち気にしなきゃいけないからね。
え?眼鏡を外せばいいって?ま、まぁそんな細かい事は言わないでよ。
しかし慣れというのも怖いものだと思う。以前一度寝ぼけて床に落ちていた眼鏡を足で踏み潰してしまった時は絶望した。新しいのを作るまでぼやける視界にイライラして日常を過ごすだけでストレスが溜まったものだ。
と、そんな事は今はどうでもいいんだ。唐突だけど、実は…
僕の親友が、目の前でISを動かしています。
「ど、どどどどうしよう"優"!?」
こっちのセリフだよ。本当に勘弁していただけませんか一夏君。
「とりあえず降りられないの?そのISから」
「えーっと、ちょっと待てよー」
そんな悠長にしてる余裕ないって。こんな所誰かに見られたらーー「そこの二人、此処で何をしているんですか!」ああもうほら、言った側から人が来ちゃったよ。
「もう筆記試験は始まっていますよ…って、えええええっ!?お、男!?」
見回りの試験官さんかな?まぁ、そういう反応になりますよね。寧ろこの状況で冷静な自分が恐ろしくなるよ。
「な、なんで男がISに…う、上の人に連絡しなきゃ!」
焦った様子の女性は携帯を取り出すと、一目散に何処かへ電話をかける。
prrrrrrrr prrrrrrrr
「あっ、も、もしもし!い、今私の目の前でーーー」
あーあ、これは面倒事になるのは確定だね。
僕達はただ高校受験をしに来ただけなのになぁ。
一夏が躓いてISに触れなければこうはならなかったのになぁ。
「うっ、そんな目で見ないでくれよ…」
まぁいいや。今はそれよりも、ね?
「お姉さん、その眼鏡よくお似合いですよ。素敵です」
「……えっ?」
このお姉さんの眼鏡姿を褒める方が先かな。
美しい人がかければより一層知的な雰囲気を醸し出すし、天真爛漫で元気一杯な子がかければギャップが生まれる。眼鏡とはそんな素晴らしいアイテムなんだ。
僕の周りの人でも、一夏のお姉さんや中国娘の幼馴染なんかがいい例かな。
「えーっと、この先を右に曲がって…」
眼鏡の魅力を語るとキリがないのでここら辺にしておこう。さて、僕は今ある学校の校舎の廊下を歩いている。
「あった。あそこの教室だね」
時刻は朝早い。今日は入学初日の授業開始日なのだが、僕は寝坊してしまった。
昔から朝には弱いんだ。眼鏡をかければ瞬時に意識は覚醒するが布団の魔力からは中々離れられない。
「(一夏大丈夫かなぁ。まだ教室に入ってない僕でも心臓ドキドキしてるのに)」
とは言ってもこれ以上遅れるわけにはいかない。自分のクラスと思わしき教室の前に辿り着いた僕はドアに手をかけ一呼吸置く。
「(ふぅ、よしっ)」
ガラガラガラッ
「すいません、遅くなりました」
「遅いぞ"桐崎"。初日から何をしていた」
「寝坊しました」
「…ほう?」
ゆっくりとヒールの音をコツコツと鳴らしながら近づいてくる黒いスーツの女(鬼)。手には出席簿を持っていてーーって、ち、千冬さん?どうしてそんな硬そうな物を振りかぶっているのですkーー
スパァァァン‼︎
「いっつ!?」
「馬鹿者。初日から寝坊してどうする」
「す、すいません…」
て、手加減無しですか。まぁ僕が悪いのには違いないんだけど。
「今はちょうど織斑が自己紹介を終えたところだ。ついでにお前も自己紹介をしろ」
一夏の方をチラッと見るとドンマイとでも言いたげな顔をしていた。
ついでにその戦場を乗り越えたような誇らしげな態度をやめなさい。どうせまともな自己紹介も出来てないんでしょ、一夏だし。
スタスタスタ
「(…流石に女子しかいないとなるとやっぱりきついなぁ)」
教卓の前に立った僕は改めて教室の中を見渡す。どこを見ても女の子しかいない。もちろん異物である僕達二人を除いてね。
あ、そうだ。僕が今どこに居るのかを言うのを忘れてた。
「今日からこの"IS学園"に入学しました桐崎 優(きりさき ゆう)です。眼鏡をかけた女性だけを愛しています。よろしくお願いします」
結局、あの後すぐに入学の手続きをやらされました。
「ねーねーゆーくん」
ん?呼ばれた、のか?
