おなべとエルフと七魔将(ナイトセブン)   作:シュウナ・アカネ

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クソッタレの現実から異世界へ

 

 少年は戦う、誇りを胸に────。

 少女は願う、永久の泰平を────。

 

 書店の道路側の窓に、カレンダーほどの大きさの宣伝ポスターのリードを凝視する。

 あるラノベの広告らしいが、なんともそのリードの部分はパターン化しているような、じっくりと緻密な反芻を繰り返して決定した言葉とは到底思えない、陳腐な安っぽさを感じた。

 

 また死ぬほど憂鬱でクソッタレな一日は、止まることなく時を刻んでいく。

 今日は朝日が昇る前ぐらいの時間に起きてしまい、居間に入ると母が父の弁当を作っていた。二度寝をすると一生起きない自信があるから家を早く出て始発の電車に乗り、学校付近の商店街を一人で散策していた。勿論書店はまだ開店しておらず街にも通行人がちらほらいる程度で早朝はとても静穏。

 そんな中に高校生の私一人というのはなかなか精神的に堪えるが、友達はいまだ皆無なのでなるべくしてなった感じがする。

 

 学校に入学してから今日まで大体の事を総合的に見ると、私の外見が原因だと推測するのが妥当と見る。しかし私はそれを認めたくはない。ていうか認めるつもりもない。なぜなら私はれっきとした女だからだ。同性に美男子美男子と言われる身にもなってみろと言いたいぐらい遺憾な事なのだ。

 

 

 〜15分後〜

 

 

(・・・・・・開いてる店が無いな、少し飽きてきたな)

 

 早朝の何もないガレージ街に飽きてしまい、一つ大きな欠伸をして鞄からイヤホンの繋がれたスマートフォンを取り出し、耳に着ける。右の方向の少し離れたところにいつも行き帰りに使用している歩道橋が見え、結構面倒だが一番乗りの生徒が来るまでまだ時間がありそうなので、学校で待つことにした。

 

 入学して間もない私は、早速卒業気分で学園生活を終えそうなぐらい学校に興味を示さなくなってしまっていた。日が経つごとに周りの女子生徒のストーカー度合いがひどくなり、いつもの校門の前には自分の写真を撮っている輩も多く気にしたくはないのは当然だが、無視できないぐらいに彼女たちのそれは酷かった。下手をすれば警察沙汰の案件にもなりかねないが、それは私自身もあまりいい気分にはならない。自分が好かれているのは嫌というほど分かっているが、彼女たちにはそろそろ自重してほしいものだ。

 

 歩道橋をまたいだ先に学校が見え、ため息を吐きながら歩道橋を歩いていく。階段の足取りが非常に重く感じて、イライラの混ざり合った登校というものになり、歩道橋の中央を通り過ぎた瞬間、空気が変わり、異変と脳は変換した。

 

(ジーーーー・・・・・・)

 

 ・・・・・・視線を、感じる?そうだ、誰に見られているのかは分からない。しかし、とんでもない殺気が、どこからともなく体に流れてきて、私の中に緊張を発生させた。気の抜けない殺気、自分に恨みでもあるのだろうか。だが、それは最も有り得ないことだということでもある。なぜなら私がこの学校に入学して、外見だけで熱烈なファンができるほど有名になった。しかし、それが原因となり、逆にファンの方が一線を引いてしまい、この高校の生徒とはまともに話したことなんてない。

 

 そして、いつの間にか殺気は消えていた。先ほどの緊張が嘘のように解けていた。

 

(今のは何だよ?)

