おなべとエルフと七魔将(ナイトセブン) 作:シュウナ・アカネ
普通に会話しているがよく良く考えたら奇妙だ。なぜこの人は、ていうかこの人もターニャも漢字を見て驚かないんだ?この男ケイト=イスルギは極東出身と言っていたが漢字を使っているのか?もしや、この世界でも漢字を使えるなんてことは・・・・・・。いや、その前にここって元の世界で言えばヨーロッパ周辺なんだよね?普通漢字は通じないと思うんだけど。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「うん?なんだ?」
「漢字、分かるんですか?」
「ああ。そういえば君はこの世界じゃない場所から来たらしいな。羽織の言っている漢字は、俺の故郷の極東では普通に使われている文字だぞ。むしろ使ってないやつが可笑しいぐらいだな」
ターニャとケイトの言っている極東は、ほぼ間違いなく日本だろう。私の知っている日本があるのだろうと思った。
「ん、歩いているうちに着いたな。中に入ってくれ」
「ここは・・・・・・?」
大体学校の教室ぐらいの空間に、社長室の社長の席のようなものと、部屋の真ん中に話し合いをするような、腰の低い大きなテーブル一つと四つの椅子があり、その一つの椅子に、見かけた姿の女性が一人。
「ユキハ・・・・・・!」
その女性はターニャだった。私を見るなり目を潤ませ、その場を立ち、羽織の胸に抱きついてくる。
「ごめんよ。僕の所為で、こんなことに・・・・・・!」
「いいんだよターニャ。君を守れたようで良かった」
羽織がそう言うと、また目が潤んで強く抱きしめる。
ターニャって、すごく大人びた性格だけど意外に寂しがり屋なのかな。
「あの兵士たちがユキハの首を折ったって聞いて、すごく心配したんだよ!?ほんとに・・・・・・生きてて良かった・・・・・・!」
どうやら一度、死んでしまったのは間違いないらしい。私を殺した国軍兵士の話によると、首を夢中で絞めていて、気がついたら私の首が左斜め後ろに捻じ曲がって、目を開けながら息をしていなかったそうだ。
「羽織。お前は間違いなくあの時に死んだ。だが実際は生きている。首が折れたにも関わらず、だ」
彼が言っていることは、私も本当に変に感じる。人の骨は、完全に修復し終えるには長い月日を必要とする。関節などがいい例えだ。しかし私の首はたった一日で完治した。どう考えてもおかしな話だ。
「そして羽織の身体から妙な魔力の臭いがする。しかもただの魔力じゃない。これは、何かの加護?」
ユグドラシルが先日、私の脳内で言っていた。私達は一心同体だと。
「・・・・・・ケイトさん、ひとつ質問しても良いですか?」
「その呼び方はやめてくれ。ケイトでいい。あと敬語じゃなくていいからな。それで?何が聞きたい?」
「実は、ユグドラシルについて聞きたいのだけど・・・・・・」
「ユグドラシル?そいつは巨大生命樹のことか?伝説では、この世の生物の原点、即ち源というのを聞いたことがあるぞ」
「そのユグドラシルが、前日夢の中で言ったの。儂とお前は一心同体だって。そして、漆黒の黒龍を救ってくれって」
「ほう・・・・・・?その話、本当か?」
「うん。嘘じゃない」
ケイトは自分の椅子に座り、手前の大きな引き出しを開ける。取り出したのは、鞘に収まっている1本の刀。
「もう一度聞くぞ。本当の話なんだな?」
「うん。私を信じて」
ターニャが羽織の腕を掴んで、強い目で答えた。"ユキハを信じる"と。
「ははっ、羽織って信用されてるんだな」
「いやあ、どうだろうね」
ケイトが再び微笑み、壁側の本棚の書類を探り始め、手に取った資料を渡してきた。
「お前の中に何故ユグドラシルがいるのかは分からないが、"漆黒の黒龍"に思い当たる節があってね。俺はお前を信じることにした。その資料を見てくれ」
言われた通りに資料を開く。五十枚ほどの紙を綴った資料には、何とも禍々しい個体がいくつも記載されている。著者はケイトらしく、全て日本語で難なく読める。