「…えっと、ゆーくんというのは僕の事ですか?」
「そうだよー」
他の生徒達の自己紹介も含めて最初の授業が終わった。そのまま僕は自分の席に座っていたのだが、雰囲気がのほほんとした女の子が話しかけてきた。
「(…うん、似合いそうだ)」
ピピッ、と脳内眼鏡センサーを発動し、即座にイメージする。彼女が眼鏡をかけた姿を。
『やだっ、眼鏡取られるとはずかしいよ…』
うん、素晴らしき恥じらい女子の予感がするね。
「すいません、ちょっとこの眼鏡かけてもらえませんか?」
「えっ、め、眼鏡?」
「嫌なら構いませんが」
僕が彼女に差し出したのは赤い縁の眼鏡。予備として何個か持ち歩いているうちの一つだ。
「んーなんだかよくわからないけどいいよー」
「ありがとうございます」
素直に眼鏡を受け取った彼女はそのまま下を向いて…装着!
「これでいいのー?」
そう言って顔を上げる。
「……ッッ!?」
「似合ってるかなー?」
思わず絶句してしまった。何故ならーー
「可愛すぎる…」「え、ええっ!?」
凄く似合っていたからだ。
「とても似合っていますよ。貴女が醸し出す柔らかな雰囲気にぴったりです」
「そ、そう?えへへー」
ぐはっ。な、なんですと。ただでさえ天使みたいなのに加えて頬染めまで…
最高ですね。思わず鼻血が出そうです。
「是非とも眼鏡をかけることをお勧めします。今の時代は伊達眼鏡というものもありますから、視力が悪くなくとも問題ありません。どうでしょう?」
「ゆ、ゆーくん?ち、近いよ…」
おっといけない、僕の悪い癖が出てしまった。
それにしてもこの子、近くで見るとより一層可愛いな本当に。入学初日からこんな子とお近づきになれるなんて僕は運がついてる。
「ひゃっ!?」
眼鏡を外してあげようと手を伸ばしたらビクッ、という反応と共に可愛い悲鳴をあげられてしまった。これだけ距離が近いと確かに驚かれるのも無理はない。
「ご、ごめんなさい。眼鏡を外そうと思って」
「あっ、う、うん。はい、どうぞ」
距離を離すと同時に受け取った眼鏡をケースにしまって鞄に入れる。
「そう言えば貴女の名前を聞いていませんでしたね。お名前は?」
「布仏 本音(のほとけ ほんね)だよー」
「じゃあ本音さんで。良いものを見させていただきました、ありがとうございます」
天使、いや女神には感謝の意を述べなくては。ありがたやありがたや。
「むぅぅ、ゆーくんいじわるー」
「あははっ、ごめんなさい。つい貴女が可愛くて」
「も、もうっ!私席戻るねっ!」
駆け足で自分の席へと本音さんが戻って行ってしまった。もう少し話していたかったけど、仕方ないか。
「優、ちょっといいか?」
次の休み時間、一夏が僕に話しかけてきた。
「どうしたの?」
「お前に紹介したい奴がいるんだ」
…え?
「一夏、確かに勢いっていうのも大事だとは思うけどやっぱりお付き合いするならちゃんと相手のことをよく知ってからーー「ち、違えよ!いいから来い!」
あれ、違うのか。一夏に引っ張られるがまま廊下に出るとそこには僕達を待っていたであろう一人の美少女が。とても眼鏡が映えそうな綺麗な髪の毛と整った顔立ちをしている。
「えっと、彼女は?」
「…わからないか?優」
一夏に問われるが僕にはわからない。じーーっと彼女を見つめていると何処かで…と頭の中で引っかかる。
「(こんな時は、眼鏡を付けさせて考えよう)」
本音さんのときと同じように頭の中でイメージする。んーこんな感じかな?
『や、やめてくれ。私に眼鏡など似合って…えっ?か、可愛い?私が?
