「よし。これで全部ですね」
授業で使用した教材を運ぶために教室と資料室を行き来して2周程。ようやく全て運び終えた僕は一息つく。
クラス全員の分は流石に堪えるね。あ、でも一人で運んでたわけじゃないよ?
「ありがとね桐崎君!本当に助かったよー」
「ありがとうございます桐崎君。やっぱり男の子は頼りになりますね」
「これくらいお安いご用です。お二人に重い物を持たせて苦労させるわけにはいきませんからね」
今ここにいるのは我らが女神こと山田 真耶先生と、もう一人は今朝面識を得たクラスメイトの"岸原 理子(きしはら りこ)"さん。彼女なんと既に眼鏡装着済みです。素晴らしい。二人目の女神降臨だね。
「もーそんなこと言っちゃって!あんまり女の子に優しすぎるとやましい気持ちがあるんじゃないかって疑わしくなっちゃうよ?」
「そう言われましても…」
「ダメですよ岸原さん。桐崎君は純粋に善意で私達の手助けをしてくれたんですから、悪く言ってはいけません」
ああ、女神。圧倒的女神。その優しさに惚れてしまいそうです。
そうだよ。僕は純粋にお手伝いがしたかっただけだから。べ、別に二人が眼鏡かけてるとかそそそそそんなことは関係ないんだからねっ!
「んーそれじゃあそんな優しい桐崎君に何かお礼しないとだね、先生!」
「え?あ、はい。そうです…ね?」
たかが教材運びを手伝ったくらいでお礼なんていいのに。それと山田先生、岸原さんの勢いに乗せられてますよー。
「お礼なんてそんな、結構ですよ」
「…本当にいらないの?」
うっ、そう言われるとまた困る。褒美が出るのを自分から断る人なんていないでしょ。
「ではお礼とは何をしてくださるのですか?」
「なんでもいいよー」
「な、なんでも⁉︎」
顔を赤くして狼狽えないで下さい先生。別に変なことを言うつもりはありませんよ。
「じゃあ"理子さん"とお呼びしてもよろしいでしょうか?是非ともこれを機にお近づきになりたいです(お友達として)」
「…ふぇっ⁉︎お、お近づきに⁉︎(男女として)」
ん?なんか予想より驚きが強いぞ。僕そんなに変なこと言ったかな。
「わ、わわわっ!せ、先生はお先に失礼しますねっ!」
「あっ、山田先生…行っちゃった。いきなりどうしたんだろう」
突如逃げるように走り去って行く山田先生。なんだなんだ何が起きているんだ。先生にも今後何か手伝えることがあれば遠慮なく頼ってくださいねって言っておこうと思ったのに。
「(き、桐崎君と二人っきりになっちゃった。ど、どうしよう。なんか緊張してきちゃうよ…!)」
理子さんも何故かもじもじし始めるし。え、僕何かした?
「…これってさ、そういうことなんだよね?桐崎君」
「はい。そういうことですよ」
言った通りの意味だと思うけど。もしかして伝わりづらかったのかなぁ。
「私なんかでいいの?まだ少ししかお話してないんだよ?」
「だからこそ此処から仲良くなりましょう。僕、貴女のことをもっと色々知りたいです」
眼鏡女子とお近づきになれるチャンスだからね。逃しはしないよ。
「あーもうどうしよ。私の顔から火が出そうだよ。…これは責任取ってもらわないとだね」
「えっ?」
ん?彼女今なんてーー
「ふふっ、これからよろしくね"優くん"。私のこと大事にしてくれたら嬉しいな」
僕がまだ小学生の頃に一度だけ、千冬さんに眼鏡をかけてもらったことがある。確か篠ノ之道場でやってた一夏と箒さんの試合が終わるのを待ってた時かな。
勿論あの千冬さんがすぐにYesと頷くわけはない。だがそんな頑固鬼姉を前にしても当時の幼かった僕は中々にわがまま度が高く引き下がらなかったのだ。
やがて折れた千冬さんは『一回だけなら付けてやる』という台詞と共に僕の差し出した眼鏡を受け取ってくれたのだ。
「ーーあの時の千冬さん、綺麗だったなぁ」
「まるで今の私が綺麗ではないような言い方だな」
スパァァァンッ‼︎
「まさか。今の方が断然大人の魅力が増してお綺麗ですよ。ですから是非また眼鏡をかけていただいt「あの時の一回だけだと言っただろう」…ちぇっ」
断られると同時に冷静を取り戻した僕に頭を出席簿で叩かれた痛みがじわじわと襲ってくる。い、痛いけど我慢しなきゃ。
「そろそろ本題に入るぞ。お前と織斑に関することだ」
「あれ、一夏もですか。でしたら呼んできた方がよいのでは?」
ちなみに今は職員室の千冬さんの机の前だ。話があるから来いと言って呼び出された。
「今はいい。とりあえずはお前が最優先だ」
「はぁ」
僕を優先させる理由はなんだろうか。
「お前達二人に専用機が渡されることになった」
「入学して間もない初心者の僕達にですか?」
「ああ。自衛用のISを持たせるのと男性操縦者のデータ取りが主な目的だろう」
ふむ、そうか専用機か。まぁ男性操縦者は貴重だから支給されてもおかしくないのかな。
「織斑の方の専用機は"倉持技研"が担当する事になっているがお前の方はまだ決まっていない。だが、どうやらお前にテストパイロットになって欲しいと強く言っている所が一つだけあるらしい」
千冬さんから紙が渡される。そこには黒いボールペンで電話番号のみが書かれていた。
「かけるかかけないかはお前の自由だ」
「えぇ…これ怪しすぎません?」
普通こういうのは名刺を渡しておくんじゃないの?電話番号だけって…企業名とか担当者の名前とか書くこと色々あったでしょう。
部屋に戻った僕は一人電話を片手に悩んでいる。簪さんは今は隣にはいない。
「(かけるだけなら何も問題ないと信じたい)」
行動は起こさなきゃ始まらない。物は試しだ、かけてみよう。
prrrrrrrr prrrrrrrr
prrrrrrrr prrrrrrrr
ピッ
『…………』
「(あ、あれ?繋がった…よね?)」
携帯の画面を確認すると確かに通話は開始していて1秒ずつ時間が経過している。しかし電話の向こうから声は一切聞こえてこない。
「えっと、お話をいただいた桐崎ですが…」
『………ふふっ』
ピッ
「………ッ⁉︎」
背筋が凍った。今電話が切れる前、微かに笑う声が聞こえた。
「(…まさか)」
咄嗟に此処にいてはマズイと思った僕は一直線に部屋の入り口のドアへと走る。そして鍵を外し扉を開こうとしたのだがーー
ガチャガチャッ、ガチャッ!
