私の偉大な食卓。   作:高任斎

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お節……知らない子ですね。


33:世知辛い黒豆。

 お節といえば黒豆だ。

 

 ああ、別に黒豆大好きとかいう話ではなくて。

 なんだか知りませんが、私の世代の人間は親の世代から『おせちの黒豆が大変』だと呪文のように言い聞かせられて育ってきている人が多いみたいだから。

 男女差別をするわけではありませんが、男の子だった私に母親が説明するぐらいなんですよ。

 

 だからこそ、『簡単黒豆』みたいなレシピが世の中に溢れかえっているんだと思います。

 大変だと思っているからこそ、『簡単なレシピ』を世に発するわけで。

 それなりに需要があるからこそ、『簡単なレシピ』がずらりと検索できるわけで。

 

 多分これ、私たちの世代が過ぎれば、廃れていくんじゃないですかね?

 

 

 というか。

 大学生の頃に、『そんな難しいものなのか?』と自分でやってみたことがあるんですよ。

 それで、参考のために本とか読んだんですが……正直なところ、『なんでこんな面倒くさい調理しなきゃいかんのよ?』って思いました。

 

 私の上の世代。

 つまり、親の世代に対して教育した世代にとって、『おせちの黒豆は縁起物』って前提があるからなんでしょう。

 

 黒豆が上手にできない。

 逆を言えば、上手な黒豆ってのはどういうものを指すのか?

 

 1:皮が破れたりせず、かつしわがなく、つやつやとした仕上がり。

 2:鮮やかな黒色。

 3:ふっくら柔らかに煮れていて、味がちゃんと染み込んでいる。

 

 こんな感じですか。

 

 1に関して、時間をかけて煮て、差し水を絶やさず……という調理手順がこれ。

 2に関しては、釘を入れて煮るという手間。

 3はまあ、おいといて。

 

 1の手順は、調理器具でなんとかなる。

 2は結局、発色とか、イオン化とかそっちの問題。

 

 

 まあ、田舎の姑さんにかかると、『自分以外のやり方は認めない』というハードルを掲げる人も多かったんでしょう……母の話を聞くとそんな感じですし。

 縁起物だから、『ちゃんと手間をかけて作らなければいけない』のだ……という、感情論になってくるから、それを強要された世代にとっては、『黒豆は大変』なんでしょう。

 

 そういう思いをすべて否定するわけでもないですが……虚礼のような気がします。

 

 

 と、いうわけで。

 男性目線からのクッキングだとこんな感じです。

 

 黒豆を煮ると、煮汁が黒っぽい紫色になります。

 これは、黒豆の皮に含まれる色素が水に溶け出したもの。

 ここに、釘などの金属イオンを発生させるものを放り込むと、水に溶け出す順位が変わります。

 つまり、鉄の鍋があれば、それでオッケー。

 いや、今の時代に鉄鍋なんて家庭にない。

 

 逆の発想。

 色が落ちるなら、黒色の煮汁につけてあげればいいじゃない。

 そう、黒蜜に漬け込んでやればよい。

 

 ただ、ここで問題。

 黒豆にシワが寄るのはなぜか?

 豆の水分が外に出ていくから。

 青菜に塩の例えにあるように、これは浸透圧の問題。

 

 これは、黒豆を戻すときにも関係することで、豆の中身と皮では水の吸水率が違います。

 結論から言うと、皮よりも中身の方が水を早く吸います。

 つまり、黒豆の皮が破れるというのは、戻し方のバランスが悪いということです……まあ、0にはなりませんが。 

 はい、ポットに黒豆と熱湯を一緒にぶち込んで、ひと晩放置。

 

 ちなみに、時間をかけて、差し水をしながら煮るというのも、ちゃんと根拠があります。

 豆には、タンパク質とデンプンが含まれていて、ある一定の温度を超えると、それぞれ凝固作用と、糊化作用によって豆の表面を覆って、熱から守る役目を果たします。

 短時間で煮ようとすると、このせいで中心部に熱が通ってない状態になりがちです。

 

 ここで、なぜ差し水が必要か。

 

 最初に煮立ってきた時点で、多めの差し水を投入。

 温度が下がります。

 凝固作用と、糊化作用が遅れます……その分、中まで熱が通りやすくなります。

 

 再び煮立ってきたところでの差し水というか、煮汁を捨てて豆を水で洗う。

 これは、渋みやアクを取るためです。

 黒豆の色が黒くならないというのは、ここで煮汁を捨てるから。

 そのために、釘を入れるとかの工夫が広がったんでしょうね。

 

 さて、ここから水を加えて、本格的な煮るという行為の始まり。

 弱火でコトコト。

 急激に温度を上げると、皮が破れます。

 

 これが、いわゆる古典的な調理方法でしょう。

 でも、全部理屈に合っているのです。

 うるさく教えられるだけのことはあるなあと。

 

 つまり、ポットに黒豆と熱湯を入れてひと晩放置……は、本格的に煮るというまでの準備です。

 さて、このあとは……煮る必要はないです。(笑)

 黒蜜につけます。

 そう、ここで浸透圧の問題。

 豆の水分を急激に逃がさないように。

 薄い黒蜜から、濃い黒蜜へと、段階的に漬けていってください。

 

 

 

 正直、理科の実験みたいで、当時は面白かったですね。

 もちろん、料理とは全く関係ない本とかも調べて、色々と試行錯誤しながらやったんですが。

 今の炊飯器を使ったレシピなんかも、多分、これでほとんど『何故なのか?』につて説明できているんじゃないかと思います。

 

 結局、黒豆を戻すのはひと晩かけてやる。

 熱を通すだけなら、煮る必要はない。

 色は、後で付けよう。

 

 このぐらいが限界じゃないかと思います。

 

 まあ、この調理方法で作った黒豆が、縁起物とは思えませんけど。(笑)

 

 

 




まあ、人の思いというものも、大事だと思います。
でも、ほどほどでいいんです、ほどほどで。

余談ですが、小豆は水やお湯で戻すと割れまくりますね。
小豆はいきなり水から煮るもんじゃ、とお年寄りに笑われたことがあります。
小豆を煮たことがある世代って、私の世代ぐらいからかなり少なくなってるんじゃないですかね?
いや、私はあんこを作るために。(笑)
甘くないんだ、小豆は甘くないんだ……あれは、砂糖なんだ。
バニラエッセンスと同じ悲劇。
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