「その資料は俺の故郷から持ってきたものだ。この主都グランド・ソドムに国軍兵士として就いてから編集、推敲を続けてきたものでね、今まで交戦記録がある怪物を全て書き記してある」
その資料の一枚に、眼は紅く、体は黒く塗り潰されたドラゴンが描かれていた。
「ケイト、もしかしてこれが・・・・・・」
「ああ。俺は、お前の言う"漆黒の黒龍"は、こいつではないかと睨んでいるんだが」
資料に記載されていた怪物たちと比べて明らかに強烈な怖れを感じる。資料によれば、一国を破滅させるほどの魔力を放出することが出来、太古の島国を島ごと消し飛ばされた事例があるらしい。
「本来、この龍は二体いてな。雌雄一体ずつ生息が確認されていたが、雌の方は俺たちで討伐した。雄にも引導を渡したかったが、雌を討伐したことで激昂し、近づくことすら出来やしなかった」
・・・・・・今さらっととんでもないことを言った気が。
「イスルギ殿。雌を倒したってことは、もしかして貴方とあなたの部隊だけで?」
「まあ、そんな所だな。ていうかターニャ、俺を改まった呼び方で呼ぶんじゃない。ケイトでいい」
この人はもしかして、とんでもなく強いのでは?ゲームとかで言ったらチートキャラ的な?そもそも人間に龍を倒せるものなの?
「龍の相手なんて日常茶飯事だからな。俺は基本的に龍征の依頼しか受けないから、ほぼ毎週禍龍(ドレイク)討伐してるから、ある程度は一人で充分倒せる」
「は、はあ・・・・・・」
正直羽織もターニャも、ケイトの話についていけず、ただただ第一警視隊の強さを感じるばかりだ。
「よし、休憩時間は終了だ!羽織、お前の話を信じる以上、お前にも手伝ってもらうからな!」
「了解!って、何をすればいい?」
「まず身体・精神検査だ。聞いた話によると年齢以外の情報が全く解析出来ないらしいじゃないか。だから地道な検査をするしかないと思っている」
そう言うと、ターニャが手を挙げた。何か決心したような瞳をしている。
「僕にも、手伝いをさせてくれないかい?元の原因は僕の所為だから・・・・・・。だから、僕に罪滅ぼしをさせてほしい!」
「ターニャ。お前たしか特級魔導師の資格を持ってるだろ?俺からすれば是非第一警視隊にスカウトしたいんだがな」
「ていうことは、ターニャも?」
「勿論ターニャにも協力してもらうさ。さっきから言っているが、あの龍は一筋縄ではいかないぞ。禍龍とは比にならない強大な力を持っているから、討伐に行く前に遺書を書いてもらうが、それでも行くか?」
ケイトが私たちに真剣な眼差しで問いかけた。多分私たちを試しているのだろう。守り抜くのは約束か、もしくは自分の命か───。
私のやることはもう決まっている。私はどんな無茶な、自分を危険に晒すような約束でも、一度交わしたら絶対にやり通す!
「ケイト、あなたなら私の答えは分かっているはず。何が待ち受けていようと、必ず行くよ」
「僕も同意見だ。どっちにしろ、災厄は取り除かなければいけないしね。後々やらないといけない事を今やるだけの事さ」
「お前ら・・・・・・ふっ、面白い奴らだな。でも、そういうのは全然嫌いじゃねえ」
ケイトが自分の机の左側の引き出しを開け、薄い茶色のハンドブックを手に取り、羽織に差し出す。唐突に出されたので、理解出来ずに戸惑う。
「ん!?ケイト、君って人は・・・・・・!」
ターニャが驚いた様子で、そして嬉しそうな感情が見て取れる。
「えー、ケイト?これは一体何?」
「見てわからないのか?能力書類だよ。本来なら、十八歳未満だから渡すことは出来ないし違法だが、相手が"漆黒の黒龍"こと黒銀龍ニーベルハイムだ。能力書類が無ければ確実に殺される。特別にお前にやるよ。でも、絶対に死ぬなよ」
目の前で起きた、歓喜の瞬間。
「俺は分かってて国則を犯してんだ。だから、お前も最悪の事態だけは招くな。絶対にな」