「……………」
束さんとの話が終わって部屋に一人になった僕は眼鏡を手に取り眺めながら少し考え事をしていた。
"婚約者"という存在。しかも相手はあの世間を騒がす篠ノ之束。僕は普通の人から見れば奇想天外な人物にでも見えるのだろう。
そして束さんは世界に追われ身を隠している存在。そんな彼女と一緒になるということはそれ相応の男にならなくてはいけないと僕は思う。強くならなきゃいけないのもそうだし他にも色々とね。
でもこういうのを考えるのはまだ後でいいのかな。今から思い詰めても仕方ないし何より3年も時間があるんだ。ISの知識や操縦技術はこれからしっかりと磨いていこう。今はそれよりもーー
「…ダメだ。全くイメージできない」
皆も知っている通り僕は自他共に認める眼鏡っ娘好きだ。眼鏡をかけていない子がいれば脳内でかけさせて妄想したりもする。
だがしかし今の僕は何故か絶賛不調中。何度妄想しても束さんでは全く想像することができないでいる。その、なんというか、眼鏡をかけた束さんのことを考えていると胸がモヤモヤするというか照れくさくなるというか。
「(疲れてるのかなぁ。今日はもう休むか)」
自分に言い聞かせるようにして無理やり思考を中断し、かけている眼鏡と手に持っていた眼鏡をケースにしまってからベッドに寝転ぶ。
そのまま目を閉じた僕の意識は、ゆっくりと闇に沈んでいった。
〜次の日〜
「ーーであるからにして、この公式をーー」
「(千冬さんの教師姿は新鮮だなぁ)」
頬杖をつきながら僕は授業の様子を眺めている。数学は得意分野のため他の事を考えていても少し余裕がある。
「(絶対眼鏡似合うと思うんだけどなぁ。スーツ姿に合わせても)」
千冬さんは可愛いより綺麗とかかっこいいと言われる人だ。まぁそれはわかる。現在ではISの世界大会で、昔は剣道でも実績を残していたしその姿は凛々しいの一言に尽きる。
でも織斑家では自堕落な一面あるからね千冬さん。家事とか一夏に頼りっきりだし。そういう部分はギャップがあって可愛いと思う。本人は言えないけどね。殴られるから。
「(寝起きとかだったらかけてくれるかな?眼鏡)」
ああ、神よ。もし一つだけ願いを叶えてくれるなら是非とも千冬さんに眼鏡をかけさせてください。見たいんです。もう一度千冬さんの眼鏡姿。
『どうした優。私の眼鏡姿に見惚れているのか?もっと近くで見てもいいんだぞ。ほら、こっちに来い』
主導権を握っているのが千冬さんらしくて良いなぁ。是非ともこれから先の人生も引っ張っていって欲しいですねぇ。
ふふふ、妄想も絶好調だし今日こそ千冬さんにもう一度眼鏡をかけさせる案が思いつくかもしれないぞ。よく考えるんだ僕。
「おい桐崎」
「(いっそのこと寝ている間にかけさせようか。いや、千冬さんのことだ。寝込みを襲われると本能が働いて返り討ちにあうかもしれない。何か他の案をーー)」
「…やはり授業を聞いていなかったか。仕方ないな」
スパァァァン‼︎
「いったぁっ⁉︎…せ、先生?いつの間に僕の前に来たんですか?」
「お前が呼んでも反応しないからだ。授業は真面目に受けろ」
「織斑先生が眼鏡をかけてくれたら真面目に受けます」
スパァァァン‼︎
「二度は言わんぞ。いいな?」
「…はい」
くっ、正面突破はやっぱり無理か。しかし二発も食らうと流石に痛すぎる。頭がかち割れそうだ。
「だ、大丈夫?桐崎君」
「ご心配なく。これくらいなんてことないですよ」
嘘だ。隣の席の女の子に心配されて咄嗟にカッコつけてしまった。本当は今すぐに頭を抑えて机に突っ伏したいです。でももう後には引けねぇ。クールを突き通すんだ僕。
「そ、そう?男の子は凄いね。私なんて織斑先生に叩かれたら痛みでうずくまっちゃうよー」
「(…そうなるのが普通です。むしろ真顔を保ててる僕がおかしいくらいだよ)」
周りからの印象というのは大事だ。いずれ眼鏡を勧める時に相手から何だこいつと思われていては交渉成立もあったものじゃない。だから大衆の目があるときは変な人間にならないよう自分自身に気を張っている。
「む、そろそろ時間か。少し早いが授業はここまでにする。昼休みが終わるまでには席に着いているように」
「「「はい」」」
おや、もうそんな時間か。ぼーっとしてたからあんまり時間を意識していなかった。
「どうしたのだ優。体調でも悪いのか?」
「ちょっと考え事をしてただけですよ。心配は無用です箒さん」
「そうか。ならいいんだ」
授業が終わってすぐに箒さんが僕の元へ来る。お昼ご飯を一夏と三人で食べるためにこれから食堂へ向かうからだ。
あ、そうそう。彼女は目つきが鋭かったり人を近寄せない雰囲気があってちょっと怖そうに見えるけど、根は思いやりのある優しい子なんだ。そこは昔から変わってないね。後美少女なのも。
「勘弁して下さいまし桐崎さん。そんな腑抜けた様子ではわたくしとの対決に万全な体制で臨めませんことよ?」
…え?
