その前の園子   作:shureid

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ミイラ少女

 

 この地に生を受けた人間は、必然的にある神々を信仰する。それは余りに常識であり、議論の余地などは存在しない。無論自分もその一人であった。学校では当然のようにそいつの素晴らしさを説くし、何なら朝礼の際はそいつに向かい一礼する風習が散見される。

 思い返せばほんの僅かの人間は、そいつに対し不満を持っていた気もする。実際義務教育を終える段階までにそう言う奴等はちらほら見掛けたが、大学、社会人と大人になるに連れ、不満を表に出す人間は減っていった。

 そりゃそうだろう、歯向かえば大赦と呼ばれるこの地のボスから消されるなんて言われてたもんだ。神から神託を賜り、お役目なるものに勤しんでるあいつ等の権力は凄まじい。この地で歯向かう者は先ず居ないだろう。

 腹の中じゃ悪態だらけの自分だが、最初からこうだった訳では無い。名家から排出された訳では無かったが、義務教育では周りと同調してそいつにお辞儀してたし、そいつに対し反骨心を見せる生徒には冷ややかな対応をぶつけた記憶がある。それが全て崩れ去ってからもう一年程か、自分もとある少女と出会っていなければ、今頃猫なで声でこう言ってただろうか。

 

 

 

 

『神樹様、今日も私達をお守り下さり、有難う御座います』

 

 

 

 

 

 俺が今立っている所は何処かと問われれば、辛うじて病室だと返答する。入院するような病気や事故は無かったが、テレビや本なんかで生命維持装置らしき物の存在は認識している。それがある限り此処は病室だと言えるだろう。もしくは成り上がりの金持ちならば、自宅で療養する為に家へ機器を持ち込んでいるのかもしれない。逆にそれが無ければどうだろうか、呪術師の集う作戦会議室と軽口を叩いても良い。それ程までにその場所は病室と掛け離れていた。

 病室としては広すぎる気もするが、まあ其処は良い。それよりも先ず目に飛び込んでくるのは壁一面に張られた形代。余す所無く形代で埋め尽くされたその空間は、立っているだけで何かの呪いにかかってしまいそうだと錯覚する。ご丁寧に床までもびっしりだ。しかし、それは部屋の中心に鎮座しているベッドの周りには及んでおらず、例えるなら砂漠のオアシスと言った所だろうか。極め付けは見上げた先にある神棚、言葉の通り四方八方に神様グッズが並んでいる。

 俺が覚えているのは何時も通り会社から帰宅し、鞄をベッドへと放り出した所までだ。急に部屋が強烈な光に包まれた暁には、閃光手榴弾でも爆発したのかと思ったが、不思議とその光は眩しいものの、何処か優しさに包まれていたと思う。体感時間は僅か数秒だったと思うが、視界が開けた時にはこの様だ。

 

 もし此処が誰かの家だとしても、こんな空間を自宅に作るイカれた輩に拉致されるような活動をした覚えは無いし、神樹様反対なんぞ呟いた覚えも無い。ならば、全てはその病床で伏せている少女に聞くしかないようだ。左目と口以外は全て包帯で覆われたこのミイラ少女に。

 

「お~、同世代の女の子かと思ったら。大人の男の人だ~」

 

 間延びした喋り方。此方の狼狽具合を汲み取り、何か説明がなされるのかと思えば訳の分からない事を呟き始める。少し、俺はイラついた。俺は少女と向かい合う様な位置に陣取ると、懐から取り出した煙草に火を点ける。その行為はまさに病人への冒涜、神への冒涜、両方の意味を兼ね備えた行動だったが、むしろ少女はそんな俺の様子を見て納得する様に口角を少し上げた。

 

「ごめんなさい。初めてで、誰になるかは分からなかったの」

 

「…………」

 

 大人げなく無視している訳では無い。返答のしようが無いのだ。肺に入れた煙草の煙を勢い良く天井へと吹き出す。煙草なんて害のある高級品、手を出す気は更々無かったのだが、あの事件以来俺はこれに依存した。酒に溺れるかこれに溺れるか、偶々煙草になっただけだろう。

