おなべとエルフと七魔将(ナイトセブン)   作:シュウナ・アカネ

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理想と現実は別物

 高校の中庭のどこからか程良い風が頬を流れ、なかなかの気持ちよさに男子生徒が風を全身に受け、余韻に浸る。周囲の目も気にせずに身体を風に任せ、日頃の疲れを風に流し癒す。それとほぼ同時に校舎から女子生徒が男子生徒へ近づいてくる。

 

「一緒に帰ろ!」

 

 男子生徒は地面に投げ置いていた鞄を拾い上げ、女子生徒と正門へ向かい歩き出す。

 

「ねえねえ、どこの部活に入るか決めた?」

 

 町の鐘の鳴り響く中、女子生徒が隣を歩く男子生徒に問う。新入の時によく話題になる陳腐な言葉が男子生徒の耳に届く。

 

「・・・・・・帰宅部」

 

「ぶはっ!もはや部活じゃないじゃん!ははは」

 

「うるせ、あなたには関係ないでしょ。私だって結構忙しいんだから」

 

「確かにね。アルバイトはまだやってるの?」

 

「うん。無断アルバイトだから周りに言いふらさないでね」

 

 語り合っているうちに正門にたどり着き、正門前を横断する道路で別々の方向を向く。

 

「んじゃ、私はここで」

 

 男子生徒は女子生徒に背を向け、帰路を歩き始める。

 

「うん!じゃあまた明日ね。君」

 

「あんたまで・・・・・・。私はれっきとした女だって言ってるでしょ」

 

 男子生徒は少し荒らげた声で答える。それを気にせず女子生徒は鼻歌を歌いながら帰っていった。

 

「全く・・・・・・」

 

 先程から男子生徒と評しているが、れっきとした女である。美男子のような女である。まあ要するにオカマの反対語・オナベだ。自分自身にはオナベの自覚は全くないがね。

 

 フワッ「んっ」

 

 ふと顔に桜の花びらが触れ、その桜の花びらがほかの花びらと共に風に乗り、花吹雪となり無限に舞い散っていく。

 見ているだけで、感動という感覚を覚える。

 

「この景色も、いつまで見れるか分からないな」

 

 入学して1週間、早々に考えていることがひとつある。

 それは、自主退学だ。

 

 私はこの高校に入学してから、一つ変わったことがあった。それは、小学生の時も中学生の時にもなかった事、それは“あだ名”だ。

 大抵は人の特徴や癖であだ名を付けるが、私の場合は顔だった。おかげで美男子(イケメン)などという『不名誉』な愛称を受け取ったわけだ。

 昔から美形男性モデルのような顔立ちがコンプレックスで、女の匂いを漂わせる女にはなるにもなれなかった。お陰様で男性とお付き合いをしたことが一度もない。逆に女性から交際を求められた覚えしかない。

 

 初めての全体朝礼でのこと。わが校は男女同じのスーツ姿が制服という珍しい学校で、私は全体朝礼解散後の移動時間に女子生徒に猛獣のような目で見られた。

 人間はどれだけ打たれ強くても心理的な疲れ、ストレスには勝てないと思っている。ストレスは何らかの方法で発散すれば問題ないが、今回に限っては発散方法がない。故に頭がどうにかなりそうだ。

 

 学校のそばにある歩道橋を横断し、右に見える駅の電車を利用して帰宅するのがいつもの流れだ。故に今日も同じ流れで歩道橋を通り、駅に向かい改札口を通り駅のホームに出る。

 しばし電車が着くまでの間、ベンチに腰を落とし、イヤホンが挿し込まれたスマートフォンを起動させる。音楽を聴きながら暇な時間を削っていくという方法を行使した。

 

 唐突だが、私はJ-POPが嫌いだ。なぜなら、そのJ-POPの大半がラブソングのようなものだからだ。そうは言いつつもたまに面白い曲とかもあるのだが、マンネリ化というか固執しているというか、歌詞をどれだけ工夫しても伝えたいことは変わらないというオーソドックスな内容がどうにも私に合わない。

 じゃあ普段何を聞いているのかというと、アニオタが聞きそうなアニメの挿入曲だ。要は場面の背景で流れる音楽のことだな。

 自分でも理解し難いが、聞いている時に溢れ出す高揚感と身震い感がどうにもクセになってしまう。

 

 その曲をかける前に電車が駅にゆっくり進入し、素っ気なさに舌打ちが出る。

 電車に乗りこみ、ほぼ無人の席に身体をすべて預ける。

「はあ、つまんない」

 初期の高校生活は大抵楽しいものだ。中学校を卒業して高校に入学し、知らない世界が沢山あるというワクワク感が、彼女には圧倒的に欠如しているように思える。

 