「今の僕に言いましたか?」
「貴方以外に桐崎という方はこのクラスにいませんわよね⁉︎」
だって急に話しかけられたら聞き返したくもなるでしょう。そんな楽しくお喋りするような仲でもないんだから。お近づきになりたいとは思ってるけど、オルコットさん僕と一夏に対しては友好的な感じじゃないし。
「全く。素人がこのままで代表候補生のわたくしと勝負になるのかしら」
「あ、でしたら僕にISのことを教えて頂けませんか?オルコットさんは代表候補生とのことで優秀かと思われますし、お願いしたいです」
「なっ、ゆ、優⁉︎」
「あらあら。ふふっ。中々分かっていますわね。そう、わたくしはエリートなのですわ!下々の方の頼みとあらば教えて差し上げてもよくってよ」
し、下々かぁ。随分ときっついこと言うなぁ。オルコットさんのドヤ顔は可愛いんだけども。
「…優、その役目は私に任せて貰えないだろうか。ISについての知識だけなら私でも教えてやれるぞ」
「ちょっと、人への頼みを横入りして奪おうとするとは何事ですの?それに貴女は代表候補生ではないと思われますが」
「私は"篠ノ之束の妹"だ。代表候補生でもなくとも十分さ」
「むむむっ」
あの…お二人さん?どうして交わし合ってる視線の間で火花が散ってるのかな?僕が悪いの?これって。
それと箒さんの今の発言で皆ひそひそ会話し始めたよ。まぁ束さんの妹だなんて聞いたら驚くよね。
「優、箒、早く行こうぜ…って、な、なんだよ?どうしてオルコットさんと箒は俺を睨んでるんだ?」
「こ、この話はやめにしましょう!ね?今は昼食の時間ですから、此処で争っていては時間を無駄にしてしまいますよ」
「…わかりましたわ」「…ああ。わかった」
よ、よし、何とかこの状況を落ち着かせられたぞ。助かったよ一夏。君の空気を読まないプレーが僕を救ったんだ。
「行くぞ優。一夏」
「は、はい」「おう」
…さっき箒さんは優しい子だって言ったけど、しかめっ面でいかにも不機嫌ですよオーラが出てると流石に怖いです。はい。
僕はただオルコットさんにISについて教わりたかっただけなんだけどなぁ。願わくば一対一で。ほら、例えばこんな感じかな。
『あら、満点ですわね。素晴らしいですわ。それでは頑張ったご褒美に、膝枕をしてあげてもよろしくってよ?…ふふっ。冗談ですわ』
控えめに言って最高です。放課後の教室で二人っきりとかだったらもう言うことないね。あ、やばっ鼻血出そう。
でもどうしようか。ついあの場を切り抜けようとさっきの話を無しにしちゃったけど専属教師獲得のチャンスも失っちゃったよ。困ったなぁ。
「で、これがこうなってるからーー」
「ふむふむ、なるほど」
その日の夜に無事解決しました。今僕は簪さんにISについて色々と教えて頂いているところです。
しかし驚いた。まさか簪さんが日本の代表候補生だったなんて。
「簪さんは凄いですね」
「な、何いきなり。やめてよ」
そのわかりにくいけどよく見るとちょっと照れてる所も素敵です天使様。こんな世の汚れを感じさせない素晴らしいものを見せてくれるなんて神に感謝に尽きます。
「一週間後に戦うんでしょ。その調子で大丈夫なの?」
「どうでしょうね。アリーナは当日まで借りられないみたいなので本番のみの操縦となってしまいますが、まぁなんとかなるでしょう」
「代表候補生を甘く見過ぎ。初心者が束になっても恐らく勝つのは難しい」
「甘く見てるつもりはないですよ。ただ考え過ぎも良くないかなと」
無謀な挑戦かもしれないのはわかってるけど、僕と一夏も男だ。大人しく尻尾巻いて逃げるようなことはしたくないからね。
「せめて知識くらいは頭に入れておきますよ。そうすれば少しは変わるかもしれないですからね」
「…頑張って。応援してる」
天使からのありがたいエール。せっかく応援してくれているんだからちょっとはかっこいい所見せられるようにしなきゃ。
「よし、まだやるか」
もう少し今日は頑張ろう。簪さんも付き合ってくれてるからね。
『』の妄想シーンはそこで読むのを一時中断して実際に妄想して頂きたいです。じっくりとね。作者からのお願いです。
次回予告→7.天災が専用機を与えてくれるそうです