「なっ、内側からなのに開かない…⁉︎」
何度も扉を開けようと試みるが何故か開かない。
スタ…スタ…スタ…
「(…ははっ、嘘でしょ?)」
足音が聞こえる。今は僕しかいないはずのこの部屋から。つまりその音は僕の背後から発生しているということ。
「(やばい。これはやばいよ。とりあえず落ち着くんだ僕。どうするのが最善だ。相手の目的は僕か?どうやって此処に忍び込んだ?)」
考える事はできる。だが解決策など一つも見つかりはしない。
「(此処で誘拐なんてされたらきっと人体実験のたらい回しにでもされて廃人コース不可避だ。やるしかない)」
とんとんとん
「ーーはぁっ!」
何者かに肩を数回叩かれた僕はすぐさま振り返りそれと同時にパンチを繰り出そうとする。が、
プシューーーーッ‼︎
「なっ……あ……く、そっ……」
スプレーのような物をかけられた僕は一瞬にして眠るように意識を失い床に倒れこむ。
視界が閉じる前に目に映ったのは、紫色の髪の毛と何処かで見たような服装だった。
『ねえねえゆーくん』
『どうしたの?おねえちゃん』
『私ね、この家を出て行かなきゃいけないんだ』
『えー!なんでー!』
『ごめんね。だからもう会えなくなっちゃうの』
『んーじゃあおねえちゃんとぼくのやくそくをつくろう!』
『…約束?』
『うん!やくそくがあれば、きっとまたおねえちゃんとあえるもん!』
『また会ってくれるの?』
『もちろん!』
『…そっかぁ。ふふっ、それならお姉ちゃんも心配いらないね』
『さみしくなったらいつでもかえってきてね。ぼくもいちかもほうきちゃんもちふゆおねえちゃんもみーんなまってるよ!』
「あ、起きた。おはようゆーくん」
薄っすらと僕は目を開ける。熟睡していた感覚だ。凄い眠気とだるさがある。
「まだ意識が覚醒してないねぇ。もう少し寝ててもいいんだよ」
誰か分からないけど聞き覚えのある声がする。まぁいいや。言われた通り今はゆっくり寝かせてもらおう。
「…いや、待って。誰かいるよね僕寝てる場合じゃないよね」
「なーんだ起きちゃうんだ。もうちょっと可愛い寝顔見てたかったのに」
今の自分の状態を把握しよう。まず場所は寮室の自分のベッドの上。時間はあれから少ししか経っていない。そして、隣には一人の女性が。
「えっと、貴女は?」
「そ、そんなぁ。覚えてないなんてひどいよ」
覚えてない?眼鏡がないからぼんやりとしか見えないけどこんな美人なお姉さんと僕に面識があるのか?
「うーん、何処かで…」
「そんなにじっくり食い入るように見られると流石に恥ずかしいかなぁ。ま、まぁゆーくんならいいんだけどね」
ちゃんと顔を確認しなきゃ。えっと、眼鏡眼鏡…あった。装着!
「………な、なにぃぃぃぃっ⁉︎」
「おや、その顔はようやく私のことを理解したって顔だね。というかゆーくんいつの間に眼鏡なんてかけるようになってたんだい?新発見だよ」
嘘だろ⁉︎どうしてこんなところに…
「た、束お姉ちゃん⁉︎何でこんな所にいるの⁉︎」
「やあやあ長らくお待たせしたね少年。ゆーくんのお嫁さんこと"篠ノ之 束(しののの たばね)"が久しぶりに会いに来たよ!」
ーー僕の身の安全は大丈夫そうだけど、何やらまだ一波乱起きそうな予感しかしません。はぁぁ。
理子ちゃんとは決して付き合い始めたわけではありませんよ。あくまでお友達ですから。
次回予告→5.幼馴染の姉が天災で僕の許嫁(本人談)らしい Ⅱ