おなべとエルフと七魔将(ナイトセブン) 作:シュウナ・アカネ
近々また投稿したいと思います!
「分かってるよ。一度した約束は絶対に守ってみせる」
愚問だったかと軽く笑い、ケイトは何かを思い出したように、軍服の内ポケットから黒い封筒を取り出す。それを受け取り中を確認すると、三つ折りにされた二枚の紙と帯封が取り付けられた札束のようなものが入っていた。
「お前を一度殺した兵士共を俺の管轄で拘束しているんだが、こいつらの処分はどうする?お前の要望があれば、その通りにするが?」
「私が処分を下さなかったら?」
「勿論、殺す」
二枚の紙に目を通す。その白い紙には、兵士のありとあらゆる個人情報が記載されていた。しまいには、全然関係のない情報や性的な情報まで、目の前の紙に全部記されているのだ。そしてターニャの一言が私を絶句させる。
「うわー、これってこんな情報まで載せてしまって大丈夫なのかい?この人のムスコの大きさとか」
「タ、ターニャ!?」
「まあ、そうだな。こいつらみたいな人殺しでも、女の性処理道具にはなるだろ」
ケイトとターニャの急な性会話により、私は何を切り出せばいいのかわからなくなった。何でも私は下ネタという分類の言葉には不慣れで、耐性が全くない。
「もう一度言うが、決めるのはお前だぞ?殺すか一生労働か性奴隷か、さあどうする?」
どうすればいいのかよくわからないが、男の人だったら絶対に性処理を選ぶよね。私にはよくわからないけど。まあ、私を殺した人間が悦ぶようなことになるのも癪だから、一生労働させちゃおうか。これぐらいが妥当だよね。
「じゃあ、一生労働で」
「オーケー。じゃあこの二人は死ぬまで働かせろと伝えておく」
漆のように黒い光を放つ印鑑を取り出し、黒色の朱肉につけ、紙に印を押した。
「これで二人の処分方法は決定した。羽織、お前は体の回復がまだ不完全だろ?今日はここで休め。拒否権はないからな」
「ユキハがよければ、僕も一緒にいていいかな?今日はユキハと一緒にいたいから」
私は決して百合な状況が好きなわけではないが、こんなに可愛い子にそんなことを言われると鼓動が自然と速くなっていく。
「勿論。初めて知り合った唯一の友達だからね」
それからケイトの書斎を後にして、漆黒の黒龍こと黒銀龍ニーベルハイムを討伐するまでの間お世話になる、生活の拠点の寮へと向かう。城郭の中央付近の大通りを歩いていると、通る道の端にちらほら腰に剣を携えた兵士がいておそらく警備の最中であろうが、周りの人々と服装が違う私はいつ殺されてもおかしくないほどに緊張している。異物を見る目や疑問の目で見るのは正直やめてほしいのだが、例の一件で有名になってしまったので、昨日今日とで私の情報が出回ったらしい。
年齢以外の情報が出ない異端人や、滑稽な装飾を施した傾奇者などと言われているらしい。私を一目見たいと町中を歩き回る人が増えているようだ。
「あ、そうだユキハ!昨日から何も口にしてないでしょ?寮を下見したらそのまま一緒にご飯食べに行こうよ!」
ターニャに言われてやっと気づいたが、昨日から今日まで食に当たるものを一切口にしていなかったのだ。目が覚めてからは随分体は動くようになったが、少し足元がおぼつかない。
(おなかは減ってるような気はしないけど……昨日から何も食べてないし無理やり詰め込んだほうがいいかもしれない)
「うん、そうだね」
赤黒いレンガの廊下を抜け、昨日以来の空を見上げる。空には白く眩しい太陽と遠方の彼方に巨大な入道雲がみえる。……は?
(今の時期って、何?)
