おなべとエルフと七魔将(ナイトセブン)   作:シュウナ・アカネ

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守りたい人

「はあ・・・・・・」

 

「まあまあ、元気だしなよ。18歳になるまで待とうよ」

 

「18歳までが果てしなく長く感じる・・・・・・」

 

 能力作成所での一件は落着及び落胆した。ていうかターニャは私の年齢を知らずに連れてきたの?もし18歳以上のみということが分かっていた上で私の年齢を知っていたなら、何か歯がゆい。

 

「私の年齢、知ってたの?」

 

「まさか。勿論18歳未満だとはうすうす感じていたけどね。誤魔化せるかなと思ったら真理眼の使役者がいるとは思わなかったよ。こうなることは予想外だったね」

 

 ターニャもなかなかのワルだと感じた。こんなかわいい容姿でこのワルさ。男だったらめちゃくちゃときめくわあ~。

 

「お腹減ったね。何か食べ物買いに行く?」

 

「・・・・・・いや、食欲よりもショックのほうが大きいし、今はいいよ」

 

「わかった。じゃあそこで待っててね、お昼買ってくるから」

 

 ターニャは小走りでひとり屋台の方へ向かった。

 

(どうしよう・・・・・・能力ないとすっごく不便なんだけど)

 

「ハアー・・・」

 

 デュランダの村から主都グランド・ソドムまでわざわざ来て、本来の目的であるはずだった能力書類の作成が、まさかの15分程度で追い出された上に能力書類を作ることが出来なかったという始末に。

 まあ要するにあれだ、超有名店の飯を食べるために遠くから来たのに行ってみたら定休日でしたみたいな感じだ。

 

 羽織の異文化臭を漂わせる見慣れないブレザーと長袖のパンツを凝視する都の人々の目が不思議で仕方ない。人によっては好奇の目や気持ち悪がる目など、こいつはこの世界の住人なのか、別の世界の人間ではないのかという半信半疑の表情で羽織を見ているのだ。自分が展示物のような晒し者のように感じて、ターニャが早く帰ってこないかと強く感じていた。

待っていると前方からターニャと見てとれる影が屋台の方から走って帰ってきた。そしてそのまま羽織を盾にするように背中に隠れる。

 

「ど、どうしたのターニャ?急に背中に隠れて・・・・・・」

 

「ちょっと、厄介な連中に絡まれちゃったんだ。申し訳ないけど、ここが少し修羅場になりそうだ」

 

 前から重装備の鉄の鎧を着た男二人が、足元がおぼつかない様子でこっちに向かってくる。

 

「おうおう嬢ちゃん、俺らと遊んでくれよー。ヒック」

 

「俺達が、やさーしく相手してあげるよ?グヘッ」

 

 あー・・・・・・うん。完全にこの二人、酔ってるね。酒場の前とかでよく見る飲みすぎたサラリーマンみたいに結構泥酔してるよね。

 

「・・・・・・えっと、ターニャ?なんでその、この人たちは足がふらふらしてるんだろう?どう考えても酔ってるよねこれ」

 

「この連中は国軍兵士っていう国務役員(こくむやくいん)でね、主都の警備や国境近くの監視を受け持ってる上級兵士なんだけど、このご時世で職務怠慢が問題になってて目立つんだよね。昼間から泥酔するほど酒を飲む人が国務役員なんて、一般の僕達の目からしたら信じられないよ」

 

 成程。要するに、警察が勤務中に酔ってるのと同じことか。

 

「人聞きの悪いことを言うもんじゃねえよお嬢ちゃ〜ん。ヒック。俺らだって真面目に仕事して、立派にこの国守ってやってんだぜ〜?ついつい頑張りすぎて暇が多いだけさ」

 

 この兵士はかなりタチが悪そうだ。この人は自分がやっている事に見合った仕事をこなしていると思っているのだろう。それが一般市民であるターニャや、それ以外の人々に煙たがられる、そんなザマだ。

 

「ほんとに口が減らないね。この国が安寧なのは君たち国軍兵士のお陰じゃなくて、第一警視隊のお陰なのに」

 

