私の偉大な食卓。   作:高任斎

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枝豆美味しいです。


1:悲しみの枝豆。

 7月頭、梅雨の中間地点を過ぎた頃。

 梅雨の中休みとでも言うべきか、ぽっかりと晴れて、湿度はもちろんだが、暑い日だった。

 

 汗を流しながら、家路を歩む……と、その前にスーパーで買い物だ。

 今日は珍しく、閉店する前に滑り込むことができた。

 

 ややくすんだ感じのする枝豆の束。

 ほう、そういえばそんな季節か。

 ビールのおつまみとして知名度の高い枝豆だが、大豆の未成熟の若豆のことを言う。

 自分で育ててみると実感できるのだが、枝豆としての旬というか、収穫時期は極めて短い。

 わずか1週間から10日というところか。

 大豆の未成熟な若豆ということは、収穫が遅れると莢が黄色に変色し、大豆になっていく。

 栽培技術や流通の発達した昨今では今ひとつ実感がわかないかもしれないが、季節というより、その瞬間を切り取るような食品といえよう。

 

 家に帰り、トランクスにシャツ一枚の姿で枝豆を茹でていく。

 汗が流れるが、それでいい、それがいいのだ。

 ビールは冷蔵庫に準備されている。

 ビールを美味しく飲むためには、汗を流さなきゃいけない。

 

 茹で上がった枝豆をざるにあげ、扇風機を回して粗熱を取る。

 ええい、乱暴だが、冷凍庫に突っ込んでやれ。

 好みは分かれるだろうが、私は冷えた枝豆が好きだ。

 早く冷やしたいからといって、水や、氷水にさらすのは厳禁だ。

 茹で上げる時についた枝豆の塩味が、洗い流されちまうからな。

 塩気のない肉もそうだが、塩気のない枝豆ほど、味気ないものはない。

 いや、昔一度やっちゃったのよ。

 何も考えずに、流水でざぶざぶと。

 はは、坊やだったからね、仕方ないね。

 

 そして私はシャワーを浴びる。

 さっぱりした状態で、冷凍庫の枝豆と、冷蔵庫のビールを取り出す。

 

 ビールに枝豆。

 最高じゃないか。

 最高の夜だ。

 若いうちはいくらでも無理がきく。

 これが夕食だよ、ほっとけ。

 もう一度いう、若い頃はいくらでも無理がきく。

 

 ところでアンタは、枝豆からいく方かい?

 それともビールから?

 

 私は断然ビールからだ。

 ビールを一口。

 そうして、冷えた枝豆を……う、少し冷えが甘かったか。

 まあいい、もう、我慢できねえ。

 莢の枝毛の感触を指先に心地よく感じながら、プリッと飛び出す枝豆を、口に含む。

 そうそう、夏が来たなあ。

 コイツが夏の風物詩……。

 

 

 

 塩入れてねえ!

 塩ゆでじゃねえ、単に茹でただけだこれ。

 

 

 遅いのだ、全ては手遅れだ。

 上から塩をふりかけたところで、美味い枝豆にはならない。

 あらためて塩茹でしても、ぼやけた味に、塩が刺々しくなってしまう。

 調和しないってやつだ。

 

 私は、ビールを一気に飲み干し、台所に立った。

 

 塩気のない枝豆を莢付きのままボウルに入れて、塩をまぶす。

 普通の焼き枝豆なら、このまましばらく時間を置かなきゃいけないが、これは一度茹でてしまった枝豆だ。

 フライパンに火を入れ、そのまま炒める。

 中火にして、フライパンに蓋をかぶせて蒸し焼きだ。

 え?蓋がない?

 そんなときは、クッキングペーパーを二枚、かぶせてやんな。

 しばらくしたら、枝豆をひっくり返すんだが、めんどくせえ、フライパンをしゃくって適当クッキング!

 一度失敗したら、適当になってさらに失敗を重ねるスタイルだ。

 絶対真似すんな。

 生から焼くなら豆の大きさにもよるが、弱めの中火で5分、ひっくり返して5分ってとこだが、もう茹でちゃった枝豆だからね、軽く焼き色が付いたらそれでいい。

 はい、なんちゃって焼き枝豆。

 

 これなら、後付けで 塩をつけられる。

 うわ、適当に料理したのに、そこそこ食える。

 でも違うんだ。

 俺が食べたかったのは、塩茹でした枝豆にビールだったんだ……。

 

 このあと、もう一本ビールをあけました。

 

 




枝豆を育てると、初期にカメムシが寄ってくる。
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