元の世界にいた時には春で、二日前の夜は春服でも少し寒かったぐらいだった。だが何故夏の風物詩でもある入道雲が今目の前に広がっている。異様だ。
「この国ってさ、いつもこんな天気?」
「いや、つい最近変な天気が続いてるんだ。それよりも、なんでおかしいと思ったの?」
「だって一昨日泊めて貰った村はすごく肌寒くて冬の終わりみたいな感じがしてさ」
「なるほど……。確かに今の季節は春だから、あんな遠くに積乱雲があるなんて馬鹿げた話さ」
北欧は日本同様、四季がはっきりしている国なのを聞いたことがある。季節も元の世界と同じ。北欧の気候なんて殆ど知らないけど。
「ま、天候での被害なんて聞いたことないけどね。いたって普通の暮らしをしているよ」
ターニャ自身はさして重く捉えていないようだ。日本では大雨の影響で土砂崩れとかで人が死ぬこともあるから、正直怖い。そして入道雲は雨雲の代表格に等しいもの。確立の低い話ではあるが、建物に備え付けられる避雷針のようなものがこの主都には一切ないため、人に落ちてそのまま感電死というのも有り得る話だ。
(まったく、知れば知るほどおかしな……いや、変わった世界だなあ。……さて、)
「ご飯、食べに行こうか」
同時刻のガルムス王国国軍会議にて。
楕円型に大きく広がる会議場二分するように、国軍兵士の特級役人と貴族議員がそれぞれ分かれ、その真上に置かれている御休所からガルムス国王が国軍兵士と貴族議員の様子を傍観する。
国の方針の確認と決定の責を負い、実行する会議である。その会議には、常時欠伸を繰り返すケイトの姿があった。
(あー退屈だ……国務役員ってこんなに下らない話し合いをしないといけないのか)
最前列の中心の席に座っているケイトは、その場にそぐわない格好と行動で、周囲の目は印象の良いものではなかった。
「あいつだぞ、例の隊長は」
「他の特級役員が会議をしている前でよく足を机に乗せることなんてできるな」
「何が
貴族議員の半数ほどがケイトの態度を善しと思っていないらしく、国軍兵士の中でも騒がしくなっている。
(たかだか欠伸したぐらいで何が高貴さの欠片もないだ。大体俺に目が行くってことは会議に集中してないって事だろうが。俺は俺なりのやり方で話し聞いてやってんのに真面目ぶってるお前らが会議の邪魔をするんじゃねーよ)
ここで、貴族議員の最前列の中心から手が挙がり、注目を集める。
「皆様静粛に。我がレシーボルト家の当主、カイス=ヴィヌ=レシーボルトからひとつ、提案がございます」
(レシーボルト家……政治の中枢を担う最高責任者か。案外若い人が当主になってんだな)
レシーボルト家の歴史は古く、五年前に鉱山が原因で起きた「ハニカヤ村の血戦」では、自国であるガルムス王国ち近隣の国との同盟軍に裏支援を行い、魔力を限界まで凝縮した貴重な魔晶を手に入れようとしたが、その鉱山の土地の持ち主であるハニカヤ村側に雇われていた七魔将に敗北。その後は支援から手を引き、政治での糸を強く絡み付けている。
「私、カイス=ヴィヌ=レシーボルトは、ケイト=イスルギの強制退職を所望いたします。先ほどからその態度、目に余る!賛同してくださる方、挙手をお願いしたい!」
前後関係なくすぐさま手を挙げる人もいれば悩ましげな表情で手を挙げるのを躊躇している人もいる。
七魔将……世界の均衡を保つために作られた、世界最強の戦闘集団。七人のみで構成させているが、一人ひとりが一国の軍隊レベルの戦力を持っている。その中の一人が、ケイト=イスルギ。ケイトが第一警視隊に配属されているお陰で、この国が何の隔たりもなく機能しているといっても過言ではない。いや、それが事実だからこそ挙手を躊躇するのだ。本当にカイスの通りに挙手をして、ケイト以外の人間に第一警視隊の隊長は務まるのか。
「おやおや……なぜ手が挙がらないのでしょうか?わが国の後世のため、元々敵対していた人間と国を守護する余裕はないのですよ」
カイスの表情は、優しい口調からは想像できない憤怒に満ちた表情に変わり、強い口調で言い放った。
「私はこの男を信用できません!わがレシーボルト家に泥を塗った痴れ者が国を守護しているなど、断じて許さん!私はこの男がいる限り、気が気ではないのです!」
(ちっ、うるせえなあ……個人で語るのは構わんが、俺の前でよく堂々と言えるもんだな)
ケイト自身、自分はかなり懐が広いと自負している。だがみるみる体の内側から苛立ちがこみ上げてくる。言うまでもないがその気になれば、この会議場丸ごと破壊するのは容易である。