 動き始めた電車が徐々にスピードをあげ、線路の周りの摩天楼をかいくぐるように進んでいく。現代の技術は、昔からどんな成長を遂げてきたのだろうかと思うくらいに今更驚嘆した。

 

 今度こそイヤホンを耳に付け、スマートフォンを起動させて音楽アプリを開く。音楽アプリにダウンロードされている曲はおよそ50曲程で、ほぼ全部がアニメやゲームの背景曲である。シャッフルで選択して曲が流れ出す。

 

「これは・・・・・・いい」

 

 大太鼓と金管楽器がマッチした楽器音。これは、命を落としかねない激戦地の戦場を思わせるような音だ。時にヴァイオリンのような弦楽器の音色が入り、シンバルの音も加わり、1曲の交響曲のように変化していく。

 

(やばい、かっこいいかも・・・・・・)

 

 こうやって1人電車の中で感動するのは毎日のことで、最初は周りの目が気になっていたが慣れてくれば人目を全くに気にしなくなってしまった。

 でも安心してくれ、一般常識としてのマナーはちゃんと守ってる。

 

 感動に浸っていると、電車が速度を落とし始め、ついには止まった。どうやら降りる駅に到着したようだ。イヤホンを外しスマートフォンを鞄にしまう。すぐに立ち上がり、駅のターミナルから改札口を出る。美男子(イケメン)

 

 私が生まれ育った地域は、先程通った摩天楼などは全くない。言うなれば、ちょっとしたゴーストタウンだ。スーパーは勿論、コンビニが一つだけ住宅街の中にあるだけである。そんな中を1人、駅から住宅街まで小さな足音を立てながら歩く。

 

 只今の時刻はPM18:26とスマートフォンの時計が表示している。冬に比べれば、この時間でも若干明るい感じがしないでもない。

 住宅街に入れば一定間隔で古ぼけて点滅している電灯が立っていて、あと住宅の窓からの光漏れがあるため、道自体はそこまで暗いとは感じないので不安はほぼない。

 そして自宅に到着。一階建ての一軒家で、築40年ほど。私が生まれてから外観の工事をしたらしい。なので外観は古くはないが、内観はひどい有様である。

 雨漏りはするわ屋根裏で鼠が走る音がするわいきなりフローリングが陥没して足を怪我するわ、なので家にはあまりいたくない。

 今日も気持ちのない言葉を立てる。

 

「ただいま」

 

「おかえり、羽織。今日は早かったね」

 

 台所から聞こえてくる愛のこもった返事。声からして、お母さんだ。お母さんはいつも笑顔で、大人しくて、優しい。だから、お母さんが強い人には見えない。

 

「早くお風呂に入ってらっしゃい。もうご飯出来るわよ」

 

「はーい。あれ?お父さんは?」

 

「今日は出張で帰ってこないらしいわ、残念ね」

 

「ふーん」とだけ言い残し、玄関からまっすぐ伸びた廊下の右側にある自分の部屋へ向かう。

 扉を開け、電気を点けて鞄からスマートフォンを取り出し、鞄を机代わりの簡易テーブルに投げ捨てる。

 鞄から今日使った教材教具をすべて取り出し、三段の棚の上から二番目の棚に入れ直して、明日の教材教具を取り出して鞄の中に入れ込む。

 

 さあ、部屋の構造でも説明していこうか。まず扉を開けたら左奥にベッドがあり、左前の壁に巨大なポスターが貼ってある(某ゲームのポスター)。右奥には三段の棚が置いてある。上から一番目がフィギュア、二番目が教材教具、三番目が小説や参考書である。右前にはクローゼットがあり、大量の服を収納している。

 フローリングには黄色と黒色のカーペットを敷き、テーブルには星型のキャンドルが置いてあるが、使いすぎて中身が殆ど残っていない。

 

 クローゼットからパジャマを取り出し、廊下を小走りで通り浴室へ向かう。制服を洗濯機の中に投げ込み、下着を上下脱ぎ、浴室へ入る。

 身体を洗い流し、湯船に浸かり、今日の出来事を振り返る。

 

 学校に登校して同性にガン見される→下駄箱にラブレターが2桁入っている→トイレに行くだけでヒソヒソと「かっこいい」と言われる→昼食時間に飲食しているところをガン見される→掃除時間もガン見される→授業中で寝ているところをこっそり写真を撮られる→帰り道に同級生に美男子呼ばわりされる。おしまい。

 

「なんじゃこの学園生活!もうちょっとマシな出来事は無いのかよチキショー!」

 

 顔を湯船の湯に叩きつけ、顔を湯につけたままブクブクと息を吐き出す。

 

(はあ、今日もつまらなかったな・・・・・・もういやだ、こんな学校生活)

 

