「うんしょ、うんしょ」
羊さんみたいなもくもくふわふわで可愛らしい雲が、何匹かぷかぶかと泳いでいるだけの、涼しくて気持ちのいい秋の昼下がりです。私は、一人荷車を転がしていました。
「うんしょ、うんしょっと」
かき集めてきた
「あら、大変そうね」
「あっ、紫ちゃん」
声が聞こえてきたと思って足を止めると、いつの間にか荷車の宝物の山の上に金髪の綺麗なお姉さんがちょこんと座っていました。別に日差しが強いわけでもないのにいつも通りの日傘を差していて、もう片方の手で扇子をパタパタとしています。色々と不思議です。
「暇なんです?」
「いえいえ、私は忙しいわ。でもその忙しい間を塗って、貴女の様子を見にきてみたのです」
「暇なら手伝ってくれるとありがたいのです」
「ここから見守らせてもらうわ」
「むむ……なんと意地悪な」
「ほら、急がないと日が暮れてしまうわよ?」
むーと軽く唸ってみますが、寝坊助で怠惰そうな彼女が運ぶのを手伝ってくれるとは思えません。先程と重さの変わらぬ重たい荷車をせっせこせっせこ運び始めました。
「せっせこせっせこ」
「あー、効果音は自分で言うのね」
確かに乗っているはずなのに、紫ちゃんの重さは全く感じられません。色々と大きくて抜きん出ている分、重たいはずなのに。重たいはずなのにっ!
「色々軽そうな貴女が羨ましいわよ?」
「余計なお世話です!」
気を取り直してやる気を出して、先程よりも力強く荷車を押します。目的地まではもうすぐです。
紅葉の綺麗な妖怪の山の奥地、少し開けた木々の隙間に一軒の家が立っています。赤い煉瓦の屋根に、ぽうぽうと煙を吐く煙突。二階にある二枚の窓と一階にある一枚の窓で、遠くからだとまるで顔みたいに見えます。一階の窓の隣には、背の高い人ならうっかり、頭をぶつけてしまいそうな小さな扉と、扉の上の"たからものや"の看板が印象的です。我ながら、なかなか達筆で気に入っています。
「よっこらせっと」
荷車を家の外壁に立てかけて、軽く体を伸ばしてみます。運動したのは久しぶりだったのでなかなか疲れてしまいました。喉が乾いたことに気づいて、一緒にお茶でもどうですかとお誘いしようと思ったのですが、いつの間にか紫ちゃんはいなくなっていました。相変わらずの神出鬼没です。ただ、荷車の上にいつの間にか、見覚えのある扇子が一つ落ちていました。
「忘れ物か餞別か……どっちだとしても、いいセンスですねえ」
ぷぷぷ、と小さく笑ってみました。悲しくなりました。
はてさて、これだけあれば明日からは営業できそうです。緩む頬を押さえながら、店の扉を開けました。
『買います売ります 想いの詰まった宝物 byたからものや店主』