 

「私は乃木園子、あなたは?」

 

 乃木、その言葉を聞いた瞬間少し立ち眩みを起こす。

 

「……生島進」

 

「進……すすむ……うーん。進め……」

 

 俺の名を聞くや否や乃木園子は何やら唸り始め、思案に夢中のようだ。傍から見れば俺の名前に心当たりがあるのだろうかと思案している風にも見えるが、次の発言でそれは考え過ぎだと吹き飛ばされた。

 

「ごーさん」

 

「うん?」

 

「ほら、進めー!ゴー!って。だからごーさんって呼ぶね」

 

「…………」

 

 どうやら少女は俺のあだ名を考えていただけらしい。その少女との会話はまだ数十秒程だが、心の奥で少し安堵していた。どうやらいきなり拷問されたり何かの生贄になるような事は無さそうだ。

 

「で、俺を此処に連れて来たのは…………君か?」

 

 お前か?、違う。

 アンタか?、違う。

 園子か?、違う。

 なので少し悩んで君か?と問う。

 

「うん。話し相手が欲しくて、頑張ったんだよ――」

 

 その時、部屋の襖が音を立てて開き、奥からは異様な連中がこの部屋に殺到し始めた。気味の悪い仮面を被った男巫の装束共は俺と乃木園子のベッドを取り囲むと、何も言わず此方を見据える。まるで腫物でも扱うかのように、一定の距離が保たれた円の中に居る俺の気分はますます悪化していく。その連中が何者かは知っている。やはりそうか、俺はこの腹の内を見透かされた大赦によって殺されるんだ。

 とは言ってもただで殺させはしない。得物が無いのは心苦しいが、素手でも数人は地獄へ送ってやる。そう身構えていた俺だったが、先程までとは少し音色が変わった園子の声に注意が寸断される。

 

「その人は私が呼んだの」

 

「しかし――」

 

「あ~、この人が居たら私、頑張れちゃうかもね~」

 

 意味深な会話を大赦の連中と数回交わした園子の目は、何を考えているか先程までとは違い、強い意志を秘めている。大赦の連中は、少しの思案の後、そそくさと部屋を去って行った。乃木と言えば大赦の中でも最高の発言権を持つと言う名家だ。あの連中もこの少女の言葉には逆らえないのだろうか。

 と言っても謎が多すぎる。この空間、まさか乃木家の少女をおもてなす空間では無いだろう。どちらかと言うと祀られている、いや、閉じ込めていると言うべきか。何をやらかしたらこんな手厚い待遇を受けれるのだろうか。そしてそんな箱入り娘の言う事をすんなり聞く大赦の連中、謎は深まるばかりだ。それに俺がこの場へ瞬間移動した理由も未だ分からない。寝てもいなかったし夢遊病の気は無かったと記憶している。

 

「ごめんね。あの人達も仕事だから」

 

 スーツのジャケットから取り出した携帯灰皿に煙草を押し込めると、乃木園子の選んだ言葉を思案し始めた。年端も行かぬ、体格やあどけなさの抜けない顔立ちからして十代前半、もっと言えば小学生か中学生だろうか。そんな少女達はあんな状況になった時、恐らくこんな言葉を選ぶだろう。

 『ごめんね。邪魔が入っちゃって』と。俺はそんな年端も行かぬ少女に仕事だからと割り切らせる言葉を選んで欲しくないし、達観したフリならば今すぐ止めて欲しい。

 

「それで、説明も無しにこんな所に来た俺はこれからどうすればいいのかな」

 

「ん~。お話、しない?」

 

「俺に帰る選択肢は?」

 

「強制は出来ないよ、私もこんなんだしね~」

 

 体を動かそうとする意志は汲み取れる。しかし、乃木園子の体は恐らく左目と口以外は動かないのだろう。

 

「……一つだけ聞くよ。それを聞いて決める」

 

「何かな~」

 

「そんな事になった理由は?」

 

「ん~……お役目って言えば、分かりやすいのかな?」

 