…ふふっ、ありがとう。少し恥ずかしいが、お前に褒められるのは嬉しいな』
デレた時の破壊力が半端じゃなさそうだね、うん。というか心当たりを思い出した。もしかして彼女は…
「箒さん?」
「!そ、そうだ。久しぶりだな優」
「よかった合ってた。小学校以来ですね」
「まさか優にもまた会えるとは思わなかった。お前は少し変わったか?」
そういう箒さんは昔から変わらず美少女だね。より大人っぽくなって。
彼女は篠ノ之 箒(しののの ほうき)。僕と一夏が小学生の時の幼馴染だ。剣道が凄く上手でよく一夏と打ち合ってた記憶がある。
「僕は別に変わってないと思うけど…」
「嘘つけ。少なくとも箒の知ってる優とは180度別人だぞ」
「そうなのか?"眼鏡をかけている"ことくらいしかぱっと見では変わっていないように見えるが」
ああ、眼鏡をかけ始めた時は箒さんはもう転校した後だったからね。
「さっき優が自己紹介で言ってただろ?」
「眼鏡をかけた女性がどうのこうのというやつか。驚いたぞ、あんなことを大衆の前で言うとはな」
「別に恥じることでもないし、僕は包み隠さずオープンにするタイプですよ」
最初は気恥ずかしさもあったけどね。
あ、それと僕の女性に対する敬語とさん付けは癖なんだ。同年代の子でも変わらないね。鈴ちゃんは例外だけど。
「…そうか、眼鏡をかけた女性が好きなのか」
「何か言いましたか?箒さん」「い、いや!なんでもないぞ!」
ボソッと小さな声で何か言った気がしたけど、気のせいか。
さて、それじゃあ早速箒さんにも眼鏡をかけてもらうとしますかね。
「よかったらお願いしてもいいですか?箒さんの眼鏡姿、見てみたいです」
「わ、私がか?」
「はい。無理にとは言いませんが」
僕は決して押し付けるようなことはしない。あくまでも趣味嗜好であって自分の中で満足したいだけだからね。
「う、うぅ、し、しかしだな」
「いいじゃないか箒。少し眼鏡かけるくらい」
ナイスアシストだよ一夏。やっぱり君は気の利く男だ!
「だ、だが肝心の眼鏡が此処にはないぞ!」
「それなら僕のをどうぞ」
「ゆ、優のだと!?」
今僕がかけている眼鏡を外して箒さんに差し出す。ちなみに今日は普通の黒縁眼鏡。シンプルイズベストというやつだ。
「…わ、わかった。眼鏡があるならかけるべきだな、うん」
何かを自分に言い聞かせるようにしながら箒さんは眼鏡を受け取る。そして耳にかかっている髪の毛を上げる仕草の後に…装着!
「ど、どうだ?」
…ああ。楽園は此処にあったんだね、父さん。
「結婚を前提にお付き合いしたいくらいに似合っています。とても綺麗ですよ箒さん」
「な、なぁっ!?」
箒さんの眼鏡姿はまるで、クラスを纏める真面目なお堅い委員長のよう。でもきっと裏では親しい人に甘えちゃうタイプなんだと思う。いやそうあってくれ。
それにしても眼鏡というものは凄い。僕をこうも簡単に笑顔にさせてくれる。きっと緩みきった顔をしているだろう、今の僕は。
「良いものが見れました。ありがとうございます。外しますね?」
「は、はいっ!」
あ、あの箒さん?眼鏡を外すだけなのに何をそんな決心したように目を瞑るんですか?何かを待っているようにも見えるけど。
「んっ…」
おっと、顔に手が触れてしまった。今は眼鏡をかけていないからあんまりよく見えないんだよね。
「はい、もう大丈夫ですよ」
「う、うむ」
慣れない眼鏡に緊張でもしたのかな。顔を赤くさせてしまって少し悪いことをした気分だ。
「そろそろ戻りましょうか。次の授業が始まってしまいます」
「そ、そうだな!戻るとしよう!」
まだまだこの学園にはきっと眼鏡が似合う女の子達が沢山いるはずだ。全員とはいかなくても何人か眼鏡女子を増やせたらいいな。
「…あれ、俺ってもしかして忘れられてる?」
《主人公紹介》
桐崎 優(きりさき ゆう) 男/15歳
眼鏡をかけた女性だけを愛するIS学園1年生。一夏がISを動かしたことにより自分も適性検査を受けさせられ見事機動させてしまった。
柔らかい笑顔と雰囲気を醸し出している。どちらかと言われると女性に可愛いと言われるタイプ。
基本的にはジェントルマンだが、無自覚タラシな部分があり行動の裏には眼鏡をかけてくれないかなぁと少し邪な気持ちがあるとか。
ヒロイン達に眼鏡をかけさせたいという一心で書きました。既に眼鏡属性のある山田先生と簪は主人公の中でとても評価の高いことでしょう。