「まあまあ、少し落ち着きなさいな。カイス君も程々にしておいたほうがいいよ~?ケイト君が呆れを超えて苛立っているからさ」
余計な横槍を入れた男、名はシドン=ルーサス。周りの雰囲気にまったく合わない黒のパンツと赤のブレザーを羽織り、頭には鷲の羽根が装飾された黒のハットを被っている。厳かな場には不適切な格好だが、彼はガルムス王国の行政履行長官、つまり政治のトップだ。
「カイス君、ケイト君に指摘又は文句があるなら、本人の前で堂々と言わないと。ま、ケイト君に何されるかはわからないけどね。キキキッ」
この男は笑うと何とも奇怪な声が出るが、ガキの頃からの長い付き合いだ。もう慣れた。
(さすがシドン。俺のことをよく分かってるじゃないか)
こいつと知り合ったのは十一年前。ある出来事で出会った、今はただの腐れ縁のような仲だ。下水道に住んでいた頃より前の記憶のない俺の、唯一の親友だ。
「ルーサス政行長官ほどの方がそこまで彼を擁護するとは……それほどの腕がおありなのですか?なら、わたしと少々手合わせ願いたい」
周りが騒ぎ始めた。元七魔将の一員の俺に喧嘩を売るというのはどういうことか理解しているのだろうか。
「私はこう見えても剣術を少々嗜んでいてね、数多の敵を地面に屈させてきた。貴方にその腕があるのなら、私に堪能させてくれないか?」
カイスは左手で腰の
「あれれ~?ここでケイト君とやり合う気かな?会議場で一騎打ちって、悪くないかも……」
(はあ~……。めんどくせえな)
机から足を下ろし椅子から起き上がる。腰につないだ刀を抜かず、そのままカイスの目前に立つ。理由としては、勝負は目に見えているからである。
「貴様あ、何故剣を抜かない……?私を愚弄しているのか?」
「お前に刀は必要ねえ。素手で相手は間に合ってるって言ってんだよ、さっさとかかって来い」
カイスの頭の中で何かが音を立てて切れた。
「……殺してやる!剣士が剣士を貶すなど、もはや許しを請うても許さんぞ!!」
問答無用でケイトの間合いに近づき、軽快なフットワークで間合いに入る。
細剣から放たれる、流れるような剣閃。常人にこれをかわせと言ったらおそらく不可能だろう。一秒の間に数回放たれる剣撃の中にフェイクを混ぜ、ケイトに攻撃を繰り出す。しかし、ケイトに一撃も当たらない。本体を何十回斬ったり突いたりしているのに、全く効いている気がしない。
(何故だ!?何故当たらん!?何度も斬ってるのに……何故!?」
徐々に焦りが出始め、持久力にも限界が近づいてきていた。
「ハア……ハア……くそ、くそ!」
ついに限界が訪れ、膝が崩れた。
「おいおい細剣の剣士さんよ。一騎打ちで膝を突くとは、お前さん……さては恥を知らないな」
目の前にケイトの姿はなく、確かに近くで聞こえたのだ。刹那、背中に悪寒が走る。
「後ろだ」
急ぎ体を反転させる。が、時すでに遅し。左手の手刀が振り下ろされた。
殺さないように、しっかり手を抜いた。だが手を抜いたところで奴が死ぬことには変わりないので、寸止めにしてあげた。
「や、やめて……くれ」
カイスは涙目で小便を漏らし、足は生まれたての小鹿のように痙攣させている。
「この程度で俺に勝負を挑むなんてな……。そもそもお前は俺の動きについていけてねえお前が刺していたもの、あれは俺の残像だ」
そもそもカイスの剣筋はケイトには筒抜けだったようで、どれだけ剣速が速くても手首の位置、肘の曲げ方、足の動きで大体の剣筋は読むことができる。細剣での西洋剣術なんて特徴がもろに出てしまう。
「残像なわけあるか……!人間がそんなに速く動けるはずが……」
「俺を普通の人と同じって考えるからお前は勝てないんだよ。俺以外の連中でも同じことをきっと言うぜ」
会議場が静まり返り、国王も御休所から出て行ったようだ。
(やれやれ……)
腰に携えた刀を抜き、鏡のように磨き上げられた刀身に電気を纏い、刀身を這う度に弾きあっている。
「この剣を抜くことを許された者は俺以外にいない、お前が触れた瞬間腕が吹き飛ぶだろうな。それがどういう意味を指しているか、分かるよな?」
上から見下ろしたカイスの顔は実に醜く、憎たらしいものだった。憎悪に取り憑かれた人間の表情、今まで何回も見てきた。
「はいはーい二人ともそろそろ御終いにしようねー。とりあえずカイス君が負けたので提案は却下、ケイト君は今まで通り第一警視隊に残留だね」
辺りに散り散りになっていた国務役員たちは各々席に戻り、会議を再開。カイスは自分で会議場を退場し、ケイトの姿は会議場にはもうなかった。