 ズキッ、脳天に針を刺されたような痛みが走る。もしその少女が病気か事故だと答えていたなら、直ぐに踵を返して二度と来ることは無かっただろう。お役目と聞いた瞬間、脳裏にある少女の太陽の様な笑みがフラッシュバックする。しかし、と思い立ったが数刻。同情半分、欲半分に俺は乃木園子が伏せているベッドへ歩み寄ると、上半身を囲うように設置されていた手すりへ寄りかかり、腰を降ろす。

 

「ありがとう」

 

「大人げなかった。煙草、ごめんね」

 

「いや、良いよ~。どうせ臭いは感じないしね~」

 

「…………何から話す?」

 

「そうだね~。まずは自己紹介かな」

 

 乃木園子が話し始めた自己紹介とは、一般的な自己紹介である名前、誕生日、好きな物から始まり、やがてはこんな場所へと追いやられる事となったお役目にも触れる事となった。

 

 

 

 

 

 

「私、乃木園子。8月30日生まれで……もう13歳になったのかな。好きな食べ物はうどん!」

 

「うどんか、俺も好きかな」

 

「うんうん。うどんはいいよね~」

 

「うん」

 

 この地に住まう人間は何故かうどんが好きだ、名産とか抜きにしても皆うどんが好きだ。恐らく神樹に味覚を司る器官を握られているのだろう。

 

「神樹館って言う小学校に通ってて、そこで勉強してたの」

 

「ほー。お嬢様だった訳ね」

 

 神樹館、大赦関係の良家ばかりが通うそこには全くの無縁だったが、名前くらいは知っている。あの少女が通っていた学校もそこだったからな。

 

「趣味は……ぼーっとする事かな。だからこうなっちゃったけど、普通の人よりかは辛くないよ」

 

「俺なら無理かなー。並ぶけど美味い料理屋と、ガラガラだけど不味い料理屋なら不味い方に入るくらいは待つのが嫌かな」

 

「せっかちなんだねー」

 

「よく言われるよ」

 

「そこでね、選ばれたんだよ~。勇者に、二人の親友と」

 

「勇者?」

 

 勇者、漫画やアニメでよく聞くあれだろうか。定義としてはどれも悪を打ち倒す存在となっているが、果たして。

 

「お役目の内容は、勇者として戦うこと。敵はバーテックスって言うんだって。お役目が来れば皆の時間が止まって、樹海って言う神樹様の結界の中で戦うの」

 

「……危険じゃないの?」

 

「う~ん……勇者になると凄いんだよ。びゅーんって飛んだり、ずばーんって斬ったり」

 

「身体能力が上がってるのか」

 

「うん、だけど……それだけ。バーテックスの攻撃を受ければ血が出るし、大怪我も負っちゃうんだ」

 

「逃げるって選択肢は?」

 

「バーテックスが神樹様まで辿り着いちゃうと、この世界が終わるの。だから絶対に食い止めないといけないんだ~」

 

 ズキッ、再び頭痛が襲う。嗚呼、成程。一般人には絶対に公開されない情報だろう、そして世間は言う。

 お役目に選ばれた、大したものだと。

 それはとても素晴らしい事だと。

 あの神樹様に選ばれた。嗚呼、なんて目出度い日だ。

 

「……園子ちゃんの怪我もそのバーテックスにやられたってこと?」

 

「えっと……見方を変えればそうなんだけど、ちょっと違うかな?」

 

「……?」

 

「私のこれは治らないの」

 

「治らない?」

 

 確かに見るも無残な姿だとは言えるが、普通に会話が出来ているのに加え、年月は掛かるかもしれないが人間の体ってやつは回復へ向かうのが常だ。

 

「怪我じゃ無いんだよ~。供物として神樹様に捧げたの」

 

「捧げた?まさか体の自由を神樹に捧げてそのバーテックスを倒して貰ったのか?」

 

「惜しいかな~。えっと……一緒に戦ってくれた二人の親友、その一人の女の子がね……私達を守ってくれたんだ。それで、死んじゃった」

 