 鼻を鳴らして羽織の横に立ったターニャは、真剣な顔で反論する。するともう片方の兵士が口を開く。

 

「ははは。可愛い小娘がお偉い国の兵士にそんなこと言っちゃうんだー。国軍兵士の権限を使って、嬢ちゃんを取り調べちゃおっかなー?ん〜?」

 

「信じられないね。国と国民を守るべき兵士が、無抵抗の国民に対して権限を濫用するなんて。まったく、国務役員も質が落ちたね。やれやれ」

 

(あの・・・・・・ターニャさん?流石に言い過ぎでは・・・・・・?)

 

 流石にこれ以上言ってしまえば何が起きるかわからないと思い、左手をターニャの胸前に伸ばす。

 

「ユキハ・・・・・・?」

 

「流石にこれ以上はまずいって。一旦落ち着こうよ」ヒソヒソッ

 

 言った瞬間、国軍兵士が腰に携えていた西洋風の剣を抜き、突きつけてきた。

 

「痴れ者が・・・・・・度が過ぎたな。・・・・・・国家規律第七条一項の適用により、小娘。貴様を逮捕及び連行、処刑する!」

 

「なっ・・・・・・!」

 

 なんて理不尽な状況だろうか。これは誰がどんな目で見ても兵士がおかしいだろう。ターニャも言いすぎたかもしれないが、たかだか口喧嘩だ。それが処刑にまで発展します普通!?これはどう見ても権限を不当に扱っていることになるだろう。そもそもいくら酔っているとはいえ、明らかに下心丸出しで女性に話しかける自体が犯罪に近いと思う。

 しかし今の兵士なら、理不尽なことをやりかねない。

 

「おい、連れていくぞ」「了解」

 

 ターニャの手を、兵士が乱雑に掴む。

 

「痛っ(つう)!痛いっ、離して!離せ!」

 

「・・・・・・大人の怖さを教えてやるよ。その体に、じっくり、たっぷりとな」

 

「ひっ・・・・・・!」

 

 バシンッ!

 

 羽織の手が無意識のうちに、怯えたターニャの手を引っ張る兵士の腕を払い飛ばしていた。かなり強めに叩いたからなのか、国軍兵士は一歩下がり、痛みで手を抑えている。

 

「いてて。ったくよお、お前もこいつと一緒に死にてえか?ああ?」

 

 泣きそうなターニャを左手で庇いながら、転送石(石の台の上)の方へじりじりと下がっていく。いくら酔っているとはいえ、相手は国軍兵士。いわば国を守るエリート。流石に二人とも助かることは無理そうだ。だから、自分を囮(おとり)にすることにした。

 

「・・・・・・ターニャ、君はこのまま後ろに下がって逃げろ。デュランダにそのまま向かえば君だけはなんとかなる」

 

「逃げろって、ユキハはどうするのさ!?」

 

「大丈夫だよ。私はこの世界の人間じゃない。君には、帰りを待ってくれてる村の人がいるじゃないか。さあ早く!」

 

「・・・・・・わかった。絶対、無事でいてね・・・・・・!」

 

 ターニャは潤んだ目を袖で拭い、背を向けてそのまま転送石に向かって走っていった。

 そうだ。これで、良かったんだ。

 

「さて、と。・・・・・・この状況をどうするべきか・・・・・・」

 

 見た目は男、体は女の私が、このエリート兵士二人を相手にしなければいけない。いくら酔ってるとはいえ、力の差は圧倒的だ。

 

「おいお前、抵抗するなよ。した瞬間この場でたたっ斬るからな」

 

 なんて理不尽なんだろう。まあ、一応手を出しちゃったし。それに、ターニャをこいつらから守れたから、もう心残りは全くないか。

 

「その場で手を上げろ。怪しいものを所持していないか、検査する」

 

 一つ息を吐き、両手をあげる。

 

 上半身から順にチェックが入る。一応女なので胸だけは触らせまいと手で遮る。

 

「なぜ男のくせに胸を隠すんだ。危険なものを隠し持っているのではあるまいな?」

 

「別に何も持ってませんよ。ただ、一応・・・・・・その・・・・・・」

 

「何も言わないのなら勝手に調べさせてもらうからな。腕抑えてろ」

 

(・・・・・・え?嘘でしょ?)

