魔法使いと黒猫のウィズ 黄昏メアレス外伝 夢を殺す者 作:烏零
「……はああっ!」
黄昏に包まれた都市。その人気の無い路地裏で、異形と異形がぶつかり合っていた。片方は丸みを帯び、、小さな手を持つ宙に浮く明らかにまともではない生き物、もう一つは――――子供と思える小さな体に、明らかに不釣り合いな異常に大きな手を持つ少年だった。
「喰らえ!《巨大な手|ジャイアント・フィスト》!」
叫びとともに、少年がその手を振り下ろす。それは大きさから想像もできない速さで繰り出され、怪物を勢いよく押しつぶす。怪物はその一撃で体を崩壊させ、光の粒となって消えた。それを確認してから、男の手が泥のように溶け、手が元の大きさに戻る。一息つき、腰を下ろそうとしたところで何か別の気配を感じ、すぐさまその場から離れる。遠くの家の天井に身を隠し、先ほどまで異形と戦っていた地点を見る。
「……また、やられてるの。これで何件目?」
「さあな。だが仕事の手間が省けるのはいいことだろう」
「こちとら商売あがったりだがな」
耳を澄ませ会話を聞く。どうやら自分が奴らを始末していることはわかっていないらしい。足早にその場を離れ、街の端の方にある路地へと帰る。ここは人が少ない……いや、人はいる。だが、そのだれもがみすぼらしく、ボロボロの服を着ていたりするひとばかりだった。ここには、身寄りのない子供が集まり、なんとかしてその日その日を生きている。そんな場所だった。
少年は路地を歩く。目的地は決まっていた。路地の奥に、段ボールで囲まれた小さな家があった。男が扉をノックすると、中から5人の子供が飛んでくる。
「おかえりヨウにーちゃん!仕事は終わったの?」
「ああ。ばっちりだ」
ヨウと呼ばれた少年は、笑顔で答える。子供たちは、次々にヨウを称えた。この子供たちは、この街に存在する敵――――ロストメアと呼ばれる存在と戦う、メアレスという戦士たちに憧れていた。ヨウは、そんなロストメアと戦う戦士の一人、メアレスだ。
ヨウは、ロストメアと戦い魔力を集める傍ら、身寄りのない子たちを集め、養い、育てていた。ヨウ自身、いつからこの力に目覚めたか覚えていない。だが、それでいいと思った。……子供たちを助けることが出来る、何より、ロストメアと戦うことが出来る。それさえあれば、何もいらないと思っていた。
子供たちとの夕食を終え、夜風に当たる。暮らしは裕福ではないものの、家族同然の子供たちとの暮らしは暖かく、平穏で幸せだった。……最近、妙な連中に追われ始めている。もしも、あれがロストメアなら、あれとも戦わなければ。この生活を脅かすなら、その脅威を排除しなければ――――