「…………」

 

「その子が死んじゃった後、勇者を司る勇者システムが見直されて、改良されたんだ」

 

「…………」

 

「そして私達は死ななくなった。凄いんだよ、致命傷に成りかねない攻撃でも絶対防いでくれるの」

 

「……良いことと言えるかね」

 

「戦う上ではね。でも死ななくなっても、複数のバーテックスが同時に襲って来ちゃうと厳しいんだよ~」

 

「だからか、体の自由を捧げて食い止めきれないバーテックスを追い払ったと」

 

「うん。満開って言うの。一時的に凄い強くなれるんだよ。ぶわーって」

 

「……怖く無かったのか?」

 

 体の一部が動かなくなると知りつつも、その満開と呼ばれるものを使用する恐怖は想像を絶する。余程強い愛国心がなければ――。

 

「……知らなかったの、そうなるって」

 

「知らなかった?」

 

「うん、初めて使った時、満開が解けた瞬間右目が見えなくなったの。それでおかしいなって」

 

 これは大人のエゴだろう、恐らく年端も行かぬ少女にそのリスクを伝えれば、恐れてしまい使えなくなる。だが乃木園子はそれを意に介さなかった、それこそが今病床で伏せている乃木園子と言う存在を作り上げた。

 

「……じゃあその後は知ってて、か。……言い辛いだろうが、もう一人の女の子は」

 

「わっ……。その子が捧げたのは……記憶と両足。だから私の事、忘れちゃったんだ」

 

 今までは気丈に辛い過去を語っていた園子だったが、親友に言及する際は言葉に詰まり、包帯から覗かせていた左目からは深い悲しみが見て取れた。

 

「だから私頑張ったんだよ。その子の分も」

 

「…………」

 

「こんな所かな。ごめんね、私ばっかり話しちゃって」

 

「いや、気にするな。人間生きてりゃ誰にでもいいから吐き出したい事もあるだろ?」

 

「……うん」

 

 事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ、皆が何食わぬ顔で過ごしている日常の裏では、そんな波乱万丈の物語が繰り広げられていたのだと言う。一を取るか万を取るか、大赦の取っている行動は至極真っ当だ。たった三人の少女を犠牲にすれば、また明日の飯が食える。それに世間的にお役目は素晴らしく目出度い事だと認知されている。神樹から見初められた大変名誉な事だと、親戚一同は喜ぶだろう。例えその少女が犠牲になっても。

 だが、自分の娘が死んで何も思わない両親は居ない。哀れだ、娘の死を悲しむ事もままならないなんて。周りの人間は両親に言うだろう、あなたの子は立派にお役目を果たしましたと。だからなんだ、お役目がなければ今頃学校に通い、友達と笑いあっていた当人の気持ちは。

 

「……ごーさんはどう思う?大赦について」

 

 どう思うか、そう問われるが返答に困る。良く思っていないのは、園子自身も先程からの俺の態度でよく分かっていると思う。だが、少し頭の中ではグチャグチャと思考が乱れていたのが感じられた。もしこの子達が踏ん張らなければ、俺自身の明日も無かったと言う事なのだから。

 

「絶対に必要なもんだろうな、この世が終わらないためには。もしその為にまだ中学校にも上がってない子供達が不幸になる事があっても、だ。大人になるにつれて大抵の人間は利己的で打算的になる。哀しいが仕方の無い事で片付けられてるもんだ」

 

「だよね~」

 

「ってのが大人としての意見」

 

 大人はそうあるべきだと言う意見であり、その事は俺も理解はしている。が、理解はしていても賛同している訳では無い。これに関しては他人からまだまだ自己中なガキだと批判されても文句は言わない。だから――。

 

「えっ?じゃあごーさんは?」

 

「くそったれ」

 

「フフフ~、何でごーさんが来たのかが分かる気がするよ~」

 

 この日初めて、乃木園子の笑顔を伺えた気がする。と言っても左目と口以外は全く動いていないので、笑った様を見た訳では無いが。その場の空気が少し柔らかくなった気がするし、目を細め少し目尻が垂れた様子を見れば先ほどまでとは大違いだ。