 

「おう。お前、腕を後ろに組め」

 

「・・・・・・本当に確認する気ですか!?」

 

 後ろに手を抑えられ、国軍兵士の手が胸に伸びる。

 

(まずいってこれえええええ!?)

 

 その時、我慢の糸が切れた。

 

「いやあああああ!!」

 

 高い金属音が、鳴り響いた。

 

「ぐぼおああああ!?」

 

 この時、羽織の膝が咄嗟に抵抗し、手を伸ばした国軍兵士の股間にそのままクリーンヒットしたのだ。その痛みは想像を絶するようで、彼は地面を転がりながら泡を吹いている。

 

「おまえ・・・・・・何しやがる!」

 

 ガシッ「うっ、ぎっ!?」

 

 後ろで腕を掴んでいた兵士に押し倒され、羽織の首を折らんばかりに両手で締め上げる。

 

(く、くるしい・・・・・・!)

 

 兵士の腕を外そうとしてもビクともせず、徐々に体から力が抜けていく。

 

(もう・・・・・・息、が・・・・・・)

 

 全身から完全に力が抜け、そのまま目に映る世界が真っ暗になった。最後に聞こえたのは、骨が折れたような鈍いグギリッという音だった。

 

 

  ────────

 

 

 頭の旋毛に水滴が一粒落ち、目がゆっくり開く。

 暗い鉄格子の中で目覚めた羽織は、取り付けられた足枷が目に留まり、状況をざっくり理解する。どうやらあの後、捕まってしまったようだ。一度大きくため息を吐き、うなじを触ってみる。その時奇妙なことに気づく。

 

(私の意識が完全になくなる前、首が折れる音が聞こえなかったっけ?)

 

 何度も首のあちこちを触ってみるも、どこも折れていないし痛みも感じない。あれは夢だとそう思ってしまうほどの不自然さを直に感じる。

 

 鉄格子の中、この牢獄には灯りが一切なく、遠くで淡い光が灯っているだけである。その牢獄の外から、何か鍵を開けるような音が突然聞こえて、速攻壁に張り付く。

 

 足音がどんどん近くなっていき、羽織のいる牢獄の前に人影が立ち尽くし、扉を開ける重い音が響く。そして鉄格子の扉が開き、人影が羽織に近寄ってくる。

 

(こ、怖い・・・・・・怖いよ・・・・・・)

 

 言い表せない戦慄が羽織を襲い、恐怖を抑えきれずそのまま失禁してしまった。目を瞑り、顔を逸らす。

 

「・・・・・・そんな怯えないでくれよ。傷つくだろ」

 

(え?)

 

 目を見開くとその人影は私に手を差し伸べ、そう言ったのだ。その柔らかい声で、戦慄による恐怖も瞬く間に引いていく。

 

「お前さんに少し、話があってな。付いてきてくれ」

 

 足枷を外してもらい、起き上がろうとする。ところが、全く力が入らない。

 

(あれ?立てない?なんで?)

 

「・・・・・・立てないか?ほら、肩貸せ。歩くの手伝ってやるよ」

 

 彼は背中に腕を回し、右肩を持ち上げる。辺りの蝋燭の灯りで顔がうっすらと目に映った。顔は若い男で、髪の毛はところどころはねている。甲冑を着ておらず、左胸に勲章のようなものを付けているので軍人の中でも偉い人のように見える。

 

「あなたは、一体・・・・・・」

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はケイト=イスルギ。極東出身だ。今は国軍第一警視隊群の隊長、階級は少佐だ。宜しくな」

 

「私は、雪飼羽織と言います。年齢は十六歳です。宜しく、お願いします」

 

「雪飼羽織、か。確かに女だが顔と名前が一致しないなあ。羽織って呼ばせてもらうぞ」

 

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