 

 疑問だけを抱き、誰もいない教室へ向かった。

 

 

 ────────

 

 

 午後4時20分。ようやく学校が終え、羽織の口からうれしそうな吐息が漏れる。教室には、友達と共に遊びにいくかどうかを話し合いながら帰ろうとする生徒や、教室の片隅で本を読んでいる生徒もいる。

 

「美男子君!一緒に帰ろ!」

 

 昨日、校門まで一緒に会話をしていた女が私に手を振りながら近寄ってきた。唯一のしゃべり相手で少し親しいぐらいの女子生徒だが、正直鬱陶しかった。

 

(この人、わかってて言ってるよね絶対)

 

 ニヤニヤしながら喋りかけやがって。とは言えず、それとなく適当に合わせて「分かった」と棒読みで答えて机の側面にかけていた鞄を机の上に置き、教科書やノート類を鞄に入れていく。

 

「私まだ用事があって帰らないから、待ってても意味ないよ。早く帰ったらどう?」

 

「奇遇だね、私も家に帰っても暇だからまだ帰らないんだー。美男子君の用事終わるまで待ってるよ」

 

 彼女はそう言って、私の隣の席に座って足を組み、私の顔を見ながらくすくす笑っている。何を思って笑っているのか不愉快で、腹立つ。ここまで露骨に行動されると癪に障るので、はっきりとした本音を投げた。

 

「あんた、私につきまとって何がしたいの?いい加減頭にくるんだけど」

 

 私の本音にヘラヘラとした顔で私の顔を見る。

 

「何って?んー。強いて言えばー、邪魔かなぁ?ウフフ」

 

 私が知っている範囲の女はまさにこんなやつには屑が多くて、とてもとても態度に出るから判り易い。昨日はわざわざ待ってやったのにこいつの本心はこれなんだと思うと、少し自分の中で唯一話すことが出来るクラスメイトと思ってしまったのが恥ずかしく感じる。最初からこの女とは気が合わなかったのだ。

 

「美男子君さぁ、ムカつくんだよねー。女のくせに男っぽくして女子の支持集めようなんて」

 

「あっそ、言いたいことはそんだけ?お疲れ様」

 

 構って損をしそうだったので、なるべく無愛想に対応して荷物をまとめて帰ろうと思った。次の瞬間、その女は憎たらしいような憤怒のような表情で机を強く叩いた。

 

「さりげなく帰ろうとしてんじゃねーよコラァ!入学してからてめえのそのスカした態度が気に食わねーんだ。そんな薄情者に何でそんなに人気が集まんだよ!なんで私が人気じゃねーんだよ!てめえがいるから私が人気になれねえんだよ!」

 

 シーン・・・・・・。

 教室が静まり返った。その教室にいた誰もが私の席に注目している。相当苛立ちが溜まっていたのか、目には涙が、口はプルプルと震えていた。全く、馬鹿らしい。

 人気が欲しくて逆恨みって、どこの中学生だよ勘違い女。人気など、邪魔にしかならないってのにね。この際、その人気を全部あげてやろうかと思った。

 

「へーそーなんだ、大丈夫だよ。私、学校辞めるから」

 

「「「・・・・・・ええっ!?」」」

 あ・・・・・・、やべ。勢いで言っちゃった。クラスの奴ら全員で驚愕の声を炸裂させる。一気に騒がしくなった教室はとても居心地が悪く感じて、さっさと荷物をまとめて呆然としたその女に耳打ちをした。勿論、哀れみを持って。

 

「人気なんて反吐が出るよ、勘違いちゃん」

 

 

  ────────

 

 

帰りの駅のホームで、先程の事を振り返った。

 

 あー・・・・・・、これってかなり、やっちゃったよね。

 公開退学宣言は流石に不味かった。かなり不味かった。学校をすぐ出た私は、すぐに駅に向かった。

 電車が到着するまで少し時間があったので、ホームの長椅子に座り、今日を振り返った。

 

 さすがにちょっと言いすぎたかもしれない。何だかんだ言いつつ、今の高校で喋った相手は彼女が初めてだったし、かなり目立ちたがり屋の人だった。でも、自分の身になってわかった。人気には反吐が出る。今でもそれを撤回する気は無いし、みんなに言いたい。

 15分ほど時間が経ち、電車がホームに進入してくる。ゆっくりドアが開き、ホームで待機していた利用者が駆け込んでいく。その中の一人に私がいる。

 

(学校がつまらなかった。ちょっと喋ったりするクラスメイトを失った。ろくでもない日だった)

 