 

「それで、此処はどう見ても病室では無いよな。監禁レベルだぞこれは」

 

「えっと、勇者って言うのは満開を重ねる程強くなるんだよ~。だから今の私は凄く強いの。有事の際の保険……かな、どうせ自分じゃ逃げ出せないしね~」

 

「……何かあったらまた戦うのか」

 

「う~ん、今変身したらどうなるんだろ~。使えない体の部分は精霊が補ってくれるのかな。どちらにせよ勇者に変身するための端末は取り上げられちゃってるから、私に出来る事は人一人を呼び出すことくらいかな~」

 

「それで俺が呼ばれた、か」

 

「ぼーっとするのが趣味……なんだけど。流石の私も参っちゃうよ~。だから大赦の目を盗んで精霊を使ったの」

 

「精霊?」

 

「神樹様の遣い……が分かりやすいかな。ヤケクソ気味に力を借りて、誰でも良いから話し相手が欲しいって」

 

「……それで一般人の俺が、か」

 

「でもでも、私はごーさんで良かったよ~。同じ年の子じゃ気を遣っちゃうし、普通の大人なら乃木の名を聞いた瞬間、恩を売ろうとぐいぐい来るもん」

 

「失礼な、俺が気を遣ってないみたいな言い方」

 

「気を遣ってる人はこんな所で一服しないよ~」

 

 中々痛い所を突いて来る。やはりこの子は年齢不相応に利口だ。最初は子供と話す口調で会話していた筈だったが、後半の方は一人の会話相手として言葉が出て来てしまっていた。

 

「あ、そうだ。ごーさん」

 

「ん?」

 

「その……私と一緒に戦ってくれた女の子の名前、憶えて欲しいんだ~」

 

「…………」

 

「その子達が居なかったら、もうこの世界は滅んじゃってると思うし。私一人じゃ絶対に戦えなかった。それに……私もこんな事があったけど、その子達と出会わなければ良かった~なんて、絶対思わない」

 

「…………ああ」

 

「だからね、周りのみんなはもう忘れちゃったかも知れないけど、ごーさんにはずっと憶えていて欲しいんだ~……忘れられる程辛い事、無いから」

 

「約束する」

 

「ありがとう~。じゃあ……まずは鷲尾須美さん。わっしーって呼んでるよ。わっしーは記憶を無くしちゃったから戦線離脱中、本人は勇者の事を忘れちゃってるから日常生活を送ってるみたい」

 

「鷲尾須美……」

 

「それで、もう一人……私達を庇って一人で戦って、この世界を救ってくれた……たった一人でだよ?勇敢に……戦ってくれた女の子――」

 

 園子が口を開くと同時に、俺は無意識に言葉を発していた。示し合わせたものでも無く俺の言葉と園子の言葉は完全にシンクロし、二人きりの室内へほんの少し木霊する。

 

 

 

 

「「三ノ輪銀」」

 

 

 

 

 俺と園子は同時に驚きのリアクションを見せていたが、どちらかと言うと園子の方が度合いは大きい。ポカーンと開いた口から言葉が発せられるまでに数秒時間を要し、目を細め少し納得した様子で発声する。

 

「…………ごーさん」

 

「今度は俺の番か、何てことは無い昔話だけど、付き合ってくれるか」

 

「……人間生きてりゃ誰にでもいいから吐き出したい事もある、でしょ~?」

 

 それまではベッドに左手を突き、左膝を置きつつ上半身だけを園子へと向けていたが、少し腰を上げ両足を地に付けると園子へ背を向ける。再びジャケットから取り出した煙草に火を点けると、天井を仰ぎ何から話したものかと頭を掻く。

 この話は誰にもした事が無い、そもそもこんな話を持ち出した所で酒のつまみにも、笑い話にもならないからだ。俺がその話を切り出そうと思ったのは乃木園子が三ノ輪銀の親友だったからと言う理由では無い。俺も吐き出したかったのだろう、共通の認識を持った人間に。

 

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