 別に勉強や部活、恋愛に興味がある訳では無い。が、折角の人生で一度きりの高校生活、もうちょっと楽しい出来事があってもいいはずだと思っている。

 まさに理想とは対局の高校生活はもはや半ばいじめに近いと思う。ていうか普通女子に美男子とは言わないでしょ。

 近々自主退学したいのだが、それには親の承認が必要不可欠である。入学金は全て親の貯蓄から引き出した金で払っているので、退学したら入学分の40万は戻ってこない。つまり、自主退学をしたら親に40万円返さなければいけないので、躊躇いの原因はそれだけなのだ。

 

(ていうか、簡単な話私が高校を間違えなければ良かっただけじゃ・・・・・・)

 

 ・・・・・・はぁ〜〜。

 

 結局、自分の責任という答えにしか辿り着かなかった。

 憂鬱な気分で風呂を上がり、全裸の自分の体を洗面台の鏡で凝視する。ほぼ俎板の胸を真ん中に寄せ、少しは盛れないかと挑む。胸を見てため息を吐き、その収穫は落胆だけだったようだ。

 今日学校で着用していた、凹みのない無地のブラジャーに無地のパンティー。何と味気のない物体であろうか。まさに特徴のない無難な堅物女、もしくは女装にリアルを追求した変態男としか判断出来ないぐらいに貧相な身体に、ぐうの音も出ない。

 数ヶ月前に自分の身体の利点を理論的に反芻、推敲しながら調査したが、何一つ解決しなかった。いや、むしろ解決すること自体がおかしいのか。自分の中でも自問自答は問題に問題を被せる故に、難解なものになっている気がしないでもない。

「はぁ・・・・・・」

 明日も学校。そんな言葉が頭に反響して、気分を右肩下がりに変化させる。

 いつかボンキュッボンになる日が来ると願いつつ、風呂場の窓から夜空を見た。答えは知らぬと言っているような、そんな気がした。

 

 

 ────────

 

 

 むかしむかし、ある異世界の少年と神は、ある契約を結んだ。それが事実さえも分からぬような内容だが、一応ここに書き記しておくこととする。

 

(伝統書・第6項より)

 

 

 

 貴様は何者だ。

 

 それは俺が聞きたい言葉なんだ。ストリートチルドレンの俺はフードを被った細身の男に連れられ、手枷を付けられ薄暗い部屋の青白く輝く縦長の石が喋りかけてくるのだから。

 俺は縄張り争いに負け、生活を共にしてきた仲間とはぐれた上に、それの際に負った頭の傷が、動こうとする気持ちも生きようとする意思も徐々に削がれていたところを、フードの男が現れてこんな部屋に閉じ込められた訳だ。

 頭の出血は止まったようだが、若干の失血によって意識が朦朧としていて、俺に話しかける゛何か゛への返答は、返す気もなかった。

 

 貴様に、生物としての意志はあるか。それ以上に、存在する価値はあるか。

 

 自分には、下水道や用水路、廃棄された炭鉱などでしか生きられない、無価値な存在だ。産んでくれた母親も、親父も、自分の名前さえも知らない。知っているのは、地下の世界と生物の殺し方。そして手にはめられた手枷の用途。この手枷でよく年上の仲間が地上から勧誘(誘拐)してきた少女を拘束して、子が孕みそうになるまで射精して強姦していたものだ。それを見ていても自分は何も思わず、感じず、少女の泣き声混じりの助けを求める言葉も全く響いてこなかった。結局その少女は息をしなくなったので、胸部と陰部を切り取って舐め回したり指で撫で回したりする野郎たちがいたっけ。

 

「俺の、価値・・・・・・」

 

 貴様に足りぬもの、それこそが貴様を価値のあるものへと変える。

 

 少しずつだが、朦朧としていた意識が回復してきて、言葉の呂律も元に戻ってきたようだ。

 俺に足りないもの・・・そんなことは今まで考えたことも感じたこともなかったが、それ自体が足りない証拠だと言うことなのか。

 大体、価値とはなんだ?人間としての価値ではなく、生物としての価値とは?まだ12歳の俺にそんな話をするのは無意味。要はただの無駄だ。

 

 貴様がそう感じるのならば、我から言うことはもう無い。十分に失望させてもらった。

 

「はっ、光栄だね。いくら失望してくれても構わないさ。最後に一つだけ教えてくれ」

 

 自分に興味がある訳では無い。こいつの言う通り、俺は無価値かもしれない。両親、自分の名前、故郷すらも見当がつかない俺など、この世界ではただの廃棄物にすぎない。だが、そんな俺でも、一応聞いてみたかった。

 

「俺に、俺に足りないものはなんだ?」

 

 貴様に足りぬもの、それは✕✕✕。

 

 

 やはりただの余興程度のものだった。

 

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