 空席の目立つ電車はスピードを上げ、摩天楼の中を順調にすり抜けていく。

 昨日とはまた違った一日は、少し残念に感じた。少し親しい程度の友の本音が私を嫌っていたことと、私自身が唯一の話し相手を失ったこと。そして、学校を辞めると豪語してしまったこと。

 

「最悪・・・・・・どうしよう」

 

 最初から通っている高校に興味はないが、教室の連中と友達になれなかったのが少し残念。ま、なるにも変態的な人が多すぎて引いちゃう人ばかりで敬遠するが。今日の朝が早かったせいか体に力が入らず、ウトウトとし始め、寝る体制に入ってしまった。

 

(いつもの降りる駅で・・・・・・起き・・・・・・れ・・・ば・・・・・・だいじょ・・・う・・・・・・)

 

 

────────

 

 

 目が覚め、電車を降り駅の外へと出ると、そこはどこかの住宅街。すぐわかった、私の家付近の住宅街じゃない。

 少し広めの道路を明るく照らす無数の電灯は、とても場違いだが天へと続く階段に並べられた提灯のように見えた。

 何だろう、怖い。好奇心もない。あるのはただの戦慄だけ。恐る恐る、足を一歩前に出す。

 

(矢印の標識が・・・・・・)

 

 矢印の書いてある標識が赤く染まり、それに少しずつ近づく。

 標識手前1メートルほどで、赤を帯びた標識は消える。色じゃない、それ自体がなくなった様に、本体そのものが消えたのだ。そして、道路の中央への移動を促す矢印の標識が輝きだす。今度は光のような白色に。

 それに近づき、それ付近を見渡す。見渡したときに目に入った光景は、とても異様だった。

 

(何だこれ・・・・・・?これって、魔方陣かな?)

 

 マンホールを中心に書かれた半径3メートルほどの魔方陣は、どす黒い何かに覆われていた。オーラというか霧というか、よくわからない物体が周りを覆っている。

 

 よく考えよう。起きたところから一歩足を進めた瞬間標識が変色した。その後もう一度変色し、この魔方陣を見つけた、という流れだ。

 

 魔方陣に近づき、黒い物体を振り払いながら魔方陣の中心の上に立ち、下の絵を見渡す。

 魔方陣のもっとも外側に描かれた絵に目を惹かれた。何か、軍記に出てきそうな。巨大な龍がうずくまり、その龍から強烈な光が発している。その横には木が描かれ、人間と動物が描かれている。

 その絵に夢中になって、重大な異変に気づいた。

 

(あれ、足が・・・・・・動かない!?)

 

 まったく気づかなかった。自分の足を見たときには、足が半分ほど魔法陣の書かれたマンホールに吸い込まれていた。ピクリともしない。そして何も出来ぬまま引きずり込まれた。

 

「ちょ、ちょっと!冗談でしょ!?勘弁してよ頼むって・・・・・・」

 

 その先はほとんど覚えていない。覚えているのは、私の体が光りだした。それっきりだった。

 

 

────────

 

 

肌の温度が変わった。日光を遮る木の下で、向かい風が肌を冷やし少し心地よさを感じさせる。

いつ頃から眠っていたのかよく分からない。最後に記憶があるのは、マンホールの上に描かれていた星型の魔法陣のようなものに吸い込まれたところまでだ。正直、地面に吸い込まれる感覚は何とも複雑で新鮮なものだった。

仰向けの体をゆっくり起こし、落ち着いて辺りを見渡す。正面には、街とも呼べないような小さな村があり、その辺りは驚くほどこざっぱりな草原で、遠くには天空まで続いているような山脈が彼方まで連なっている。

 

「ここは、一体・・・・・・」

 

理解ができないまま体内時計の秒針が時を刻んでいく。風が程よく髪の毛を揺らし、先程までの住宅街周辺の閉塞感とは真反対の壮大感と開放感が湧き上がってくるようだ。

寝ぼけた感じが一切しないのが不思議だが、何がともあれここがどこかを把握しなければ。

 

これが異世界生活の始まりだった。

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